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閃雷の元勇者

しにん。

34話 反逆の勇者

 早速次の日、生徒会長は国民の前で勇者討伐に関する演説を行ってくれた。


「ボク、覇聖学園の生徒会長はエースの勇者討伐の指揮を取ることになった。彼は異常なまでの戦闘力を持ち、尚且つ経験も豊富だ。国を守るための育成機関である我が学園にとって初めての仕事だが、死力を尽くして行こうと思う」


 うおおおお! と会場にいた全員が喜びの笑みを浮かべ、エースの勇者を討伐してくれると期待していた。作戦の第一段階は成功。
 場にいた者全てが騙されただろう。


「お兄ちゃん、このあとはどうするの?」


「オレが盛大に宣戦布告する。時間と場所を指定して、人をわざと集めるつもりだ」


 フードを深くかぶり直し、会場を後にする。


「小一時間ほどの演説ありがとよ、みんな上手く騙されてるな」


「冷静さを失っているのかもしれないよ。聞いてくれてる人のほとんどが、不安を抱いた表情をしてたし」


「今の時刻は――」


「だいたい正午ってところだね。宣戦布告は夕方に?」


「そうだな。戦いは明日の昼を予定する。途中まではリアルさを求めてオレ自身が戦う」


「八百長試合とはいえ、途中まではライガとまた戦えるのか。楽しみだ」


「御手柔らかに頼む」


 同日夕方、再びオレは民衆の前に姿を現す。買い物を終わらせ食事の準備をしようと足早に帰る主婦、一日の労働を終え帰宅する人、遊びから帰る途中の子供たち、何度見ても平和で守った価値があると思える。守ったものを騙すのは心苦しいが、ここは心を殺すしかない。


『やあ、無能なバカども! 面白いことをやってくれるじゃないか!』


 オレの声を覚えていたのか、こちらを見る前に逃げる者や怯える者、全員が恐怖に支配されていた。


『未だにオレの詳細すら掴めない無能な学園の奴らがオレを討伐するために動いてるらしいな。その喧嘩買ってやる。明日の正午、オレはここに現れる。今更オレに挑む奴は居ないとは思うが、もし居るのなら準備をしておけよ? 何人相手だろうが、お前らに負けるほど弱くはない』


 転移魔法でその場を去り、寮へと戻る。
 部屋には当然のように生徒会長が座っており、アリスが椅子でうとうとしていた。


「一応成功ってとこかな。ぱーっと見渡したが、全員の耳には届いているし、オレが明日現れるってことは伝えれたと思う」


「ライガの言葉は届いた。遠く離れたボクにすらテレパシーのみでも心を熱くなったよ」


「それは生徒会長が戦いたいだけだろ……どんどけ戦闘狂なんだよ」


「はははは、面目ない。戦いのことになるとつい暴走しちゃってね、楽しくて楽しくて仕方ないんだ。相手にダメージを与えた時、与えられた時、作戦が成功した時、いろんな所から沢山のことを学べる。いろんな瞬間が楽しくて制御が効かない、のが多かったんだけどココ最近は違ってね。心の底から初めて楽しいと思える戦いは、ライガと戦った時だったんだ。だから、ボクはキミともっと戦いたい――隣に立つことは出来ないが、共に高め合いたいんだ」


 生徒会長はいつになく本気の目をしていた。きっとこの言葉は隠しきれない本音なのだろう。


「それじゃ、オレの質問は聞かなくても答えは分かるな」


「……え?」


次期拡張世界アナザーワールドの発現者は、何らかの形で保護、研究されるって話だ。今後はオレの元で研究という名目で置いておく」


「それはどういうことなんだ?」


「簡単に言うと、サードのように生徒会長に危害を加える研究者の元へ置かないための最善の選択ってところだ。オレ自身、未だにこの力の本来の力を引き出せていない。次の世界へ足を踏み入れた状態で、時が止まっているんだ」


「分かった。ボクはライガのそばに居るよ」


 オレが次の世界へ足を踏み入れただけで止まっていた理由が、やっと解決される。世界で4人しか発現していない力であるため、扱いが難しいとされる。
 そしてシンとオレ以外生きている者は居ないかったため、深く探ることは出来なかった。生徒会長がいい練習相手に――いや、いい競走相手になってくれたら、オレだけでなく生徒会長も次の世界の住人になれるはず。


「お兄ちゃん、アリスも忘れないでね」


「忘れてなんかないさ。でも、いつまでもオレと同じ世界へ行けないようであれば置いていく。追いつけるよう努力するんだな」


「むぅ、アリスには鬼畜。でも、いつかお兄ちゃんの隣に……ううん、先に立ってみせるよ」


「そんな未来が来たらいいな。でもな、オレを超えれるのはオレだけだ」




 翌日、エースの勇者を殺すために、舞台が作られた。あんなにも人がたくさん居たのに誰一人居ない。まるで一日で全人類が滅んだのではないかと思うほど。
 戦いを国民に見てもらうため、大通りに映像が映し出される。これにより誰しもが真実を見れる。


 誰もいない荒野に一人、勇者を殺すために立ち上がった戦士――アイン・クロセルが氷の剣を握り、精神統一をしている。


「生徒会長、もう時間だよー。って言うまでもないか。エースの勇者も律儀だね。時間ぴったりに来た。それじゃ私は逃げさせてもらうよ、めんどいのは嫌いなんだ」


「ここからはボクとエースの勇者の戦いだ、邪魔はされたくない。それに、ボクは学園最強だ。負けるとでも?」


「へーへー、分かったから……それじゃ、適当に頑張ってね」


「事が落ち着いたら仕事が沢山ある。先に帰って仕事を減らしておいてくれよ、副会長」


「はぁ? 仕事が増えたのは生徒会長のせいじゃないか、他人の尻拭いほど嫌なことは無いね」


「冗談さ。ボクが居なかった間本当に助かった。もし何かあったら学園のみんな――国民すべてを守ってくれよ。副会長が最後の砦だ、頼んだぞレイ・ルーフェン!」


 副会長は得意の雷魔法による、超高速移動で荒野を去る。


「さて、こうして剣を交えることが出来るのも、今日で最後になる。全力で悔いなき戦いをしようか」


「鬼――解放ッ!」


「スキだらけだ!」


 鬼になる瞬間、刹那の時間だが動きが止まる。不意をつくのは不本意だが、ここで決めることで今後が楽になるかも知れない。
 当たれば勝ちになり戦いも終わる。もし当たらなくても、鬼化に失敗して警戒が強くなる。そうしたら、鬼化を避け生身の戦いに持ち込めるはず。


 そう考え、勇者の背面を貫くように地面から氷の槍を飛ばす。タイミングを合わせ、避けようとした瞬間を狙い殺す。


「その首貰ったァ!」


 素人が見たら一切動きを見れない。そういうこともあり、見守っている民衆は息を呑んでいる。
 見えている者は皆声を揃えただろう。取った、と。


「……甘いぜ」


「まさか、鬼化はフェイク!?」


 背後からの槍は左近が、正面の剣は右近が剣となり防がれた。


「なるほど、考えは見透かされているってことか。それに加え、ボクの作戦の先もとなるといよいよ小細工はダメってことが実感できるよ」


「なに、これは単なる経験の差さ。相手がどう動くかなんて、オレ自身だった場合を考えてみたらすぐに答えにたどり着ける。そして、今からどう動くか、もね」


 生徒会長は大きく後ろへ飛ぶ。予想通り。
 着地寸前、必ず意識は足元へ行く。
 そこをあえて足元を攻撃することにより、着地の際バランスを崩す。


「な、に――」


「剣と剣をぶつけ合って真っ向勝負ってのもいいが、こうした作戦勝負ってのも悪くは無いねえ」


 バランスを崩したあと、必ず身体は安定した足場を求める。故に、一歩後ろへ無意識に動く。意識したところでどうこうできる問題ではない。
 一歩後ろへ行こうと足を動かした瞬間、追い打ちをかけるように剣を喉先へ突きつける。
 それを読んだように、生徒会長は氷の盾で防ぐ。


「読み合いの戦いはどうだ?」


「ボクとしては読み合いなら剣で語ってほしいね」


「バカか? 殺し合いになってそんないい話があるかよ……でも、生憎とオレは作戦を考えるよりも、剣で戦った方が戦い――やすい!」


 両手の小太刀を巧みに使いこなし、生徒会長の防御を削る。対抗して生徒会長も両手に剣を握ったが、戦闘経験の差がここで開く。


 左手をうまく使えず、右八割左二割と言ったところか、攻撃にムラがある。これでは下手に意識を使う両手より、盾を持った方が効率はいいだろう。
 その事に気づいているのかは分からないが、二刀流をやめる気は無いようだ。この勝負貰った。


 右手に持っていた剣を弾き飛ばし、使い慣れない左手で無理やり戦わせる土俵を作り上げる。


「くっ……!」


「オレの真似は悪くない。が、下手なまま成長した所でスタート地点から動いていない。オレには届かない」


「これならどうかな!」


 氷の人形を作り出し、数の暴力に出る。


「その程度……だと? この程度の戦力で勇者を倒すという行為、それは侮辱に値するッ!」


 十数体の氷の人形は気迫だけで砕け散っていく。


「これが……勇者の威圧感。ライガ……キミが本気出来てくれている証拠なんだね」


「どうした、覇聖学園生徒会長ッ! こんなものなのか、お前らの……オレが守りたかったものの力はッ!」


「……ッ! 確かに、今のままでは勇者が守ってくれた意味が無くなってしまう。未来を担うボク達を守ってくれた御恩、ボクの全力をもって返させてもらいますッ!」


「かかって来いよ……望むところだッ!」


 双方走り出し、力と力がぶつかり合う。

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