美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#57

 ピッチリとした白いアクティビティスーツを着込み、急いでアンティカが格納されてる空挺に乗り込む。今は獣人達が多く住む大陸での作戦行動中。国外れの小さな村とかを極秘裏に制圧して、何とかまだ自分達はここにとどまってる。食料はそこの物を奪って、現地人は土へと返す。捕虜としても面倒なだけだからだ。何故なら獣人は人種が生身で管理するには強すぎるからだ。


 ずっとアンティカに乗ってる訳にもいかないし、一箇所に集めても、自分達の部隊は少数。反抗されたら返り討ちにあう可能性もなくはない。だからアンティカで強襲したときに生きてた奴等はあらかた殺した。あらかたというのは情報を得るために生かした奴も居るからだ。自分達がほしい情報……それはあの時、戦場に現れた少女の情報。
 そして捕らえられたと思われる仲間の情報だ。だがこんなど田舎の村では情報なんて数ヶ月遅れるのも当たり前……しかも獣人達は都市部でないと科学に頼った生活をしてないと聞くから、それは尚更だった。


 まさか音声を広範囲に届ける術すらないとは……遅れた奴等だ。おかげでこの村が制圧されたのはバレてないみたいだが……だがこんな村に情報なんて物はないに等しかった。ここを拠点にアンティカのステルス能力で、日夜この国を徘徊し、仲間救出のプランを組んでた。だがこれは自分達の独断専行……国に戻れば厳しい処遇が待ってるだろう。


 国の奴等もアンティカの鹵獲は予想外で最初はどうにかして、破壊とかを試みよ的な指示もあったが、残り二機のアンティカを失うリスクを犯すわけには行かないと、自分達には帰還命令がでてた。だがそれは拒否した。アンティカのためではない。アイツの為だ。ライザップは人種を奴隷か生体兵器にすると聞く。そして恐らくあの戦場で出てきた美しい少女はその生体兵器とやらだったんだろう。


 ただ聞いてたのと違うのは生体兵器は使い捨てと聞いてたが、あの少女は回収されてた。それを確認してる。アンティカさえも破壊し得る威力の純粋魔力を持ち、更に自分の機体のブレードを物ともしない防御力。脅威だ。何よりもあの少女は魔力だけで最初のアンティカであるプロト・ゼロを破壊して見せた。あれは魔力では破壊できないと聞いていた。


 大魔法さえもプロト・ゼロの下には無力だったはず。そしてそれは幾度の戦闘で証明されて来たはずのことだった。だが、プロト・ゼロは破壊された。あの小さな少女の一撃によって。自分達も何もできなかった。どれだけ自分が驕ってたのか……それを思い知らされた。アンティカが出れば戦争が終わるとまで言われ始めてた矢先だ。


 こんな時代だ……戦争は仕方ない。だがそれを圧倒的な力で早期に終われるのなら、どんな罪も被ろうと、人種の為になるのなら……と軍に志願したはずだった。だが、いつしか自分は戦場を支配する感覚に酔ってたのかもしれない。だからあの少女を見た時動揺した。直感でアレはヤバイと思った。自分でもなぜかは分からない。
 だが迷わずブレードを振るった事は間違いでは無かった。通用はしなかったが。あの少女の異常性は証明された。アレが……人種? 一体どういう事をされれば、人種がアレだけの力を有せるというのか。あの少女が悲惨な目に有ってきたのは一目瞭然。


『恨みはないけど、ごめんね』


 そういった彼女の声が耳に焼き付いてる。あんな事……本当はしたくないはず。だって自分達は同じ種なんだ。彼女だって助けてやりたい。だが、全てを願うなんて傲慢。今は仲間を取り返す事を考える。


 そんな矢先、本国が再びライザップへと攻撃を再会するとの事で、増援が求められた。上もこのままでは不味いと思ったのだろう。正攻法で攻め落とせればよし。追い詰められれば、捕らえてる捕虜を交渉の材料に出してくるかもしれない。それにあの少女に出会える可能性も。


「くっ――」


 アンティカに乗り込みながら胸を押さえる。あの少女の事を考えるといつもこうなる。胸がズキズキとするんだ。多分これは恐怖だと思う。戦場で会えればと思うが、そうなると戦闘になる事は避けられない。今までアンティカで蹂躙しかしてこなかった自分は、タイプ・ゼロの敗北がその目に焼き付いてる。次は自分かも知れないという恐怖。


 だが自分は志を持ってここに居る。救いたい者を救うための力……それがアンティカだ。前傾姿勢で乗り込んだコックピットの明かりが灯り、周囲の空間が把握できる様になる。固定されてたアンカーが外され、ハッチが開く。


「アンティカ、タイプ・ワン――出ます!!」


 一気に空に高く上がる。そして戦場の位置を確認して交戦に入った。アンティカの力は絶大。それは確かだ。そして獣人共の兵が引いてく中、再び彼女は現れる。前の質素な服装とは別の、漆黒のドレスに身を包んでその美を輝かせてた。本当に輝いて見えるから不思議だ。それに胸の鼓動が早くなる。直接みてる地上の兵たちはその美しさに見惚れてる。
 だが彼女に動きはない? 前は問答無用で消し飛ばした筈だか? そう思ってると、なにやら彼女が見てる様な? アップにすると、手招きしてるのが見えた。自分は何故か近づいてく。通信にタイプ・ツーの声が響くが、止まらない。撃とうとする声を逆に止めて、自分は彼女の目の前に立つ。外の声を拾うようにすると彼女の心地よい声が頭に浸透してくる。


「この国を明け渡すっていったら、私はそれなりの地位が貰えるかな?」


 だがその言葉は心地よいなんて言えない、刺激に満ちたものだった。

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