閃雷の元勇者
30話 永久凍土の覇者
目の前で、親愛なる主が命を落とそうとしている。助けたい、でも……助けることが出来ない。
命の恩人を助けることも出来ずに、恩を返せずに目の前で殺されようとしている。
悲しさよりも悔しさが上回る。何故助けることが出来ない。何故。
何度も己の心に問い詰める。何故、と。
「さよならエースの元勇者。そして、あの世で楽しんで来てください」
サードの言葉が終わりを告げようとしている。このまま……このまま何も出来ずに、主を失うわけにはいかない。でも――戦う術がない。狐の姿になったところで勝機はない。私たちには何も無い。
せめて、人間の身体があれば――
この時、右近と左近の思考が一致する。
『ないなら作り出せばいい』
形態変化武器という名の由来は、読んで字のごとく容姿や能力を変化させることが出来る武器。
望む姿があれば何にでもなれる。なら、人間の姿になることだって――出来るはずだ。
サードの拳が主の頭へ落ちて行くのを視認した瞬間に、人間の姿に変身する。
落ちてくる拳を蹴り上げ、サードごと吹き飛ばす。
「「これ以上主を傷つけはさせない。私たちは、主をお守りします!」」
「お前らは……?」
「私は右近です。隣が左近です」
「主の命令を無視してしまい申し訳ないです。ですが、フェイカーの計画に歯向かうには、人手が欲しいところ、ですよね?」
「ははっ……そうだな、じゃあ後は任せた――」
主は眠りについた。死んだかとも思ったが、鼓動は強く打っている。まだ生きている。
「次は誰だよ、私の邪魔をする奴は」
「私たちだよ」
「あ? 小娘2人で私を止めると? 笑わせるなッ!」
サードは床を蹴り、猪突猛進で突っ込んでくる。ひらりと回り、華麗にかわす。
それと同時に、左近は再び銃剣の姿へと変わる。
「まぐれだ、偶然だっ!」
「負けるわけには行かないんです。貴方にはここで人生を終わってもらいます」
右近は綺麗に手入れされた金髪を揺らし、獣のように戦場を駆け回る。
サードの身体能力は主との戦闘で、身をもって実感した。だからこそ勝たなければならない。
「はああああ!」
「疾い……でも、見えないわけじゃないッ! もっと完璧な姿を、力を!」
始めに、サードの攻撃を避けることだけを考える。どうしたら避けれるか、考えついた先の答えは動体視力。速いものを見る目がなければ、避ける以前に話にならない。
次に必要なのは、筋肉と丈夫な身体。見えたところで動けなければ話にならない。
「左近、少し乱暴に扱うけど許してね」
「お姉ちゃんのためなら、頑張るよっ!」
「頼もしいね」
望む身体へ変化させ、サードへ立ち向かう。
右から来る拳を躱し、腹部を狙った中段の拳を後ろへ少し飛び、紙一重で避ける。さらに追い討ちを掛けてきたサードの拳を下へ屈み懐へ潜り込む。
「ちょこまかと、ムカつくぜ!」
懐へ入ったのならこちらの領域である。敵の防御力は分厚い肉により構築されている。生半可な攻撃では、血を出させることすら困難。
「この距離ならどうかな?」
銃剣の先端に付いている刃の部分を心臓部分へ押し込み、引金を引く。
1発の乾いた音が響くと、サードの体は少しずつ縮んでいき床へ倒れ込む。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん、私は平気だけど……返り血がちょっとね」
白い服と鮮やかな金髪に赤い血が付いている。それ以上に左近には返り血がついていた。
直接体内へ入ったのだから、仕方の無いことだ。
「無茶させちゃったね、ゴメンね」
「ううん……左近は主を守るためになら、この命すら投げ出す覚悟でいるから平気だよ」
左近は無邪気に笑う。それもそのはず、大切な主を、何も出来なかった2人で守ったのだから。
「まだ――まだ、死ぬわけにはいかない……!」
「確かに心臓を撃ち抜いたはず――次期拡張世界!?」
「いや、お姉ちゃんよく見て。目は赤くないからその可能性はないよ」
「いついかなる時も冷静に、だね。取り乱したごめん」
「それよりも今はサードに集中しなくちゃ。まだ何か隠してるかも」
さっきまでの場を支配する圧はもう無い。それ故、サードを強敵とは認めることは出来ないが、薬の再服用の危険性がある。
「全員まとめて地獄へ連れてってやるぜ……!」
「何を――ッ!?」
サードは服を脱ぎ、内に秘めていた爆弾を見せつけ、狂ったように笑い出す。
「この爆弾は、収容所どころか付近の地形すら破壊する爆弾だ。逃げようと思えば、貴様ら2人は逃げ切れるだろうよ。でも、逃げた場合お仲間は死だ。あひゃひゃひゃひゃひゃ! 仲間を捨てるか、死ぬか、よく考えるんだな!」
右近と左近は動きを止める。自分たちは主を守るために戦ったのに、どの道を選んでも主を助けることが出来ない。その上、結末は残酷。
もし、サードの言っていることが正しく、地形ごと破壊する威力の爆弾だった場合、助かる可能性はないと見ていい。ここでフェイカーを倒すための戦力が全て失われたとなると、この世界の支配者は間違いなくフェイカーとなる。
そうなった時、希望溢れるこの世界は死ぬ。
「迷うのはいいが制限時間は1分だ。悔いのない選択をするんだな」
全魔力を使った魔力障壁、これなら耐えれると思ったが確証はない。
つまり、全滅する未来しか待っていない。
「私達頑張ったのに……」
「主を守れなかった――」
誰もが絶望する状況下で、1人の男は余裕の表情をして、不敵に笑う。笑う。
「ふんっ、勝つのはボクらだッ! 凍てつけ、そして……消えろ。凍る世界――」
「なぜ貴様がああああ!」
ピキピキという音と共にサードの足元から凍っていく。そして、あっという間に氷漬けになり、サードは動けなくなり心臓も止まる。
「黙れ。ボクを殺したこと……地獄で後悔するんだ」
ぐっと拳を握るとサードごと氷が砕け散り、宙には綺麗なダイヤモンドが光を浴び眩く輝く。
「貴方は……」
「本当にライガは助けに来てくれた――ありがとう……」
「生徒会長……いいえ。アイン・クロセルですね? 洗脳や意識改変はされていますか?」
「洗脳? 口を慎めよ。ボクより下の人間に負けるほど弱くわない」
「御無礼を。では、これにて極秘任務達成ですね主」
右近と左近は小さく喜び、すぐに気絶しているライガの元へ駆け寄る。
「しかし、本当に助かったよ、アリス」
「生徒会長を助けるのは癪。でも、お兄ちゃんを助けるためになら、どんな手を使ってでも……アリスが汚れてでも助ける」
「なるほど、だからボクの首に付けられた魔道具を破壊してくれたのか。結果としてはライガを助けることに繋がった、か」
生徒会長を取り戻したオレら。だが、オレらは知る由もなかった。
裏で密かに命を狙われていることを。
命の恩人を助けることも出来ずに、恩を返せずに目の前で殺されようとしている。
悲しさよりも悔しさが上回る。何故助けることが出来ない。何故。
何度も己の心に問い詰める。何故、と。
「さよならエースの元勇者。そして、あの世で楽しんで来てください」
サードの言葉が終わりを告げようとしている。このまま……このまま何も出来ずに、主を失うわけにはいかない。でも――戦う術がない。狐の姿になったところで勝機はない。私たちには何も無い。
せめて、人間の身体があれば――
この時、右近と左近の思考が一致する。
『ないなら作り出せばいい』
形態変化武器という名の由来は、読んで字のごとく容姿や能力を変化させることが出来る武器。
望む姿があれば何にでもなれる。なら、人間の姿になることだって――出来るはずだ。
サードの拳が主の頭へ落ちて行くのを視認した瞬間に、人間の姿に変身する。
落ちてくる拳を蹴り上げ、サードごと吹き飛ばす。
「「これ以上主を傷つけはさせない。私たちは、主をお守りします!」」
「お前らは……?」
「私は右近です。隣が左近です」
「主の命令を無視してしまい申し訳ないです。ですが、フェイカーの計画に歯向かうには、人手が欲しいところ、ですよね?」
「ははっ……そうだな、じゃあ後は任せた――」
主は眠りについた。死んだかとも思ったが、鼓動は強く打っている。まだ生きている。
「次は誰だよ、私の邪魔をする奴は」
「私たちだよ」
「あ? 小娘2人で私を止めると? 笑わせるなッ!」
サードは床を蹴り、猪突猛進で突っ込んでくる。ひらりと回り、華麗にかわす。
それと同時に、左近は再び銃剣の姿へと変わる。
「まぐれだ、偶然だっ!」
「負けるわけには行かないんです。貴方にはここで人生を終わってもらいます」
右近は綺麗に手入れされた金髪を揺らし、獣のように戦場を駆け回る。
サードの身体能力は主との戦闘で、身をもって実感した。だからこそ勝たなければならない。
「はああああ!」
「疾い……でも、見えないわけじゃないッ! もっと完璧な姿を、力を!」
始めに、サードの攻撃を避けることだけを考える。どうしたら避けれるか、考えついた先の答えは動体視力。速いものを見る目がなければ、避ける以前に話にならない。
次に必要なのは、筋肉と丈夫な身体。見えたところで動けなければ話にならない。
「左近、少し乱暴に扱うけど許してね」
「お姉ちゃんのためなら、頑張るよっ!」
「頼もしいね」
望む身体へ変化させ、サードへ立ち向かう。
右から来る拳を躱し、腹部を狙った中段の拳を後ろへ少し飛び、紙一重で避ける。さらに追い討ちを掛けてきたサードの拳を下へ屈み懐へ潜り込む。
「ちょこまかと、ムカつくぜ!」
懐へ入ったのならこちらの領域である。敵の防御力は分厚い肉により構築されている。生半可な攻撃では、血を出させることすら困難。
「この距離ならどうかな?」
銃剣の先端に付いている刃の部分を心臓部分へ押し込み、引金を引く。
1発の乾いた音が響くと、サードの体は少しずつ縮んでいき床へ倒れ込む。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うん、私は平気だけど……返り血がちょっとね」
白い服と鮮やかな金髪に赤い血が付いている。それ以上に左近には返り血がついていた。
直接体内へ入ったのだから、仕方の無いことだ。
「無茶させちゃったね、ゴメンね」
「ううん……左近は主を守るためになら、この命すら投げ出す覚悟でいるから平気だよ」
左近は無邪気に笑う。それもそのはず、大切な主を、何も出来なかった2人で守ったのだから。
「まだ――まだ、死ぬわけにはいかない……!」
「確かに心臓を撃ち抜いたはず――次期拡張世界!?」
「いや、お姉ちゃんよく見て。目は赤くないからその可能性はないよ」
「いついかなる時も冷静に、だね。取り乱したごめん」
「それよりも今はサードに集中しなくちゃ。まだ何か隠してるかも」
さっきまでの場を支配する圧はもう無い。それ故、サードを強敵とは認めることは出来ないが、薬の再服用の危険性がある。
「全員まとめて地獄へ連れてってやるぜ……!」
「何を――ッ!?」
サードは服を脱ぎ、内に秘めていた爆弾を見せつけ、狂ったように笑い出す。
「この爆弾は、収容所どころか付近の地形すら破壊する爆弾だ。逃げようと思えば、貴様ら2人は逃げ切れるだろうよ。でも、逃げた場合お仲間は死だ。あひゃひゃひゃひゃひゃ! 仲間を捨てるか、死ぬか、よく考えるんだな!」
右近と左近は動きを止める。自分たちは主を守るために戦ったのに、どの道を選んでも主を助けることが出来ない。その上、結末は残酷。
もし、サードの言っていることが正しく、地形ごと破壊する威力の爆弾だった場合、助かる可能性はないと見ていい。ここでフェイカーを倒すための戦力が全て失われたとなると、この世界の支配者は間違いなくフェイカーとなる。
そうなった時、希望溢れるこの世界は死ぬ。
「迷うのはいいが制限時間は1分だ。悔いのない選択をするんだな」
全魔力を使った魔力障壁、これなら耐えれると思ったが確証はない。
つまり、全滅する未来しか待っていない。
「私達頑張ったのに……」
「主を守れなかった――」
誰もが絶望する状況下で、1人の男は余裕の表情をして、不敵に笑う。笑う。
「ふんっ、勝つのはボクらだッ! 凍てつけ、そして……消えろ。凍る世界――」
「なぜ貴様がああああ!」
ピキピキという音と共にサードの足元から凍っていく。そして、あっという間に氷漬けになり、サードは動けなくなり心臓も止まる。
「黙れ。ボクを殺したこと……地獄で後悔するんだ」
ぐっと拳を握るとサードごと氷が砕け散り、宙には綺麗なダイヤモンドが光を浴び眩く輝く。
「貴方は……」
「本当にライガは助けに来てくれた――ありがとう……」
「生徒会長……いいえ。アイン・クロセルですね? 洗脳や意識改変はされていますか?」
「洗脳? 口を慎めよ。ボクより下の人間に負けるほど弱くわない」
「御無礼を。では、これにて極秘任務達成ですね主」
右近と左近は小さく喜び、すぐに気絶しているライガの元へ駆け寄る。
「しかし、本当に助かったよ、アリス」
「生徒会長を助けるのは癪。でも、お兄ちゃんを助けるためになら、どんな手を使ってでも……アリスが汚れてでも助ける」
「なるほど、だからボクの首に付けられた魔道具を破壊してくれたのか。結果としてはライガを助けることに繋がった、か」
生徒会長を取り戻したオレら。だが、オレらは知る由もなかった。
裏で密かに命を狙われていることを。
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