閃雷の元勇者
24話 エース軍戦闘部隊一番隊隊長
やってきた作戦決行の夜。
極寒の地ということもあり、防寒対策として厚めの服やマフラーを装備して瞑想する。
遠く離れた生徒会長を想い、闘志を燃やす。
「さて、そろそろ時間だ。ゆっくり眠れたか?」
「……まあまあ」
「右近、左近。お前らも魔力を貯蔵出来たか?」
「勿論。いつでも行けます、主」
極寒の地のため、下手な迷彩より真っ白な服装が好ましいだろう。真っ白な防寒服を着たアリスを見て、雪の精かと思うほどにあっていた。
転移魔法で移動しようとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「……どうぞ」
「ライガ様、私です、レティです」
「こんな夜遅くにどうしたんだ? とっくに皆は寝静まっているだろ?」
「それを言うなら、ライガ様たちのほうが不自然ですわ。どこかへ行ってしまわれるような服装ですけど?」
「ちょっと近くの売店に――」
「この時間は空いていませんわよ?」
「オレらのことはどうだっていいだろ。お前の用事を早く言え」
「最近様子がおかしかったので、少し心配していましたの」
生徒会長が消えたこと、そしてオレらが授業をサボってまで仮想戦闘室に籠っていたこと。どうやらその2点でオレらの異変を感じ取ったのだろう。
「どうもないさ。オレらはいつも通りだったと思うけど?」
「訓練は別に構いませんのよ? ですが、ただならぬ殺気が感じ取れましたので……」
「そうか……」
僅かながらも殺気を感じ取る能力はあるらしい。平和ボケしてるこの学園で殺気がわかる者は、少ないと考えていたのだが……考えを改める必要がある。
「まさか、生徒会長を取り戻しに行くなんて事はおっしゃるわけ……ないですわよね?」
「そのまさかだ。アイツはオレのせいで力に目覚めたんだ。オレが助けなくて誰が助ける」
「おやめください!!」
普段大人しく品があるレティは、大きな声を出し貴族であることを忘れてしまいそうになる。
ここまでやられてやめないオレは、バカなんだろう。でも、今ここで退く訳にはいかない。
「断る。なんの権利があってオレへ指図する」
「それは……」
「そこで止まるってことは大した理由じゃないな。なら引っ込んでろ」
「私は……私は!!」
「私はなんだ?」
「私はライガ様へ、好意があります!!」
これは驚いた。目を見る限り本気だろう。
オレではない他の誰かなら、純粋な好意を喜んで受け入れるだろう。だって、貴族で、上品で、可愛らしい女の子。何だって持っている完璧な女の子なのだから。
でも、オレは誰かを愛することや、好きになることは許されない。
「なるほど、つまりオレのことが好きだから、自ら死にに行って欲しくない。簡単にまとめるとこうだな?」
「……はい、ですわ……」
頬に手を当て、恥ずかしがっている。なんとも愛くるしい生き物なんだろうか、なんて事は思わなかった。オレはマリアの死以降、他人へ何も思わなくなった。たとえ何をされようが、オレはマリア以外の女を好きにはならない。
「そうか、なら早めに言っておく。オレは既婚者だ」
「えっ……」
その瞬間面白いほどレティの表情は変わる。驚きと絶望、さらには困惑。様々な感情がごちゃまぜになっているだろうな。
「そ、それは本当ですの!?」
「本当だ。もう……いないけどな」
「お亡くなりになったのですね……ごめんなさいですわ。思い出したくないことを思い出させてしまい。私どうお詫びをすれば……」
「気にするな。死んだのはオレの弱さのせいだ、お前が関わっていい問題じゃない」
「でも……」
「時間だ。少し予定が狂ったが作戦通り正面突破だ。壁はオレが壊す」
「ん、了解」
このままレティに構っていると時間がイタズラに消えていくだけ。そう思ったオレは止められた話を進める。
「アリス、オレの手に触れろ」
アリスから強く手を握りしめられ、転移魔法を使った。
「ライガ様……」
────────────────────
一瞬で辺りの景色が変わり、急激に温度が下がっていく。
少し先に見える壁がサード強制収容所だろうか。遠目に見ただけでも分かるほど大きい。まるで鉄壁の城塞。
「ここを攻めるバカなんて居るのか?」
「いるよ、お兄ちゃんが」
「そうだな、バカだろうなオレは。落とせない城を落とすなんて常識外れにも程がある」
吐く息が白い。防寒対策をして来て間違いじゃなかったようだ。
サード強制収容所までの距離は約1キロ程度。鬼化して走ればすぐに着くが、アリスの時間を考えると大人しく歩くしかない。
「お兄ちゃん見て見て」
普段とはかけ離れたテンションの高さに驚き、指さされた方を見てみる。
大きな図体をしたシロクマが何らかの動物を食べていた。白い毛並みが返り血で赤く染まり、弱肉強食を見てしまう。
「熊だな」
「熊だね」
不思議とオレらの思考は恐怖よりも、表面だけの感想だけが出てくる。本当に見ただけの、他に意味が無い感想だけが。
「ほら、あんなの見てないで進むぞ。ここで止まってたらあの熊に殺されるかもだぞ?」
「あの熊なら倒せる」
同意できすぎて困る。
大自然の王者とも言える熊ですら、オレらには勝てないだろう。普通の人なら熊を見ただけで逃げ出したり、圧倒的な恐怖に負けてしまう。
だが、立場は逆だろう。今のオレらの殺気に熊は逃げ出してしまうだろうな。
「走るぞ、ある程度近づいて警備の動きを見る」
「了解」
足音を立てると気づかれてしまう恐れがあるため、なるべく足音を消して走る。
全速力で走ればすぐに着くのだが、倍の時間を費やした。
「ひとまずこの岩に隠れよう。数分観察して大丈夫なら壁をぶっ壊す」
息を潜め、壁付近の警備隊を探す。しかし、信じ難いことに誰ひとりとして警備をしていなかった。
幸か不幸か警備隊が居ないことを確認し壁へ近づく。
壁に触れ、どの程度の強度を誇るのかみてみる。
「これは驚いた。この壁の厚さは、軽く10メートルはあるぞ……」
流石は強制収容所と言ったところだろうか。仮に牢屋塔を逃げ出しても、この壁を超えることは不可能という事か。
厄介ではあったが、予定の範囲内だった。
「鬼――解放ッ!! 剛腕爆砕――壊れた理想郷ッ!!」
鬼化し思い切り壁を壊す。壊した瞬間大きな音がしたため、念の為にその場から一瞬で離れる。
「お兄ちゃん、誰も来ないよ?」
「いや、壁を破壊してやっと感じ取れた。壁が結界になってたんだろ」
サード強制収容所を囲う、大きな壁は内側の魔力を外へ漏らさない結界になっていた。だから、壊すまで気づけなかったが、外に警備をおく必要がないのだ。壁の内側の魔力を感じた瞬間、逃げ出してしまうから。
「いきなり戦闘が始まる。アリスはここで待機してくれ。これから始まる戦いは酷いもんだ」
穴が空いた壁に向かってゆっくりと歩く。
すると、壁の内側にひとり仁王立ちで構える戦士がいた。幾度となく戦場を共に舞った、仲間が。
「久しぶりだな、ライガの旦那。姿を消して1年間どこで何をしてたんだァ?」
「田舎でゆっくりニート生活」
「随分と落ちぶれたものだな。それで、この壁を破壊したのは旦那か?」
「さあ、知らない」
「そうかい。なら、何故こんな辺鄙な場所に?」
「ここに友達が来てるらしいから挨拶に来たってわけだ。面会は時間外か?」
「ははっ、面白いことを言うねえ。ここは面会そのものがお断りだとわかっているくせに」
やはり共に苦楽を過ごした仲間が敵となると心が痛い。しかし、相手はそう思っていないらしく、既に剣を構えている。
「わかりやすい。通りたければ倒せってことだな?」
「頭の悪い旦那にはこれが手っ取り早いと思ってね。違うかい?」
「いいや、間違っちゃいねえ!!」
右近と左近が小太刀になり、戦闘態勢へ入る。
「エース軍の勇者、オーラス・ライガ。来い!!」
「行くぞ、エース軍戦闘部隊一番隊隊長、カウレス・バウザー!!」
互いに凍る大地を蹴り、颯爽と駆け出した。
彼は強い。同じ部隊に配属された時、1人だけ異常なまでの殺気を持っていながら、平然と過ごした人間だ。
実力は同じでも、年の功で何倍も戦っている。甘い攻撃が通じる相手ではない。それに加え、相手はオレの戦い方をほぼ知っている。対策されまくりだろうなきっと。
互いの剣は互いに届かず、後一歩のところではじかれる。激しい斬り合いの中、バウザーには余裕があるように見えた。
鬼化して同レベル。この1年でさらに鍛錬を積んできたに違いない。昔とは比べ物にならない強さだった。
「旦那ァ、その程度じゃダメだぜ?」
「分かっているさ。だから……アリスッ!!」
「うん!!」
くるりと回り、後ろからアリスが猪突猛進に攻撃を仕掛けた。
阿吽の呼吸でオレからアリスへと綺麗な連続攻撃が炸裂する。
「その程度じゃまだだぜ、旦那ァ!!」
「分かっているさ!!」
アリスとオレによる絶え間ない連続攻撃は、バウザーの剣技で回避され続ける。このままジリ貧かと思わせて、最後の手を残しておく。
「防御だけでは面白くない。オレから行くぜ!!」
罠にかかった。こうして防御に徹している時、突破口を開くため、あえて捨て身覚悟で攻めてくると信じていた。
斬りかかってきたバウザーは驚愕する。斬ったと思った相手が、霧となり消えたことを。
「なに――!?」
「甘かったな、バウザー。相手の得意戦術を知らずに懐へ入ったことが間違いさ!」
何度も現れ斬ると消える霧に、バウザーは嫌気がさしたのか大きく飛び上がる。
「いくら霧とはいえ上空は無意味だろ。だったらオレの遠距離系の魔法で――」
「残念だが、そこはオレの領域だ。鬼燈籠ッ!!」
無数の鬼燈籠がバウザーの付近に出現する。
「クソ、対処しきれねぇ!!」
「終わりだ、バウザー!!」
空中で避けることも出来ず全弾命中。
落下し、身体を強く打ち付けられたバウザーは凍る大地に大の字で寝転がり手をひらひらと振る。
「参った参った。数の有利ってのもあるが、作戦が上手すぎる。かつての独りで戦ってた旦那は何処に行ったのやら……」
「おじさん、質問いい?」
バウザーに歩み寄っていたアリスは、無邪気な笑顔で問いていた。
「なんだ嬢ちゃん?」
「おじさんって、カウレス・バウザーって名前なの……?」
「そうだが、それがどうしたんだ?」
「娘っている?」
「自慢の娘が……どうして娘がいると?」
「もしかして、レティシアって名前?」
「おお、レティシアを知ってるのか。まさか、友達か!?」
「うん、大親友」
「そうかそうか、という事は、ライガの旦那は彼氏なのか?」
ニヒニヒと気持ち悪い笑顔でこちらを見てきた。
「何言ってんだバウザー。ついさっき好きとか言われたが断ったぞ」
バウザーの表情が険しくなる。
「うちの自慢の娘じゃダメなのか――!?」
「違う違う。お前だって忘れてないだろ、マリアのことを」
「なんだそう言うことか。まあ、その件はもうやめておこう」
「そうしてくれるとありがたい」
寝転んで起きないバウザーを置いて、本拠地へ歩を進める。
極寒の地ということもあり、防寒対策として厚めの服やマフラーを装備して瞑想する。
遠く離れた生徒会長を想い、闘志を燃やす。
「さて、そろそろ時間だ。ゆっくり眠れたか?」
「……まあまあ」
「右近、左近。お前らも魔力を貯蔵出来たか?」
「勿論。いつでも行けます、主」
極寒の地のため、下手な迷彩より真っ白な服装が好ましいだろう。真っ白な防寒服を着たアリスを見て、雪の精かと思うほどにあっていた。
転移魔法で移動しようとした瞬間、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「……どうぞ」
「ライガ様、私です、レティです」
「こんな夜遅くにどうしたんだ? とっくに皆は寝静まっているだろ?」
「それを言うなら、ライガ様たちのほうが不自然ですわ。どこかへ行ってしまわれるような服装ですけど?」
「ちょっと近くの売店に――」
「この時間は空いていませんわよ?」
「オレらのことはどうだっていいだろ。お前の用事を早く言え」
「最近様子がおかしかったので、少し心配していましたの」
生徒会長が消えたこと、そしてオレらが授業をサボってまで仮想戦闘室に籠っていたこと。どうやらその2点でオレらの異変を感じ取ったのだろう。
「どうもないさ。オレらはいつも通りだったと思うけど?」
「訓練は別に構いませんのよ? ですが、ただならぬ殺気が感じ取れましたので……」
「そうか……」
僅かながらも殺気を感じ取る能力はあるらしい。平和ボケしてるこの学園で殺気がわかる者は、少ないと考えていたのだが……考えを改める必要がある。
「まさか、生徒会長を取り戻しに行くなんて事はおっしゃるわけ……ないですわよね?」
「そのまさかだ。アイツはオレのせいで力に目覚めたんだ。オレが助けなくて誰が助ける」
「おやめください!!」
普段大人しく品があるレティは、大きな声を出し貴族であることを忘れてしまいそうになる。
ここまでやられてやめないオレは、バカなんだろう。でも、今ここで退く訳にはいかない。
「断る。なんの権利があってオレへ指図する」
「それは……」
「そこで止まるってことは大した理由じゃないな。なら引っ込んでろ」
「私は……私は!!」
「私はなんだ?」
「私はライガ様へ、好意があります!!」
これは驚いた。目を見る限り本気だろう。
オレではない他の誰かなら、純粋な好意を喜んで受け入れるだろう。だって、貴族で、上品で、可愛らしい女の子。何だって持っている完璧な女の子なのだから。
でも、オレは誰かを愛することや、好きになることは許されない。
「なるほど、つまりオレのことが好きだから、自ら死にに行って欲しくない。簡単にまとめるとこうだな?」
「……はい、ですわ……」
頬に手を当て、恥ずかしがっている。なんとも愛くるしい生き物なんだろうか、なんて事は思わなかった。オレはマリアの死以降、他人へ何も思わなくなった。たとえ何をされようが、オレはマリア以外の女を好きにはならない。
「そうか、なら早めに言っておく。オレは既婚者だ」
「えっ……」
その瞬間面白いほどレティの表情は変わる。驚きと絶望、さらには困惑。様々な感情がごちゃまぜになっているだろうな。
「そ、それは本当ですの!?」
「本当だ。もう……いないけどな」
「お亡くなりになったのですね……ごめんなさいですわ。思い出したくないことを思い出させてしまい。私どうお詫びをすれば……」
「気にするな。死んだのはオレの弱さのせいだ、お前が関わっていい問題じゃない」
「でも……」
「時間だ。少し予定が狂ったが作戦通り正面突破だ。壁はオレが壊す」
「ん、了解」
このままレティに構っていると時間がイタズラに消えていくだけ。そう思ったオレは止められた話を進める。
「アリス、オレの手に触れろ」
アリスから強く手を握りしめられ、転移魔法を使った。
「ライガ様……」
────────────────────
一瞬で辺りの景色が変わり、急激に温度が下がっていく。
少し先に見える壁がサード強制収容所だろうか。遠目に見ただけでも分かるほど大きい。まるで鉄壁の城塞。
「ここを攻めるバカなんて居るのか?」
「いるよ、お兄ちゃんが」
「そうだな、バカだろうなオレは。落とせない城を落とすなんて常識外れにも程がある」
吐く息が白い。防寒対策をして来て間違いじゃなかったようだ。
サード強制収容所までの距離は約1キロ程度。鬼化して走ればすぐに着くが、アリスの時間を考えると大人しく歩くしかない。
「お兄ちゃん見て見て」
普段とはかけ離れたテンションの高さに驚き、指さされた方を見てみる。
大きな図体をしたシロクマが何らかの動物を食べていた。白い毛並みが返り血で赤く染まり、弱肉強食を見てしまう。
「熊だな」
「熊だね」
不思議とオレらの思考は恐怖よりも、表面だけの感想だけが出てくる。本当に見ただけの、他に意味が無い感想だけが。
「ほら、あんなの見てないで進むぞ。ここで止まってたらあの熊に殺されるかもだぞ?」
「あの熊なら倒せる」
同意できすぎて困る。
大自然の王者とも言える熊ですら、オレらには勝てないだろう。普通の人なら熊を見ただけで逃げ出したり、圧倒的な恐怖に負けてしまう。
だが、立場は逆だろう。今のオレらの殺気に熊は逃げ出してしまうだろうな。
「走るぞ、ある程度近づいて警備の動きを見る」
「了解」
足音を立てると気づかれてしまう恐れがあるため、なるべく足音を消して走る。
全速力で走ればすぐに着くのだが、倍の時間を費やした。
「ひとまずこの岩に隠れよう。数分観察して大丈夫なら壁をぶっ壊す」
息を潜め、壁付近の警備隊を探す。しかし、信じ難いことに誰ひとりとして警備をしていなかった。
幸か不幸か警備隊が居ないことを確認し壁へ近づく。
壁に触れ、どの程度の強度を誇るのかみてみる。
「これは驚いた。この壁の厚さは、軽く10メートルはあるぞ……」
流石は強制収容所と言ったところだろうか。仮に牢屋塔を逃げ出しても、この壁を超えることは不可能という事か。
厄介ではあったが、予定の範囲内だった。
「鬼――解放ッ!! 剛腕爆砕――壊れた理想郷ッ!!」
鬼化し思い切り壁を壊す。壊した瞬間大きな音がしたため、念の為にその場から一瞬で離れる。
「お兄ちゃん、誰も来ないよ?」
「いや、壁を破壊してやっと感じ取れた。壁が結界になってたんだろ」
サード強制収容所を囲う、大きな壁は内側の魔力を外へ漏らさない結界になっていた。だから、壊すまで気づけなかったが、外に警備をおく必要がないのだ。壁の内側の魔力を感じた瞬間、逃げ出してしまうから。
「いきなり戦闘が始まる。アリスはここで待機してくれ。これから始まる戦いは酷いもんだ」
穴が空いた壁に向かってゆっくりと歩く。
すると、壁の内側にひとり仁王立ちで構える戦士がいた。幾度となく戦場を共に舞った、仲間が。
「久しぶりだな、ライガの旦那。姿を消して1年間どこで何をしてたんだァ?」
「田舎でゆっくりニート生活」
「随分と落ちぶれたものだな。それで、この壁を破壊したのは旦那か?」
「さあ、知らない」
「そうかい。なら、何故こんな辺鄙な場所に?」
「ここに友達が来てるらしいから挨拶に来たってわけだ。面会は時間外か?」
「ははっ、面白いことを言うねえ。ここは面会そのものがお断りだとわかっているくせに」
やはり共に苦楽を過ごした仲間が敵となると心が痛い。しかし、相手はそう思っていないらしく、既に剣を構えている。
「わかりやすい。通りたければ倒せってことだな?」
「頭の悪い旦那にはこれが手っ取り早いと思ってね。違うかい?」
「いいや、間違っちゃいねえ!!」
右近と左近が小太刀になり、戦闘態勢へ入る。
「エース軍の勇者、オーラス・ライガ。来い!!」
「行くぞ、エース軍戦闘部隊一番隊隊長、カウレス・バウザー!!」
互いに凍る大地を蹴り、颯爽と駆け出した。
彼は強い。同じ部隊に配属された時、1人だけ異常なまでの殺気を持っていながら、平然と過ごした人間だ。
実力は同じでも、年の功で何倍も戦っている。甘い攻撃が通じる相手ではない。それに加え、相手はオレの戦い方をほぼ知っている。対策されまくりだろうなきっと。
互いの剣は互いに届かず、後一歩のところではじかれる。激しい斬り合いの中、バウザーには余裕があるように見えた。
鬼化して同レベル。この1年でさらに鍛錬を積んできたに違いない。昔とは比べ物にならない強さだった。
「旦那ァ、その程度じゃダメだぜ?」
「分かっているさ。だから……アリスッ!!」
「うん!!」
くるりと回り、後ろからアリスが猪突猛進に攻撃を仕掛けた。
阿吽の呼吸でオレからアリスへと綺麗な連続攻撃が炸裂する。
「その程度じゃまだだぜ、旦那ァ!!」
「分かっているさ!!」
アリスとオレによる絶え間ない連続攻撃は、バウザーの剣技で回避され続ける。このままジリ貧かと思わせて、最後の手を残しておく。
「防御だけでは面白くない。オレから行くぜ!!」
罠にかかった。こうして防御に徹している時、突破口を開くため、あえて捨て身覚悟で攻めてくると信じていた。
斬りかかってきたバウザーは驚愕する。斬ったと思った相手が、霧となり消えたことを。
「なに――!?」
「甘かったな、バウザー。相手の得意戦術を知らずに懐へ入ったことが間違いさ!」
何度も現れ斬ると消える霧に、バウザーは嫌気がさしたのか大きく飛び上がる。
「いくら霧とはいえ上空は無意味だろ。だったらオレの遠距離系の魔法で――」
「残念だが、そこはオレの領域だ。鬼燈籠ッ!!」
無数の鬼燈籠がバウザーの付近に出現する。
「クソ、対処しきれねぇ!!」
「終わりだ、バウザー!!」
空中で避けることも出来ず全弾命中。
落下し、身体を強く打ち付けられたバウザーは凍る大地に大の字で寝転がり手をひらひらと振る。
「参った参った。数の有利ってのもあるが、作戦が上手すぎる。かつての独りで戦ってた旦那は何処に行ったのやら……」
「おじさん、質問いい?」
バウザーに歩み寄っていたアリスは、無邪気な笑顔で問いていた。
「なんだ嬢ちゃん?」
「おじさんって、カウレス・バウザーって名前なの……?」
「そうだが、それがどうしたんだ?」
「娘っている?」
「自慢の娘が……どうして娘がいると?」
「もしかして、レティシアって名前?」
「おお、レティシアを知ってるのか。まさか、友達か!?」
「うん、大親友」
「そうかそうか、という事は、ライガの旦那は彼氏なのか?」
ニヒニヒと気持ち悪い笑顔でこちらを見てきた。
「何言ってんだバウザー。ついさっき好きとか言われたが断ったぞ」
バウザーの表情が険しくなる。
「うちの自慢の娘じゃダメなのか――!?」
「違う違う。お前だって忘れてないだろ、マリアのことを」
「なんだそう言うことか。まあ、その件はもうやめておこう」
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