最弱が世界を救う。

しにん。

奴隷。

夜が明けると見事な朝日が昇り始め、優しく二人を起こしてくれる。


「おはよう、ござい、ます」
「お、おはよう。その……夜中はすまなかった」
「い、いええ」


朝の挨拶を済ませ、朝食にしようとした時に背後から悪魔が現れる。


「不可視の魔法が解けてる。あぁ、夜が明けるまでが契約だったか。朝飯前って事で殺りますか」


悪魔はソロモン達に気づき、どんどん襲いかかってくる。
最初は二体だけだったが、徐々にその数は増え今は軽く十を超える。


「ミルティ、なるべく逃げ────」


危害が及ぶ恐れがあったためミルティを遠ざけようとしたが、少し遅かった。
死角から飛び出てきた悪魔によりミルティのお腹に、爪が深く刺さっている。


「グリモワール・ゴエティア展開オープン召喚イヴォークサブナク、セーレ!!ミルティを別の場所へ転移させ治癒しやがれ!!」
「合点承知」
「了解」


本から出てきた男女はミルティの元へ行き、一瞬で戦場から退避する。
残されたソロモンは、増え続ける悪魔全てのターゲットとなる。


「貴様ら……ただで死ぬと思うなよ」


ソロモンの低く地を揺らす声は敵を怖気づかせる。
気がつくとソロモンの足元には大きな三角形の魔法陣が展開されていた。


「グリモワール・ゴエティア展開オープン召喚イヴォークフラウロス、憑依ポゼッションアンドラス」
「ご主人どうした?」
「アンドラス、周りの悪魔全ての殺し方を脳内に教えろ。フラウロスは指示に従い全てを燃やし尽くせ。灰も残すな」
「「承知しました」」


本から出てきたアンドラスと呼ばれる狼はソロモンの体へと消える。
瞬時に脳内へ敵の急所を教える。
指示を受けたフラウロスは満面の笑みで目の前の悪魔達を蹂躙する。
圧倒的な力の前に悪魔達はなす術なく倒れていく。


「敵をすべて燃やし燃やし、燃やし尽くせ……もっとだ、もっと殺せ」


周り一帯は火の海となり、木々も燃えていく。
戦場に残されたのは谺響こだまする悲痛な叫び声とソロモンただ一人。


「ソロモン、さんっ!!」


我を忘れ咆哮ほうこうをあげ、一歩間違えば暴走するソロモンは、ミルティの声を聞き静まる。


「ミル……ティ?」
「はいぃ、私、です。大丈夫、ですか」
「私……は」


バタりと倒れる。
ミルティは急いで駆け寄りる。
外傷は無いに等しいが、血を吐いているためサブナクへとお願いする。


「サブナク、さん、ソロモンさんを、助け、て!!」
「それは契約ではない。私は私の契約を終えた」
「そんな、酷いこと、言わ、ないで」


ミルティは大粒の涙を流し、ソロモンにすがりつく。


「やれやれだ、人は無様だな。最後は泣いて頼む。しかし、ご主人が死しなれては困る、今回は助けてやろう」


ソロモンの周り魔法陣が広がり、あっという間に怪我を治し吐き出された血をも消す。
意識を取り戻したソロモンは現状が把握出来ず少しの間考える。
が、すぐにミルティにより妨害される。


「よ、よかった、です。ほんとうに、よかった、です!!」
「すまなかったな、心配させて」


その後もずっと泣き続け、泣き止む頃には日が暮れていた。
泣いて疲れたのかミルティはすぐに寝てしまう。


「力の代償ってか?くだらねぇ。こんなんじゃ世界を終わらせるのも無理じゃねぇか」


一人、焚き火を眺め独り言をつぶやく。
先日同様、バラムに不可視の魔法を掛けてもらい夜を明かす。


「あれ、私、寝ちゃってた?」
「おっと、すまない起こしたか?」
「い、いえぇ。それよりも、一人で何を、言ってたんです、か?」
「少し前の記憶をだな、まぁ説明しても理解はできないよ」


少し残念そうにミルティは下を向く。
しかし、すぐ上を向き何かを決心したかのように目を輝かせる。


「あ、あの少し宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「い、いきなりで、ごめんなさい。わ、私を奴隷に……してください!!」
「すまない。何を言ってる?」
「私達、獣人の底辺は、奴隷になるのが、掟です。なので、私も、奴隷に」
「奴隷は却下だ。第一お前の復讐を終えるとおさらばするつもりだから」
「でも、私の復讐を、するってことは、国を無くすということ、ですよね?」
「どうして国を消すとわかった?」
「あまり、力の調節が、上手くなさそうだった、から。いっそのこと、国を消す、と思った」
「やっぱバレてたか。本当ならお前を追い出したやつだけ殺したいところだ」
「なので、私は帰る場所が、無くなります。そこで、再度お願いです。私を、奴隷にしてください!!」
「何度言われても奴隷は無理だ。でも、仲間じゃダメか?一緒に旅をしたりしてさ」


突然のことにミルティの頬には涙が流れる。


「ちょ、どうした?私は何かしたか?」
「い、いえぇ。こんな、私でも、仲間と言ってくれて、嬉しくてつい」


またミルティは泣き続け、泣き止む頃には日が昇っていた。



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