話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

閃雷の元勇者

しにん。

29話 天使

 動けないアリスは目尻に涙を溜めている。少しでも心にダメージがあれば、今すぐにでも泣き出してしまいそうだ。
 生徒会長は未だに目を覚まさない。魔法により眠らされているのか、薬なのか、なんにせよこの2人を逃がすには右近と左近の力が必要だな。だが、逃げ切れる保証はない。サードが強力すぎて、追いつかれてしまうかもしれない。
 ここでのオレの仕事はひとつ。命にかえてもサードを対処すること。


「マリア、悪いがオレもそっちに行くかも。その時は、またオレと結婚してくれよな……」


 不思議なことに死への恐怖はない。常に死と隣り合わせで生きてきたせいか、感情が麻痺してしまっている。幸か不幸か、死への恐怖がないので思う存分戦える。
 不安な点は、ジャックの勇者と戦った際のダメージ。特に魔力が心許こころもとない。


「でも、マリア……少しだけ待っていてくれ。今のオレの大切なもの――全部守ってくるッ!」


 肥大化したサードは速く動けないとみた。ある程度離れて毒入りの銃弾を喰らわせる。余裕があれば、剣でサードの心臓を仕留める。


 横へ走り出し、双銃剣ツインバレットで絶え間ない攻撃を始める。分厚い肉壁により防がれているが、反撃はしてこない。反撃の余裕を与えさせない作戦は成功した。


「私の研究とアイツの研究は完璧だ。故に、最強――」


 引き金を引いた瞬間、腹部に激痛が走る。


「ぐっ……はっ……!」


 油断した。完全に油断した。
 肥大化した身体では、体重が裏目に出て動きは鈍いとばかり錯覚していた。身体が大きい分、それを支えるために筋肉を強化している事は、少し冷静になれば思いつくはず。やはり、魔力が残り少ないと思考も鈍くなっているのだろうか。


 複数回床を転がり続け、壁にぶち当たる。
 痛みは腹部から全身へと変わり、至る所に切り傷ができている。


「主、今すぐこの場から逃げましょう!」


「こんなのかすり傷だ。それにオレの命の在庫ストックはあと3ある。時間を稼ぐには丁度いい数だろ」


 赤目の鬼ブラッド・モードは、大戦時に6つ命を使ってしまった。
 シンは昔に、次期拡張世界アナザーワールド命の在庫ストックを10に増やす技だと教えてくれた。シンが言っていることが正しければ、オレの命の在庫ストックは残り3となる。


 傷が回復しないということは、まだ死んではいない。どこからどこまでを死と判定され、傷が癒えるのか、まだ不確定である。


 サードの動きが俊敏であることは身をもって理解した。なら、オレの間合いへ入らせることに成功すれば、予想よりも長く時間を稼げそうだ。


「愚かだな、エースの勇者。強さは一級品だが、連戦は経験不足のようだ。回復してからここに来るべきだったな」


「そんな修羅場は死ぬほど超えてきたってんだ!」


 立ち上がり、残り少ない魔力を双銃剣ツインバレットへ流し込む。残り10発も撃てれば上等。
 両手に5発ずつ装填し、最善手を考える。
 一か八か、命の在庫ストックを使うかもしれない作戦を思いつく。


「くたばれ、小僧ッ!」


 サードの速さは鬼化と赤目の鬼ブラッド・モードを同時使用したオレと大差はない。つまり、一瞬の油断や判断ミスは、死に直結を意味する。


 目にも留まらぬ攻撃により、オレの腹部にサードの腕が貫通する。


「お兄ちゃん!!」


「来るな!」


 あまりにも絶望的な状況に、アリスは無理やり動こうとしていた。必死に体温で足を温め、凍るのを阻止しようとしている。そこまでオレのことをかんがえてくれている、それは理解出来ている。
 だが、感情的に動くのであればまだまだ。アリスはきっと強くなるだろう。強くなったアリスをこの目で見てみたかったな――


「つーかーまーえーたー!」


「まさか自分の命を捨てて攻撃だと!?」


「常人なら考えられない作戦が実行できるのが、赤目の鬼ブラッド・モードの強みだッ!」


 ズドドドドとゼロ距離で撃てる全ての弾を撃ち込む。たった10発だったが、致命傷は与えれるだろう。


「はああああああああ!!」


 出せる全ての魔力を銃弾に変え、サードの心臓を狙い撃った。撃った……


「やっぱり……か……」


「いい作戦だったとは思いますよ。命を道具とし、捨て身攻撃。まさに勝利のためならなんとやら、ですね。実に狂っている」


「へへっ……お前を殺したかったんだがな……と、思っただろ?」


「まだ何ができるような身体ではない、自分でも分かっているんだろ? 無駄な抵抗はやめて私の玩具になれ」


「お前にひとつだけ教えてやるよ。オレは――死ぬほど負けず嫌いなんだよッ!!」


 その瞬間、閃光と共に轟音が部屋を包み込む。


 オレは、身体の中に魔力で丁寧に作り上げられていた、爆弾を隠していた。威力はオレの技の中でも最高クラス。そう簡単には耐えれないだろう。


 土煙が舞い、状況の把握はできない。防御出来る希望が薄い、生徒会長とアリスには右近と左近の魔力障壁により守らせている。
 徐々に視界は良好となり、悲しい現実が見えてくる。


「今のは危なかったですよ。あの距離での爆発を防ぐなんて、ほぼ不可能。私自身も助かったこと自体驚きですね……」


「そ、んな……」


 確かに直撃した爆発は、サードの命を奪うには足りなかった。
 全身に傷があり、至る所から出血をしているが、致命傷ではない。それどころか、未だに2本の足でしっかりと立っている。
 オレの身体を掴み、サードは力いっぱい投げつける。壁に当たり瓦礫に埋まる。オレは心の底から、死を覚悟した。


 悲しいことに、意識が途切れ始める。
 ああ、心臓がうるさい、うるさい、うるさい、うるさい、この世の音という音が雑音に聞こえてきた。オレはこの戦いで命を落としたくない、そう思ってしまった。
 必死に身体を動かそうと頑張るが、すでにボロボロの身体はいうことを聞かない。
 死にたくない、死にたくない、生きたい。


「動け……動け!!」


「おや、終わりのようですね。私とフェイカーが共同で作り上げたこの薬の効果は凄まじい……だが、これを量産となると話は別ですかね。身体への負担を考えると、改良が望まれる」


 サードはオレに目もくれず、新しい研究のことで頭が一杯になっているようだ。
 反撃するなら今だが、オレは動くことすら自由ではない。


「おっと、これは失礼。考え事を始めると時間を忘れてしまう癖があってね。とりあえず邪魔な3人には死んでもらうよ」


 死が近づいてきた。目の前のどうすることも出来ない、運命がオレの前に立つ。
 目の前がゆっくりと暗くなる。赤目の鬼ブラッド・モードがある限り、オレの死は遠いものだとばかり錯覚していた。
 こうして改めて見ると、命が何個あろうが常に死とは隣合わせなんだと実感する。


「さよならエースの元勇者。そして、あの世で楽しんで来てください」


 筋肉がはち切れそうなほど力を込めた拳は、オレの頭目掛け振り下ろされた。


 死んだはずのオレの耳に聞こえてくる音。耳を澄ますと、心臓が生きようと脈を打っている。何故だ。
 途切れゆく意識の中、目を開けると、天使が――いた。
 天使は2人居て、心が暖かくなるのを感じていく。この2人には会ったことがある気がした。


「「これ以上主を傷つけはさせない。私たちは、主をお守りします!」」


 2人は息ぴったりに吠えた。

「閃雷の元勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く