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閃雷の元勇者

しにん。

23話 封印の解除

 アリスと修行を始め、数時間が経過した。
 少しずつ鬼化にも慣れ扱えるようになり始めた頃、問題が出てきた。


「鬼化出来て5分ってところか。限定されてるが、奥の手レベルでしか使えない……」


「ごめんなさい……アリス、よわい……」


 やはりまだ慣れていないのか、鬼の状態で魔力を必要以上に消費している。


「初日だしそんなもんだ。そう気負うな」


 ともあれ、鬼化の時間が短すぎる。戦力にはなるが、付け焼き刃に過ぎない。
 もっと時間があれば、より洗練された力へ完成出来たかもしれないが、今は時間が惜しい。こうしている間に生徒会長の心が折れないか、常に心配している。
 助けに行っても死んでいたら意味が無い。


「移動はオレの魔法を使うしかないかな……」


「お兄ちゃん魔法使えたの?」


「言ってなかったっけな。オレはこう見えても賢者の弟子だぞ? 魔法のひとつどころか、全てを使おうと思えば使える。ただ、今は封印しているだけだ」


「どうして? 力を減らしては意味がない」


「確かにな。でも、1年前のオレには不要になった。勇者の名を捨て、富も名声も捨て、オレは力も捨てた。誰かを守れる力がないオレに……」


「もう大丈夫だよ。お兄ちゃんの力は誰かを守った。そう責めないで?」


 情けない話、アリスのような命の奪い合いを知らない、まだまだ子どもに慰められ、心がじんわりと暖かくなった。こうして誰かに認められたことは滅多にないからか。
 これが、優しさ。久しぶりに触れる心地よい暖かさ。


「そうだな、今だけは封印を解いてもいい。もう、誰もオレの仲間を殺させない。そのために力を受け入れる。悪いが少し離れててくれ」


 アリスを遠ざけ、心の最深部へと意識を向ける。
 封印は力を封じ込め使えなくさせる、誰にでも使える技ではない。この学園で使えるのはシンとオレだけ。だが、オレではシンほどの完璧な封印には劣る。


「よお、久しぶりだな地獄の鬼」


「第2の門を開けて以来だ」


「初めて封印した時は分からなかったが、百鬼夜行を使った時感じたんだ。あの日見た影はお前だってことに。これからも長い付き合いになりそうだから、名前を教えてもらえないか?」


「ほう、人間の小童こわっぱのくせに肝が据わっている。特別に名だけ教えてやろう。わらわは酒呑童子。最強の鬼よ」


 化け物のような見た目の鬼は、人間の姿へと変わっていく。その妖美さに目を奪われる。
 長い黒髪は綺麗に手入れされており、艶のある輝きを放っている。それでいて、触れると切れてしまいそうなほど繊細だ。
 何よりも美しいのは、全てだった。
 人の見た目で鬼の角が生えていれば、不自然極まりないが違う。完成された美だった。
 そして、どこか懐かしい。


「小童はこの姿の方が話しやすいであろう? 妾の元へ来たということは、封印の解除とみた」


「話が早くて助かる。鬼化に関しての解除はしなくていい。今回してもらうのは、魔法全てを解除して欲しい」


「それは無理じゃ。小童の封印が欠陥だらけで、上手く解除ができん。恨むなら自分を恨むのじゃな」


「なら出来る範囲で、ってことは頼めるか?」


「そうじゃな……出来る範囲となると、単純な魔法になる。あまりにも複雑、もしくは強力な魔法だと時間がかかるかの」


「具体的な時間を教えてくれ。それ次第では無茶だろうがやってもらうつもりだ」


 そう問うと、妖美な鬼は若干嫌な顔をする。自分の意識下なのに、なんて自分勝手なやつ何だろうと思ってしまう。
 長い溜息のあと、折れてくれたのか口を開けた。


「どんなに低く見積もっても半年。長くて2年はみるんじゃな。それでも小童はやるか?」


「もうひとつだけ聞きたい。今すぐ……いや、明日までに解除できる魔法の中に、転移魔法か空中飛行魔法はあるか?」


「そのレベルの魔法じゃと今すぐにでも可能じゃ。しかし、条件がある」


 覚悟はしていたが、やはり来た。何かを得るには何かを捨てるのが道理であり、封印の解除の代償が必要になる。
 どんな酷な条件を提示されるか、それだけが心配である。


「……オレにできる範囲でなら」


「もっと妾の元へ寄って来て欲しいのじゃ」


「――はあ? 何で?」


「何ででも、じゃ」


 言われるがままに近づくと、優しく抱き寄せられた。


「な、何やってんだ!?」


「妾は小童の母の魔力なのじゃ。故に、遺された言葉がある」


「母の魔力……遺された言葉……?」


 酒呑童子の顔を間近で見て、ふいに涙がこぼれ落ちた。次々と溢れる涙を止めることが出来なかった。


「お母さん……!!」


「やっと気づきおったか。じゃがな、妾は魔力であって小童の母ではない。しかしまあ……見た目は少なくともゼロそのものだろう」


「ゼロ……? お母さんの名か?」


「そうじゃ。試作1号と呼ばれる前、ゼロは捨て子じゃった。行く宛もなく、路地裏で過ごしていた時誘拐され、実験体となった」


「捨て子ってことは、親は居ないのか?」


「うむ。人の温かさに触れずに育ったゼロは、初めて人を好きになった。それが小童の父であるタイガじゃ」


「そんな過去が……」


 初めて聞くことにオレはどうしても下を向いてしまう。
 そんなオレを酒呑童子は強く抱きしめてきた。


「悪い……それで、お母さんはなんて言ってた?」


「ライガ……私の愛しいライガ。貴方は今戦っているのでしょう。安心して強くなりなさい。貴方の望む未来を、その手で掴み取りなさい。強く……強く生きて」


 お母さんらしい言葉だった。優しい言葉と、支えられる言葉。
 きっとお母さんも分かってのだろう。オレが戦っていることを。強い力を持つ者の使命なのだから。


「分かった。その言葉しかとこの胸に焼き付けた。それじゃ、封印の解除を頼む」


「心得た……」


 そっと離れ、酒呑童子はオレの額へ唇を当てる。
 その瞬間心の最深部から仮想戦闘室へと移り変わる。


「お兄ちゃん、もう大丈夫……?」


「何とかな。とりあえず移動手段は手に入れた」


 手始めに転移魔法を使用し、アリスの背後へ回り込む。


「と、まあ、こんな感じだ」


「実戦でも使える……?」


「不意を突く程度にはな。ただ弱点がある。1度使うと休憩時間インターバルを必要とする」


 移動手段として考えた方が得策だろう。生徒会長を奪還後、転移魔法で逃げる作戦のため、欲を言うと使いたくない。


「さて、あとはオレ自身が強くなる番だな。右近、左近出てきてくれ」


 呼びかけに応じ、2匹の妖狐が姿を現す。


「要望がある。拳銃の先に剣をつけた武器になって欲しいが、可能か?」


「こ、こんな感じですか……?」


 拳銃の先から剣が出ている、要望通りにこなした武器だった。
 拳銃をメインに使っているため、小回りがきき速い戦闘でも支障なく戦える。
 使い方は小太刀のように両手に持つことが出来る。さらに銃弾も撃てる。近、中距離に対応し、弱点はないと言って過言ではない。
 あるとするならば、長距離からの攻撃になる。こればかりはどうしようもないだろう。


双銃剣ツインバレットと名付けるか。とりあえずアリス。これから練習相手になってくれ」


「うん、わかった」


 明日の夜、強襲をかける。
 誰も殺さずに済めばいいのだが、犠牲者が出るかもしれない。本当に申し訳ない話だが、オレのためだけに死んでもらう――

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