美少女になったら人生イージーモードだと思ったけど案外そうでもありませんでした。

ファーストなサイコロ

#6

 馬車が止まり無造作に肩に担がれる。私は軽いのか、なんか片手でも持てそうな感じで扱われてる気がする。いつかみてろ、絶対に私の美しさにひれ伏させてやる! そんな決意をしたけど、直ぐにそれは投げ捨てた。黒の厄災の住処を見つけた緑の奴等は静かに近づいて行き、私を投げ捨てたんだ。本当は巻き込んでやろうと思ってどのタイミングで声をだすか伺ってたんだけど、気づかれて猿ぐつわされた。
 ガンドンとかいう生き物を食ってる黒の厄災ことカラスは私が傍に落ちた事に気づいてない。それだけ夢中で食事してるってことだろう。ずっと封じられてたって事だったし、お腹減ってて当然だろう。けどあの巨体がガンドン一匹で満足するとも思えないんだよね。
 だからさっさとこの場から離れないと。今なら何とか逃げれるかも。ここは高い壁に囲まれた一角で、入り口はそれこそ上か私達が進んできた方向しかない。私が芋虫みたいに動こうするとあの緑の奴等の一人が銃口を向けて一発、黒の厄災目掛けて撃った。弾丸みたいなのが入ってるわけでは無いのか、奴等が持ってる銃は撃つ為にその銃口に何やら光が溜まってた。
 そしてそれを撃つ出すから、弾速も見えるほどの速度だ。けど威力はなかなかなのか、黒の厄災にあたって小爆発を起こしてた。黒の厄災にはほぼ効いてるようには見えないが、アレが自分の顔に当たったらと思うとゾッとする。この完全完璧最強の顔がボロボロになるなんて死んだほうがマシだよ。私の全てはここにあると言っていいもん。


「ガガアアアアアア!!」


 そんな事を思ってると黒の厄災が大きく羽を広げた。まさに食事を邪魔されて起こってますよ――的な分かりやすい威嚇行動されてる。けど待って待って!


「んー! んんー!! ん、んー!」(ちょっと良く考えて! 私! 簀巻! 手、出せない!!)


 んーしか言えない! そうだった猿ぐつわ!! 心を読んで! 心を! けどそんなのは無理な相談だった。黒の厄災ことカラスは怒りを納めることはない。カラスは知能指数が高いとか聞いたことある気がするけどデマか……私の状態をみれば今の攻撃が私じゃないってことは馬鹿でもわかるでしょうに! あれだけ大きかったら人間超えてそうだが……しかも二倍だし。あの頭はどっちの命令が優先されるのか興味ある。どっちかが斬られても大丈夫なのかな? 
 そんな現実逃避してるとカラスがこっちに向かって飛んでくる。大きな三盆指の一本足を向けてる事をみるに、食べれる所がなさそうな私をプチッとする気のようだ。そんな事されたら私の美が台無しじゃん!! 却下で!! まさに死に物狂いで身体をうねらせてカラスの攻撃を回避する。カラスが通った跡をみると地面が一メートルは抉られてる。最悪な攻撃だよ。
 これじゃあ凄惨な姿がそのまま残っちゃうよ。この後世まで伝えられ崇められるレベルの容姿が知られずに肉塊と化すなんて人類の喪失。けどだからって次はない。さっきのはホントたまたまだった。一回外した事でカラスは更に怒ってる様に見える。ちらりと地上の方をみると、緑の奴等が奥に無造作に投げ捨てられてた籠で感動の再会を果たしてた。そしてそそくさと撤退していく。
 こんな子供を置いていくとか……世界の常識を疑わね。可愛いとかキレイとかわからないのは種族の壁として仕方ないと思う(納得はしないけど)……が! 子供囮にするとか恥ずかしくないのかと言いたい!! 奴等をこのまま逃がすのは癪だ……けど今は自分の事で精一杯。でもこの恨みは忘れない。とりあえず今は生きなきゃ!


(どうする? どうすればいい?)


 迫るカラス。さっきよりも速い。心なしか黒い風が見える気もする。てか既に低空飛行で地面を耕しながら迫ってきてやがる。ここに畑でも作る気なの? 美少女は肥料にするにはもったいないと思う。もっと相応しい場所があるでしょ。こうチヤホヤされる場所が居場所だと思う。けどそんなの聞くわけないし……絶体絶命、逃げ場はない。


「んー! んー!」


 ゼルラグドーラの力を使うしか無い。けど、出来ても一撃だろう。それ以上は私の身体が保たない。一撃であのカラスを倒せる? いや絶望的だよ。だって一撃必殺を狙うなら頭だ。けど、あのカラスには頭が二つある。つまり一撃では殺しきれない事を意味してる。一番最初にやったように光線を飛ばすか? でも今、この場所でアレだけの事が出来るのかはわからない。
 しかも消滅するんだよ……その後に治す力はきっと残ってない。時間が経てば力は戻るようだけど、消滅したものまで直せるのかもわからない。しかもそもそも効率が悪すぎるよ。


(そうだ!!)


 放出するから力がなくなるんであって、殴るから身体が耐えきれずにダメージを受ける。と、なればだよ? つまりは力を身体にとどめて何もしない……が正解では? 私は静かに目を閉じて集中する。体中にあまねく力を伝えるためだ。傷一つつけない……それが私の目標です。動かなくなった私を見て、カラスはどう思っただろう? 諦めたと思った? 
 別にそれでいい。音と地面から伝わる振動はそこまで来てる。そしてガツン!! って音ともに私は大きくはねた。旗から見たらそれはもう助かりようがない光景だっただろう。私は跳ねて落ちて転がって壁まで行く。今の衝撃で猿ぐつわも簀巻からも開放された。自由に動ける。でもここは動かずが吉。今ので死んだと思わせる。普通はそう思うでしょう。
 あんな巨体の一撃をこんな少女がまともに受けたんだ。身体がある事がおかしいが、そこは見逃してほしい。私は薄目を開けてカラスの様子を伺う。空で旋回してる。死んだかどうか見極めてるみたい。流石に違和感には気付いてるようだね。そもそもガツンって音おかしいし、私がグッチャグチャになってないのが疑問なんだろう。
 でも大丈夫だから。私は死んでますよー。


 ぐーきゅるきゅるきゅる――


 その音を聞いてカラスの首が反応した。


「私のお腹のアホーーーー!!」


 死んだふりをやめて私は走り出す。まだまだ絶体絶命の危機は終わりそうに無かった。

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