ミッション;神の打倒

桜餅師匠

13、襲撃まで

40分ほどさっさっと走り、レグマ・ファルマ・ムタマの城壁が見えてくる。城壁がはっきりと見えてくると、今度は全身鎧に包まれて顔が見えなくなった兵士と閉まりきった門が見えるようになってくる。絶賛居眠り中らしい。


(そんなんで国の兵士が 務まるのかよ...本当に大丈夫か?)


 ため息を吐きつつ、城壁の高さを見る。30mくらいだろうか、これならジャンプで乗り越えられることができるが、問題は着地だ。


「ま、風の精霊技でなんとかなるかな。ふっ!!」



 1回のジャンプで城壁の頂点に着地し、覚悟を決めて領内へ飛び降りる。ここからまた新しい人生がスタートだ。タイミングを合わせて精霊技を“スキルとして使う”。ラナが使うほど強い風は来なかった。だが確かにかなりの着地の衝撃を吸収できた。受け身をとって前転しても足がジンジン、ピリピリと痺れたので、しばらく仰向けで耐える。


「ふっ、ぐぅ...かなりキツイ...出来る事なら、もうこれ一生やりたくねぇぇぇ...」


 その後は最寄りの宿を訪問し、食事つきの宿泊分のお金を渡す。


「?都銅貨なら4泊12枚じゃなく、16枚だぞ?あと、都貨幣なら向かいのギルド施設で換金してしまえ。しかし今回ばかりは預かろう。他所よそから来たのか?」

「あぁ、アイスって言うんだ。訳あって出身地は言えない。」


 カミナは無愛想な若い店主の親切を素直に受け取り、都銅貨16枚を渡す。すると、101と書かれた鍵が渡される。


「ここ、レグマ・ファルマ・ムタマは飛び出て治安が悪い。外出の際は気をつけることだな。」

「あぁ、101号か。ありがとう。」

「はぁぁぁ!?」

「あ、ごめんちょっと間違えた。」


(ここでも“ありがとう”は最上級の言葉か。ここまでくると逆に嬉しくなってくるな。)




 101号室の外開きの扉を開け、ベッドに倒れこむ。そのまま泥のように眠る。その頃にはもう、日は昇り始めていた。
 目覚めると、辺りはオレンジ色、一部に紫色と華憐なグラデーションを描いていた。睡眠時間から、どれだけ体が疲れていたかが把握出来る。


(あぁ、もう夜じゃないか.....もう一度寝て、無理矢理体内時計を治そう。っと、その前に。)


 カミナはベッドから起き上がり、外套と服を脱いで念入りに純水で洗い、作った熱風で乾かしてまた着て寝る。すこし寝つきにくかったが、そこまで問題にするほどの事でもなく眠れた。
 起きたのは日が昇ってしばらくした、あけぼの。外套のフードをしっかり目深まで被り、部屋を出て食堂で朝食を味わって食べる。彼は食事が嫌いではない。むしろ好きまであるようだ。


「やっぱ、朝ごはんはたいせつだよね!ご馳走さま、美味しかったよ、店主。」

「お、おう。なんかおとといの夜とまるで別人のようだな。」


 向かいのギルド施設に行く。小汚く、少し狭そうだ。歩く速度を勢い付けて木製の扉を開ける。そこはリョートー都とは全く違う雰囲気で、危うく同じギルド施設だということを忘れそうになる。ガッチリと鍛えられた男女少数おり、とても賑やかで酒場のようだ。まだ朝だが酔っている者もいる。


(おぉ、まさしく治安が悪そうだな...米軍基地周辺の沖縄の食堂のようだ......でもまぁ、あそこも最近はマシらしいんだ が。今はどうだか知らないな。)


 故郷を思い出し、少し感傷にふける瀬 戸。そのようなことはまた考えられるとして、壁全面に貼られている依頼の紙を見る。どれも平均的にリョートー都と比べて非常に難易度が高く、報酬の量も尋常ではない。その中で、カミナの流れる視線を引き留めた依頼を発見する。


「よぉ、新顔だな。」

「あぁ、おととい此処へ来たアイスだ。訳あって出身地は言えないが、
よろしく頼む。」

「おう、俺はダデマトだ。仲間内からは名前でもてあそばれていたりするが、俺自身はそんな可笑しな名前だとは思っていない!」

「いやいや、良い名前だと思う。ダデマト...お前の両親はセンスがあるようだ。」


 ダデマト...そう名乗った男は体が出来上がり、力の強そうな太い手を差し出してくる。それを華奢とも言えるような細い腕がとる。酒場の喧騒が一瞬なくなり、パタパタと拍手が聞こえる。
 ダデマトは、カミナが手にする依頼に対して片眉を上げる。


「お?お前、その依頼......」

「あぁ、難易度の割に報酬が高かった・・・・・・・・・・・・・から依頼しようかと思ってさ。」

「んー...なるほどなぁ......」


(?なにか意味深そうだな?)


 ダデマトは、周囲に聞こえないような囁き声で注意を喚起する。


「最近、ここら周辺で小さな野盗の集団が結託を組んだって噂が出てってなぁ.........だから、難易度の割には難しいんだぜ?折角増えた仲間、失いたくはない・・・・・・・ ・・・・・・・。」




 カミナが受注した依頼とは、“リョートー都王家の護衛”だ。不気味な森周辺に行き、王家の者を待ち、同行するといういたって簡単な依頼だった。ちょうど期限は今日までで、出発も今日だった。さっさと全力で走って行くと、30分程度しか掛からなかった。そこには、3人の人影と豪勢な引き車と白い馬。


「あっ!冒険者さんが来たのだ!良かった〜...もう来ないかと思ってたから、来てくれて嬉しいのだ!よろしくお願いするのだ!」


 王女だ。どうやら最初から歓迎してくれていると思われる彼女は、青の少し短いドレスを着た可愛らしい格好をしている。しかも、少し蠱惑こわく的という特典付きだ。


「あぁ、少ないが...来てくれてありがとう。本当に感謝している。知っているだろうが、彼女は王女のラルラルク。私は王のロンドだ。こんな身なりをしているが、わたしは今回、御忍びでわたしが使者ということでレグマの王へ通す事になっている。」


 御忍びということに質素な服を着ているが、生地の良さはそこいらの服の比ではない。


「わたくしは執事のジェムズを申します。以後、お見知りおきを。」


 執事が着るような正装で控えめに自己紹介をした彼は、銀に染められた髪と髭にはまさしく男の色気があると言える。ダンディズムだ。


「外套を来たままの紹介を失礼致します。俺はレグマの町の冒険者をやっている。アイスです。よろしくお願いします。」


 カミナも例にならって自己紹介を続ける。王女にはアイスという人物がカミナだということを知らない。知ってもあまり意味がないのだが、ここはレグマで名乗っている名前でないと、色々ないざこざが生まれる。
 3人は馬車に乗り、執事のジェムズが馬の手綱を握って即座に出発する。かなり車内には静かで冷めた空気が漂っていたが、王女が壊す。


「そういえば、アイスは今何歳なのだ?」

「......21歳ですね。恥ずかしいのであまり他の者などには言わないですね。」

「アイスは恥ずかしがり屋なのだ!顔を隠しているのも恥ずかしから?」

「こら、ラナ。やめなさい。アイスが嫌がっているだろう。」

「いえいえ、そんなことはないです。この沈黙が少し辛かったものですから、かえって嬉しく思います。」

「そうか、それならありがたい。ところで、これを言うのは2回目だが今回の面談は王の私は遣使けんしとして行くのだ。言わば“御忍び”だな。だから、レグマの町内に入ったら、くれぐれも扱いには気をつけてほしい。」

「へぇ!そうなんですか。だからそのような平服を......」


(聖徳太子でもないんだから、そんな危険を冒してまでするほどの事ではないと思うんだけどなぁ...)


 また沈黙が流れるが、今度は暖かくゆるりとした感覚であった。このまま何事もなく一日かけて予定通りに進められればいいと、そう思ってしまうのも仕方のないことだが、現実も人の妄想を黙って受け入れられるほど甘く出来てはいない。


「特別警戒域に入りますので速度をあげます。皆様方どうか警戒を!」


 ジェムズの言葉を合図に、周りの者の顔は険しくなり、車の揺れは激しくなる。辺りは少し高低差のある草原から、薄暗い森へ入り、まばらに生えた木がざわめく。
 カミナはその瞬間、しかと見受けた。森の入り口に木に隠れていた何者か・・・を、窓で.........


「何か来る!?伏せてください!警戒!!」


 その言葉が果たして合図なのか、今までよりも最も強い揺れが破裂音とともに訪れる。車輪は跳ね飛んで駄目になり、動きが完全に止まる。もとから頑丈になるように作られたはずの引き車がボロボロになる威力。白馬とジェムズは.........
 車内で完全に伏せていた3人のうち、王女が顔を覗かせようとすると、カミナが全力で止める。


「ダメだ。まだ伏せましょう!」


 窓越しに強引に弓矢で頭を狙った狙撃が飛ぶ。頭を押さえつけ、窓が割れて車の扉へ内側に突き刺さる。カミナは牽制とばかりに矢をそのまま飛んで来た場所めがけて投げる。しばらくして悲鳴が聞こえた。勢いに乗ったカミナは、炎の精霊技を唱えて倒そうとする。


「“炎よ、我が聖火。彼の者たちのもとへ火の制裁を!”」


 オレンジの炎により、かなりの数の悲鳴が聞こえ、パタパタと倒れる。痺れを切らして他の野盗たちは突撃に来る。


「そうだ!災の精霊技!あの、2人とも、ジェムズさんは生きていますから安心してください!この状況打開できる布石を持っています。もしかしたらあなた達に害を成すかもしれません。耳を塞いで目を閉じて下さい!」


 2人は顔を見合わせ、覚悟を決めたように頷いては言われた通りに行動する。カミナにとって害を成すというのは建前で、自分がカミナだとバレたくはないのでそうしてもらった。スキルスロットルに装備している。「炎聖竜召喚」を意識で使う。


(ごめんね、ラナ......炎聖竜召喚!)


 突如、天から赤い鱗をもった竜が降り注ぐ。初めて召喚した時は夜の暗がりで輪郭も確かほどではなかった。背中に翼の生えた四足歩行の竜だ。しかも、とてつもなく尾が長い。全長にして3桁は優に超えるだろうか、すこし小柄なカミナを8人並べても足りるのだろうか、そのくらいに大きく脅威だった。
 着地の際には周辺の木を倒し、大勢に向かって咆哮を上げた。野盗たちは恐れを為して突撃の足を止める。彼(もしくは彼女)に話が通じるかはカミナには分からないが、とにかく命令を実行するしかないだろう。


「グアァァァァァァ!!」

「で、伝説......誰にも見られず、語られるはずもないはずの・・・・・・・・・・・・災禍さいか...!」

「に逃げろ!勝てるわけがない!」

「レグマは終わりだぁぁぁ!」


 カミナは腰の抜けた声を聞くと、今まで以上に悪そうな顔で笑い、炎聖竜に指示をする。


「よし!奴らをここから追い払うんだ!くれぐれも、命は取らないようにな!」

「ガァァァァァッ!!!」


 カミナの指示を聞いて、咆哮で返事をする。それを威嚇と野盗は取ったのか、我先にと一目散に逃げる姿。炎聖竜は翼を使って彼らを探し始める。その間に王女たちと生と死の境目を彷徨っているジェムズを安全な所へ共に移動する。




「あぁ、ジェムズ...死んだのか!?アイス。ジェムズは死んだのか!」


 ジェムズの脈は止まっており、息もしていない。昏睡だろうが危険な状態がずっと続いていたので死んでいて当然だ。ラナの質問には王とカミナも答えられず、だんまりを決めている。


「.........よし、じゃあ蘇生してみようか。成功の確率はかなり低い...」

「それでも!この人は私の大切な執事なのだ!小さい頃から面倒を見てくれて、感謝しているのだ!」

「......“電よ、彼の者を強く巡れ”。」


 しゃがみこんでジェムズの胸に手を当てて、電の精霊技を唱える。視界の端のログに「スキル:心肺蘇生を入手した。」との文字。スロットルに装備し、ひたすら無言でジェムズに何度も、何度も何度も電流を流す。ただでさえ召喚で2割ほど消費している魔力は徐々になくなり、消費量は4割を切りそうだ。
 突如として脈が少し動いた気がしたので、手首に人差し指をやると、脈があった。生きている。生きているが、意識はまだないようだ。きっともうじき目覚める事だろう。行為を終わらせたことに気付いた2人、ロンドが話し掛けてくる。


「......ジェムズはどうなった?死んだ......のか?」


 緊張によって吹き出した額の脂汗を拭いつつ、カミナが問いに答える。


「いや、大丈夫だ......生き返った。蘇生成功だ。運が良かったな。」


 そう言い放った瞬間、王の少し緩んだ顔の端も、瀬戸の視界が真っ暗になる。いや、一瞬だけ青色のドレスが見える。


「〜〜〜!良かったのだ!!ありがとうなのだーーー!!アイス!!」

「あぁ、こら!今すぐにアイス殿に離れるんだ!」

「だ、駄目です王女様!今は俺は汗を吹いててかなり臭いはず!あぁ!ふごっ...!」


 王女......ラナはカミナに抱きついた。衝動で抱きつき、あまり豊かとは言えない胸にカミナの頭を埋めさせる。しゃがみ込んでいるので、勢いよく抱きつかれたカミナはあえなく転倒して、手の行き場をなくしてあたふたさせる。彼は、そろそろ息が続かなくなってきたようだ。




「その......申し訳ないのだ......」

「いいえ、特に気にしてませんよ。そのお歳はまだ衝動や本能で動くので、仕方ない事だとは思います...」


 意識のないジェムズを円卓にして、一度座り込んで落ち着いて状況を整理する。野盗の整理は現在炎聖竜にまかせてあるので、こちらで落ち着いて話し合えるが、カミナはHPとMPの上に表示されているレベルが2つ上がり、Lv,3と書かれている。ログには「レベルが上昇しました。現在Lv2(職業:+ Lv1)」との文字。


(ここに来てようやく“創世者”職業ボーナスが目に見えて発動したな。どうやら何か物から受ける干渉が2倍になるという事か。バフ身体強化は2倍...デバフ身体弱化も2倍か。色々実験してみたいな。これ。)


「...?アイス殿、どうかしたのだろうか。」

「...?アイス様、どうかしたのか?」

「んん、なんでもないないですよ。いいや、野盗の数が多すぎたので少し不自然に感じていたんです。80....いや、もっと居ましたね。ここらで野盗が結託を結んだとしても数が多すぎるんです。」

「ほお?」


(なんか俺の敬称が変わっとる〜!?)

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