ミッション;神の打倒
10、再び森まで
「じゃあ、お前は俺におぶられるか、変身して大きな白狼になったルキの背中に乗せられて連れられるか...どちらがいい?」
「い、いやよ...そもそもリョートー都からあの不気味な森まで走っていくっていう考え方こそ間違いなのよ...!」
「あの、諦めましょう...ご主人様の命令は絶対ですから。ね?」
ルキらしき白い狼が控えめに唸りつつそう言う。
「そ、それはルキちゃんだけの話でしょーーー!!」
こうなったのには、カミナの子供のような性格に非がある......
夜中のリョートー都。何者かの聖の精霊技の明かりが街灯となって周りを申し訳程度に明るくする。その中でカミナとルキは、ルルと武器を手に入れたのち、ルルと別れてルキのための質素な服を買う。結果としてカミナの所持金は残り都銀貨10枚となってしまった。2人は宿に戻る。
「ん...遅かったわね、おかえり。どうだった?初依頼は。」
「あぁ、ばあさん、こんな時間まで起きてたの?体に障るぞ。」
「ふあぁぁ...えぇ、カミナの帰りが遅いから少し心配してね...」
宿に入ると早々に眠そうなあくびをする女将がお見えになる。会話の最中にですら寝てしまいそうだ。きっと、宿の客人が全員帰ってくるまでいつも起きているのだろう。
「帰ってきて早々に悪いが、お客さん1人追加だ。この子、部屋に入れるぞ?1泊は幾らだ?」
「いえ、宿の部屋代にお客さんの追加で料金は発生しないよ。食事は1人分貰うけどね。都銀貨3枚よ。」
「ははは、ちゃっかりしてるよ。ほら、都銀貨。おやすみなさい。」
「まいど〜......」
(やっぱり、物価はとても低い。サービス料もだ。それにあの依頼の報酬の量...おかしくないか?)
都銀貨を支払い、2人は階段を上がって部屋へ移動する。その最中、ずっと黙っていたルキがついに口を割る。
「あの、ご主人様と同じ部屋に泊まらせてもらえるのですか?」
「んん、嫌だったらもう一つ部屋借りようか?プライベートもあるだろ?」
「いえいえ、そんな贅沢するわけにはいきません!それに、プライベートは気にしなくても良いですし......」
部屋に着いた2人は扉を開けて両端に1つずつ設置されているベッドにそれぞれ座る。
「あ、そうだ。言うの忘れたけど、多分今日の夜は寝られないぞ。その前に水浴び......いや、樽を借りるから風呂に入ってこい。」
「............え。」
ルキの目は真っ白になる......
「ふぅ...この精霊技もなかなか便利なものだ!」
カミナの体ですらすっぽりと入るその樽を宿の裏口に持っていき、水の精霊技の水で満たす。その後、炎の精霊技で熱すると丁度いい温度になるまでカミナが見る。これで風呂の完成だ。
ログには、「スキル:湯張りを入手した。スロットルに装備しますか?」との文字。きっと装備しないだろう。
「よし...いいぞ、ルキから先に入れ〜。」
「え、いいんですか?」
「おう。俺はその間着替え準備したり、やる事があるからな。」
ルキが最初に湯船に浸かり、念入りに頭と体を洗って服を着て交代する。カミナが風呂へ入ってる間、部屋に戻って覚悟を決める。
(わたしが...ついに、お、女になるんだ......でも、奴隷として生きたのだから当然......今までがおかしかったんです。むしろチャンスと考えなさい!ディルキィ、失いかけた貞操を好きな人に捧げられるのですよ!)
思考の狭間で目を閉じて瞑想するルキ。目を開けて、覚悟は決まったようだ。そこへ、カミナが来る。
「ふぃ〜気持ちよかったなぁ〜よし、外へ出るぞ。準備はできているな?湯冷めしないうちに行こう。」
(えぇ?!まさかご主人様、そういう外でやるのが好きなんですかー?!)
「え、あ、はい...」
「なんだよ?外へ出かけるってだけで、なんでそんなに緊張してるんだよ?」
「......へ?えぇ?!あの...やらないんですか?」
カミナが外へ出るとルキは慌ててついてくる。そのまま宿へ出て、昨日“あの人”と出会った“あの場所”へ向かう。
(外へ出かけるだけかーい!覚悟決めたわたしが馬鹿みたいじゃないですか!)
「ん?何が?」
「なにって......その、あの、性...行為......ですよ!」
(しかも全く把握出来てないという...ご主人様が純潔すぎて、わたしお辛いです......)
「はぁ?性行為?なんでそんなのしなきゃならないんだ?俺に少女趣味はないぞ?」
(俺だって、全くやりたくないわけじゃないんだから...考えないようにしておこうと思ったのに!)
瀬戸は心なかで叫ぶ。部屋に美少女がいれば、誰の心臓にもよろしくないだろう。
「はぁ......覚悟決めてたのに...だいたい、紛らわしいんですよ!“今日の夜は寝られない”とか、“その前に風呂に入ってこい”って!」
「は、はいぃ...」
(あぁ、なぜか知らんけど奴隷に呆れたため息つかれた。そして説教に入られた。)
ものすごい剣幕でルキは叱る。カミナは、縮こまる事しか出来なかった.........
「あれ、やっぱり来たのだ。ここで待ってて正解だったのだぁ!」
カミナとルキが向かった場所は、カミナとラナが最初に会った場所だ。ラナは会えたのが奇跡とばかりに喜んで両手をあげる。そこに、この会に新しい客人を見かける。
「ん?カミナ、その子は誰なのだ?とっても綺麗な髪なのだ!」
「あぁ、ディルキィだ。獣人族で...俺の奴隷だ。」
「あの、ディルキィです。どうぞルキとお呼び下さい...」
(だれー?!この女は誰ですか?ご主人様!......はっ?!まさか、愛人?わたしという者がありながら...うっうっ...)
「なるほど、ルキ。よろしくなのだ!私はラルラルク。ラナって呼んで欲しいのだ!」
そう言ってラナは右手を差し出す。ルキはその手を強めとって握手をする。その瞬間、この人は恋のライバルだと決めつける。
「じゃあ、今日も精霊技について話すのか?そういえば、今日カミナは災と聖の精霊技を使ったのを知ってるのだ。戦闘でもしたのか?」
「あの、襲われたわたしを助けていただきました。それでわたしの主人となってもらいました。」
「ほぉ......!ほぉぉぉぉ!!さすがカミナ!聖の精霊技は性質上相手に危害は加えられないのだ。自分のためではなく人の為に使う...!それこそ精霊技使いの鑑ぞ!」
「はは......俺はやれる事をやっただけだよ......」
妙にテンションの高いラナとルキは少しぐったりとしているカミナを放置してどんどん話を進めていく。
「でも、主人が入れ替わったのなら殺したんでしょ?私は王族だから絶対に見逃さないのだ?」
急に目の色が変わり、高かったテンションも通常に戻る。カミナの苦笑いで緩くなった頰も自然と引き締まる。
(勘のいいやつだなぁ......王族だからさぞ頭も切れるんだろうなぁ。)
「まぁ、そこらへんは心配するな。彼から俺を殺そうとした。この都に正当防衛があるなら、きっとそうだろう。」
「正当防衛は当然あるのだ。しかし、証拠がなければ証明は難しいのだ。」
「証拠なら別の精霊技使いの聖の精霊技で治してしまった。俺の体の傷だ。それでなくとももう死体はない。世界の果てまで探してみるんだ。例えば...この惑星の“核”とかな。」
「惑星って......ご主人様は何者なんですか......」
「カミナの発言が証拠となるのだ!都を敵に回すのは良くないのだ!こちらも本望じゃないのだ...」
「血はあるが、この国の文明度では落とし主が誰かも分からないだろう。俺のも混じっているしな。判別がつくなら俺の血を物的証拠として正当防衛が成立する。」
ラナは冷や汗が流れる。今思いついた言葉ばかりを使ったので、瀬戸もヒヤヒヤした思いだ。
「諦めよう。もうラナ側に勝ち目はない。布石の差が元より歴然。戦闘なら勝ち目はあるかもしれないが、これは王道の裁判だ。」
「はぁ...私の負けなのだ......だからもうそんなに険しい顔をしないでほしいのだ.........ドヤ顔もやめるのだ!!」
(ふぅ...俺が思ってたよりラナが馬鹿で助かった〜...穴だらけだもんな、この訴え。)
「じゃあ、今日も精霊技について教えてくれないか?」
「うむ。良いでしょう!じゃ、精霊技の学校についてお教えいたすのだ!」
(お教えいたすのだって、日本語おかしいな...あっ、チョウテイ語か。)
「王立精霊技学園では、精霊技の使用を許可されるような由緒正しき小さき精霊技使いの育成、および精霊技についての研究を行なっているのだ!」
学園について色々知ったカミナはその教師に興味を持ったが、恐らくそれは出来ないだろう。
「教師っていいねぇ...やってみたいと思った。」
「しかし、他の人と同じテスト受けた上で、使わないって約束するのなら、出来るのだ。」
「えぇっ?!マジか?!それは楽しそうだなぁ...」
「ごっごひゅじんひゃまっ!ダメです!冒険者でやっていくんじゃなかったんですかぁぁ?!」
「ごめん、俺やっぱ教師の道を行きます。」
「あぁぁぁ!!ご、ご主人様しゃま〜〜!」
目の輪郭が分かりにくくなるほどに涙目になるルキに、カミナは少々...いや、かなり癒される。
(あぁ!可愛すぎるッッ!!癒されるッッ!!)
「ごめんごめん。冗談だって!でも、副業程度ならありなくもないかもね...」
そこへお別れを示す朝の教会の鐘が鳴り、夜の空に少しだけ白色の絵の具が塗られる。ラナが帰ろうとすると、カミナに呼び止められる。
「ちょっ、ちょっと待ってラナ!」
「どうしたのだ?もう部屋へ帰らなきゃならないので、急いでほしいのだ!」
「えっとね、連続で会うのって俺としては体力的にキツイから、会うのはたまににしてほしんだ。俺の災の精霊技でなんとかならないか?」
「そうねぇ......“災よ、そなたの身体で我と彼の者を繋げ。我の意思で、繋げ”でどう?」
ラナに従って復唱すると、意思だけで会話することができた。そしてスキルを手に入れたので、それをスロットルに装備する。これで瀬戸が意思をそのスキルへ飛ばすだけで使うことができるようになる。
(おぉ!聞こえる?しっかし念じるだけで会話できるってすげーな...)
(これは面白いのだ!やっぱり災の精霊技は元素と自然を操る事以外は簡単に出来ちゃうのだ!)
「むぅ...わたしをほっぽって話を進めないでくださいよぉ.......」
ルキの頰が膨れて膨れっ面になる。どうやらカミナはルキを少し不機嫌にさせてしまったようだ。だが、カミナは思うを越して念じてしまう。
(あぁ...可愛すぎるッ...!どうしてこんなに身振りとか表情が可愛いんだろうなぁ...もうロリコンでいいかもしれんなぁ...あっやべ、鼻血出てるかもしれない。ちょっと下向いとこ。)
「カミナよ、心の声がわざとじゃないかというくらい念じられて漏れているのだ。可愛いのはそうだけど少し自重するのだ!」
「えっ、なんですか?!どんな会話してたんですか...?」
ラナの呟きによりルキが暴走して2人の話した内容を聞いてくる。
「ルキの事を可愛いって念じていたのだ。今カミナは興奮で鼻血出てるかもしれないのだ。」
「ふぇ?!......きゅぅぅぅぅ...」
「じゃあ、さよならなのだ!解除と唱えれば解除出来るのだ。接続は再詠唱なのだー!」
真っ赤になって倒れてしまう。実は純潔なのはカミナよりもルキなのかもしれない。
「ほいほい、ラナはお前をからかっただけだ。...やっぱ2日連続オールはキツイよなぁ...ランにも心配かけたくないし、ルルにも黙っておくか。バレたら今度こそ終わりだよなぁ......」
苦笑いしながら宿へ戻るカミナ。起き上がってひょこひょことついて行くルキ。登り始めた太陽が2人を出迎える。
宿に戻るとランは207号室にはいなかった。もしかするともうこの宿には戻らないのかもしれない。そう思って、瀬戸は密かに都銅貨3枚を頭に思い浮かべる。
昨日と同じの朝御飯をルキと食べて、宿を出る。
「さぁ、また昨日と同じような時間にここ来たけどルルは居るか...?おっ、意外に早く見つかった。おーい!」
「あっ、カミナー!」
カミナの元へルルが駆け寄る。周りにいる男性の冒険者には敵意の視線が向けられるのでとても気まずくなる。
「実は、俺はもうどの依頼をするか決めているんだ。これでついでに森まで競争できるぞ!」
紙を片手にカミナがはしゃぐ。ルルが見たのは、その紙に魔法使いの森のオーク討伐。
「えっ、オーク討伐って...!」
「受付のねえさあん!この依頼うけます!」
ルルの意見を無視に受注をしてしまった。受け付けの嬢は依頼の説明に入る。
「オークは物理の攻撃に強く、とても凶暴ですがある程度の知能を持っているので、大変危険です!どうかお気をつけください。」
「オーケー。ありがとうございます。」
「もう、その癖なんとかなりませんか......?」
受け付けの嬢は静かに呟く。ルルは半分死んだ目をして、カミナに引っ張られてリョートー都正門へ行く。まるで遊園地で疲れ切った保護者のよう。
そして、最初に戻る。
「い、いやよ...そもそもリョートー都からあの不気味な森まで走っていくっていう考え方こそ間違いなのよ...!」
「あの、諦めましょう...ご主人様の命令は絶対ですから。ね?」
ルキらしき白い狼が控えめに唸りつつそう言う。
「そ、それはルキちゃんだけの話でしょーーー!!」
こうなったのには、カミナの子供のような性格に非がある......
夜中のリョートー都。何者かの聖の精霊技の明かりが街灯となって周りを申し訳程度に明るくする。その中でカミナとルキは、ルルと武器を手に入れたのち、ルルと別れてルキのための質素な服を買う。結果としてカミナの所持金は残り都銀貨10枚となってしまった。2人は宿に戻る。
「ん...遅かったわね、おかえり。どうだった?初依頼は。」
「あぁ、ばあさん、こんな時間まで起きてたの?体に障るぞ。」
「ふあぁぁ...えぇ、カミナの帰りが遅いから少し心配してね...」
宿に入ると早々に眠そうなあくびをする女将がお見えになる。会話の最中にですら寝てしまいそうだ。きっと、宿の客人が全員帰ってくるまでいつも起きているのだろう。
「帰ってきて早々に悪いが、お客さん1人追加だ。この子、部屋に入れるぞ?1泊は幾らだ?」
「いえ、宿の部屋代にお客さんの追加で料金は発生しないよ。食事は1人分貰うけどね。都銀貨3枚よ。」
「ははは、ちゃっかりしてるよ。ほら、都銀貨。おやすみなさい。」
「まいど〜......」
(やっぱり、物価はとても低い。サービス料もだ。それにあの依頼の報酬の量...おかしくないか?)
都銀貨を支払い、2人は階段を上がって部屋へ移動する。その最中、ずっと黙っていたルキがついに口を割る。
「あの、ご主人様と同じ部屋に泊まらせてもらえるのですか?」
「んん、嫌だったらもう一つ部屋借りようか?プライベートもあるだろ?」
「いえいえ、そんな贅沢するわけにはいきません!それに、プライベートは気にしなくても良いですし......」
部屋に着いた2人は扉を開けて両端に1つずつ設置されているベッドにそれぞれ座る。
「あ、そうだ。言うの忘れたけど、多分今日の夜は寝られないぞ。その前に水浴び......いや、樽を借りるから風呂に入ってこい。」
「............え。」
ルキの目は真っ白になる......
「ふぅ...この精霊技もなかなか便利なものだ!」
カミナの体ですらすっぽりと入るその樽を宿の裏口に持っていき、水の精霊技の水で満たす。その後、炎の精霊技で熱すると丁度いい温度になるまでカミナが見る。これで風呂の完成だ。
ログには、「スキル:湯張りを入手した。スロットルに装備しますか?」との文字。きっと装備しないだろう。
「よし...いいぞ、ルキから先に入れ〜。」
「え、いいんですか?」
「おう。俺はその間着替え準備したり、やる事があるからな。」
ルキが最初に湯船に浸かり、念入りに頭と体を洗って服を着て交代する。カミナが風呂へ入ってる間、部屋に戻って覚悟を決める。
(わたしが...ついに、お、女になるんだ......でも、奴隷として生きたのだから当然......今までがおかしかったんです。むしろチャンスと考えなさい!ディルキィ、失いかけた貞操を好きな人に捧げられるのですよ!)
思考の狭間で目を閉じて瞑想するルキ。目を開けて、覚悟は決まったようだ。そこへ、カミナが来る。
「ふぃ〜気持ちよかったなぁ〜よし、外へ出るぞ。準備はできているな?湯冷めしないうちに行こう。」
(えぇ?!まさかご主人様、そういう外でやるのが好きなんですかー?!)
「え、あ、はい...」
「なんだよ?外へ出かけるってだけで、なんでそんなに緊張してるんだよ?」
「......へ?えぇ?!あの...やらないんですか?」
カミナが外へ出るとルキは慌ててついてくる。そのまま宿へ出て、昨日“あの人”と出会った“あの場所”へ向かう。
(外へ出かけるだけかーい!覚悟決めたわたしが馬鹿みたいじゃないですか!)
「ん?何が?」
「なにって......その、あの、性...行為......ですよ!」
(しかも全く把握出来てないという...ご主人様が純潔すぎて、わたしお辛いです......)
「はぁ?性行為?なんでそんなのしなきゃならないんだ?俺に少女趣味はないぞ?」
(俺だって、全くやりたくないわけじゃないんだから...考えないようにしておこうと思ったのに!)
瀬戸は心なかで叫ぶ。部屋に美少女がいれば、誰の心臓にもよろしくないだろう。
「はぁ......覚悟決めてたのに...だいたい、紛らわしいんですよ!“今日の夜は寝られない”とか、“その前に風呂に入ってこい”って!」
「は、はいぃ...」
(あぁ、なぜか知らんけど奴隷に呆れたため息つかれた。そして説教に入られた。)
ものすごい剣幕でルキは叱る。カミナは、縮こまる事しか出来なかった.........
「あれ、やっぱり来たのだ。ここで待ってて正解だったのだぁ!」
カミナとルキが向かった場所は、カミナとラナが最初に会った場所だ。ラナは会えたのが奇跡とばかりに喜んで両手をあげる。そこに、この会に新しい客人を見かける。
「ん?カミナ、その子は誰なのだ?とっても綺麗な髪なのだ!」
「あぁ、ディルキィだ。獣人族で...俺の奴隷だ。」
「あの、ディルキィです。どうぞルキとお呼び下さい...」
(だれー?!この女は誰ですか?ご主人様!......はっ?!まさか、愛人?わたしという者がありながら...うっうっ...)
「なるほど、ルキ。よろしくなのだ!私はラルラルク。ラナって呼んで欲しいのだ!」
そう言ってラナは右手を差し出す。ルキはその手を強めとって握手をする。その瞬間、この人は恋のライバルだと決めつける。
「じゃあ、今日も精霊技について話すのか?そういえば、今日カミナは災と聖の精霊技を使ったのを知ってるのだ。戦闘でもしたのか?」
「あの、襲われたわたしを助けていただきました。それでわたしの主人となってもらいました。」
「ほぉ......!ほぉぉぉぉ!!さすがカミナ!聖の精霊技は性質上相手に危害は加えられないのだ。自分のためではなく人の為に使う...!それこそ精霊技使いの鑑ぞ!」
「はは......俺はやれる事をやっただけだよ......」
妙にテンションの高いラナとルキは少しぐったりとしているカミナを放置してどんどん話を進めていく。
「でも、主人が入れ替わったのなら殺したんでしょ?私は王族だから絶対に見逃さないのだ?」
急に目の色が変わり、高かったテンションも通常に戻る。カミナの苦笑いで緩くなった頰も自然と引き締まる。
(勘のいいやつだなぁ......王族だからさぞ頭も切れるんだろうなぁ。)
「まぁ、そこらへんは心配するな。彼から俺を殺そうとした。この都に正当防衛があるなら、きっとそうだろう。」
「正当防衛は当然あるのだ。しかし、証拠がなければ証明は難しいのだ。」
「証拠なら別の精霊技使いの聖の精霊技で治してしまった。俺の体の傷だ。それでなくとももう死体はない。世界の果てまで探してみるんだ。例えば...この惑星の“核”とかな。」
「惑星って......ご主人様は何者なんですか......」
「カミナの発言が証拠となるのだ!都を敵に回すのは良くないのだ!こちらも本望じゃないのだ...」
「血はあるが、この国の文明度では落とし主が誰かも分からないだろう。俺のも混じっているしな。判別がつくなら俺の血を物的証拠として正当防衛が成立する。」
ラナは冷や汗が流れる。今思いついた言葉ばかりを使ったので、瀬戸もヒヤヒヤした思いだ。
「諦めよう。もうラナ側に勝ち目はない。布石の差が元より歴然。戦闘なら勝ち目はあるかもしれないが、これは王道の裁判だ。」
「はぁ...私の負けなのだ......だからもうそんなに険しい顔をしないでほしいのだ.........ドヤ顔もやめるのだ!!」
(ふぅ...俺が思ってたよりラナが馬鹿で助かった〜...穴だらけだもんな、この訴え。)
「じゃあ、今日も精霊技について教えてくれないか?」
「うむ。良いでしょう!じゃ、精霊技の学校についてお教えいたすのだ!」
(お教えいたすのだって、日本語おかしいな...あっ、チョウテイ語か。)
「王立精霊技学園では、精霊技の使用を許可されるような由緒正しき小さき精霊技使いの育成、および精霊技についての研究を行なっているのだ!」
学園について色々知ったカミナはその教師に興味を持ったが、恐らくそれは出来ないだろう。
「教師っていいねぇ...やってみたいと思った。」
「しかし、他の人と同じテスト受けた上で、使わないって約束するのなら、出来るのだ。」
「えぇっ?!マジか?!それは楽しそうだなぁ...」
「ごっごひゅじんひゃまっ!ダメです!冒険者でやっていくんじゃなかったんですかぁぁ?!」
「ごめん、俺やっぱ教師の道を行きます。」
「あぁぁぁ!!ご、ご主人様しゃま〜〜!」
目の輪郭が分かりにくくなるほどに涙目になるルキに、カミナは少々...いや、かなり癒される。
(あぁ!可愛すぎるッッ!!癒されるッッ!!)
「ごめんごめん。冗談だって!でも、副業程度ならありなくもないかもね...」
そこへお別れを示す朝の教会の鐘が鳴り、夜の空に少しだけ白色の絵の具が塗られる。ラナが帰ろうとすると、カミナに呼び止められる。
「ちょっ、ちょっと待ってラナ!」
「どうしたのだ?もう部屋へ帰らなきゃならないので、急いでほしいのだ!」
「えっとね、連続で会うのって俺としては体力的にキツイから、会うのはたまににしてほしんだ。俺の災の精霊技でなんとかならないか?」
「そうねぇ......“災よ、そなたの身体で我と彼の者を繋げ。我の意思で、繋げ”でどう?」
ラナに従って復唱すると、意思だけで会話することができた。そしてスキルを手に入れたので、それをスロットルに装備する。これで瀬戸が意思をそのスキルへ飛ばすだけで使うことができるようになる。
(おぉ!聞こえる?しっかし念じるだけで会話できるってすげーな...)
(これは面白いのだ!やっぱり災の精霊技は元素と自然を操る事以外は簡単に出来ちゃうのだ!)
「むぅ...わたしをほっぽって話を進めないでくださいよぉ.......」
ルキの頰が膨れて膨れっ面になる。どうやらカミナはルキを少し不機嫌にさせてしまったようだ。だが、カミナは思うを越して念じてしまう。
(あぁ...可愛すぎるッ...!どうしてこんなに身振りとか表情が可愛いんだろうなぁ...もうロリコンでいいかもしれんなぁ...あっやべ、鼻血出てるかもしれない。ちょっと下向いとこ。)
「カミナよ、心の声がわざとじゃないかというくらい念じられて漏れているのだ。可愛いのはそうだけど少し自重するのだ!」
「えっ、なんですか?!どんな会話してたんですか...?」
ラナの呟きによりルキが暴走して2人の話した内容を聞いてくる。
「ルキの事を可愛いって念じていたのだ。今カミナは興奮で鼻血出てるかもしれないのだ。」
「ふぇ?!......きゅぅぅぅぅ...」
「じゃあ、さよならなのだ!解除と唱えれば解除出来るのだ。接続は再詠唱なのだー!」
真っ赤になって倒れてしまう。実は純潔なのはカミナよりもルキなのかもしれない。
「ほいほい、ラナはお前をからかっただけだ。...やっぱ2日連続オールはキツイよなぁ...ランにも心配かけたくないし、ルルにも黙っておくか。バレたら今度こそ終わりだよなぁ......」
苦笑いしながら宿へ戻るカミナ。起き上がってひょこひょことついて行くルキ。登り始めた太陽が2人を出迎える。
宿に戻るとランは207号室にはいなかった。もしかするともうこの宿には戻らないのかもしれない。そう思って、瀬戸は密かに都銅貨3枚を頭に思い浮かべる。
昨日と同じの朝御飯をルキと食べて、宿を出る。
「さぁ、また昨日と同じような時間にここ来たけどルルは居るか...?おっ、意外に早く見つかった。おーい!」
「あっ、カミナー!」
カミナの元へルルが駆け寄る。周りにいる男性の冒険者には敵意の視線が向けられるのでとても気まずくなる。
「実は、俺はもうどの依頼をするか決めているんだ。これでついでに森まで競争できるぞ!」
紙を片手にカミナがはしゃぐ。ルルが見たのは、その紙に魔法使いの森のオーク討伐。
「えっ、オーク討伐って...!」
「受付のねえさあん!この依頼うけます!」
ルルの意見を無視に受注をしてしまった。受け付けの嬢は依頼の説明に入る。
「オークは物理の攻撃に強く、とても凶暴ですがある程度の知能を持っているので、大変危険です!どうかお気をつけください。」
「オーケー。ありがとうございます。」
「もう、その癖なんとかなりませんか......?」
受け付けの嬢は静かに呟く。ルルは半分死んだ目をして、カミナに引っ張られてリョートー都正門へ行く。まるで遊園地で疲れ切った保護者のよう。
そして、最初に戻る。
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