話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

閃雷の元勇者

しにん。

33話 恐怖

 ディルクの言葉と共に、拘束魔法による鎖がオレらの身体を縛る。身動きできないままオレらの心臓を槍が貫いた。


「チッ……ライガがそう簡単にくたばるわけが無いか。各隊はライガ、クロセル、アリスの3人を探せ。国家転覆罪により、最悪殺しても構わない」


 心臓を貫かれた瞬間に霧となり消えていく。
 ディルクに呼ばれた時、保険をかけておいて正解だった。いくら戦場で争い、友となったディルクでも信頼と呼べるまでの存在ではない。誰からでも命を狙われている状況で、信頼していない者への接触は控えておきたい。
 手遅れでは話にならない。なにか策を打たない限り動かないのが鮮明な判断と言えるだろう。


「ライガ、本当によかったのか? 学園長の話を偽物で行かせて」


「大丈夫だろ、なんか言われたら後々謝れば。それよりもアリス、霧分身の消息は?」


「たった今消えた。お兄ちゃんの読み通り、殺されたね」


 街の裏通りを足早に進み、目的地へ向かう。
 オレらが目指しているのはこの国の中心街とも言える場所で、総人口の半分近くの人が行き来している。信じてもらえるか分からないというのが本音だが、やってみる価値はある。


「まさか国中で探されている人物がいきなり表舞台に出てくるなんて思う奴いないだろうな。奇策とも呼べるが、なかなか面白い」


「最悪力でねじ伏せるさ。オレに勝てる奴は少ないしな」


「確かに。お兄ちゃんは強い。異論はない」


「それもそうだな、でも、念の為に魔力障壁で守っておこう。ボクは全力でライガを守るから、やれるだけの事はやってくれよ」


「任せろ。期待には答えるさ」


「次の角を曲がれば一気に大通り。転移魔法であの高台に飛ぼう」


「おう、んじゃ飛ぶぜ」


 高台の裏へ転移し、周りに人がいないか確認する。少し離れたところにいたが、問題は無いだろう。


「それはそうと、どうやって一人一人に聞こえるように喋るんだ? 拡声器とか持ってきていないぞ?」


「それに関しては問題ない。オレの魔法がある」


「ライガ、キミは魔法が使えなかったんじゃなかったのか?」


「使えないではなく、使えなくしていた、だな。生徒会長を助ける時に事前に封印の解放をやっていたのさ」


「ほう、あれだけの戦闘力を持っているにも関わらず、魔法を封印していたとは……いつか本気のライガと手合わせしてみたいところだな」


「生徒会長は今オレと同じ世界へ足を踏み入れている。本気で手合わせしたら冗談抜きで山が一つ確実に消えるだろう」


「ははっ、間違いないね」


「さてと……いっちょこの世界にどでかい爆弾でも落としてやりますか」


 生徒会長が空へ手を掲げると、氷の玉が生成される。徐々に大きくなっていく氷の塊は、民衆の目を集める。
 大気中の水を全て凍らせ、一つへまとめる。魔力コントロールが難しいと思うが、生徒会長は苦しい顔ひとつせずやってみせている。
 今まで肉弾戦ではなく魔法での戦いに慣れているとは言え、ここまで繊細な魔力コントロールとなると天晴あっぱれだ。魔法の知識を増やせばもっと強くなれる。


「右近、左近、大砲のようなデカい武器は作れるか?」


「主の命とあらば、不可能なんてないです!」


 右近と左近が手を繋ぐと、淡い光を放ち一つにまとまる。
 両手で持っても持ちきれないほどの大きな大砲を抱え、生徒会長が作った氷の太陽めがけて魔力の弾を放つ。
 氷の太陽と大砲の弾がぶつかると、綺麗に砕け散り、陽の光を浴びた欠片たちは天から舞い降りた天使のように輝いていた。


「ゼロ……いや、お母さん、封印の解除はしてくれたよな?」


『時間はかかったが、願い通りに封印の解除はした。でも、一番強い封印は解けなかった』


「十分だ。ありがとう」


 舞台は整った。民衆のほとんどが高台の上空へと視線を向けている。今が狙い目だ。
 仮面を付けて、高台へ登る。


『今ここに生きている者たちよ、オレはエースの勇者だッ!』


 民衆たちは視線を少し下げ、高台に立つオレへ集中する。
 ガヤガヤとし始め、指を指す者や素通りする者、様々な人達がいる。それでもオレを見ている者が場を占めていた。


「お兄ちゃんこれは?」


「遠隔的精神感応と言って――テレパシーみたいなもんだな、みんなへ意思疎通をしているって感じだ」


 大きく息を吸い、雄叫びをあげるように語り始める。


『国中で騒がれているようだが、それは嘘だ。オレが国家転覆だと? 笑わせるな。長き大戦を終わらせたのは誰だ、このオレだッ! 今ある平和は誰によってつくられた? もっと頭を使え、オレはそんなバカな奴らのために戦っていたのか? ああん?』


 動いていた者も全員オレを見始めた。もちろん、疑いの目を向けるものや、嘲笑する者もいる。分かっていた。いきなり現れて、オレが世界を救った勇者です、なんて言われて信じる方がおかしい。
 だから、極めつけに恐怖を与える。2度と間違わせないように。


『それともう一つ。オレのことを殺したと言って、国王の元へ持っていく奴らがいるらしいな? オレがお前らに負けるとでも思ってんの? 調子に乗るなよ偽善者がッ! 懸賞金目当てのやつはかかって来いよ、オレがぶっ殺してやる』


 嘲笑する者は更に笑い始め、一人また一人と高台へ近づいてくる。
 そして遂に一人が高台の頂上へと辿り着く。


「へへっ、お前さんがエースの勇者だって? こんな小さいヤツに世界は救われたのか。それだったらオレでも救えたんじゃねぇのか?」


「口だけは達者だな。余程腕に自信があるのか?」


「オレのことを知らない奴がいたとはな。暴君ザキとはオレのことだッ!」


「すまないが知らない。お前のような雑魚の名前一人ずつ覚えることは無駄なんでな。それと、言葉ではなく、暴力で来いよ。オレが殺してやる」


「笑わせるなッ!」


 腰に下げていた剣を取ると同時に、火の玉を作り出し、剣と魔法の二つを器用に使い突っ込んでくる。
 一般人よりは確かに強い。魔力コントロールも上手いし、剣の強さもなかなかのものだ。
 一点に集中させないように複数の火の玉を作る、簡単に思えて実は一つ一つを動かすにはかなり精神を削られるはずだ。
 だが、所詮は戦い慣れていない。実践の経験においてオレに並ぶわけがなかった。


「その命貰ったァ!」


「甘いよ、鬼――解放ッ!」


 額から一対いっついの角が生え、一気に敵の背後へ駆け抜ける。


「な……に……?」


 刹那の時間で敵の腕を肩から切り落とし、悲鳴が聞こえる。たった数秒で民衆にわからせた事が複数出来た。
 かなり無理やりだとは思うが、本物のエースの勇者であること、国家転覆は嘘ということ、そして何よりオレへの恐怖を植え付けられた。これで歯向かうものは減るし、オレを殺したと言って関係ない者が死ぬことは無くなるだろう。


「ありがとうアリス」


「いえいえ、お兄ちゃんの作戦は大成功だね。お兄ちゃんへの恐怖は、無慈悲への恐怖じゃなく、悪者よりも強いという恐怖だね」


「まあ、成功ってところだな。これで誰かが代わりに死ぬなんてことはなくなる」


 アリスにはザキと呼ばれる者を高台へ登らせることをお願いしていた。簡単には来てくれないと思い、あえて挑発をさせた。ディルクの元へ送られた死体は数多くいたが、半数以上がザキによる殺傷だった。
 オレの代わりに死ぬ者が減ったという理由は殺す側を殺したから。諸悪の根源を断ち切れば被害は抑えれる。


「このオレを侮辱しやがったなァ!?」


「面白いことを言うな、お前は。侮辱も何もお前には興味もない。ここにいる全員へ安心と恐怖を持たせるダシとしか思っていないぞ」


「こ、この野郎ッ!」


「おっと、それ以上動かない方がいいと思うぜ?」


「うるせえ!!」


「あーあ……だから動くなって言ったのに」


 ザキの身体はバラバラに解体される。
 ザキの周りに魔力で作ったワイヤーを張り巡らせていたため、無理に動くと身体は引き裂かれる。一応忠告したのに、可哀想な奴だ。


『今わかってもらったとおり、オレは本物のエースの勇者だ。これ以上無意味な殺傷は控えろ』


 これで大方片付いたと思ってしまった。
 油断した瞬間、発砲音と共に魔力障壁に鈍い音が響く。


「魔力障壁が無ければ確実に心臓だな。これほどまでの精密射撃となると――」


 魔力障壁にぶつかった弾を見て、弾道を予測する。信じ難いが弾が飛んできた方向には障害物がない。一番近くてディルクがいる王宮になる。
 超遠距離狙撃を一発で、それも最高のタイミングで撃てる者を探すと、一人しか見つからない。


『ジャックの勇者ッ! 貴様は必ず殺す』


 オレの言葉を嘲笑うかのようにもう一発飛んでくる。飛んでくる方向が分かれば対処のしようはある。脳天めがけて飛んできた銃弾を紙一重で避け、ほんの少しだけ光った場所を睨む。


「王宮……だと?」


「今のはなんだったんだ?」


「今の銃弾はジャックの勇者だ。それに、オレらの真の敵は案外近くにいるかもしれない」


 王宮からの狙撃の意味はわかる。ここよりも高い位置に作られており、高低差がある場所なら高い場所が有利になる。それは分かるのだが、疑問点は何故王宮から狙撃ができるのか。
 関係者以外立ち入り禁止の場所であり、仮に侵入者がいれば警備隊が動いているはずだ。加えて、二回による発砲音が響けば、誰かしら怪しむはず。なのにここから見る限り王宮で騒ぎは起こっていない。


「敵の真相を暴かないと、この騒ぎを鎮めるなんて無理だな」


 簡単だと思った道は案外遠く、険しいものになっていた。敵がディルクと繋がっていると考えると、今オレの味方と言える者は右近と左近、アリス、それに生徒会長だけだ。クラスメイト達は信頼していない訳では無いが、心から信頼出来るとは言えない。
 そのはずなんだが、レティが脳裏をよぎる。彼女はオレに対して好意を持ち、拒絶された。
 オレの勇者としての秘密を知っている以上、仲間に加わって欲しい。そう思っているが、レティがどう判断するのかは分からない。
 考えたくはないが、どこかで秘密をバラしている可能性だってある。はやめに会って直接話がしたい。


「ライガ、作戦は一段落済んだ。次の作戦は?」


「正直考えてない。騒ぎを落ち着かせるにはどうしたらいい?」


「今の国王を超える権限を持つ、とかどう?」


「ありっちゃありだな。でも具体的には?」


「お兄ちゃんが新国王になる」


「不可能ではないが、今国民のオレに対するイメージは最悪だろうな。例え国王になった所でついてくるやつはいない」


「んー……いっそお兄ちゃんの首を出すとか?」


「おいおい、物騒だぞ」


「国王にもやった分身を使えば――」


「なるほど、誰かがオレと戦ってわざと負ける。そして、公開処刑。少なくともオレら以外は死んだと錯覚出来る。騒ぎを終わらせる作戦としてはシンプルだが、効果的だな。生徒会長、明日にでも学園……いや、国民の前でエースの勇者討伐の意気込みを語ってほしい」


「ああ、任せろ」


 明日、歴史が動く。民衆を守る役目の勇者が初めて殺される。

「閃雷の元勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く