最弱が世界を救う。

しにん。

灰。

結婚の申込を断られ、エクスは灰のようになっていた。


「レインさん、あれどうしたんですか?」
「結婚の申込されたから断っただけだよ」
「それであんなに落ち込んでいるんですか」


二人は遠くでエクスを観察する。
ずっと座ったまま動こうとせず、食事も喉を通らず三日間何も食べていない。
動く時はトイレのみ。
時折、深いため息をする以外、声さえも出さない。
流石に気の毒に思い、レインは何度か話しかけるが反応がない。


「私だって、理由があって降ったのにエクスくんは自分勝手だよ」
「しかし、ずっとあれでは邪魔ですよ。どうするんですか?」
「と、言われましても。打てる手は打ったつもりなんだけど……」


エクスはレヴィから貰ったネックレスを握りしめ、心の中でレヴィに話しかける。


(俺、間違えてたのかな……レインは俺のこと好きじゃなかったのかな……)
「マスターは間違えています」


突如現れたムシュの声に驚き、顔を上げる。
目の前には見覚えのある服を着た、少し幼い女の子が立っていた。
身長が変わらないように見えたため、最初はレインと見間違えていたが、顔立ちや呼ばれ方ですぐにムシュだと気づく。


「ムシュ?何でムシュの姿がここに?」
「一時的でありますが、こちらの世界に干渉出来る程の魔力を練り上げてきました。私の姿はマスターにしか見えませんのでご了承を」
「やっぱムシュって相当な魔法を使えるんだな」
「お褒めのお言葉、身に余る幸せです」


ムシュと会話をしていると、レイン達は異変に気づく。


「エクスくん独りでブツブツ言ってない?」
「言って……ますね。とうとう壊れましたかね」
「なんか逆に悪いことした気分だよ。とりあえず謝ってこようかな……」


「それでムシュ。俺の何が間違えていたんだ?」
「簡単な理由です。マスターは女心という物がわかってないです。それを無視して結婚の申込なんて大きく出ましたね」


ムシュの言葉は鋭く、エクスの傷ついた心にクリティカルヒット。
既に瀕死だったため特にダメージはないが、いきなり大きく動いたためレイン達はびっくりした様子でこちらを見ている。
酷く冷たい目線で見られ、エクスはさらに深いため息を吐く。


「女心ねぇ。昔から周りの友達は男だけだったし、わからなくても当然かな」
「それは関係ないです。普通わかって当然です。マスターが異常なだけです」
「痛い所を的確に突いてくるね……」
「私はマスターの記憶に生きる存在なので」
「なるほどねぇ。だから俺の過去を知っているのか」
「追憶の図書館で読んでいる本はマスターの記憶です。今まで沢山見てきたので何でもわかりますよ」
「ん?なら封印された記憶の事も全部わかるのか?」
「はい。一応わかりますが、伝える事は契約違反なので伝えようとすると恐らく私は消滅します」
「契約?一体誰と?」
「マスターの御父上です」
「親父は一体何がしたいんだ……」


ムシュと話していると、そこへレインが近づいてくる。


「エクスくん、さっきから独りで何喋ってるの?」
「え、あー、これはその……」
「教えてくれないんだ。ふーん、いいよ」
「いや、違うんだ。説明が難しいというかなんと言うか。きっと説明しても信じてくれない」
「私が信じないとでも思う?」
「それは……」
「エクスくんのバカッ!!」


レインはその場から逃げるように走り去って行く。


「えぇ……」
「お疲れ様ですマスター」


エクスは困惑した顔でレインの後ろ姿を視線で追いかける。
そこへ、エインガルドの王女が横へ腰掛ける。


「全くいつも賑やかだね。一体どうしたんだい?」
「それはですね────」
「なるほどね、確かに君は間違えている。だが同時に正解でもある」
「正解?」
「だって、君自身はレインちゃんの事好きなんだよね?嘘偽りなく、一人の女として」
「記憶を取り戻さなくても、好きでした。」
「うん、だったら間違いでは無かったという事だね。でも、少しは女心わかった方がいいよ?」
「それがわかれば苦労しないんですがね」


二人は苦笑いを浮かべ、他愛ない会話へと移る。
エクスは元気を取り戻したかのように、笑顔が見えている。
それを見て、リリーも一安心していた。


「よかった、元気になって。やっぱり人生の先輩として、お姉ちゃんは凄いな。私も見習わないと」


拳を握り締め、生きていく上での目標を決める。

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