ミッション;神の打倒

桜餅師匠

8、ご主人様まで

目覚めると、そこは死後の世界.....という事もなく、知らない天井.....という訳でもなく、飽きる程に見知ったけがれなき蒼色の空だった。そこへ一糸纏わぬ顔が赤色の髪を連れて覗き込む。


「あぁ...!カミナ!起きたのね。良かったわ。ちゃんと聖の精霊技が効いたみたい。」

「そうか....ありがとう。精霊技を使ってくれたんだな。俺、もう愛想尽かされるかと思ったよ...」

「そんな事はしないわ。仲間なんだもの。」

「あぁ...その、なんだ....隠し事しててごめんな。これでも、精霊技を使うなら人気の無いところでっていう条件付なんだ...」

「いいえ、それは許さないわ。だって嘘をつかれたんだもの。とことん問い詰めるわ。」


 ルルの優しげな顔は急に険しくなってしまう。カミナも畏れずに言い返す。


「あぁ、俺もちょっと聞きたい事があったんだ......じゃあ取り敢えず膝枕をやめてくれ....」

「ぴゃっ?!これは、その〜....」


(あぁもう、可愛いなぁ...)




 ルルとカミナは、建物の壁にもたれかかって、話を始める。ケモノの幼女はフード付きの服を着たまま寝てしまっている。ロリコン暗殺者に強姦されかけて相当疲れたのだろう。


「まずはアタシからよ...どうしてアタシに精霊技が使える事を黙っていたの?」

「本当は使っちゃいけない.....というか、使わない方が良いんだ。女王様に一応許可されたんだけど、公認じゃないから...」

「えぇそうね。本当に使えないならばこの都中でサイレンが鳴って、ここで警備兵に包囲されてるもの。それしか方法はないわ。」

「何っ、許可されてない奴が使うと警備兵が来るのか?!」


 カミナは壁にもたれるのをやめてルルと対面する。


「えぇ、そうよ。知らなかったの?」

「はひょ〜知らなかったぁ....ラナの奴....教えてくれても良いのに。」

「ラナって誰よ...んで、どうしてその姫さまに公認じゃなくとも許可をされるのよ?」

「あぁ、そのお姫様と真夜中に会って、色々話をしたんだ。精霊技について。そして、許可を貰ったわけ。俺が話せるのはこれだけだ。」


 もう何も隠せない。全て洗いざらい吐いてしまおう。瀬戸はそう思った。その上で怒られたほうがむしろ罪悪感がなくなる気がして。


「じゃあ今度はこっちの質問な。なぜ襲われていると知っててこの子を助けなかったんだ?走れば間に合った。それは俺が証明しただろ。だから俺はあの時突っ立っているルルに指揮したんだ。」

「その...貴族の娘が奴隷を助けたというのは、本当に色々問題なのよ。だから助けなかったの。いえ、助けられなかったの。そうすれば父上が酷ければ殺される。もっと酷ければ...フラント家は終わりね。そしてギルドが崩壊して、冒険者は行く宛もなく彷徨さまよう羽目になるわ。要するに、冒険者の崩壊ね。」

「なるほど、言い方が悪いがつまりは目先の軽い命よりも、不特定多数の尊い人間様を助けたって事で良いんだよな?」

「何もそこまで言ってない...」


 カミナはついムキになって反論する。


「同じなんだよ!同じだ!お前が言ってる事と俺が訳した事も、命の価値も、どれも同じなんだよ!命は等しく重いんだよ!なのに、なんで...なんで...彼女だけ、ケモノという種族だけ迫害されなければならない!どうして...!」


 カミナはケモノの幼女に指をさす。そして泣き崩れて膝をつく。手で顔を隠し、ひたすら泣く。世の理不尽に対しひたすら泣く。幼女はカミナの怒声で目を覚ましてしまった。


「ごめんなさい。でも微妙な話よね。奴隷を助ければ私達が死ぬ、私達が死ねば、奴隷が助かる。どちらか1つしか生きていけないのよ。不思議よね...」

「俺が言ってるのはそうじゃない!戦えって言ってんだよ!お前と俺で、全部救うんだ!冒険者も、この子もお互いも、エルフも、国も全部全部だ!」

「目先に助けられる命があるのなら、お前にだって救えるんだ!遠くにある命も、2人でならなんとかしていける!だからさ....見殺しなんてやめて、一緒に救いに行こう...」

「ねぇ!アタシが奴隷が殺されるのを影で笑ってると思うの!?悲しいわよ、助けたい!それが出来なくって辛いわよ!」

「今この子に必要なのは同情でも、お金でもないんだよ!愛情と救済だ!お前も与えられないのなら、俺がこの子に与えるんだ!」


 カミナは頑固になって、奴隷を買う事....主人になる事を決断する。まるで奴隷をねだる子供のように。


「あ、あのあの!」

「「はぁん?!」」

「ひっ?!あの、わたしの言いたい聞いてくれませんか...」

「「え?」」




「あの...カミナさん。助けていただきありがとうござます...」


(目がもう恋する乙女って感じだな〜...まぁね、俺はやれる事をやっただけなんだけど。)


「まぁね、俺はやれる事をやっただけなんだけど。」

「お優しいんですね。実はあの方が主人なんです。」


そういって幼女は下を指差す。


「そして主人を失ったケモノの奴隷はその日から3日間主人が見つからなければ、殉職して死ぬ権利がもらえるんです。」

「どうして。そんな死んで嬉しいような......あ...」


 ルルは疑問を口にして気づく。主人に優しくされていたならば、その主人に一生を捧げたいと。普通はそう思うはず。そうでなくても不幸続きのケモノの奴隷は人生を終わらせても問題なくなるのが“殉職権”だ。これはリョートー都特有の政策で、根強く残るケモノ差別を時間をかけて消していくという考え方だ。


「でも権利ってことは、しない事も出来るわけでしょう?」

「ええ、その時殉職が嫌なケモノは奴隷商に戻る事ができるようになります。これがケモノの奴隷のサイクルです。」

「なるほど。これで楽しい楽しい奴隷生活がまた戻るわけか。ロンド・エリスラーめ...!」


 幼女は頷いて答えるが、カミナにはリョートー都の政策と王の優しさを吐き捨てる。どうにもお気に召されなかったようだ。


「そうは言うけど、他の国ではもっと酷いのよ。権利なんてすらないのよ。他にとっては役に立つ“道具”なの。変えられない現実よ。」

「はぁ...そうかい。でそれがどうしたんだ幼女ちゃん?」


 幼女はムキになって高い声で反論する。身振りがいちいち大きいので、カミナもロリコンに目覚めそうになるが、そこはグッと堪え、また質問をする。


「幼女ちゃんじゃないです!ディルキィ!ルキとお呼びください!」

「失礼致しました。んでルキちゃん。それがどうしたの?」

「そのよろしければなんですが...」


 ディルキィは勿体ぶってカミナに用件を伝える。カミナのしゃくに少し障る。


「なんなんだ?そんなに勿体ぶって...」

「あの!よろしければ、わたしの主人になってくれませんか?」

「えぇぇぇ!?」


(やっぱりか...お金あんまり無いんだけどなぁ。それを知っているのか?)


「俺はお金もない。」

「問題ありません。わたしはあなたに決めたんです。あなたが主人がいいんです!」

「冒険者だから、安定しないよ?」

「その時は、わたしも心身削って真摯に働きます!これで問題はありませんか?!それにわたし、結構食べない日があっても大丈夫です!慣れてますからね!」


 ディルキィは少しズレた特技に胸を踏ん反り帰らせ、頭の耳をぽこぽこ動かす。カミナは思わずおでこを押さえるが、本当に痛いのは胸だ。どうして奴隷を過酷な環境下に置くのだろう。


「フフ...バカだなぁルキは。おれがお前の主人になるに決まってるよな。飽きても離さんぞ。ウラーッ!」

「きゃー!」


 カミナのこちょこちょ攻撃!ディルキィへの効果は絶大のようだ!


「ちょっとご主人様!ダメです!そこはッ....ぁん!」

「何をやってるのよ...ちょっといやらしいわよやめなさい!」


(うん...俺もそう思うよ...これはちょっとやり過ぎた...)


 ディルキィは寝転がって左腕を枕にし、妙に色のある目でカミナを見つめる。


(ダメだダメだ...やめろそんな目で見るな...やめろ正直興奮するぅ!)


 カミナは頭をぶんぶんと振って、ルルはそんなカミナをジト目で睨む。




武具店を目指して3人はゆるりと、まっりと歩いて裏路地を抜けていく。


「あ、そうだ!ねぇルキ...ケモノの中でも種族っているの?」

「アンタなんて事聞いてるの?そもそもケモノ自体が種族じゃない・・・・・・・・・・・・・・・・のよ!」

「えっ、だって色々あるじゃん?エルフにもダークエルフとかさ。」

「あぁ...タイプの事ですね。私は白狼ですよ。ホラ、わたしは髪が白いでしょ?そして犬より耳が尖っているので白狼です。」

「白狼ってかっけーなぁ!ルキってすげー!」

「えへへ、そんなぁ...そうでもないですよご主人様ぁ...」

「ちなみに特技はあるの?」

「書物などを調べれば出てくるんですが、白狼は狼の中でも珍しくて、アルビノと呼ばれています。」

「ほーん...あぁ、遺伝子の突然変異みたいなもんか......ていうかそうだよな。」

「遺伝子?突然変異?」

「あぁ、遺伝子っていうな、それぞれ個人にある生物の設計図なんだ。これがまた面白くて...おっと、こんな事話している場合じゃないな...また後で話してやるよ。」

「約束ですよ。それで、わたしの特技は...狼は集団戦が得意ですが、白狼に仲間は少ないので、俊敏に駆け回る事ができます。わたしが本気を出せば近くの森まで行って帰ってくるのに5分あれば十分ですね!」

「へぇ、俺もそんぐらいだぞ〜今度勝負しような!」

「「え?」」

「ん?」


 カミナには、それがどれだけ速い事かをまだ知らなかった。

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