最弱が世界を救う。
《憤怒》10
「エクスさん、逃げ――」
セレネの声に一瞬だけ反応が遅れる。
振り向くとそこには、物凄い剣幕をしたサタンがいた。
その時、その場にいたもの全てが死を覚悟した。
避ける避けないの話ではない。
死への恐怖に、ただただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「ぶっ殺してやる、雑魚がッ!!」
猪の様に突っ込んでくるサタンは、失われたはずの右腕はエクスの心臓をめがけ伸ばしてきた。
死へ残りわずか。
「撃てッ!!」
「はいよー」
パァン!と乾いた音が響き渡る。
何が起きているのか理解出来なかったが、目の前にいたはずのサタンは消えていた。
一つだけわかることは、今は命が助かったという事だけ。
「全く、君は油断しすぎだよエクスくん」
聞き覚えのある声に、エクスは目を輝かせる。
遠くにいる人影は二人。
一人は育ちの良さそうな容姿に、キリッとした表情がよく似合う好青年。
一人はどこか気だるそうにスナイパーライフルを持ち、腰まで伸ばした髪を風に泳がせている女性。
「そうっすよー、そんなんじゃ世界最強はうちの弟になるっすよー?」
「姉さん、油断は禁物だ。ヤツの魔力は確かに消滅しているが、嫌な予感がする」
「ういっす」
二人は何やら話をし、やがてこちらへ近づいてきた。
思いもよらぬ援軍の登場に、エクスは内心喜んでいた。
「ゼノ……」
その瞬間、思いきり頬を殴ってきた。
「エクスッ!!私を倒しておきながらその無様な姿はなんだ。敵に背後を見せるとは何事だ!」
頬を手で抑え、ゼノを見上げる。
そこにいたのは、世界最強の軍隊『アテナ』のリーダーとしてのゼノだった。
今のゼノにかける言葉はない。
「エクス、敵の情報を寄越せ」
「敵の武器は斧と素手の攻撃がメイン、魔法は特に使ってこない。そして、ヤツを怒らせるとより力が増すみたいだ」
「それなら一つだけ聞く、確かに《憤怒》の悪魔を殺したか?油断して殺し損ねたとかはないな?」
「あぁ、俺は確かにこの手で殺したはず。恐らく、再生している可能性が高い。二度と治らないように、腕ごと異空間に飛ばしたはずなのに腕はある。理屈はわからないけど……」
「ふむ、《憤怒》の悪魔は再生はしていない」
二人が話していると、サタンは話を割って入ってきた。
「そこの金髪の男の言う通りだ。俺様は確かに死んだが、再生したわけじゃない。全てを元通りに生き返らせる、俺様の唯一無二の大技『転生の炎』のお陰で生き返ったのさ」
サタンの言葉にもう驚くことはない。
それ以上に危険視している部分があるから――
「チームニケ、隊長のゼノだ。これより、処刑を始める」
ゼノは雷を纏い、一気に間合いを詰める。
目にも留まらぬ早業で、雷霆ケラウノスを顕現させ、サタンの首を切り落とす。
元世界最強の剣士の剣技は、清く美しい。
「さて、お前の言う転生の炎は何度まで使えるんだ?」
「けっ、教えてやるかよ。しかしまぁ、貴様の剣は強い。明らかに俺様の速度を超えてやがるくせに、正確に命を奪いに来てる。さっき戦ってた人間よりも面白くなりそうだ」
もはや生き返ることを知った上で、ゼノは攻撃を仕掛けていた。
実際のところ、相手の力は未知数のため何か情報が欲しい。
そのためにもゼノは捨て身覚悟で、自らの手で情報を引き出している。
「俺も行かないと……ッ!!」
「まて、エクス」
立ち上がり、ゼノの手助けに行こうとすると、ソロモンが話しかけてきた。
「なんだよ、早く行かないと」
「わかってる、サタンの強さを唯一知っていたお前ならわかるだろうな。だが、一つ残念な報告がある。ゴエティアに封印している悪魔には未来を知ることが出来る奴がいる。そいつによると、恐らくゼノは負ける」
「負ける……だったら尚更だ、俺が助けに行かないと」
「最後まで話を聞けバカ。お前が参戦した未来も同じ結果だ」
「じゃあ、どうしろと?大人しく負けろってか?」
「そんな訳がないだろうがよ。私だってエクスに死んでもらうと困る。だから一つだけ未来を変えられる手がある。それをやってもらいたいんだが」
「一体何を?」
「私が生前使っていた剣をお前に託したい。そのためにも今は戦いに行かずに回復して、大量の魔力を用意してほしい」
「小僧、確かまだ魔力を使えないんだったな?だったらまずは体力を回復していろ。魔力は私達で作り出す」
「わかった、助かる」
エクス達が話している間にも、ゼノは一心不乱に剣をふるっていた。
その間に、サタンは六度殺されていた。
「一体何度殺せば――」
「こちらチームアイギス。ゼノ、一旦後ろに飛んで」
ゼルからの通信により、ゼノは大きく後ろへ飛ぶ。
空を舞い、地面へ着地した瞬間にサタンが立っている場所が盛大に爆発する。
「手応えなしっすねー、まさかあのタイミングで避けられるってどんな身体能力っすか?」
「恐らく死ぬ度に少しだけだが、自らを強化している……なるべく早く打開策を見つけないと」
「それなら、さっきからエクスくんが何ならやってるみたいっすよ?参戦しないってことは、結構重要なことをやってたり?」
「二人じゃもたないな……」
「私達もお手伝いしますよ」
「はい、微力ですが……私の姉の仇を!!」
ゼノの前に現れたのは、今まで次元が違うと逃げていたセレネ達だった。
実際、現状を打破できるほどの戦力ではない。
それでも、今この場ではとても心強い。
「わかった、あまり無理はしないで欲しい。もしきつくなったら私達を置いて逃げてくれ。私達は私達の誇りにかけて、エクスくんへと繋ぐ。それが私達の最後の仕事だ」
「そうっすよ、世界最強の軍隊の隊長二人が命を懸けるんすよ?私達が死ぬのは私達のため。ここで死なれて変な怨みを持たれても迷惑としか言えない……」
「わかり……ました、危ない時はすぐに逃げ――」
「それでいい」
「ません」
「は?」
セレネは一歩前に出て、ゼノの胸ぐらを掴む様な勢いで迫り寄る。
「私だって死ぬのは怖いです。ですが、私にも……私達にもプライドってものがあります。それだけは譲れません!!」
「止めても無駄なんだろ?最初から分かっていたさ。君たちはエクスくんの仲間だからね」
四人は横一線に並び、サタンを眺める。
その間にもエクスはソロモンの指示に従い、準備を進める――
セレネの声に一瞬だけ反応が遅れる。
振り向くとそこには、物凄い剣幕をしたサタンがいた。
その時、その場にいたもの全てが死を覚悟した。
避ける避けないの話ではない。
死への恐怖に、ただただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「ぶっ殺してやる、雑魚がッ!!」
猪の様に突っ込んでくるサタンは、失われたはずの右腕はエクスの心臓をめがけ伸ばしてきた。
死へ残りわずか。
「撃てッ!!」
「はいよー」
パァン!と乾いた音が響き渡る。
何が起きているのか理解出来なかったが、目の前にいたはずのサタンは消えていた。
一つだけわかることは、今は命が助かったという事だけ。
「全く、君は油断しすぎだよエクスくん」
聞き覚えのある声に、エクスは目を輝かせる。
遠くにいる人影は二人。
一人は育ちの良さそうな容姿に、キリッとした表情がよく似合う好青年。
一人はどこか気だるそうにスナイパーライフルを持ち、腰まで伸ばした髪を風に泳がせている女性。
「そうっすよー、そんなんじゃ世界最強はうちの弟になるっすよー?」
「姉さん、油断は禁物だ。ヤツの魔力は確かに消滅しているが、嫌な予感がする」
「ういっす」
二人は何やら話をし、やがてこちらへ近づいてきた。
思いもよらぬ援軍の登場に、エクスは内心喜んでいた。
「ゼノ……」
その瞬間、思いきり頬を殴ってきた。
「エクスッ!!私を倒しておきながらその無様な姿はなんだ。敵に背後を見せるとは何事だ!」
頬を手で抑え、ゼノを見上げる。
そこにいたのは、世界最強の軍隊『アテナ』のリーダーとしてのゼノだった。
今のゼノにかける言葉はない。
「エクス、敵の情報を寄越せ」
「敵の武器は斧と素手の攻撃がメイン、魔法は特に使ってこない。そして、ヤツを怒らせるとより力が増すみたいだ」
「それなら一つだけ聞く、確かに《憤怒》の悪魔を殺したか?油断して殺し損ねたとかはないな?」
「あぁ、俺は確かにこの手で殺したはず。恐らく、再生している可能性が高い。二度と治らないように、腕ごと異空間に飛ばしたはずなのに腕はある。理屈はわからないけど……」
「ふむ、《憤怒》の悪魔は再生はしていない」
二人が話していると、サタンは話を割って入ってきた。
「そこの金髪の男の言う通りだ。俺様は確かに死んだが、再生したわけじゃない。全てを元通りに生き返らせる、俺様の唯一無二の大技『転生の炎』のお陰で生き返ったのさ」
サタンの言葉にもう驚くことはない。
それ以上に危険視している部分があるから――
「チームニケ、隊長のゼノだ。これより、処刑を始める」
ゼノは雷を纏い、一気に間合いを詰める。
目にも留まらぬ早業で、雷霆ケラウノスを顕現させ、サタンの首を切り落とす。
元世界最強の剣士の剣技は、清く美しい。
「さて、お前の言う転生の炎は何度まで使えるんだ?」
「けっ、教えてやるかよ。しかしまぁ、貴様の剣は強い。明らかに俺様の速度を超えてやがるくせに、正確に命を奪いに来てる。さっき戦ってた人間よりも面白くなりそうだ」
もはや生き返ることを知った上で、ゼノは攻撃を仕掛けていた。
実際のところ、相手の力は未知数のため何か情報が欲しい。
そのためにもゼノは捨て身覚悟で、自らの手で情報を引き出している。
「俺も行かないと……ッ!!」
「まて、エクス」
立ち上がり、ゼノの手助けに行こうとすると、ソロモンが話しかけてきた。
「なんだよ、早く行かないと」
「わかってる、サタンの強さを唯一知っていたお前ならわかるだろうな。だが、一つ残念な報告がある。ゴエティアに封印している悪魔には未来を知ることが出来る奴がいる。そいつによると、恐らくゼノは負ける」
「負ける……だったら尚更だ、俺が助けに行かないと」
「最後まで話を聞けバカ。お前が参戦した未来も同じ結果だ」
「じゃあ、どうしろと?大人しく負けろってか?」
「そんな訳がないだろうがよ。私だってエクスに死んでもらうと困る。だから一つだけ未来を変えられる手がある。それをやってもらいたいんだが」
「一体何を?」
「私が生前使っていた剣をお前に託したい。そのためにも今は戦いに行かずに回復して、大量の魔力を用意してほしい」
「小僧、確かまだ魔力を使えないんだったな?だったらまずは体力を回復していろ。魔力は私達で作り出す」
「わかった、助かる」
エクス達が話している間にも、ゼノは一心不乱に剣をふるっていた。
その間に、サタンは六度殺されていた。
「一体何度殺せば――」
「こちらチームアイギス。ゼノ、一旦後ろに飛んで」
ゼルからの通信により、ゼノは大きく後ろへ飛ぶ。
空を舞い、地面へ着地した瞬間にサタンが立っている場所が盛大に爆発する。
「手応えなしっすねー、まさかあのタイミングで避けられるってどんな身体能力っすか?」
「恐らく死ぬ度に少しだけだが、自らを強化している……なるべく早く打開策を見つけないと」
「それなら、さっきからエクスくんが何ならやってるみたいっすよ?参戦しないってことは、結構重要なことをやってたり?」
「二人じゃもたないな……」
「私達もお手伝いしますよ」
「はい、微力ですが……私の姉の仇を!!」
ゼノの前に現れたのは、今まで次元が違うと逃げていたセレネ達だった。
実際、現状を打破できるほどの戦力ではない。
それでも、今この場ではとても心強い。
「わかった、あまり無理はしないで欲しい。もしきつくなったら私達を置いて逃げてくれ。私達は私達の誇りにかけて、エクスくんへと繋ぐ。それが私達の最後の仕事だ」
「そうっすよ、世界最強の軍隊の隊長二人が命を懸けるんすよ?私達が死ぬのは私達のため。ここで死なれて変な怨みを持たれても迷惑としか言えない……」
「わかり……ました、危ない時はすぐに逃げ――」
「それでいい」
「ません」
「は?」
セレネは一歩前に出て、ゼノの胸ぐらを掴む様な勢いで迫り寄る。
「私だって死ぬのは怖いです。ですが、私にも……私達にもプライドってものがあります。それだけは譲れません!!」
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