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閃雷の元勇者

しにん。

35話 勇者が死んだ日

 ライガと対等に渡り合える力となると、次期拡張世界アナザーワールドを使うしかない。それでも、追いつくだけで精一杯なのは圧倒的な経験の差。この力を使うのはいいが、経験の差を見せつけられる。


「来ないならオレから行かせてもらうぜッ!」


 流石は二刀流小太刀の使い手。剣技だけなら勝てる気がしない。
 一手一手に無駄がなく、目的に向かって敵を上手く誘導している。分かっていても対策のしようがない。
 猛攻の嵐をギリギリで耐え抜き、なんとか距離を置くことに成功。


「おいおい、鬼化も赤目の鬼ブラッドモードもなしでこの有様かよ。戦闘育成機関のトップもこの程度の実力となると、いよいよ守った意味がないな。力無き者は、淘汰とうたされる運命だけを受け入れろ」


「ボクは……誰にも負けない――ッ!!」


「青い目だと!? 次期拡張世界アナザーワールドを進化させたのか」


 生徒会長が身に纏う力は、冷たくどこか寂しい。
 青く光る目は慈悲などない、残酷な目。人という器を捨て次の世界の住民になる寸前の力、心の強さが進化させた世界を凌駕する存在になりかけている。


「生徒会長アイン・クロセル。正気のうちに言っておく。その力は人を捨ててこそ真価を発揮するものだ。今ならまだ取り返しがつく――」


「ここで引き返せと……? ボクは貴方を倒して、さらに先へ行くんだッ!」


 次期拡張世界アナザーワールドの二段階目は命を削る力と言われている。あくまで戦って勇者を殺したという事実さえあればいいものの、生徒会長は止まる気がない。このまま力を受け入れ、認められると手遅れになる。
 まだ取り返しがつく今、全力で止めるしかない。止めれなかった場合、早急に手段を取らない限り、命は侵食され死に至る。


 戦いの中、生徒会長をさらに進化させるなんてこと、オレに出来るのか? シンですら無理と言って、辞めた修行の一つ。次期拡張世界アナザーワールドの三段階目。孤独。


「くっ……! こんな所で止まっていられないんだッ!」


「もうやめろ、それ以上は死ぬぞ。現に少し動いただけで血が出てるじゃないか」


「戦いの果てが死であっても、ボクは戦う」


 ニヤリと不気味に笑う。もうあれは生徒会長ではなく、次の世界の住民の目だ。もう……何を言っても届かない。


「鬼――解放ッ!」


 額から一対の角が生え、威圧感が増す。


「お前がそう言うのなら、もう止めない。でもな……最強が誰かは理解してもらうぞ。鬼武装ッ!」


 鎧を身にまとい、さらに威圧感を増す。


「そして、理解した上で負けろ。赤目の鬼ブラッドモードッ!」


 3つの力を同時使用、初めての試みだがきっと大丈夫。互いの力が邪魔をし、激突し始める。体が壊れそうになるが、必死に押さえ込み収束させる。


「主、大丈夫ですか?」


「オレがオレで居られる時点でまだ大丈夫だ。それより今のオレに付いてこられるか?」


「愚問です。私達は主のために戦うので!」


「心強い。それじゃ、次の世界の入口のオレとその先にいる生徒会長。どっちが強いか、証明と行くかッ!」


 突如として氷の刃が複数襲いかかる。


「二刀流小太刀術、巣籠すごもり!」


 両手の小太刀を絶え間なく動かし加速し続け、攻撃による防御の技。
 防御に専念するため、攻撃は一切できなくなるが、魔力障壁よりも強く頼りになる。しかし、長時間の使用が不可能なため、安定性が欠けている。


「そんなフェイントの攻撃じゃオレは落とせないぜ?」


「だから、工夫してるよ」


「まさか――」


 気づくのに一瞬遅れ、生徒会長の策略にしてやられた。
 砕いた氷の刃は散り散りに宙を舞い、キラキラと輝いている。生徒会長はそれを利用した。
 数え切れない砕けた氷にあらかじめ魔力を付着させ、自由自在に操ることを可能にしていた。そのため、氷の刃は次の攻撃――砕けた氷による攻撃のための捨て駒に過ぎなかった。


「砕けば砕くほど、攻撃が増える。もがくほど苦しくなるぞライガ」


「そう……だな。巣籠を使えば使うほど不利になるってのは理解出来た……」


 実際に巣籠で守り続けることが容易く無くなってきている。一つ砕くと二つになる。そうやってどんどん無限に増え続ける、オレとは相性が最悪の技。
 攻撃を受けないために氷を砕くが不利になる。代わりに氷の刃の攻撃を受けるとなると、致命傷になる。
 これは最悪の二択とも言えるだろう。


「はぁ……はぁ……まさかこの程度で、勝ったなんて思ってないよな?」


「逆に問う。今の状況から逆転出来ると?」


「魔力コントロールは脅威的だがな、まだまだ二流以下だなッ!」


 大量の氷を全て薙ぎ払い、巣籠が終わる。


「ボクの魔法が効かない……?」


「残念だけど魔法使いの頂点から教わったオレが魔法で負けるわけない」


「どうして、どうしてボクの魔法が!」


「相性だ。氷なんて溶かせばどうってことない。そうだろ?」


「ボクの魔法は絶対零度だ! 全てを凍らせる最強だッ!」


「二流以下と一流の魔法を比べるなよ……」


 右近と左近に魔力をまわし、魂の炎を顕現させる。


「オレが魔法を使えないってのはもう昔の話だ――今のオレは賢者と同等と思えよ」


「ありえ……ないッ!」


 周りの空気中の水分を全て凍らせ、かまくらのような囲いを作り閉じ込められる。
 閉じ込めたと同時に中の温度を絶対零度まで持っていき、生徒会長は勝ちを確信したのか笑みを浮かべている。


「だから言っているだろ、お前とオレとでは比べ物にならないと」


 閉じ込められる前に生徒会長の背後へ転移し、気配を遮断。完全に生徒会長は油断した。


「これならどうだ!」


 先端が尖った氷塊を複数作り出し、一気に解き放たれる。


「魔法はこう使うんだ」


 空中に氷塊が飛んでくるピンポイントの場所に炎による壁を作り、全てを燃やし尽くす。


「何故だ勇者。どこからそんな力が生まれているんだ」


「オレは昔から魔力に愛されているらしい。それよりも話はここまでだ。次期拡張世界アナザーワールドを三段階目へ早く行かないと」


「ボクの魔法が通じない? そんなことは無い」


「魔法も剣もオレの方が一枚上手だ」


 次期拡張世界アナザーワールドは果てなき道を進むように、成長に終わりがないと聞いている。しかし、シンですら一段階目で止まっている。
 この道は茨の道よりも険しく、遠い。
 荒野を一人で歩く孤独や、嵐の中を航海する絶望感、負の感情を超越した先に次の世界が広がる。
 つまり、この道の最終地点は無。


「あまりこの先には、進みたくなかったな」


 己の感情を全て負にし、怒りを顕にする。
 生徒会長が二段階目へたどり着けた理由は、怒り。オレの挑発を受け、認め、自分の弱さを呪った怒り。
 二段階目の鍵は怒りの先にあると悟った。


 ようやく理解出来た。シンが先へ進めなかった理由、それは怒りが無かったからだ。


「さて、これで今オレはお前と同等の力になった。基本スペックの差がものをいう時間だ」


「氷瀑龍――ニブルヘイムッ!」


 オレと生徒会長が初めて会った時、この技を使われたな。ふいに懐かしい気持ちが芽生える。


「もう見切ったッ! 二刀流剣術――風切り」


 その名の通り吹き荒れる吹雪を切り裂き、ニブルヘイムが出る前に抑え込んだ。
 初めて見た時は驚いたが、二度目となると確実に見えた。ニブルヘイムと呼ばれる化け物が完成するまで時間が必要ということが分かった。出てくる前に叩くことが出来れば、如何なる敵であれど簡単に蹴散らすことが可能となる。


「ボクの執念はこんなもんじゃないッ!」


 魔力が生徒会長に集まり始め、意識が朦朧としているのか身体を支えきれずふらふらと横に揺れている。それでもなお、目は死ぬことを知らない。


次期拡張世界アナザーワールドをはやく三段階目に持っていかないと生徒会長の命が……そらより、オレの方も限界が……」


「これで終わりだ」


「ひとまず生徒会長の魔力を消滅させるしかない、か」


 魔力の塊を飛ばしてくると同時に転移魔法を使い背後へ回り込む。


神を葬る拳デッド・イレイザーッ!!」


「な、に――」


 思い切り殴り飛ばし、生徒会長の次期拡張世界アナザーワールドの力が消えていく。それと時を同じくしてオレは気を失いその場に倒れ込む。


「今しかない――凍れ世界よ。いつくしむ世界は、時を止め美しく。永遠に眠り続けるがいい。世界は冱て果てるフリージング・ワールド


 正気を取り戻した生徒会長は、残った全魔力を使い時間を止める。その間に用意しておいた、霧でできたライガと本物のライガを入れ替え、時間を戻す。
 そして、倒れ込んだ霧のライガをさも本物のように殺した。

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