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閃雷の元勇者

しにん。

18話 氷の戦士と鬼の戦士

 霧化が出来なくなったアリスは、目こそ死んではいないが、身体はボロボロになっていた。度重なる攻撃に、為す術もない。
 攻撃力、回避力、技術が高いアリスの最も欠けている部分は、防御力にある。多彩で奇妙な技を使う反面、防御を捨てている。霧化があるため、防御は不要だと思っているらしい。


「生徒会長として、悪の道を進む生徒には粛清だ。ボク自らが正しい道へ案内してやろう」


「アリスは――負けないッ!!」


「何度やっても無駄。ボクとキミの魔法では相性が最悪のようだ」


 元勇者ですら当てることが困難な霧化だが、生徒会長の魔法を使えばどうということはない。
 霧の正体は水蒸気、もっと簡単に説明すると水。そして、生徒会長が使う魔法は氷瀑魔法といい、水を凍らせる性質を持つ。
 大きな特徴は、流水ですら凍らせれる程の低音を扱い、その最小値は絶対零度までいくとされている。


 アリスが霧化したにも関わらず、攻撃が当たる仕組みは、水が凍るという性質を上手く活かしているから。とても簡単な仕組み。


「大人しく投降しろ。悪いようにはしない」


「ダメ。アリスはまだ動かないとダメ」


「少し質問をいいか? お前らは何者で、一体何の目的があるんだ?」


「アリスたちは……人造勇者。あそこにいる勇者を殺すために作られた、最強の戦闘兵器。アリスは――最強」


「動きが変わった、だと」


「術式解放――霧の街ロンドン・ザ・ヘル


 辺りは霧に包まれる。だが、アリスは霧へとならない。


「これは、何が起こってるんだ!?」


「ようこそ、死を分かつ霧の街へ。この技は脱出不可能の迷宮。アリスを倒さない限り一生出ることは出来ないよ」


「そうか、勇者からはキミを殺さないように言われたんだけど……手加減できないようだから、殺してもいいよね」


 全視界が霧に包まれる中、生徒会長は臆することなくうちに秘める闘志を燃やし続ける。その姿は眠れる獅子。自らの欲望を叶えるために自らの欲望を殺す、どこまでも真っ直ぐな戦いへの高揚こうよう
 ここまできた生徒会長を止めることは、出来ない。


「脱出不可能、か。それは悪いことをしてしまったな。キミの言っていることが嘘になってしまう7


「それは、無理だよ」


「さあて、生徒会を執行しますか。副会長が怒らないうちにね」


 辺り一帯の霧が次々と氷の結晶となり、地面へと落下し、儚く散る。弾けた氷の結晶は、光を浴び、宝石のような輝きを放ちながら消えていく。


「なん、で……!」


「キミは凍らせまいと、霧の温度を上げていた。それが逆効果という訳だ。ムペンバ効果と言って、温度が高い方が短時間で凍るのさ。知らなかっただろ?」


「アリスは……完璧なの! 誰にも負けない、この鬼の力があれば!!」


「生徒会長、アイン・クロセル。現時刻を持って序列10位、アルネスト・アリスを反逆者と認め生徒会を執行する」


 この覇聖はせい学園の生徒会の仕事は沢山ある。学園の秩序の管理、行事の管理、そして敵の排除と殺害。殺害は名前だけで、実行されたことは1度もない。裏を返せば、敵が生まれない環境を作っているということになる。
 上を目指すという明確な目標。そして、上の者の圧倒的な力。
 この2つが、敵を作らせないという環境を作り出している。努力を放棄した荒くれ者も少なくはないが、頂点に座る、生徒会長の強さを知っているため迂闊うかつには動けない。


「凍れ世界よ。いつくしむ世界は、時を止め美しく。永遠に眠り続けるがいい。世界は冱て果てるフリージング・ワールド


 その瞬間、世界が止まった。心臓も、動物も、人間も、風も、何もかもが凍りつき、静止した。


「魔力消費は気にしてはダメだね。ボクとしても、この技は使いたくないが、勇者の言いつけは守らないと気が済まなくてね。少し痛いかもしれないが、我慢してくれ」


 何もかもが静止した世界を作り出したあと、未だ霧となり戦いを続けようとして、止められたアリスへと近づいていく。


「キミは道を間違えなければ、ちゃんと強くなれる」


 アリスの両手首を近づけ、手錠をかける。そして、逃げれないように腕を凍らせる。凍らせることにより、霧化しても手錠は離れない。


「くっ……はぁ……ふぅ。魔力消費が問題点だな。まぁ、あとは勇者がやってくれるだろうな」


 パチン、と指を鳴らすと時は動き始める。突然腕を拘束され、身動きが出来なくなったアリスは、手錠を壊そうと試行錯誤している。
 やがて取ることは不可能と察したアリスは霧となるが、それでもとれず、ついに動きを止める。


「残った魔力でプレゼントをあげるぜ」


 地面から大量の氷が突き出しアリスを飲み込む。
 大きな氷のオブジェとなり、生徒会長は倒れる。魔力が極端に無くなると、身体が言うことを聞かなくなり、脳は仮眠状態となる。そのため、身体も眠りにつく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 生徒会長がアリスの相手をしてくれるから、戦場は一気に変わった。
 具体的に、数の有利が無くなる。また、オレが最大限、力を出さずに済む。前者はどうとでもなるが、後者は絶対にしては行けない。
 そのため、生徒会長の援軍はオレにとってとても助かる話だ。


「勇者は昔から変わっていないな。その圧力と殺意」


「……お前は誰だ?」


「それは答えることは出来ない。あなたに絶望されては困るからね」


「一体……誰なんだ――」


「お喋りはここまでですよ」


 仮面の男からナイフが飛んで来て、話が終わる。
 何とか投げる前に気づき、反応できたが、明らかにおかしい。投げる素振りがほぼ無かった。無い、のか、元から無いのか、区別がつかない。


「鬼化の時の反応と反射神経は、もはや人間の限界を超越している。やはり、我々の研究は、人類の歴史を正しい方へと導いている――ッ!!」


 謎に喜びに浸っている仮面の男へ攻撃を仕掛けようとするが、どこから見ても隙がない。どこから武器を取り出し攻撃してくるか、攻撃をどこまで防いでくるか――未知数な力へは、なかなか手を出せない。が、動かなければ何も始まらない。


 脚に力を入れ、少し筋肉が膨らむ。大地を思い切り蹴り、音速を超える速度で近づき攻撃を仕掛ける。


「ふふ、攻撃を当てるのは不可能ですよ」


 攻撃を避けられることは分かりきっていた。なのに、オレの攻撃は確かに仮面の男の腹部へ行ったはずだ。


 ――当たったのに、当たらない。


「幻覚……だな?」


「んん、惜しい。半分正解で半分間違え、という所かな。タネは教えるわけには行かないが、攻撃を当てるのは無理ということは知っていてほしい。そして、存分に絶望してほしい」


 考えられるパターンを全て考える。
 上げられた予想は二つある。一つ目は、アリスのように身体を別の何かへ変換する魔法を使用している。二つ目は、敵が嘘をつき、幻覚を使い視認させないようにしているか。
 これ以上は考えることは出来ない。


「当たらないのなら、避けられる前に当てるしかない……」


 先程同様脚に力を入れ、大地を蹴り一気に近づく。違う点は、力の入れ具合。今出せる限りの力全てを使い攻撃を仕掛ける。
 ミサイルやジェット機と変わらない速度を出せば、避けることはまず不可能だろう。


「喰らえ――ッ!!」


 尋常ではない速度と、脅威的な動体視力で確認する。真っ直ぐと仮面の男へ向けられた拳は、確かに腹部へ当たったはずだ。だが、感触がない。
 次の瞬間、不可解なことが起こる。


「なん……だとッ……!?」


 拳はそのまますり抜け、仮面の男の姿を貫いている。そのはずなのに、当たっていない。そして、オレの身体も仮面の男の身体を貫通する。


「だから当てることは不可能だと言ったはずですよ? 何故忠告を無視するのですか?」


「残像なのか……? いや、この感覚はその類じゃない。これは、シンと同格の魔法を使っている……」


 師匠であるシンとたまに手合わせで戦ったが、その時と同じ感想を抱く。


『当たらないではなく、動きを全てを読まれ、手も足も出ない』


 シンと戦っているのではないか、とまで錯覚してしまうほどだった。


「おかしい……何かがおかしいな」


「さて、我々もこの辺で撤退とさせていただきましょうか。2号機と3号機は使い物になりませんか。仕方ありませんね。ここに捨てていきましょう」


「おい、待て――」


 仮面の男は黒い炎に包まれて姿を消す。
 敵は誰なのか。それだけが気がかりで、鬼化を解く。何とか勇者としての正体はバレずに戦いは終わった。


「今回のことは一応報告するか。その前に……そろそろ活動限界だな……」


 短い戦闘時間だったが、魔力消費はとてつもなく、片膝をつく。自分へ封印した力を解放すれば、もっと魔力を上げれるが、使い所では無かった。
 今後の課題が……増え……た……。


 痛みで目を覚ますと、見慣れぬ天井が目に入る。


「ここ……は……?」


「このバカ生徒が、散々心配させやがって。傷の手当はしてあるが、しばらくは動けないと思え」


 声がした方を見ると、小さな女の子がこちらを見ていた。
 いや、違う。大人の女だ。よく見るとネイビスだということに気がつく。
 手や足に縛られた感覚があり、見てみると包帯による圧迫だった。多少痛むが、綺麗に手当してあり痛みはやわらいでいる。


「しかし、久しぶりにお前の身体をたが、随分と無茶をしているようだな。身体の中がボロボロだ。生きている方が不思議なレベルだぞ?」


「それは鬼化による力の代価、ってところだ。無茶を承知でオレは戦うことを決意したんだ」


「なるほどね、その代価ってやつがこの身体か」


 ぺし、と軽く叩かれた脚に激痛が走り、呻き声をあげてしまう。


「あんたは本当にバカだ。そんなになってまで戦いをやめないのは愚かな行為だ。言われるがままに従って、人形とさほど変わらないぞ」


「…………」


「私はな、あんたには強く育って欲しいとは願ったが、戦うための道具だけにはなって欲しくなかったよ。シンのバカから聞いたが、国家転覆を企んでいる組織を倒すためにここに来たそうだな? その為に来るのならここには来て欲しくなかった」


「それも……あるが。オレは勇者や英雄なんて呼ばれない人生を送りたかった。強さは時に……戦争を生む。オレが生きているだけで、争いは絶えない。ならば、オレの力を無くせばいいと思って、この学園を卒業したらシンから力の封印を頼んでいる」


 ベッドのシーツを握りしめ、ネイビスから言われたことを受け入れる。ネイビスの言っているとおり、オレは人形と変わらない。


「なるほど、それで入学当初に一般人なんて嘘をついたのか。それで、お前は一般人に成り下がったあと何をする」


「マリアの分も強く生きる」


「まさか、マリアは死んだのか!? 誰が!!」


「大戦が終わる前、殺された。クイーンとジャックの勇者に人質にされ、オレの本気を出させるために殺された……」


「だから国創立の時居なかったし、この学園に在籍していないのか」


 ネイビスは数年前、忽然と姿を消したあと一度も顔を出さなかった。そのためマリアが死んだことは知らないみたいだ。
 何をしていたのか、聞こうとするが今はその時ではない。ネイビスの瞳の奥には深い闇が見え隠れしていた。


「まぁ、何にせよ病人が増えたんだ。私はもう行くからな」


「そういえば……いてて……」


「病人は黙って寝てな。しっかり治ったあとゆっくりと話を聞かせてもらうらしいぞ」


「すまない、ネイビス。マリアを守れなかった……」


「あまり気負うな。死んだからと言って、マリアが帰ってくるわけじゃないだろ? それに、マリアを殺したのは私のせいでもある……私が護身術を教えておけば、助かったかもしれない」


 ネイビスは帰ってこないから、と、諦め現実を見ている。彼女はどこまで強い人間なのだろうか。


『実の娘が殺されても、強く生きる人間』


 果たして本当に強いのだろうか。時々ネイビスのことが分からなくなる。


 生徒会長とアリスのもとへ向かったネイビスは、暫くしてまた戻ってきた。
 ネイビス曰く、生徒会長は魔力切れで命に別状は無し。アリスは魔力切れに加え、鬼化の代価として骨を数本折っているらしい。命の危険性こそないが、一歩間違えば死んでいた、と言われた。


「とりあえず戦死者は一人だけか」


「そうだな、お前が殺した人造勇者の事なんだが、普通の人間なら死んでいる傷を負って尚、戦おうとしていた。その命もすぐに消えたが」


 医術師の技術を持っているネイビスは、一応医師の端くれだ。一人でも多くの命を救いたいようだ。


「2人共意識は戻っている。明日には事情聴取をするそうだ」


 明日、アリスに真実を聞かなくては気が済まない。


――彼女は本当に敵なのか――

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