最弱が世界を救う。

しにん。

《強欲》4

レインからは羽根が消え、普通の女の子へと戻る。


「ほ、本当に天使なの?」
「隠しててごめんね。本当はもっと前に言わなければなかったけど」


申し訳なさそうに頭を下げるレインにエクスは、頭を軽く撫でる。


「そんな事はどうだっていいさ。それよりも俺は助けてもらった事にお礼を言いたい。ありがとう」


レインは頬を赤く染めうつむく。
頬だけでは止まらず耳までが赤くなる頃には、夕日がみんなを赤く染めていた。


「もうこんな時間なのか。朝から戦い続けだったから疲れた……」
「本当、助けてくれてありがとう、エクスくん。君が絶対に迎えに行く!!と言ってくれたから私は生きていられた。助けが来ないわかってたら私は自害するつもりだった」


レインは自分一人の犠牲でみんなが助かるならと考えていた。


「なんだかデジャヴ……いや、そんな事より、レイン。命は大切にしろ。これは絶対だ」
「そうです、レインさん。命は大切に……」


セレネが同じ事を言おうとすると、エクスは苦笑いを浮かべた。
誰も気づいていないが、ファントムはその場から消えていた───


「やれやれ、旦那。まさか天使がいるとは。そんな話全然聞いてなかったが?」
「ふんっ、俺も初耳だ。昔のあいつは多分天使じゃなかったはずだが……」


城の影にファントムは隠れ、主───ゼクスに報告をしていた。
ゼクスは不敵な笑みを浮かべその場から気配を消す。
ファントムはそれを見届けてエクスたちの元へ帰ろうとするが、ある事に気付きその元へ歩を進める。




誰もファントムの事に気づかないほど、新技の事で場が盛り上がっていた。


「エクスくんの『トリアイナ』ってどうだった?」
「正直敵に回したくないと思いました」


エクスは特に威張ることなく聞き流していた。


「エクスさん、一つ気になった事があるのですがよろしいでしょうか?」


セレネは身を乗り出して話しかける。


「どうした?」
「『トリアイナ』を顕現けんげんさせたとき、エクスさんの瞳の色があおくなっていた気がするのですが……」
「えっ?全然気にしていなかったけどほんと?」
「私も一瞬でしたので見間違えた可能性がありますが」
「そうだ、ファントムなら何か……ってあれ、ファントムは?」


三人はやっとファントムがいないことに気づき、警戒する。


「呼びましたか?」


ファントムは地下へと続く階段から現れる。
予想外な場所からの出現に皆驚くが、それ以上に横にいる人物に視線が奪われる。


「《強欲》の悪魔!?なぜお前がここにっ!!」
「待ってくださいエクスさん。あの者からは魔力が感じ取れません。一体あれは……」
「私が説明しましょう。彼はラズ王国国王のハイフェル・ノーランだ。」
「いやはや、この度はラズ王国を助けてくださり心より感謝します」


見た目は《強欲》の悪魔、マモンとそっくりだがラズ王国の国王と紹介される。
エクスは頭の中で整理する。
そして一つの仮説が浮かび上がる。


「まさか、俺達が見てきたこの国は悪魔に占領されていた……?」
「ご名答。ここは《強欲》の悪魔に奪われた国です。」


ファントムはクイズ感覚で正解を告げる。
ラズ王国は悪魔襲来の四年前以降、変わりなく時が流れていたかのように思われていた。
だが、他の国とは違う点が一つ。
四年前の悪魔襲来以降、一度も悪魔が攻め入った記録がない。
迷宮入りとされた謎の答えが、国全てを奪われ隠蔽いんぺいされていただけ。


「しかし、地下へと国民全てが避難していたとは……」
「私どもは悪魔襲来の時、地下へと逃げました。悪魔達は人間がいないと踏んだのでしょう。我らの国を占領しました。ただ、奪うのではなく真似をすることまでされ、為す術もなく見ているだけでした。」


真似をする。それはすなわち中身は悪魔にして、見た目は人間。
誰も思わなかったのだろう。
悪魔が人間に化け、溶け込んでいると。


「ふむ。どおりで誰も答えが出せなかったのですか」


こうして、ラズ王国の隠された真実を知りエクス達は休みを取るついでに、宿へ戻り話を続けた。


「まさかラズ王国が悪魔の国だったとはね……」
「パルス神殿の主の私でさえ見抜くことができませんでした。まだまだ修行が足りませんね」


今回の戦いで、それぞれの課題を見つけた。
エクスは体力と魔力の限界突破。
レインはより強い魔力。
セレネは感知能力。


「やっぱり、仲間っていいね。助け、助けられる存在。最弱とバカにされていた頃だと夢にも思わなかったよ」
「私もエクスくんと出会う前だと絶対にあり得なかった」


エクスとレインは互いに見つめ頬を染め合う。
この場にいづらくなったのか、セレネは咳払いをし外へ出る。


「エクスくん。《強欲》の悪魔の試練で、どんな記憶が戻るのかな?」
「まだ俺にはさっぱり。今戻っている記憶が、剣術と水魔法の扱いだけだから……」


今まで倒してきた七大悪魔の数は3。
そのうち2個は封印の解除を済ませている。


「後でセレネが帰ってきたら儀式を始めてもらおうかな」


レインは何かを期待していたが、エクスはそれを知る由もない。

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