閃雷の元勇者
22話 作戦会議
予想していたとおり、勇者と生徒会長の模擬戦後研究者たちが生徒会長を連れていった。
少しでも止められないかと思い、シンに掛け合ってみるがいい答えはもらえなかった。それどころか、オレも同じ研究所に入れられたいかと脅される始末。本当に性格が悪い。
「研究所の場所はこここら遥か北方にある、大氷河と呼ばれる所にある。立地の問題で脱走者はいない」
「大氷河って……」
「アリスの知っている情報であっている。大氷河にある建造物はひとつだけ。サード強制収容所だ」
「サード強制収容所……」
遥か北方に聳え立つ強制収容所は、現在拘束されている者はいない。数年に1度収容されるが、数日で釈放されるで有名な所である。
もちろん生きて釈放ではなく、自殺による釈放。
「どうして、すぐに死を選んじゃうの?」
「生きることより死ぬことの方が楽だからだ。あそこはまさに実在する地獄だろうな」
サード強制収容所の管理は徹底されている。牢屋塔に収容され、外は広大な庭が広がっている。そして、何よりも壁により隔離され中へ入るのも困難だ。
食事も1日で1度のみ。冷めたスープと硬いパンだけで、栄養失調で死ぬ者も少なくない。
それに加え重罪人の場合、白状するまで精神的、肉体的にダメージを負わせる。
「なら、生徒会長はどうなるの?」
「収容されて初めての地獄を味わってる頃だと思う。オレ自身も噂でしか聞いたことがないから、なんとも言えないが……少なくとも、地獄には違いないだろうな」
「それでも、お兄ちゃんは助けるんだよね?」
「アリスにそんな目をされたらな。それに、アイツはオレのことを慕ってくれている。そんな奴を助けない意味が無いだろ?」
「確かに。助けに行くことなんだけど……アリスも行っていい?」
「それは構わないが、サード強制収容所は国の管理下だ。国と一戦交える覚悟はしてもらうぞ」
「アリスの全ては、お兄ちゃん。お兄ちゃんが、決めたことはアリスは従う。それが、アリスに出来るせめてもの償いだから……」
「そうか。なら作戦決行の日まで手伝って欲しいことと、やって欲しいことがある。死ぬかもしれないが構わないか?」
「構わない。アリスは成し遂げてみせる!」
いい面構えだ。剣魔武闘会以降暗い表情のままのアリスが、生き返ったようにキラキラとしていた。やはり、女の子はこうじゃなくちゃな。
これから2日という短い期間でアリスにやってもらうことは、鬼化の安定。国と戦うとなれば、勇者時代共に戦場で背中を預けた仲間がいるはずだ。そんなヤツらと戦うことは本来無謀で、2日で間に合うかもわからない。だが、やってもらう。
そしてもう一つ、手伝って欲しいことは、オレの鬼化と赤目の鬼以外の力の取得。鬼化や赤目の鬼は対人戦闘用の力であって、大軍戦闘用の力ではない。
「封印以外の力の解放。結局オレは、強くなりたいのか弱くなりたいのか分からない。なあ、教えてくれマリア。どう生きたら、正解なんだ?」
群青色の空へ手を掲げ、眩しい太陽を睨む。
こうしていると、天国にいるマリアが答えをくれるのではないか、そう思っていた。
『さあ、どれが正解でしょう?』
「えっ……?」
後ろから聞こえるはずのない、懐かしい声が聞こえた気がした。あの声はマリアの声だ。どこだ、何処にいるんだ。
必死になり、オレは辺りを走りまくった。いないはずの彼女を探して、息が上がろうが、体力が無くなろうと関係ない。
やがて数時間が経ち、いないという現実がオレの心を押し潰してきた。
「まあ……当たり前か。マリアは死んだ。変えられない過去だ」
何も出来ない過去のオレを思い出し、地面を思い切り殴りつける。
────────────────────
寒い。
目覚めて最初に感じ取った感情。ボクは確か――
「おい、歩け。止まるな」
言われるがまま足を動かした。ここは何処だろうか。半開きの目を必死にこじ開け、周辺を見渡すと殺風景な景色が広がっていた。
学園でも無ければ、寮でもない。来たことがない場所だ。
「ここはどこだ? ボクは何を?」
隣で共に歩いている人へ取り敢えず聞いてみる。
「ここはサード強制収容所だ。今日からお前が暮らす場所だ」
「サード強制収容所……? ボクは重罪でも犯したのか?」
「目覚めてはいけない力に目覚めたんだ。記憶にないか?」
確か、勇者と手合わせをして何か暗い力がボクの意識を支配した、そこまでは覚えている。あそこまで力を出せたのは初めてだったが、それはいけないことだったのだろうか。
「詳しい話は中で聞くんだな。早く入れ」
案内された部屋へ入ると、ひとりの科学者が椅子に腰掛けていた。
「はじめまして。私はここの管理者、サードだ。君の力を研究するためにここへ来てもらった。君も聞いたことはあると思うが、ここに来たからには出られると思うなよ?」
まさに狂気。ボクとはまた違った、科学者特有の危ない雰囲気に、気圧されそうになる。
「ひとつ聞きたいけど、学園に帰りたいんだけどどうすればいい?」
「はあ? 出られると思ってんのか馬鹿なのか? これだからガキってもんはムカつくんだよな」
サードと名乗った男は目の前の机を蹴り飛ばし、怒りを物へぶつけ始めた。
まるで、人が変わったかのように。
「はあ……仕方ねえ。頭の悪いお前に教えてやる。死んで感謝しやがれクソったれ。ここは極寒の地、大氷河のど真ん中にある。あとはわかるな?」
「なるほど……脱走しようが、逃げた先もまた地獄か。果たしてボクを止められるかな?」
「言ってくれるなクソガキ……」
意識が完全に戻った今、ボクの魔法を使えばこの場から逃げることは可能。外は大氷河で寒いだろうが、氷系統の魔法使いなら多少は我慢できる。
「凍れ世界よ。慈しむ世界は、時を止め美しく。永遠に眠り続けるがいい。世界は冱て果てる」
これで時が止まっ――
「忠告するが、魔法は使えないぜ?」
何故だ、何故時間が止まってない。確かに魔法は使ったはず――
「お前の首にしてる魔道具は、その者の魔術回路を一時的に作動させないようにするものだ。魔術回路ってのは――」
「魔法を使う際必要不可欠の、いわば心臓だろ?」
「ふん、バカなりに知識はあるようだな。さて……お前が今置かれている立場は分かったようだな。大人しく私のモルモットとして生きてくれよ」
サードは異常なまでの笑顔でこちらを見ている。
ボクはこれから、どう生きていけばいい?
────────────────────
アリスと特訓するため、少し広い仮想戦闘室を借りた。1番大きな所を借りたかったが、生憎と使用中とのこと。
「それで、鬼化の安定って具体的にどうするの?」
「手っ取り早い話、慣れってことだな。初めの方は不慣れで、魔力を必要以上に消費してしまうんだ。実際、鬼化は鬼になる時だけ魔力を使い、鬼になってしまえば魔力はほぼ消費しない」
幼き頃、師匠のシンから教わったことをアリスへ教える。もう2度とない鬼の説明だろう。
いや、させない。これ以上鬼の犠牲者を減らしたい。
「聞いておきたいが、鬼化ワクチンってどんなもんなんだ?」
「鬼になれる薬。1度使えば、鬼になれるし何度でもなれる。でも、複数回使用すればもっと強くなれる」
「麻薬みたいなもんか? 2度目以降意味は無いな」
鬼化ワクチンは今後必要が無いと聞き、少しだけ安心した。
鬼化に制限がないとなると、作戦の幅は広がる。
「よし、残り2日で仕上げるぞ!」
「うん!」
生徒会長奪還作戦まで、残り2日。
少しでも止められないかと思い、シンに掛け合ってみるがいい答えはもらえなかった。それどころか、オレも同じ研究所に入れられたいかと脅される始末。本当に性格が悪い。
「研究所の場所はこここら遥か北方にある、大氷河と呼ばれる所にある。立地の問題で脱走者はいない」
「大氷河って……」
「アリスの知っている情報であっている。大氷河にある建造物はひとつだけ。サード強制収容所だ」
「サード強制収容所……」
遥か北方に聳え立つ強制収容所は、現在拘束されている者はいない。数年に1度収容されるが、数日で釈放されるで有名な所である。
もちろん生きて釈放ではなく、自殺による釈放。
「どうして、すぐに死を選んじゃうの?」
「生きることより死ぬことの方が楽だからだ。あそこはまさに実在する地獄だろうな」
サード強制収容所の管理は徹底されている。牢屋塔に収容され、外は広大な庭が広がっている。そして、何よりも壁により隔離され中へ入るのも困難だ。
食事も1日で1度のみ。冷めたスープと硬いパンだけで、栄養失調で死ぬ者も少なくない。
それに加え重罪人の場合、白状するまで精神的、肉体的にダメージを負わせる。
「なら、生徒会長はどうなるの?」
「収容されて初めての地獄を味わってる頃だと思う。オレ自身も噂でしか聞いたことがないから、なんとも言えないが……少なくとも、地獄には違いないだろうな」
「それでも、お兄ちゃんは助けるんだよね?」
「アリスにそんな目をされたらな。それに、アイツはオレのことを慕ってくれている。そんな奴を助けない意味が無いだろ?」
「確かに。助けに行くことなんだけど……アリスも行っていい?」
「それは構わないが、サード強制収容所は国の管理下だ。国と一戦交える覚悟はしてもらうぞ」
「アリスの全ては、お兄ちゃん。お兄ちゃんが、決めたことはアリスは従う。それが、アリスに出来るせめてもの償いだから……」
「そうか。なら作戦決行の日まで手伝って欲しいことと、やって欲しいことがある。死ぬかもしれないが構わないか?」
「構わない。アリスは成し遂げてみせる!」
いい面構えだ。剣魔武闘会以降暗い表情のままのアリスが、生き返ったようにキラキラとしていた。やはり、女の子はこうじゃなくちゃな。
これから2日という短い期間でアリスにやってもらうことは、鬼化の安定。国と戦うとなれば、勇者時代共に戦場で背中を預けた仲間がいるはずだ。そんなヤツらと戦うことは本来無謀で、2日で間に合うかもわからない。だが、やってもらう。
そしてもう一つ、手伝って欲しいことは、オレの鬼化と赤目の鬼以外の力の取得。鬼化や赤目の鬼は対人戦闘用の力であって、大軍戦闘用の力ではない。
「封印以外の力の解放。結局オレは、強くなりたいのか弱くなりたいのか分からない。なあ、教えてくれマリア。どう生きたら、正解なんだ?」
群青色の空へ手を掲げ、眩しい太陽を睨む。
こうしていると、天国にいるマリアが答えをくれるのではないか、そう思っていた。
『さあ、どれが正解でしょう?』
「えっ……?」
後ろから聞こえるはずのない、懐かしい声が聞こえた気がした。あの声はマリアの声だ。どこだ、何処にいるんだ。
必死になり、オレは辺りを走りまくった。いないはずの彼女を探して、息が上がろうが、体力が無くなろうと関係ない。
やがて数時間が経ち、いないという現実がオレの心を押し潰してきた。
「まあ……当たり前か。マリアは死んだ。変えられない過去だ」
何も出来ない過去のオレを思い出し、地面を思い切り殴りつける。
────────────────────
寒い。
目覚めて最初に感じ取った感情。ボクは確か――
「おい、歩け。止まるな」
言われるがまま足を動かした。ここは何処だろうか。半開きの目を必死にこじ開け、周辺を見渡すと殺風景な景色が広がっていた。
学園でも無ければ、寮でもない。来たことがない場所だ。
「ここはどこだ? ボクは何を?」
隣で共に歩いている人へ取り敢えず聞いてみる。
「ここはサード強制収容所だ。今日からお前が暮らす場所だ」
「サード強制収容所……? ボクは重罪でも犯したのか?」
「目覚めてはいけない力に目覚めたんだ。記憶にないか?」
確か、勇者と手合わせをして何か暗い力がボクの意識を支配した、そこまでは覚えている。あそこまで力を出せたのは初めてだったが、それはいけないことだったのだろうか。
「詳しい話は中で聞くんだな。早く入れ」
案内された部屋へ入ると、ひとりの科学者が椅子に腰掛けていた。
「はじめまして。私はここの管理者、サードだ。君の力を研究するためにここへ来てもらった。君も聞いたことはあると思うが、ここに来たからには出られると思うなよ?」
まさに狂気。ボクとはまた違った、科学者特有の危ない雰囲気に、気圧されそうになる。
「ひとつ聞きたいけど、学園に帰りたいんだけどどうすればいい?」
「はあ? 出られると思ってんのか馬鹿なのか? これだからガキってもんはムカつくんだよな」
サードと名乗った男は目の前の机を蹴り飛ばし、怒りを物へぶつけ始めた。
まるで、人が変わったかのように。
「はあ……仕方ねえ。頭の悪いお前に教えてやる。死んで感謝しやがれクソったれ。ここは極寒の地、大氷河のど真ん中にある。あとはわかるな?」
「なるほど……脱走しようが、逃げた先もまた地獄か。果たしてボクを止められるかな?」
「言ってくれるなクソガキ……」
意識が完全に戻った今、ボクの魔法を使えばこの場から逃げることは可能。外は大氷河で寒いだろうが、氷系統の魔法使いなら多少は我慢できる。
「凍れ世界よ。慈しむ世界は、時を止め美しく。永遠に眠り続けるがいい。世界は冱て果てる」
これで時が止まっ――
「忠告するが、魔法は使えないぜ?」
何故だ、何故時間が止まってない。確かに魔法は使ったはず――
「お前の首にしてる魔道具は、その者の魔術回路を一時的に作動させないようにするものだ。魔術回路ってのは――」
「魔法を使う際必要不可欠の、いわば心臓だろ?」
「ふん、バカなりに知識はあるようだな。さて……お前が今置かれている立場は分かったようだな。大人しく私のモルモットとして生きてくれよ」
サードは異常なまでの笑顔でこちらを見ている。
ボクはこれから、どう生きていけばいい?
────────────────────
アリスと特訓するため、少し広い仮想戦闘室を借りた。1番大きな所を借りたかったが、生憎と使用中とのこと。
「それで、鬼化の安定って具体的にどうするの?」
「手っ取り早い話、慣れってことだな。初めの方は不慣れで、魔力を必要以上に消費してしまうんだ。実際、鬼化は鬼になる時だけ魔力を使い、鬼になってしまえば魔力はほぼ消費しない」
幼き頃、師匠のシンから教わったことをアリスへ教える。もう2度とない鬼の説明だろう。
いや、させない。これ以上鬼の犠牲者を減らしたい。
「聞いておきたいが、鬼化ワクチンってどんなもんなんだ?」
「鬼になれる薬。1度使えば、鬼になれるし何度でもなれる。でも、複数回使用すればもっと強くなれる」
「麻薬みたいなもんか? 2度目以降意味は無いな」
鬼化ワクチンは今後必要が無いと聞き、少しだけ安心した。
鬼化に制限がないとなると、作戦の幅は広がる。
「よし、残り2日で仕上げるぞ!」
「うん!」
生徒会長奪還作戦まで、残り2日。
「閃雷の元勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
魔王軍幹部をやめてニートになった俺は貴族令嬢の婚約者にジョブチェンジしました
-
50
-
-
「魔王が倒れ、戦争がはじまった」
-
60
-
-
生きる喜びを教えてくれたのは異世界に転生した君でした
-
23
-
-
ようこそ!異世界学園勇者クラスへ
-
26
-
-
初級技能者の執行者~クラスメイトの皆はチート職業だが、俺は初期スキルのみで世界を救う!~
-
43
-
-
異世界で唯一の魔神の契約者
-
152
-
-
『ザ・ウォリアー』 ~この世界を浸蝕するデスゲーム系の近未来SF&ラブコメディ~
-
6
-
-
忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~
-
5
-
-
二週目村人は最強魔術師!?~元村人の英雄譚~
-
133
-
-
禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜
-
70
-
-
異世界呼ばれたから世界でも救ってみた
-
26
-
-
完璧会長と無関心な毒舌読書家
-
11
-
-
クチナシ魔術師は詠わない
-
17
-
-
勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~
-
155
-
-
最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?
-
89
-
-
異能バトルの絶対王者が異世界落ち
-
22
-
-
Re:勇者召喚
-
100
-
-
《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。
-
15
-
-
全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
-
29
-
-
隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
-
53
-
コメント