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閃雷の元勇者

しにん。

16話 アリスという女

 男の過去の話を聞く限り、どれも嘘ではないことは確かだ。鬼の子として生きていたが、オレと母以外の鬼なんて聞いたことがない。すなわち、オレと母以外は存在しない。
 これで合点がいく。鬼は最初から伝説の化け物で、この世のものでは無い。


「私のお話は信じていただけましたか? 勇者、ライガよ」


「ああ。何もかも分かったからな。オレ自身も含め、お前らの玩具だってわけだな」


「話が早くて助かる。大人しく我らの施設で実験されませんか?」


「断る、と言ったら?」


「決まっているではありませんか。貴方を殺すまで、我々は犠牲を増やすまでですよ」


「くっ……」


 苦渋の決断を強いられ、黙ることしか出来ない。
 コイツらの真の目的は、オレの抹殺ではなく、オレを使った別の何か。詳しくはわからないが、現状で考えられる限りでは、これが正解に最も近いだろう。
 そのため、オレが捕まる事は最悪のパターンとも言える。


「大人しく来てくれませんか?」


「……断る」


「それは残念ですね。貴方を連れて帰るには、相当な犠牲が必要不可欠ですか。仕方の無い犠牲ですがね」


「オレはもう、一般人だ……!」


「おやおや、それを決めるのは貴方ではありませんよ? 周りが決めることです」


 そうだ。オレがなりたくてもなれない、一般人。この力のせいで、誰しもが一般人とは認めてくれない。


「いずれオレはなれると信じている」


「力の封印、ですか。貴方の鬼の力は我々の研究の賜物たまものです。消そうと思えば今すぐにでも……消せますよ?」


「お前らの力なんて借りなくても、オレには宛があるんでな。残念だ」


「それはそれは、きっと賢者の力を使われるのでしょうね。上手くいくと……いいんですが」


「アイツに限って失敗なんてないさ。オレの師なんだからな」


「お話はもう終わりですかね。貴方といくら話しても平行線をたどる一方のようですし。殺す一歩手前まで殺しなさい、3号機」


「やっと、許可が降りたあ。戦うのが待ちきれなかったよ」


 3号機と呼ばれた女は頭にかぶっていたフードを脱ぐ。人間を使っての実験のため、やはりどこから見ても人間だった。殺すのを躊躇ためらうほど。


「お前らはそうやって、人間を犠牲にし続けるつもりか!!」


「いえいえ、彼女は自ら志願してきたのです。強くなって、強い者と戦いたい、とね。だから我々は彼女の願いを叶えた迄ですよ」


「そうだよ、勇者。戦えればそれでいい。だから……楽しませてくれよッ!!」


 3号機は一気に攻撃を仕掛けてきた。鬼化していないと、避けられないほどの攻撃だった。
 突然強くなったことに驚いたが、簡単なことだろう。謎の男が薬でも投与した、それ以外は考えられない。


「キミも反撃しなよ!」


「そうか? なら遠慮なくッ!」


 迫り来る右拳を避け、3号機の防御が手薄だった土手っ腹に、懇親こんしんの一撃を喰らわせる。
 拳に付けた毒針がうまく刺さっていれば、全身に死ぬほどの痛みが生じるはずだ。3号機よりも、謎の男の方が強いことは確実。あまりこっちで体力を使うのは、得策ではない。
 吹き飛ばされ、壁に埋まる3号機は、奇妙は笑い声をあげる。


「きゃはははははは!! 毒を使うとは、面白いねえ! でもお……毒は効かないんだ。ごめんねえ?」


「これも人造勇者……いや、お前らの実験体モルモットの特徴ってわけか」


実験体モルモットとは、酷いことを言うんですね。ですが、もうひとついいことを教えましょう。人造勇者は、毒が効かないだけが特徴ではありませんよ? 痛みなどの感覚や、感情を全て無くしています。何をしたところで無意味ということですよ」


 男の話を信じるとするならば、いくら骨を砕こうと3号機は動き続ける、不死身の傭兵。止める手段は息の根を止めるか、それこそ動けなくするように腕と脚を切り落とすか。実に厄介な相手だ。
 勇者として戦っていた時には出会えなかった、心の底から認められる存在だった。


「ねえ、薬を頂戴!! もっと戦いたいッ!!」


「ふん、いいでしょう。これで存分に戦いなさい」


 謎の男がポケットから取り出した注射器を受け取り、嬉しそうな顔をして首元へ針を刺す。
 全てを流し込み、3号機の表情はトロっとなる。
 見ている限り、麻薬の様にも見える。
 そんな油断をしていると、見たくはない現実が目に入る。
 3号機から角が生え、オレと同じ鬼となる。


「これ以上の薬の投与は大事な身体に悪影響を及ぼす、という事なのでこれで我慢してくださいね」


「これだけで十分ですよ……うへへ、たぎるぜえ……!!」


 鬼の力が解放された今、力の差はほぼ無いと言っても過言ではない。それほどまでに鬼の力は、強大で恐ろしいものだ。


「本格的にまずいかもな。オレと同じ力と戦うのは初めてだ。どうなるか……予想もできない」


「同じ気持ちだよお。さあ、早く殺り合おうよ!!」


 先程とは比べることすらできない速度での攻撃は、一段階の鬼化のオレでは防御だけで手一杯になった。
 これ以上の鬼の解放は身体への負担だけでなく、精神的にダメージが来る。本当はやりたくないが、3号機を止めるには、二段階目を解放するしかない。
 攻撃を綺麗に避け、大きく後ろへ飛ぶ。咄嗟とっさの行動に、3号機も深追いはせずに警戒をしてくれた。


右近うこん左近さこん、すまないがこれからの戦いお前らは離れていてくれないか」


「どうしてですか主よ。我々の力なしでどうなさるおつもりですか!?」


「これからオレは鬼になる。理性が壊れる可能性があるから……もし、暴れたらお前らに止めてもらいたい。もちろん、殺す気でな」


「それが主の願いとあらば……ですが、ちゃんと生きて勝ってください」


「任せろッ!!」


 二段階目の鬼化はこれで2度目だ。1度目はマリアを殺された時、感情的になり開けてしまった、開けてはならない門。それを自らの意思で開けるという事は、自殺行為とも言えるだろう。
 だが、オレは恐れない。恐れてはならない。


「鬼解放――百鬼夜行!!」


 地面から巨大な門が出現する。


「死への門か。これをくぐれば、とうなるんだろうな……」


 死など恐れず、オレは門をくぐると、別の世界へとたどり着く。辺り一帯は燃え盛り、近くで火山が噴火している。そして何よりも、目の前に本物の鬼がいる。ここは地獄だ。
 すると、至る所から声がオレを呼ぶ。


「鬼の力を持つ人間よ。我らが鬼の力を欲するか?」


「お前らの力を寄越せ」


「随分と生意気な人間もいたもんだな。いいだろう気に入った。更なる高みへ歩むがいい」


 地獄の体験は一瞬で終わり、気がつくと元の世界に戻っていた。


「なんだその鬼の力は……私たちでも知らない力だとッ!?」


 特に異変がないため気づいていなかったが、自分自身の腕を見ると、変化に気づく。
 表面を黒い武装のようなものを身につけており、よく見ると全身に装着していた。みなぎる力は限りない。永遠に戦えるだろうと思うほど溢れ、底知れぬ自信が生まれる。


「鬼の力はまだまだ上があるが……この力はほぼ頂点とも言える。名付けて、鬼武装だ」


 三段階ある封印の二段階目の解放。一騎当千を超える力を持っており、戦場に君臨するだけで勝利を与える、最強の力。
 その最強の力を身に宿し、心置き無く力を出す時、世界は平和への道を辿るだろう。


「鬼武装……ふふっ……ふははははっ!いいぞ、ますますキミを欲しくなった。早くキミを手に入れたいよ」


 科学者として、コイツは正解なのだろう。探究心を追い求めている良い姿だが、やることを間違えている。命を犠牲にしていい理由なんて、あってはならない。


「3号機、お前の人間の時の名前はなんだ。是非とも教えてはもらえないか?」


「アルラルテ・ビーサ」


「ビーサか。いい名だ。オレの名において最大の敬意を払い、お前を倒す。せめて、あの世で幸せになれよ」


「うるせえ!!」


 鬼の力を断片的にしか受け取っていないビーサは、鬼と一体化したオレには及ばない強さ。それを分かっていない彼女は、攻撃に全神経を捧げている。可愛そうではあるが、彼女はもう手遅れだ。
 せめて、早く楽にしてあげよう。


「我が魂を喰らえ、悪しき鬼たちよ。そして、力をもらい受けよう――全てをッ!! 邪鬼殲滅じゃきせんめつッ!!」


 右拳に力を込め、腰付近で力を溜める。身体を捻り、一気に前へ拳を突き出す。一撃必殺の破壊の拳。この拳を受ける者は、誰一人としていない。


「ほう……防御の上から力でねじ伏せる力か。鬼化ワクチンを打った3号機ですら、勇者には届かない……2号機が逃げ出さ無ければ、倒せたはずだ。忌々しい勇者だ――」


 ビーサは両手を交差させ、防御の型を取るが、オレの拳を受けた瞬間に崩れ、吹き飛ばされる。
 殴った感触からするに、当たった部分は骨が折れ、早急に処置をしないと一生治らない可能性もある。だが、もう構わない。
 薬漬けの身体では、寿命も尽きかけ。いつ死んでもおかしくない……だから、殺せた。なりふり構わずに殺すのはやめた。


「さてと、ビーサはもう虫の息だ。次はお前が相手なんだろ?」


「この私直々に手を下すことになるとはな」


「お兄ちゃん!!」


「アリス!?」


 全員避難が完了したはずなのに、アリスが駆けつけてくれた。
 アリスはオレの前へと立ち、小さなナイフを構える。
 普段なら嬉しいが、何かが引っかかる。純粋に助けたいと思い、ここに来たのならいいのだが、ここに来る意味がない。それに、助けるのならば、独りだけで来るはずがない。
 ――何かがおかしい。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「状況はオレ優勢だ。助けは不必要だ。今すぐここから離れてくれ。お前の力は不要だ」


「そう……だよね」


 アリスを信じたい気持ちは山々だが、悪い予感がする。何が違うんだ。いったい何が引っかかっているんだ。


「お兄ちゃんは相手を誘って。アリスがとどめを刺す」


「…………」


 気づいた。
 アリスがオレよりも前に居る。それがおかしい。アリスはいつもオレの隣に立って、同じ道を歩もうと頑張っていた。
 それに加え、先程の発言。アリスなら逆を提案するはずだ。攻撃力はオレの方が高いと理解しているのなら、自らをおとりにした方が勝算はある。
 今いるアリスは偽物だ。


「何、してるの……お兄ちゃん」


「それはこっちのセリフだ。お前は誰で、なんの目的がある」


「ごめんね……お兄ちゃん」


 アリスは霧となり消え、オレの背後へと回り込む。そして、ナイフを思い切りオレの肩へ突き刺す。


「お前……がはっ! はあ……はあ……騙したな。急所は避けたが、致命傷に近いな」


「2号機、ミスをするなとあれほど言ったはずだが?」


「ごめんなさい、マスター。次は必ず」


 アリスの行動を見て確信する。アリスもビーサと同じ、人造勇者。不可解なことだらけで、整理するにも時間がかかる。今はアリスを倒し、謎の男を倒す。それだけに集中しなくてはいけない。
 アリスに騙され続けていたことに対して心にくるが、今は――敵として見るべきだ。


「2号機、お前も消耗品だ。もう用済みだ。存分に暴れて――死ね」


「マスターのご命令とあらば……!」


 ビーサと同じように首元へ注射し、力が倍増されていく。見ていて怒りが湧いてくる。
 裏切られたことにもだが、薬というドーピングをして戦おうとしている姿勢に。


「お前だけは容赦なく殺せそうだ。覚悟しろよ、アリス……」


「それはアリスのセリフだよ」


 アリスの弱点は沢山ある。例えば、攻撃力が欠けていること。全てを帳消しにするほどまでの攻撃力。技術面でカバーしているが、それでも足りていなかった。
 他にも沢山あるが、アリスの弱いところを1番警戒しなければならない。
 鬼化したことにより、全能力が桁外れに上がっているはずだ。だからこそ、弱いと思い切り捨てる戦術は足元をすくわれる。


「一撃で終わらせる。剛腕爆砕ごうわんばくさい――壊れた理想郷ブロウクン・ヘブンッ!!」


 長期戦はアリスの専売特許と言えるだろう。地道に削り、一瞬の隙を突くスタイル。ならば、早めに手を打つのが最適解。
 そう思い、全ての力を握りしめぶつけた一撃が、容易く受け止められた現実を受け止められない。


「お兄ちゃんの全力はこんなものじゃないよね? ありったけをぶつけて?」


「そのつもりだ、受け止めろよ……オレの全てをッ!!」


 打つ手なし、と考えるだけ無駄だ。今ある力、今ある技術、今ある何もかもを考え尽くせ。必ず勝機はあるはずだ。オレに残された時間はそう長くはない。もって5分が限度だろう。
 その時間を超えると、オレがオレでなくなる。


「力技じゃ無理……ならば、これならどうだッ!!」


 魔法が使えないオレにとっては、力と技術だけで戦うしかないが――鬼武装の今なら使えるかもしれない。
 炎をイメージし、さらにそこから、自由に飛んでいくイメージをする。
 頭の中で想像し、創造する。


鬼燈籠おにどうろうッ!!」


 オレの周りに鬼の顔の形をした火の玉が、ふわふわと浮遊している。魔法が使えなくとも、鬼の力を借りれば少しだけは使えるようだ。
 これだけあれば足りる。アリスに届く。


「お兄ちゃんだけじゃ、アリスには勝てないよ。絶対に」


「そうだな、オレだけならな」


「どういうこと?」


 鬼燈籠を複数操り、アリスの動きを制限していく。ひとつひとつは弱いが、次々と来る攻撃には対処に専念になり防御に徹する。反撃の隙を与えることを許さない圧倒的なまでの攻撃だが、神経を使うため、長時間は不可能になる。
 そのため、早急に手を打たなければならない。


「はあッ!!」


 鬼燈籠を避け軽く飛んだところを確認し、攻撃を仕掛ける。宙に浮けば回避性能は落ちる。
 しかし、拳が当たる直前に霧となり消える。


「だからお兄ちゃんじゃアリスに勝つどころか、攻撃すら当てれないよ?」


「そうでもないさ。お前が攻撃する間は霧になれない。そこを狙えば行けるぞ?」


「でもねお兄ちゃん。アリスはもう、鬼の力を手に入れたんだよ? 甘く見ないで?」


 背後から姿を現したアリスは既に攻撃態勢に入っている。ここから霧になることは出来ないと思い、握り拳を振るうが、消える。それと同時に頬へダメージを受ける。
 予想通り、体の一部を実体化させた状態で、他の部分を霧のままにさせることを可能としていた。
 アリスの攻撃は届くがオレの攻撃は意味を成さない。


「さよならお兄ちゃん。アリスの唯一のお兄ちゃん――」


「生憎とそう簡単に負けるわけにはいかないんでな。諦めなければ必ず勝てる。オレはそう信じてる」


「無駄だよ?」


 先程同様鬼燈籠で相手を錯乱さくらんさせ、油断したところを突く。
 また攻撃が当たる寸前に消えようとするが異変に気づいたのか、防御の構えをとった。
 オレの拳がアリスへと届いた。もう、逃さない。


「これは――氷?」


 白い冷気を漂わせ、アリスは霧になることを封じられていた。それもそのはず、アリスの身体は急激に冷やされ、凍りついているからだ。


「ボクを使うとは、勇者も落ちたものだな。彼女を殺すならボクの力無しではきついのは分かるけど」


 突然聞こえてくる声に驚くのは、敵の二人のみだ。やっと協力してくれる気になったか、あのバカが。


「お前は……アイン・クロセルッ!?」


「何を驚いているのさ。学園の危機にボクが出ないわけがないだろ? 当たり前のことを言わせるなよ」


「遅かったじゃないか、生徒会長さん」


「勇者様にあれほどバカにされて、出て来ないわけには行かなくてね。アリスを止めるには手っ取り早いボクの力が必要と言ったな。この貸しは大きいよ?」


「安心しろ。これが終わったらお前の願い――オレとの戦いを実現させてやる。油断して殺られるなよ」


「それはこっちのセリフですよ――勇者様」


 危機に突如現れた生徒会長――アイン・クロセル。
 彼の登場で戦況は一気に引っ繰り返るッ!

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