美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#26

(なになに……なんでこんなにこわがられてる訳)


 こんな超絶美少女を怖がるなんてどうかしてるよ。これだから獣はイヤになっちゃうね。そんな事を思ってると見覚えのあるやつが兵士達が開けた道から現れた。それは年老いた面長の犬。目までその毛で覆われたこいつは確か……ドオクアだったかな? なんか心なしかやつれてる様にも見える。老け込んだ? 


「やはり目覚めてしまったか……悪魔よ」
「は?」


 この老犬が何を言ってるのかよくわからない。悪魔ってなによ? 天使……いや女神でしょ? 目ン玉ついてんのかこいつ? もしかしてもう見えてない? そこまで老け込んだか……お迎えも近いんじゃなかろうか? そんなことを思ってると何かが飛んできた。ゴトッという音ともに近くに落ちたのは石だ。ちょ、それは洒落にならないわよ。
 意思のサイズが子供の拳大はあるんですけど? けど、そんな石がゴロゴロあるのか何処かから出してるのか知らないが、逃げ惑ってた人達が何やら怨嗟の声と共に石を投げまくってくる。


(めんどい)


 そんな事を思いつつ身体を力で覆う。てかなんか吐き出したのに気だるさがない。大丈夫そうだ。私が吐き出した物体はどっか行ったけど、まあ必要な物でもないしどうでもいい。今はこの状況だよね。一体何なのか……しばらく達観してると石が尽きたのか、それとも疲れたのか知らないがイジメは終わった。けどこれ私じゃ無かったら死んでるよ。
 イジメなんてほんと最低な奴等である。私に力があれば、皆殺しにするのに。


(いやあるな)


 よくよく考えたら私にはそれだけの力があった。てかよく考えなくても私は最強だった。厳密にはゼルラグドーラの力が最強。だからこんな石ころでは私に傷一つつかない。まあついてもらったら困るんだけどね。私美少女だし。さてどうするか……こちらを遠巻きにしてる奴等に向かって微笑んで見る。するとおかしな事に腰を抜かしたり、泣き出すやつまで出る始末。
 一体どっちが悪者なのかわからなくなってくるね。いや、ホントに彼等にとっては私は悪魔なのかもしれない。よくよく周囲の声に耳を澄ますと「あの人を返してよ」とか「パパやママはお前のせいで……」とか重そうな声ばかりが聞こえる。なるほどね。なんとなく見えてきたかも……悪魔な訳。


「死んだんだ。いっぱい」
「そうだ、貴様の起こしたあの爆発でこのアドパンの三分の一が消失した。かなりの住民が犠牲になったのじゃよ」
「あの猫は?」
「助かったと思うのかの?」


 まあそうだよね。あの猫耳娘が一番近くで爆発に巻きこれたんだ。助かるわけない。でもあの強さならもしかして……とかおもったんだけど、そこまで理不尽な存在では無かったよう。その点、私は理不尽の塊だね。その爆発を起こした私はこの通りピンピンしてるんだからね。悪魔とも呼びたくなるかもね。それにしても……だ。


「そこまで離れて無かったと思うけど、アンタは生き残ったんだ?」


 そうなんだ。そこまであの戦闘してた場所から離れてたかな? とね。それでもベルグとか白狼達なら、逃げることも出来ると思う。それだけ彼等は速かった。けど、この老犬はそうじゃないよね? 見たところ、あの一番デッカイ建物はなくなってるようだし、爆発に巻き込まれたんだと思うんだけど。するとドオクアはその日の事でも思い出してるのかふるふると震えだして、絞り出す様に声をだす。


「奇跡、こんな老いぼれがそんな恩恵を受けてしまったよ。ひ孫は死んだと言うのにの」
「ひ孫?」
「貴様も見たであろう。あの場で指揮をとってた兵士を」


 まさかあのゴールデンレトリバーか? 確かに種類的に同じ感じしてたけど、犬だし私にはそこまで区別できない。でも死んじゃったかーなかなか有望そうな若者だったのにね。メンゴメンゴ。


「ねえ、でもやっぱり悪魔って酷いよね。私外見なら神にも匹敵するんだけど?」
「……何か……言うことはないのか?」


 なんだかドオクアだけじゃなく、私の発言に沢山の獣達が信じられんかの様な顔してる。一体何なのか? 獣共と会話するのは疲れるな。目覚めたばかりだし、もっと楽させてほしいんだけど? 


「だから言ってるじゃない。悪魔じゃなく女神にして!」
「自分がやったことへの謝罪はないのか?」
「え? なんで? 確かに私が殺したのかもだけど、私的に狙ったのはあの猫耳娘だけだし。あとは事故みたいな物で実感なんてないもん。自然災害だとでも思おうよ? ――ね?」
「ふ……ふざけるなああああああ!! ゲホッゴホッ!?」


 何がそんなに気に食わなかったのか老齢の身体に鞭打って大声出したせいでドオクアは咳き込んでた。その咳にまじって赤いものも見えたような……本格的に死期が近いんじゃないこの老犬。こんな所にいるよりベッドの上で安静にしてたほうがいいでしょ。ほら近くの兵士がその身体を支えてる。けど私の発言で声を荒げたのはこいつだけじゃない。
 周囲の住民もそうだし、回りを囲んでる兵士達もその表情をわなわなとさせてる。仕事してるから口には出さないが、何を言いたいのかはわかっちゃうよ。てか私はそこまで声を大にしてないのに誰もが聞こえてるって……やっぱり動物だから聴力がいいのだろうか? 


「自然災害でも納得できない事がある……のはわかるよ。けど実際私、悪いなんておもってないし。そんな私が謝罪してその溜飲は下がる訳? んな訳無いじゃん。だから私は謝りません! そもそも戦場だったし、こっちだって必死だった。殺す、殺されるの中に常識なんて持ち込まないでよ」


 ガン!!


 喧騒のなか、一際大きく響く音。何が起こったのか、当てられた私はわかる。静まりかえる住民たち。音と共に後方へ倒れた私を見てもしかして期待してる? ふふ、ここはちょっと死んだふりしてあげよう。グデっとしたまま動かない私。きっと今頃、私を撃った兵士は気が気じゃないだろう。多分勢いというか何かがキレたんだと思う。
 きっとこのまま動かないで……なんて祈ってるだろう。そうしてると住民の奴等が歓声をあげ――


「落ち着くのじゃ!! 騙されてはならぬ!!」


 ――今度は咳き込まずに最後まで威厳をもって言い切ったドオクア。なんかさっきより生き生きしてない? 声的にね。


「起きるがいい悪魔よ。貴様があんな物で死ぬものか。いや、死んでもらっては困る」
「ちぇ、最高のタイミングで起きて絶望させてあげようかと思ったのに」
「どこまで悪魔なのだ貴様は……」


 私の発言にそういってくるドオクア。確かに今のは中々に悪魔ぽかったと自覚してる。だってこんなに怯えられたらいじりたくなっちゃうじゃん。けど十分効果はあったよう。絶望の表情してる奴等が何人もいる。けど、ドオクアは違う。マジでなんか生き生きしだしてる? てか呼吸とかヤバイ感じ。変態……変態なのかこいつ? 
 けどどうやらそうじゃないらしい。ゴロゴロという音と共にドオクアの背後に変な機械が運ばれてきた。それはかなりデカくて二階建て住宅くらいはある。けどそれよりも私がびっくりしたのはそれを運んできた車。かなり無骨で、なんかパイプがめっちゃむき出しでうねうねしてる。ショベルカーみたいな感じで乗るところがあって、重機っぽいそれが四台で四隅を支えて移動してきたみたい。てかこのデカブツの背後にデッカイパイプがある。完全に引きずってるね。
 なんなのこれ?


「貴様に引導を渡す兵器だ。私が存命の内に出てきてくれて嬉しいぞ。この手で……貴様を葬れるのだからな。あの日からこの瞬間をずっと夢見てきた。それはここに居る全ての住民とて同じ!!」


 うっわ……なんか印象違うな? とは思ってたんだけど、どうやら壊れてしまってるようだ。けど、目的目前でその生気を今絞り出してるんだね。私は優しいから付き合ってあげようじゃない。悪魔だけどね。私的に女神なんだけど、むこうは悪魔を望んでるようだし、期待に応えるのも美少女の役目。なにやら盛り上がってる周囲を無視してそんな事を考えてると、運ばれてきたデッカイ機械が稼働しだす。それだけで辺り一帯に熱気が満ちる。それにバリバリバリバリと変な音もしてる。大丈夫なのこれ?
 そんな心配をしちゃうくらいにはヤバそうに見える。


「対悪魔用兵器『アルマゲドン』貴様を葬るため、全てを費やしたこの二年の成果をその身をもって知るがいい!!」
「え? ちょっ、今なんて!?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、アルマゲドンと呼ばれた兵器は砲身を伸ばし、光を収束しそして放つ。それは一人に対して使う威力を遥かに超えてる。こんなの撃ったら私どころか後方の人も街も……と思ったが後ろの人達はいつの間にか避難してた。どうやら建物は犠牲にする覚悟の一撃のよう。私を包み込む光の攻撃。
 でもへいきへっちゃらな私はさっきドオクアが言ったことを確認してた。


(二年……二年って言ったよね今?)


 そして自分の裸を見る。なるほど、だから胸が育ってる訳か……と納得した。光が収まり私が平然と姿をあらわすと、住民も兵士も平服した。武器を捨て、両の手の平を上へ向けてる。これは完全降伏ってやつ? けどそんな中、ドオクアだけは違ってた。その老犬は支えてた兵士の傍で横たわってる。近づく私に怯えてる皆々様。誰も止めようとはしない。
 近づくとドオクアが死んでるということがわかった。どうやら夢の中で私を倒して満足したようだ。それならばそれで良いんじゃないかと思う。私はとりあえず合掌してあげる。


 さて……私はドオクアを支えてた馬? いやロバかな? の背に腰を下ろす。皆が平伏してるんだ。丁度いい椅子になりそうと思った。ロバの癖に座り心地悪いな。けどそんな事は些細な事。私は周囲を見回し、その光景に笑みを浮かべる。そして言い放つ。


「とりあえず、美味しいご飯と可愛い服を要求するわ」


 恐怖政治の始まりである。

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