犯人→二つ嘘をついた者 犯人→カニバリスト

生明死暗

第4話 科学部

朝、少し早く家を出て、彼の母親を訪ねたが、やはりまだあいつは帰ってきていないようだった。
いよいよ、最悪の場合を覚悟した方がいいな、と思い、学校に行き、教室に着くと、相変わらず能天気に神野が挨拶してきた。


「チワッス」
「……ちわっす」
「どう、貴理人くんは?」
「だめだ、全然、見つからない」
「そっか、ほんと、どこ行ったんだろうねー、心配だなー」


と英語の予習をしながら言う神野。
ああ、そうか、今日、英語一時間目か。
そんなことも忘れていた。


僕は嘆息し、席に戻り、僕も今日、先生に和訳をさせられるかもしれないので、予習をすることにした。
予習をしながら、なんとなく神野の行動を見ていた。


普段と特に変わったところはなかった。
それから六時間目まで、なんとなく神野のことを見ていた。
放課後になると、横から声をかけられた。


「な、なんか、今日の志方君、少しボーとしてるね」


小山さんだった。だが、彼女の方は見ずに、神野の方を注視する。神野はバッグにノートや筆記用具を詰めていた。


「そうか?」
「うん……なんか、心ここにあらず、みたいな……ところで、さっきから何を見てるの?」
「ん……神野のこと見てる」
「え!? な、なんで?」


小山さんの声が急に動揺を含んだものとなる。


「なんでと言われてもな……」
「ひょ、ひょっとして、す、好きなの? 神野さんのこと?」
「いや、全然」
「あっ、そっ、そっか……」


元の落ち着いた声に戻る小山さん。
神野が帰り支度を終えて、席を立った。


「あ、ごめん、僕、もう、帰るよ。陸上部、がんばってね」
「え、あ、うん、じゃあね」


小山さんに手を振って、神野のことを追いかける。
彼女は――なぜだか帰宅部にも関わらず、下駄箱の方へは行かず、理科室へと向かっていった。


理科室? これから科学部が部活に使うはずだが……なんで?
彼女はそのまま理科室の前まで来ると、引き戸を開けて中に入っていった。
僕もドアの前まで行って、立ち止まる。


扉には『科学部関係者以外立ち入り禁止!』と相変わらず張り紙が張ってある。
少し逡巡したが、その張り紙を無視することに決めた。意を決して中に入る。
ガララッと音を立てて開けると、そこには、田中を含む科学部の面々合計5人と、神野がいた。


科学部員の男女構成は男子三人、女子二人のようだ。
神野と田中はぼくより身長が二十センチくらい高そうな骨格標本のそばにいて、それ以外の部員は中央にあるテーブルに集まって、試験管やガスバーナーを使って何かの実験をしていた。
僕は田中と神野の方へ向かう。神野が俺をキョトンとした顔で見て、


「あれ? 志方君、どうしたの? 理科室なんかに来て」
「入部希望者です」
「嘘つけ」


田中からツッコミを受ける。


「嘘じゃないよ」
「嘘じゃないとしても、あんたみたいなバカ、うちの部に入れないわ」
「ひどいなぁ」
「ほら、部外者は帰りなさい。しっし」
「それを言ったら、神野も部外者じゃないか」
「美花ちゃんは……いいのよ、頭良いし、友達だから」
「ひいきだ、差別だ!」


ブーブーと文句を言うが、田中はそれを一蹴する。


「いいのよ、私、部長だから。私がこの部のルールよ」
「うわぁ」


彼女の独裁っぷりにはヒトラーも顔を真っ青に染めるに違いない。


「で、なんで神野がこの部にいるんだ」
「え、私? その、科学部に入部しようかなぁって」
「なんで突然」
「前々から科学に興味あったし、奏多ちゃんもいるし」
「ふーん……」
「ちょっと」


田中が袖をくいくいと引っ張ってくる。


「なんだよ」
「……美花ちゃんは、ああ見えて、鳥木君がいなくなって、寂しいのよ。だから、私がいる科学部に来てるんだと思うの」


と俺の耳のそばで田中はささやく。


「そうかなぁ」
「そうよ」
「ふーん、まぁいいや。ところで田中、科学部は月曜日と金曜日に活動するんだよな?」
「ええ、そうよ」
「ということは、明日、放課後、ここは誰もいないんだよな」
「ええ、それがどうしたの?」
「いや、なんでもない」


僕は踵を返す。神野が僕の背中に声をかける。


「あれ、帰っちゃうの?」
「ああ、田中が帰れとうるさいからな」


僕は理科室から足早に出た。そして、自宅への最短ルートを寄り道せずたどる。
この日は貴理人の捜索はしなかった。
だって、もう彼の居場所はわかったのだから。

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