犯人→二つ嘘をついた者 犯人→カニバリスト

生明死暗

第2話 二つの嘘

翌朝。
今日こそはいるだろう――と思って待ち合わせ場所のあいつの家の前に来たが、いたのは貴理人ではなく、あいつの母親だった。


「ごめんねー、志方君、あの子、まだ帰ってきてなくて……」


昨日はそこまで心配していなさそうな顔だったが、今日は明らかに表情に焦りがあった。
僕もさすがにシリアスにならざるを得ない。


「ほんとですか? あいつ……いったいどこに……」
「昨日、捜索願を出したわ。これで見つかるといいけど……」
「ですね……」
「そういうことだから、悪いけど、今日も一人で学校に行ってね。貴理人が戻ってきたらちゃんと知らせるから、それまでは待ち合わせはしなくていいわよ」
「はい……」


僕は、またもや一人寂しい通学路を歩く。
歩きながら、貴理人を本格的に探そう――と決意した。
学校に着き、靴を履き替えようとしたとき、自分の下駄箱に何か紙が入っているのに気づいた。
その紙を広げてみると、パソコンの文字でこう書いてあった。


『探せるものなら探してみろ』


まるで僕の思考を読んでいるかのような言葉。
……これは、まさか貴理人のことを言っているのか?
だとしたら、一体だれが……。


少なくとも、この学校の関係者である可能性は高いだろう。そして、鳥木貴理人とかかわりがある者……。
この紙を僕の下駄箱に入れたやつが、貴理人が行方不明なことと関係があるというのはたぶん間違いないだろう。


でも、なぜ僕の下駄箱に入れたのだろう?
理解ができない。
だが、いずれにせよ、なんだか物騒になってきた。貴理人の行方不明が、他者によるものの可能性が高まったからだ。


僕は最悪なケースもいちおう想定することにした。それは、考えたくはないが、貴理人がすでに死んでいる、ということだ。
死んでいるとしたら、誰がやったんだろう。
この紙を僕の下駄箱に入れたものか?
疑問はつきないが、とりあえず僕は教室に向かって歩き出した。




「おはー」
「オハーッ!」


教室に入り、いつものように神野に挨拶すると、相変わらず元気ハツラツとした声で挨拶し返された。


「貴理人くん、帰ってきた?」
「それが……まだ帰ってきてないらしいんだ」
「えー、うそー」
「あいつの母親、捜索願出したらしいよ」
「そうなんだー。でも、ま、貴理人君のことだからきっと、けろっと帰ってくるっしょ」
「……おまえなぁ、なんでそんな能天気でいられるんだ? 彼女だろ?」


半ばあきれ気味に言うと、彼女はえへんと胸を張り、


「彼女だからこそ、彼を信頼しているのだ。えへへ」
「えへへ、じゃねぇよ」


はぁー、だめだ、こいつ。
こんなんで成績はトップクラスっていうんだから不思議だ。


「俺は今日から貴理人を町中探し回ることにするよ」
「そっか。がんばってね」


本来なら彼女であるお前がいの一番に探さなきゃいけないだろうに。
げんなりして、今度は小山さんの席に行く。


「小山さん」
「え、あ、はい、なんでしょうか!」


なぜかびくびくっと震える。
とても俺を好きとは思えない反応だ。うん、やっぱり嘘なんだろうな。


「貴理人、まだ帰ってないらしいんだ……」
「え、うそ……」
「信じたくないが、な。貴理人の母親は捜索願を出したらしい」
「そっか……私、昨日、陸上部のみんなに貴理人くんのこと、聞いてみたけど、有力な情報は得られなかったの……力になれなくて、ごめん」
「いや、いいよ、ありがとう、そこまでしてくれて、嬉しいよ。ほんと、いい人だね、小山さんは」
「え、そ、そんなことないです、ないですないです!」


ぶんぶんと顔の前で手を左右に振る。
そんな必死に否定することないのになぁ。


「……いい人なのは、むしろ、志方君の方だよ」
「え、僕が? どうして?」
「だって、その、優しいし……」
「優しくないよ、ぼく」
「そんなことないよ、今だって、すごい必死になって貴理人のこと探してるし……」
「そりゃあ、あいつはぼくのたった一人の友達だからな」


小学校のころ、チビでいじめられっ子だった僕と唯一友達になってくれたのが、あいつだ。だから、あいつのために一生懸命になるのは、当然だ。


「それでも優しいよ……」
「そうかなぁ」
「そうだよ……」


気づけば、彼女の顔はゆでたタコみたいに赤くなっている。熱でもあるんだろうか。


「大丈夫、顔赤いけど、熱でもあるんじゃない?」


と言って彼女のおでこにさわる、と、


「ひゃ、ひゃぁぁ!」


ビクビクっと、小山さんはいきなりすごく震えた。


「あ、ごめん、僕なんかに触られるの、嫌だよね」


これはひどい失態をしてしまった。まったく、こんなことやってるから小学校のころいじめられたんだろうなぁ。


「ち、ちがうの、そうじゃないの」
「いいんだ、いいんだよ、気にしないで」


こんな僕をフォローしてくれようとする優しい彼女。それに比べて僕は何と浅はかな行動をしてしまったのか……悔やんでも悔やみきれない。
彼女はなぜだか悔しそうに「うー」とうなっていた。よくわからない。だが、彼女は次の瞬間にはいつもの彼女に戻り、しみじみとこう言った。


「それにしても、ほんと……仲がいいよね、志方君と貴理人君」
「まぁ、そうだね」


そのせいで、クラスの腐女子がよく僕とあいつで変な同人誌を描いているが……。


「だから……言いづらいんだよ……」


彼女はぼそっと、そうつぶやいた。
これがラノベの主人公だったら聞き逃しているだろうが、生憎ぼくは難聴ではないので、しっかりと彼女の言ったことが聞こえてしまった。


「言いづらい? なにが?」
「え、あ、いや、なんでもないの、なんでも!」


彼女は慌てふためいて言う。
うーん、なんかあやしいなあ。
いい人だけど、彼女も疑うべきか?


「ねぇ、水曜日はさ、陸上部の部活に来ていないのって、貴理人だけだった?」
「うん、そうだよ」
「そっか。ありがと。助かったよ。それじゃぁ、そろそろ鐘が鳴るから、席に戻るね」
「あ、また何かわかったら知らせるね!」
「ありがと、頼むよ」


そして席に戻って、放課後までうわの空で授業を受けた。





放課後になると、すぐさま隣のクラスに行き、岸本を呼んだ。


「おいーす」
「またおまえか……」


少しめんどくさそうに来る。
岸本とは、そんなに仲がいいわけではない。貴理人が仲いいだけで、俺と岸本の関係は、知り合い程度だ。だからこのような態度もまぁ、納得はできるのだが、あからさま過ぎないだろうか。


「貴理人のことなら、俺も陸上部のやつらにいろいろ聞いたけど、特になんの情報も得られなかったぞ」
「そっか……残念だ」
「もういいか? 早く部活に行きたい」
「ちょっと待て。最後に一つだけ」
「なんだ?」
「水曜日に部活に来てなかったのは、貴理人だけか?」
「……そうだな、あいつだけだったな」
「小山は休んでなかったか?」
「ちゃんと来てたけど、なんで小山?」
「いや、特に理由はない」


これは嘘だ。いちおう、あいつと近しい人物の水曜日の行動は把握しておきたいからな……。


「ほんとかー? まぁいいや、もう行くわ」
「おう、引き留めて悪かったな」


さて、田中は……今日は科学部か。
教室の中を覗くと、田中の姿はなかった。
科学部の活動場所である理科室に行くと、『科学部関係者以外立ち入り禁止!』とドアに張り紙が張ってあった。しかたない、今日は田中と話すのはあきらめて、貴理人を暗くなるまで探すか。





三駅分の範囲を探すと、すっかり辺りは暗くなっていた。
捜索を打ち切り、自宅に戻ってくると、家の前に警察がいた。


「失礼します、警察の者です。あなたは、もしや志方隆志さまでしょうか」


警察手帳を見せながら言う男。


「ええ、はい、いかにも」
「現在、鳥木貴理人さんの行方不明の件で聞き込みをしておりまして、あなたがご友人と聞いたので、なにかお話を伺いたいと思っていたのですが――」
「ええ、かまいませんよ」
「ご協力ありがとうございます。貴理人くんの水曜日の行動を、知っている限り、教えていただけますか?」
「そうですね……朝、僕と待ち合わせをして、学校に行って、それからはいつも通り普通の学校生活を送りましたね。六時間目までしっかりと授業を受けて、放課後になると、彼は陸上部ですから、陸上部の部室に行きました。僕はそれを見届けてから、帰宅部なので一人で家に帰りました」
「……彼が陸上部の練習場に行くのを見届けたんですか?」
「はい」
「おかしいですねぇ……彼は陸上部には来ていないはず。部室にも顔を出していないと、陸上部の顧問や部員たちは言っていたのですが……」


あちゃ。すでに聞き込みしてたか。まぁ、てきとうにごまかそう。


「あれ、そうなんですか。僕は彼が陸上部の部室に行くのを見ましたが……」
「ほんとですか? なら、なぜあなた以外に鳥木貴理人くんが部室にいるところを誰も見ていないのですか?」
「僕たちのクラスは早く放課後になったので、たぶん彼が来た時には、まだ誰もいなかったんだと思います。そして、誰かが来る前に、彼が部室から出て、陸上部の練習場以外のどこかに行ったんじゃないでしょうか」
「ふむ……まぁ、それなら矛盾はないですが、あやしい……とってつけた感じがします」


刑事の鋭い目が僕を射抜く。僕は黙って刑事の視線を受け止める。


「まぁ、いいでしょう。あなた以外に、鳥木貴理人さんとかかわりの深い人はいますか?」
「そうですね、僕の知っている限りだと、陸上部の顧問や部員たち、特に岸本友識と貴理人は仲がよかったです。後は、神野美花と科学部の田中奏多という女子くらいですね」


刑事はメモ帳にペンを走らせると、お辞儀をする。


「質問は以上です。ご協力ありがとうございました」
「お疲れ様です」


刑事が去ると、僕は家の中に入った。

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