閃雷の元勇者

しにん。

21話 生徒会長と勇者

「さあ、やって参りました! 先日行われた剣魔武闘会フェスタですが、敵の襲来により中止とさせて頂きました。その代わりと言っては何ですが、ドリームマッチを行うこととなりました!! 会場のみんな、はい、拍手~。それでは、登場して貰いましょう! 我が学園最強の生徒会長、アイン・クロセル!!」


 会場は大いに盛り上がりを見せる。


「そしてそして、最強と言えば大戦を終わらせたこの男! エースの元勇者、名前は不明ですが、本物の勇者です!!」


 生徒会長が登場した時と同じように盛り上がる。


「手合わせして頂き、感謝してます。今日は勝つつもりでここに来てるので、本気でお願いします」


「そう固くならなくて、もっとリラックスするんだ。お互い死力を尽くそう」


 拳と氷の剣を交わせ、試合のゴングが鳴り響く。


「最初から全力で! 吹雪け、氷海の龍よ。嵐を巻き起こせ!! 氷海の主ブリザーガ!!」


 地面から飛び出てきた氷の龍は轟叫ぶ。吐き出された暴風は強者を思わせる。


「いい魔法だ。同じ戦場で共に舞えたのなら、どれほど良かったか……」


 大地を蹴り、空を泳ぐ。突き出した拳は、氷の龍の頭に当たると同時に一気に砕け散る。


「流石です、まだまだ行きますよ」


「望むところだ、少年ッ!!」


 砕け散った氷が宝石のように輝くと、氷の槍となり襲いかかる。
 右から来る槍を身体を拗らせかわし、同時に来た下と左を蹴り飛ばす。更に追い討ちの正面を着地とともに拳で粉砕する。


「鬼化無しでざっとこんなもんだ。ビビったか?」


「ここまでやるとは、正直嬉しい誤算ですよ。鬼化の前にある程度体力を削るつもりでしたが、その様子ですと、ダメだったみたいですね」


「さて、楽しい時間はこれからだぜ! 鬼――解放ッ!!」


 一対の角が生え、鬼となる。
 変身のスキを突き、氷の剣で突っ込んでくる。


「その判断は正しいが、攻撃の際防御が手薄になる。絶対な自信がない状態で敵の懐へ潜り込むのは、勇気ではなく無謀だ」


 剣を掴み取り、生徒会長の横腹を一蹴する。


「なんちゃって」


「奇策か!」


 蹴ったはずの身体は氷で、脚にまとわりつき凍り始める。咄嗟の判断で脚に付いている氷を殴り、難を逃れる。と、見せかけ、背後から本物の生徒会長が姿を現す。


「貰った!!」


「……甘いよ」


 後ろからの攻撃を見ずに避け、腕を掴み取る。


「そお、れっ!!」


 思い切り投げ飛ばし、壁と激突する。


「おおっと、ここで勇者様のカウンターだ!! しかし今の技は何なのでしょうかね……」


「それはね――」


「うぎゃぁ! 賢者様!?」


「今の技は簡単な組討術からの投げ。エースの勇者が二刀流小太刀だけだと思ってる人もいるが、彼には骨格レベルで恵まれた身体がある。武器を持たせれば、なんでも器用に使いこなすという才能があるのさ」


「なるほど、となると本気で殴ってしまうと……」


「殴ったところが弱点になる、ということになるね。本当に彼には驚かされてばかりだったよ」


「賢者様仕込みの体術となると、近接戦闘は不利になるのか!? 生徒会長どうなるか!!」


 投げ飛ばしたまではいいが、時間を止めるという魔法を使われては、手も足も出ない。なるべく使われる前に倒しておきたいが、有効打を与えられていない。もっと確実な攻撃が欲しい。


「震え、震え、震え!! 地よ震え凍てつけ!! 氷山の一角マウント・ゼロ――!!」


 ずごごごご、と地震のような揺れが起こると地面から巨大な氷山が轟音とともに姿を現す。


「大きな山だな……」


「追加でもう1つだ!!」


 空から複製された氷山がこちらへ目掛けて落ちてくる。


「流石は生徒会長と言ったところだ。魔力量も尋常じゃないな。センスもあるし、力とある。生まれ持った才能だな。だが、経験が足りない」


 腰付近で拳を強く握りしめる。


「おっと、勇者様がなにやらとんでもない魔法を繰り広げようとしているのか!?」


「確かにあれは魔法かもしれないね。でも違う。骨格レベルで恵まれているに加え、彼は人が辿り着くことが出来ないと言われた、次の世界へ足を踏み入れている! それすなわち、神殺し」


 地面からの氷山はどうにか対処するとし、空から落ちてくる氷山は生半可な攻撃では壊れず、仮に壊しても氷塊が降ってき無駄になる。全てを壊すことは簡単だが、それでは体力の消費が激しい。
 ならば、答えはひとつ。壊すのではなく、消す。


神を葬る拳デッド・イレイザーッ!!」


 氷山を思い切り殴ると同時に葬り去る。ただ消すではなく、存在を無かったことにするオレの奥の手の1つ。次の世界へ到達した者のみ扱える神技。


「これが……勇者。もっと本気を出さなくては……」


「無駄に体力を使うなこれ。今のオレで使えてあと1発。恐らく同じでは使ってこないはずだから、別の技に体力を使えるな」


「切り裂け氷海龍の刃よッ!!」


 生徒会長が詠唱すると、2本の剣が生成されていく。生成された1つをこちらへ投げて、生徒会長は雄々しく叫んだ。


「剣をとれ! 正々堂々、1本の剣で勝負だ!!」


「面白い、望むところだッ!!」


 ここからは、魔法なしの純粋な強さのぶつかりあい、ということだろう。オレと同じ速さで戦えるのなら、生徒会長にも勝機はある。だが、オレと同じ速度ということは、オレと同じ世界に来ているということになる。
 今の生徒会長の戦いを見る限り、そうは思えない。


「はあ!!」


 勢いよく駆け出した生徒会長は、獅子の如く。
 威圧感はこれまでとは比べ物にならない。そんな相手だからこそ、オレは全開の差を見せつけることがやっと出来る。


「見せてやる。オレとお前の圧倒的な差を」


 その瞬間会場から熱気が消えていく。誰一人騒ぐことなく、戦いに見入ってしまっていた。実況者ですらも、仕事を忘れるほどに。
 目に燃えるような痛みが生じ、淡く光りはじめる。普段の黒い目とは違い、メラメラと燃え盛る炎の赤。


「その目は……」


「ただ色が変わっただけと思うなよ。赤目の鬼ブラッド・モードは今までのオレとは別人だ」


 実況者は仕事であることを思い出し、すぐさま口を開き現状を実況する。


「おおっと! 賢者様あの目は!?」


「あの目を使うってことは、少しは昔に戻っているということだろう。次の世界へ足を踏み入れた者は、必ず赤い目が顕現する。次の世界の簡単な説明は必要かい?」


「は、はい! ぜひお願いします!」


「次の世界は言葉通りで、今の世界とは違う世界。つまり、今まで見てきた勇者の力は数倍に膨れ上がっている、という感じかな。次の世界の発動条件は、人のことわりを超えた存在になること。幾度の限界を壊した者のみその力は許される」


 生半可な思いつきで行ける世界ではない。オレが次の世界へ行くためにかかった年数は、約10年。シンに拾われて以降、次の世界へ行くことを目標にして強くなり続けた。
 体力の限界、思考力の限界、魔力の限界、精神の限界、身体の限界、人間においての限界を何度も何度も突破し、マリアを守れなかった事への後悔によりやっと辿り着けた世界。


「もう、お前じゃ勝てない……」


 瞬間移動を思わせるほどの速さで、生徒会長の背後に回り込む。もちろん、生徒会長ですら目で追うことは出来なかった。


「一体どこに――」


「……右だ」


 丁寧に居場所を教えたところで、そこにはもう居ない。こればかりは、才能や技術の差ではなく努力の差。例え生徒会長が努力しオレへ近づこうと頑張っていたとしても、オレも努力を続けていた。ようはいたちごっこという訳だ。


「速すぎる……クソ、これじゃ攻撃どころか防御すら出来ない。なにか手は……」


 正面へ突っ込み、腹部へ右拳を叩き込む。
 防御が出来ていないため、思い切り飛ばされていく。恐らく骨を数本折った。それほどまで、綺麗に決まった。


「まだ……だ。まだ、負けない!!」


 瓦礫の中から立ち上がる姿を見て、目を疑う。砂埃の中で淡い光が見えたからだ。


「まさか次の世界へ足を踏み入れた……のか? ありえない。生徒会長の何が引き金となった。本当に次の世界へ入ったのか……?」


 淡い光は次第に輝きを失い始める。


「消えた? まさか――」


 すぐさま後ろを警戒すると、生徒会長が背後から攻撃を仕掛けようとしていた。


「何のこれしき!!」


 剣を握りこちらを観察する生徒会長は、小動物を狩る獣のような目をしていた。
 オレと同じ世界へ辿り着いたとしたならば、勝機はある。初めてこの力に目覚めると必ず起こる、魔力異常消費という副作用がある。


「たお……すッ!!」


 その時、生徒会長は膝から崩れていく。時間切れだ。


「これはどういうことでしょうか!? 生徒会長の逆転劇が始まるかと思いきや、いきなり倒れました!!」


「あれは魔力異常消費と言われ、普段以上の魔力消費になると、身体が自然と制御され停止する。まあ、正常な副作用というわけだ。この試合は終わりということになる」


「……!? と、ということで、勝者は勇者様!! 皆様盛大な拍手を!!」


 呆気ない終わり方に観客は納得していなかったが、生徒会長は強くなり終わった。
 正直な話をすると、生徒会長が強くなったことは喜ばしい反面、悲しい現実が突きつけられる。


「お兄ちゃんおめでとう」


「ありがと。でも、生徒会長と戦ったことで悲しいが最悪な方向へ行っている。まあ、時期に分かるだろうな」


「――?」


「アリスは知らないが、次の世界……正式名称は次期拡張世界アナザーワールドと言うが、その力に目覚める者はごく稀だ。そのため、目覚めた者は殺されるか一生実験体となる」


「最悪な二択。でも、お兄ちゃんは助けるん……だね?」


「さーね、勇者オレは知らない。少なくとも勇者オレはね」


「お兄ちゃんらしいね」


「オレらしい……か……」


 次期拡張世界アナザーワールド。さて、生徒会長を助けるか。

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