犯人→二つ嘘をついた者 犯人→カニバリスト

生明死暗

プロローグ

「愛は呪いに似ていると思わないか?」
「は?」


イケメンで高身長の親友――鳥木貴理人の突拍子のない発言に、唖然としてしまう。
今は理科室で酸化銅の還元の実験中だ。僕とこいつは理科室の廊下側の一番後ろのテーブルに二人で座っている。他のグループは四人一組だが、僕たちのところは二人休みがいるので二人一組になっていた。


近くには、後ろにぼくと同じくらいの身長の骨格標本が一つあるだけで、僕たち以外に人はいない。親友の僕だけしか近くにいないからか、彼はまじめに実験しようとせず、授業と関係ない話をしようとしている。


「なにハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている?」
「お前が急にわけわからんことを言うからだよ」


向かいの席の彼を見て言う。僕は身長161センチ。対して彼は身長181センチだ。
だから少し見上げて話すことになる。


「わからんか?」
「ああ……」
[どこにいようと、どんなときだろうと、その人のことが頭から離れない。
どんなに辛くても、その人のことを考えてしまう。諦めたくても諦められない……」


彼は遠くを見て、言う。彼女の神野美花のことでも考えているのだろうか。


「そんなのまるで呪いじゃないか!」
「……そうかなぁ」
「そうだ、そうだったらそうだ! 呪いだ、呪い。俺は呪いにかかっているのだっ! ああ――」


顔を覆い、悲劇の主人公のように大げさに悲しむ貴理人。
……もともとどこかロマンチストなやつだったが、ここまでとはな……。
神野となにかあったのだろうか?


「たくっ、イケメンのお前はいいよな、色恋事に困らなくて。僕はそういうのはてんで縁がないから、お前の言うことはよくわかんねぇよ」


貴理人はモテる。イケメンで背も高いからな。性格は――変なやつではあるが、友情に熱くて気配りもできる優しいやつだ。これでモテない方がおかしい。


対する僕はというと、まったくモテない。恋人なんていたことがないし、友達すらも目の前のこいつだけしかいないという交友関係の少なさ。顔だけでこれほど人生に差ができてしまうのかと、顔面至上主義的社会の残酷さに日々嘆くばかりだ。


しかし、彼はそんな僕の自己評価を否定した。


「そんなことないさ」
「あるある、つまらないおべっかはやめろ」
「いや、おべっかじゃないよ、だって……」
「だって、なんだよ?」
「……小山さんはお前のことが好きらしいし」


彼は声を潜めてそう言ってきた。


「は? 小山さんって、同じクラスの?」


廊下側の一番前の席にいる小山さんを見る。彼女はぼくたちと違って真面目に実験をしていた。
貴理人と同じく陸上部に所属していて、ルックスがよくて運動もできて性格もおしとやかで、男子から非常に人気がある女性徒だ。


「そうそう」
「うそだぁ、ぼくみたいなチビを好きになるわけないって」
「嘘じゃないって」
「ほんとかなぁ、仮に本当だとして、なんでおまえはそんなこと知ってんの?」
「う、それは……い、いいだろ、べつに」
「なぜ教えてくれない。あやしいなぁ、やっぱり嘘か」
「それは嘘じゃない。信じろ」
「何を隠している」
「なにも隠していないって」
「――授業中に私語とはいい度胸じゃないか、おまえら」


そのとき、理科の先生が僕たちのところにいつの間にか来ていて、声をかけられた。額に青筋が浮かんでいる。お怒りのようだ。


「実験は終わったのかな? ん?」
「い、いえ……まだです」


僕がそう言うと、先生は怒鳴った。


「なら、さっさとやれ! 他の班は終わってるぞ!」
「「はい!」」


それから実験を急いでやり始めた。
貴理人との会話はこれで終わりとなってしまった。
……永遠に。
なぜなら、次の日、彼は行方不明になってしまったからだ。

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