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閃雷の元勇者

しにん。

27話 形態変化武器

 強烈な斬撃がジャックの勇者を襲う。切り口から勢いよく血が吹き出し、ジャックの勇者は片膝をつく。
 正直な話、今の攻撃で倒れて欲しかった。昔戦った頃より、格段と戦闘力が上がっている。
 奥の手を持っているとしたら、死にかけの時使うだろう。つまり、今。


「ボクをここまで追い込むとは……流石は歴代勇者の中で最強と呼ばれた勇者。だがな、その命終わらせてやるッ!!」


 取り出した銃はコンパクトで、とても奥の手に使われるような銃とは思えなかった。


「生きてる武器ってのは、お前の専売特許じゃねえんだぜ!」


 小さな銃はガシャガシャと音を立てて形態が変化していく。
 弓の勇者として名を馳せていたジャックの勇者は、弓も銃も捨て、剣を握る。わざわざこちらの領域で戦おうと、ジャックの勇者は剣を握る。
 その姿は、戦場を舞う獣の如し。


「お兄ちゃん、ダメ……! あれは危険!」


「そうだな。だが、ここでアイツを突破しない限り、生徒会長は戻ってこない。それに、あの剣は危険ってことぐらい、形態変化しただけで嫌ってぐらい分かっている」


 武器が形態変化する物は、世界で4つしか存在しないと言われている。
 歴代の勇者はその武器を持ち戦った、と言われているが、武器が認めない限り使用はできない。そのため、使えなかった有者も存在する。
 オレの場合、右近うこん左近さこんには小さい頃に認められていたが、強力すぎる故に師匠のシンから取り上げられていた。


「ボクは最強だ。この武器があれば、エースの勇者に遅れなど取らないッ!」


 気迫だけで押し殺されてしまいそうになる。それほどまで、力の増幅は計り知れないものになっていた。


「第2門の今で互角か……いや、相手が優勢だな。第2門に加え次期拡張世界アナザーワールドを使って互角だったんだ、今のオレでは倒せないかもな……」


「お兄ちゃん、もう生徒会長は諦めて逃げない?」


「逃げない。アイツも今頃オレを待ってくれている。だったら、アイツも引き連れて逃げる道をオレは選ぶ」


「でも……勝てる?」


「いや、勝てない」


「なら……!」


「諦めたくない。それにまだ届く。ここで逃げたら必ず後悔する。だから……オレは戦い続ける!」


 両手の小太刀を双銃剣ツインバレットに変化させ、相手の土俵から離れて攻撃を始める。
 同じ間合いで斬り合いになった時、勝てる自信が無い。剣を握って長いが、この威圧感はシンと似ている。
 圧倒的なまでの強さが、ビリビリと伝わってくる。それに、オレの勘が言っている。まともに殺り合って勝てる相手ではないと。


「ボクの剣は誰にも止められない。例え、歴代最強の勇者が相手でも、ボクを止めることは不可能だッ!」


「止めてみせるさ……止めて、先に進ませてもらう」


 横に飛びながら乱射し、戦いの主導権を獲得する。全盛期の頃よりも劣っている分、昔とは違う技で戦う必要がある。
 昔と同じままの感覚で動こうとすると、体は言うことを聞かない。昔のオレであれば、いくらでも対処法は浮かんだが、今となっては攻撃の手数で戦うしかない。
 オレが中距離から乱射し、ジャックの勇者が銃弾を斬る。まるで、さっきと立場が逆だ。
 ならば、中、遠距離専門だったジャックの勇者の考えを読み取れ。作戦を考えろ。必ずジャックの勇者と同じように、乱射するだけで場を圧倒する方法がある。


「立場が逆になった、なんて考えてるだろうがボクにはむしろ形勢逆転したと思うね。エースの勇者よ、勝機はない。大人しく……死ね」


「死ぬわけないだろうが、オレは誰にも負けない最強だ」


「お兄ちゃん、行くよ!」


「タイミングバッチリだ、頼んだ!」


「何をしようが、ボクには勝てない!」


「それを決めるのはお前じゃない、オレらだ」


 鬼化でほぼ魔力を使い切ったアリスのことを戦力外だと考えてくれたおかげで、仕掛ける時間をたくさん用意出来た。


「な、に――!?」


 アリスの霧魔法は大きく分けて2つの力がある。体の一部、もしくは全てを霧と化し物理攻撃が効かない魔法。そしてもう1つは、周りの気体を霧に変える魔法。
 通常の霧魔法であれば、この2つで戦略を練ったり工夫したりして戦う。だが、限界に訪れる時がある。


 具体的には、他のことで魔力を使い果たし、霧魔法が使えない状況。これは他の魔法にも言えることだが、霧魔法を使う時の魔力消費は、他の魔法よりも多く消費される。
 そのため、霧魔法使用者は膨大な魔力量を要求される。


 そして、霧魔法には隠された能力がある。


「魔力は無くなったはずだ……何故鬼の姿になっている、小娘!」


「アリスの奥の手――集え我が元にマナ・ドレイン


 隠された能力は大気中に含まれる魔力の回収。これにより魔法の再使用が可能となる。
 時間がかかるため、実戦には不向きとも言える。


「さあて、鬼2匹と相手だが逃げるなら今のうちだぜ?」


「……抜かせ。ボクに勝てるのはこの世に存在などしてはいけないッ!」


 双銃剣ツインバレットを握りしめ、一気に距離を詰める。中距離からの攻撃でどうにかなると考えていたのだが、そんな甘い話はなかった。
 でも、今はアリスが居てくれる。傍に居てくれている。それだけで力が湧き出てくる気がした。


「術式解放――霧の街ロンドン・ザ・ヘル


 アリスの魔法により辺りは霧に包まれる。これでジャックの勇者がオレを見失ってくれていれば良いのだが、放たれた銃弾を斬る音が響く。


「視界を奪おうとボクの剣には無意味だ」


「面白いじゃんか、オレよりも上手く剣に呑まれるとはな」


「力のためならボクは命を引き渡す。誰にも負けない最強の頂きに行くためならね」


「強さを求めすぎて我を失うなんて馬鹿だ。そんな奴が最強の頂きに辿り着くなんて有り得ない」


「お前を殺して、証明してやるッ!」


 アリスの援護により、オレの身体も霧になれるのは大きい。だが、霧になるタイミングや、元に戻るタイミング、全てアリスが操作するためかなりの神経を使うはずだ。
 鬼化して通常より集中しており、敵の攻撃を当たらなくするのはいつもよりは簡単だろう。それでも、アリスの鬼化は時間が短い。早めに終止符を打たないとふりだしに戻る。


「アリス、霧で実体化したオレを複製出来るか?」


「出来る……けど、個々の動きを自由は無理。全部同じ動きになる」


「オレを増やして配置してくれるだけでいい。位置が違えば意味を持つ。今出来る限り最高の数を頼む、そのあいだ時間を稼ぐ」


 再び霧の中に走り、霧魔法の援護なしで近接戦闘を始める。
 ジャックの勇者が持つ形態変化武器は、今のところ特殊な能力を使ってくる気配はない。精神は武器に喰われかけており、武器が単に戦いを楽しんでいるようにも思える。
 どうも殺気がないに等しい。


「馬鹿がッ!」


 左手に持つ小太刀の毒を盛るために、右をおとりにして攻撃するも、難なく避けられる。こちらの剣を知っている動きだった。
 昔、何度か戦ったことはあるが、明らかにおかしい動きをしている。まさかとは思うが、剣を習った人物がシンと関わりがあるのか? だとしたら、厄介な相手になる。


 二刀流小太刀は戦い方を変えることで、相手に剣を覚えさせないことが出来る。時には斬撃で、時には毒で。普通の剣と比べ、武器が2つなだけに戦略は倍以上に膨れ上がる。
 剣を知られているという問題点は、攻撃が通らない可能性が高いということ。
 今戦っている分の剣だけ知っているのなら有難いが、全てを知っていると思って間違いない。


「ボクの剣で驚いているようだな、エースの勇者。残念だけどボクは君の剣を全て知っている。どんな小細工を使おうと、ボクには勝てないよ?」


「さっきも言ったが、それを決めるのはお前じゃない。オレらだッ!」


 全ての剣を知っている? だからどうした。オレはこの程度で負ける訳にはいかない。
 全ての剣を知られているのなら、1度も使ったことのない剣を見せればいい。


「アリス、練習でボツにしたあの技をやるぞ。今対抗できる物があるとすれば、それしかない」


「タイミング難しい。でも、アリス頑張る」


「右近は小太刀に形態変化、左近はそのまま銃剣で。練習通りであとはアリス次第だ。頼んだぜ?」


「うんっ」


 ここに来る前の特訓で、アリスとオレの連携攻撃が出来ないか試行錯誤していた。
 もちろん、成功した技もあるが失敗が多かった。その中でも1度も成功しなかった連携技がある。
 双銃剣ツインバレットから放たれた銃弾を霧に変え、別の方向から銃弾を復元するという、アリスの魔力操作の技術が問われる。


「勝負は1度きりだ、確実に決めるぞ」


「いつでも大丈夫だよ!」


「これで終わらせるッ!」


 放たれた銃弾は、ジャックの勇者の剣に斬られる前に霧へと上手くなった。
 第1段階は成功。そして、第2段階は予想を超えてきてくれた。


「これがアリスの全てッ!」


 数発だけで構わなかった連携攻撃が、倍以上の数まで増やしてジャックの勇者を撃ち抜いた。
 始めの方は斬り落とせていたが、徐々に押され始め、ついに銃弾はジャックの勇者へと届いた。

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