ミッション;神の打倒

桜餅師匠

11、下まで

ここから見える物は、空と、雲。最後に何処から続いているかもわからない石畳の道。本来は上に空があるはずだが下にも健在だ。
 ここは天空。そこには1人の中肉中背の全身が白く輝く銀の鎧に包まれている騎士のような男と、頭に金の鎧、ボロボロになった半分の丈ズボンだけを着た筋肉質......いや、ほぼ筋肉で固められた身体の男(?)は対面する。


「おい、天使。お前が“門出かどでの守護者”で正解か。」


 全身白の甲冑で覆われた男は、“彼”に聞く。だが、どうやら“彼”は自分自身を把握出来ていないようだ。逆に質問に質問で答える。


「...........我ハ“門出の守護者”...?」

「はぁ、こっちが聞いてるってのになんで質問を質問で返すんだよ...」

「でも、守らナきゃ...そう言われたカら......」

「ッ!そうかよ...なればお前が“門出の守護者”だよ...!らららぁ!」


 白の甲冑は何もない空間・・・・・・から粒子が光りだし、収束する。するといかにも騎士が持つような槍に形を成す。騎士はその槍を巻き舌の掛け声のまま“門出の守護者”の腹筋めがけて突く。“門出の守護者”はノーガード。


(ふん...取った!)


 まともに喰らい、腹筋には綺麗な円形の風穴が空き、血が石畳を潤す。それは白の甲冑も例外ではなかった。白の甲冑は、勝利を確信し、ゆっくりと槍を抜く途中、風穴が急激に再生して、出血も収まる。槍は抜けなくなる。


「っクソ!!流石“天使”かよ!それなら......!」


 甲冑は槍を手放し、“災の精霊技”の詠唱を始める。


「これでどうだ!“災よ、汝の力を借り、我に災よ与えよ。さすれば汝が一時我の災となるであろう、禍中の煉獄の炎よ、出でよ。彼の者を包み込め”!」


 長い長い詠唱を済ませると、たちまち“青い炎”が“門出の守護者”を包む。災の精霊技は、必ず元素を操れない・・・・・・・。それは覆らない絶対のコトワリだが...




「面白くない......非常に面白くないもうやめよう...」


 カミナという肉体の出身地である不気味な森の“拓けた地”。真ん中の切り株に座って木の棒でオークの死体の顔を頬杖をしながら突いている。3人は、オーク討伐クエストを受けていた。数にして40。普通の冒険者パーティー4人で行くならば、丸1日掛かってしまいそうな難易度だが、あっさり終わってしまった。


「ご主人様〜!やりました!狩りましたよ!17頭ですよ、褒めてくださーい!」

「ハァ、ハァ......アタシは15頭よ....結構キツイわね、これ。」


 17頭狩ったルキは白狼の血が騒ぎでもしたのか、とても楽しそうではしゃいでいる。ルルは疲弊して少々息切れしながらも15頭も狩ったという。しかしこれでカミナが楽しくなかった理由......それは、オークがあまりに単純だったからだ。
 オークは“もし、“豚やイノシシが二足歩行だったならば”という絵を書いた際に木の棍棒さえ持たせておけば、完璧にそれに当てはまるような魔物だ。獰猛で、敵を見つけた際には先手で力任せで押してくる。それを避ければ体制を崩す。攻略は難しくない。


「カミナ、アンタずっと切り株に座ってるけど何体狩ったのよ?」

「んー、俺は良いだろ?ちゃんと8体狩ったぞ?」

「そうじゃなくて、何体狩ったかを聞いてるんですよ!気になりますよ!」

「じっ...10頭だよ...悪いかよ...」

「「ブフッ」」

「あっ、吹いたな?!ひでぇ!」


(本当はそこら辺に死体ばらまいていたらめちゃくちゃちゃオークが来たから結果的に27頭だった...17頭隠したった...)




 ルルとルキの2人は、昼食にしようという相談のもと、カミナが居る拓けた地へ行く。行くと言っても、すぐ傍なのだが。


「んで、料理は誰がするのよ?」

「俺がする。この食材ならなんとか出来そうだ。食材は適切じゃなく恵まれてもいないけれど、まぁなんとかなるでしょ。」

「あぁ、そう...なら任せるわ。ルキちゃんもそれでいい?」

「えぇ、問題ないですよ。」


(今ある食材は、俺が取った鹿、ルキが採取してくれた山菜諸々、そしてルルが携帯料理セットと共に持ってきてくれた芋、大根、干し肉だな。ここは肉じゃがのアレンジ、鹿肉じゃがでいこう。)


「ご主人様、熱心に考えておられますね...悩んでそうなのにとても楽しそうです...」

「調味料もある程度揃ってるし、どんな料理をするか楽しみね。アタシもある程度料理はするけど、彼は他と少し違ったものを作りそうね...」


(どうしようどうしよう。鹿捌いたことないな...まぁいいや、下手でも首を切り落として皮をいで内臓を取り出せば無害になるか..........あっ、包丁は?!あっ、ルルのナイフ借りればいいか....)


「ねぇ、ルル。包丁貸して?」

「えっ?包丁?そこにあるじゃない?」

「捌くんだよ。刃が届かないだろ?」

「.............」

「黙ってないで貸して?」

「.............」

「ほい、ありがとう。」


 カミナは半ばねだるようにルルにナイフを要求する。ルルは黙っていたが、2回目になってようやく手渡しした。


「きっ!?ご、ご主人様!ルル様の目が、綺麗な紅い目にちょっと黒色が孕んでいるんですけど?!どうしましょう...」

「ん?あ、鎮めて?」

「むぅ........分かりましたよぉ...」


(こういうのは時間とルキが解決してくれるよな...)


 大変失礼な事をのたまうカミナ。
 お腹が空ききっていたからか、逆に冷静になって捌くことができた。ルルが水の精霊技で鍋に水を入れて、火の精霊技で火にかける。その間に水に調味料で味付けをしてから煮えにくい食材から入れる。後は煮るまで待って、完成だ。


「ねぇ、そっちにも行き渡った?」

「大丈夫よ。」

「問題ないです。」

「それではいただきます。」

「「いただきます」」


(おぉ、鹿のクセのある肉に味さえ除けば、普通に肉じゃがだ...!まぁね、でも、本物とは比べて随分と劣化したものだな...やっぱ、自分で作る料理ってそんなに美味しくないかもな。)


 3人ともほぼ同時に口に運び、咀嚼そしゃくして、飲み込む。肉じゃがには劣るが、鹿肉じゃがには独特のうまみがあるようだ。


「おぉ...おぉぉぉ!感動しました!まさか世の中にこんなにパンチのある煮物が存在していただなんて!肉と山菜の野生のような味が口の中で暴れて主張してきますっ!芋と大根は反対に優しく包んでくれるようです....口のなかで繰り広げられる攻防!戦争されてるみたいやわぁぁあぁ!」

「る、ルキは、将来良い食レポーターになれそうだな...ハハハ...2人とも美味しそうに食べてくれて嬉しいけど、本物の肉じゃがっていうのはこんなものじゃないんだ。鹿肉が牛肉になって、この中に人参と玉ねッ!......ぎぃぃ....」


 突然、瀬戸の思考の全てが“青い炎”が燃える映像に変わる。おそらく、今カミナが口を開けば「青い炎」としか言えないだろう。とにかく、そんな事も考えることが出来ないほどに脳の髄まで“青い炎”が煌めいていた。だが、それは一瞬で終わる。


「青い炎...一体何が?」

「どうかしましたか?ご主人様?」

「何かあったの?大丈夫カミナ?」

「いや、特に何もない、少ないが、昼食をゆっくり食べてくれ。」

「ねぇカミナ、アタシ昨日言ったはずよね?隠すことはやめてって。」


 ルルは立ち上がってカミナの両肩を揺する。ルルはもうそれによって傷つきたくない。そんな慈を求める目をしていた。


「....“青い炎”以外何も考えられなくなったんだ。唐突にな。まぁおかしいよなぁ......ちなみに今回が初めてだ。前例はない。」

「な、何それ...怖いわね......でも、アタシ達には何も影響なかったわよね?ルキ?」

「はい。なかったですね。」


(何者からかの遠隔攻撃?いやそれならば、遠隔攻撃はいちいち相手なんか選んでいられるのか?何かの範囲攻撃じゃなくて?もしもこれが範囲で干渉したとすれば、俺はルルとルキにはない“きっかけ”があったはず。俺にあって、2人に無いもの....うん、今はちょっと分からないが、いずれ分かるようになる時がくるかもしれないな。)


 昼食を食べ終え、帰ろうとルルが荷物を片付け始めると...


「なにやってるんだ?」

「え?片付けだけど...」

「本日のメインイベントが待ってるだろ!そんな悲しい事やってないで、ちょっとこちらへ来るんだ!」

「めっメインイベントって何よ?そんなの初めて聞いたけど?」

「なにっ?!ルキよ、教えてなかったのか?」

「すっすいません...その方が楽しいかと思いまして...ちなみに、やる事はバトルです!」

「バトルか!バトルね...フフフ.......戦闘民めっ...」


 テンションのおかしい2人を逆なでしないように、小声で不満を吐き捨てる。どんな内容かを聞くと、1on1決闘で、負けた方が観戦者と交代というルールだった。まずはカミナとルキの勝負。適切な距離を取って、見合って、バトルを開始する。カミナは左足を前にして中腰で構える。ルキは直立したまま両手のひらを正面に向けている。


「ご主人様、手加減は必要なら幾らでもお申し付けくださいませ?」

「あぁ、なめられたものだ。要らないよ...手加減なんて!」


 そのセリフを最後に、カミナから仕掛ける。持ち前の身体能力(職業ボーナス)を生かし真正面に突っ込み、両方に持つ剣を右上から左下へ大きくルキの胸を切りこもうと企むが、白狼の動体視力には勝てなかった。
 ルキは行動を読むと素早く低い姿勢をとり、剣の範囲外であるカミナの視界の右下へ逃げ込むと、そのままカミナの背後をとり、その頭を輪切りにせんとばかりに左腕の鉤爪を容赦なく右へ振るうが、カミナもこれで終わらせるつもりはない。いや、終わりだろうか。しゃがんでルキの左の鉤爪を左の剣で受け止める。全力で振るった鉤爪は、可憐に火花を散らす。


「............!」

「ルキよ、チェックメイトだ。右の方も同時に出して入れば俺は避けて距離を取るしかなく、勝負は振り出しに戻っていた。惜しかったな。」


 今は、カミナがしゃがんでおり、ルキは後ろで立っている。出した左の鉤爪は、こめかみに添えてある左の剣に受け止められている。対する右の剣は逆手に持たれていて、カミナがすぐ後ろに剣を突き出せば、ルキには致命傷......心臓に剣先が添えられている。つかの間の出来事、ルキは白狼の血が騒ぐ。ルルも唖然として見ている。


「ッ!流石です。そうですね、今回はわたしの負けですがまた今度.......次やるとき絶対負けませんから!」

「じゃあ、次はカミナとアタシね?ルキちゃんお疲れ様。アンタの仇はアタシが取るわ!」


 両者、間合いから充分に離れて見合う。先に仕掛けたのはルル。また真正面に突きを求めて低い姿勢で走り出す。カミナはすかさず一方の剣で上から切ろうと振り下ろす。するとありえない方向転換をする。直角に曲がり、左へ。カミナが出した剣は左腕。つまりその側面は無防備。


「酷使っ...させやがる!」

「あら、弱点をついただけよ。何か問題かしら?」

「いや、問題ない...!戦闘だから......なァっ!!」


 その掛け声とともに下ろしきった左の剣を横に一閃すると、ルルの右手の剣に弾かれる。だが体重差によりルルはたまらずたたらを踏む。


(彼女に布石は読んだ...!チェック!)


 瀬戸の想像通り、ルルは距離を取るだが瀬戸が読めたのはここまで。


「“土よ、彼の者を固めたまえ”!」

「なぁッ?!おま、それアリかよぉ!?」


 土の精霊技でカミナを拘束する。ルルは眼光を紅く光らせて歩み寄る。形成・立場逆転、今やカミナの敗北は目前、確定だった。


「いやーギブギブギブギブぅぅぅ!!」


「フハハハハハ、降参する!?」

「そうです!ワタクシが悪うござんしたーー!」


 仰向けに足と手の首が拘束され、完全に無防備だ。
 ルルの性格が変わって魔王のような笑い声を出す。カミナは彼女のサディスティックな裏側を見た。もう彼女との約束は必ず破るまいと、心の底から誓った..........




「よし、アタシの勝ちね。帰りましょう?」

「そうだね、名残惜しいけど、もう太陽が傾いて影が伸びている...」


 しばらく風も、3人も、木々も静かになり、沈黙が流れる。そこへ急に強風が吹いて髪は乱れ、森はまた葉の合奏、喧騒が戻る。


「で、次はどっちにおぶられて帰るんだ?」

「そうだった....それもあるんだった...」

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