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閃雷の元勇者

しにん。

15話 始まりの日

 人造勇者の戦闘ステータスを見る限り、オレと互角かそれ以下。筋力もオレ以下。
 様々な点を見てみると、勝ち目は十分にある。あとは、オレのデータを元に造られているという点が気になる。
 人間を超えた存在、つまりオレと同じ鬼になる可能性が捨てられない。


「行っくよ!!」


「来い……偽物ッ!!」


 やはり、人造勇者コイツは弱い。
 幾度として命を懸けて戦ったからこそわかる、経験による予測。
 人造勇者も武器を持っておらず、同じ素手。戦いが決まるとすれば、それは、力と経験の差。
 だったら話は早い。剣以外の技術も習得させられたオレには、武器が無かろうとも戦える。


 人造勇者の攻撃は単純だが、ひとつひとつが丁寧で、見た目からは想像ができない攻撃を仕掛けてくる。
 右のストレートと同時に足払いを仕掛けてくる。本当に無駄のない動き。
 しかし、オレには通用しない。


「なんで、なんで、なんで!! なんで攻撃が当たらないんだ!!」


「いつまでやってもお前の拳はオレには届かないと思うぞ? 大人しく諦めて、捕まれ」


「嫌だ! もっと、もっと戦うんだ!!」


「……戦闘狂か。厄介だな」


 徐々に怒りが見えてきた人造勇者を他所よそに、オレは意識を別のほうへと向ける。
 避難は無事に進んでいる。よし、ならば集中ができる。


 オレ1人で足止めをすることによって、観客の避難へと手を回しやすくさせる。
 そもそもの狙いがオレへの復讐のため、他の者への危害は無いとは思うが、念には念を入れておく必要がある。
 また、調子に乗って出てくるやからも今のところはいない。
 ならば、好都合。鬼の力を解放した所で、誰も傷つかなくて済む。


「なんでだよお………なんで、当たらないんだよ!!」


 人造勇者の目尻に少しずつだが涙が溜まっていた。
 太陽の光を浴び、綺麗に光って見えた。
 戦いたいのに、相手がその気にならない。自分ひとりだけが寂しく遊んでいる。そんな事を考えているのだろう。


「こっちの避難は完了した、存分に暴れたまえ!!」


 国王陛下の声が聞こえる。
 全員の避難が終わったということで、やっと本気を出せる。
 一応辺りを見渡し、人がいないことを確認して、右近と左近を取り出す。


「オレにしっかりと付いてこいよお前ら。振り落とされるなよ」


「主のためとあらば、全力でフォローさせてもらいます!」


 本当に頼りになる2匹だ。
 感謝しながら、小太刀へと姿を変えた2匹を握りしめる。


「お前、オレと戦いたいんだろ?」


「当たり前じゃないか……戦いだーいすきっ!」


「だったら、圧倒的な力の差を前にしても同じことが言えるか――楽しみだ」


「心が折れるわけないね! 戦えればそれでいい。勝敗なんてどうだっていい!!」


「……悲しい人生だな。鬼――解放ッ!!」


 額から一対いっついの角が生え、辺り一帯の空気が重くなる。空を自由に飛ぶ鳥達も、鬼の力を前に逃げ惑う。


「お前ごとき、一段階目だけで力の差は開くだろうな。感謝しろよ、お前が望んだ通りになっていることに」


「最高だよ……本当に最高だ。私の人生でこれまで強い相手は初めてだよ……いいねえ。たぎるねえ」


 目の前の力を見ても、人造勇者は退くどころか逆に興奮し始める。
 戦いを心の底から愛している人物にしか共感できない、その感情。オレには良くわかる。
 そして、自分よりも強い者と戦う時、満足なぐらいの高揚感で埋め尽くされる。
 やはり、オレを元にして造った勇者だ。よく似ている。


「人造勇者、お前は鬼の力は使えないのか? 奥の手ぐらいあるだろ? さっさと使わないと、すぐに終わる」


「うるさい!!」


 少し煽ると、簡単に挑発に乗ってくれる。
 人造勇者と言えど完璧ではないようだ。メンタル面が未熟すぎる。
 人造勇者の攻撃を容易く避け、小太刀の柄頭つかがしら峰打みねうちをする。
 あっさりと倒れ、人造勇者には失望する。


「お前にひとついいことを教えよう。戦いにおいて大事なものは、力だ。数で攻めようとも、個の力が強いと対抗できない。例外はもちろんある。数で攻める時、数人でも平均より強い者を用意するだけだ。ってまぁ、こんな事だから、戦いは力こそ全て。相手よりも劣っている時点で最初から負けは確定だ」


「負ける、もんかあ!!」


 起き上がろうとする人造勇者を踏みつけ、それでもあらがおうとするバカを見て、昔の自分を思い出す。


「てめぇはバカだ。大人しく負けを認めろ。お前じゃ一生オレには勝てないぞ!」


「勝てない……勝てない……勝てない……勝てない……」


 呪文のように何度も何度も呟き始め、抵抗は無くなる。いや、抵抗を一時的に止めた。
 再び動き始めると、押さえつけていた力を跳ね返し起き上がる。
 魔力暴走――いや、違う。先程から不自然なほどこいつから魔力を感じない。
 だったらこの力はなんだ。


「やっと我らのステージは次へと行けたようですね」


 暗闇から聞こえてくる拍手に目をやると、仮面で顔を隠しさらに黒いハットを被っている男が現れる。力を見定めたくても、黒いマントで全身を隠している。


「お前が今回の敵の主将ってところか?」


「初めまして、勇者。私は観察者。彼女の保護者的な者、とでも言いましょうか。それで、どうですか、彼女の強さは。弱いですか?」


「オレに言わせると、こいつはゴミも同然だな。本気を出さずとも簡単に勝てる。こんなものを造り出してお前らは、いったい何が目的だ」


「我らの目的はひとつだけです。あなたの抹殺ですよ。かつての鬼のように――」


「鬼……まさか、オレの親を殺したのは――!!」


「キミは勘が鋭いねえ。そうさ、キミの母親が鬼だと広めたのは他の誰でもない、私達だ」


「貴様ァ!!」


「感情的だな、だがそれも悪くない。人間くささが残っていて、私達は感激さ」


「何故だ、オレの親は……何故殺されたッ!!」


「決まっているではありませんか。私達の研究材料である彼女は――あの忌々しい鬼が逃げ出したからですよ」


「何を……言っている……?」


 謎の男の言葉の意味が理解できない。
 研究材料? 逃げ出した? いったい何が。


「久しぶりの再会ということで、キミの記憶にない物語を話しましょうか」


 男から語られる物語は、どれも信じがたいものだった。いや、信じたくなかった。
 心のどこかで信じることを、拒んでいた――


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぐぁぁああ!!」


 私が目を覚ますのは、いつだって痛みによるものだった。
 身体は実験体ということで、様々なことを試された。
 腕を切られたり、皮膚を焼かれたり、潰されたり。それも全て、鬼の実験だった。


「ふむ、なるほど。やはり、鬼の再生能力は桁外れだ。だが、傷つける度に回復速度は落ちているな」


「ドクター、実験は成功なのですか?」


「ああ、鬼の生態調査は順調に進んでいる。流石は鬼化ワクチンだ。私の実験は最終段階に近い」


 ベッドで横たわる私を他所よそに、目の前の白衣の男たちは何かを話している。
 ここに来た理由も、経路も、何も記憶が無い。
 ただ覚えていることは、私は無力であるということだけ。


「鬼化ワクチンは無事に成功、ですか。やっと我々の悲願である、世界の平和が訪れますね」


「長かった。本当に長かった……」


 白衣の男は小さくガッツポーズをしている。何かを喜んでいるように見えるが、全くわからない。
 本当に……分からないことだけしか分からない。


「おい、試作1号、次は戦闘の調整だ。お前には働いてもらうからな」


 試作1号。それが私の呼ばれ方だった。特に疑問はなく、私はその名前を受け入れていた。他に呼び名がなかったから。
 大人しく命令を聞き、私はベッドを降りる。
 その際に自分の服装を見てみると、白い布1枚で全身を覆っており、所々に赤い何かがこびり付いている。初めて見るものだ、なんだろうこれは。


「さっさと来い」


 白衣の男からの命令に何となく従い、私は別の部屋へとやって来た。
 壁や床、天井は、すべて白く、この空間の大きさが把握出来ない。いったいここで何をするつもりなのだろうか。


「試作1号、お前にはコイツの相手をしてもらう。まだコイツも試作段階だが、これを倒せないのではまだまだ改良が必要になる」


 白衣の男の後ろには、巨大な動物らしきものがいた。
 ライオンの頭と山羊の胴体、そして毒蛇の尻尾。大きさとしては2メートル弱ぐらいだろうか。


「鬼の力を解放する、我慢しろよ」


 首をかしげると、首元に激痛が走る。


「ぐぁぁああ!!」


「騒ぐな、静かにしろ」


 男の手には注射器が握られていた。中身は空になっている。


「これは鬼化ワクチンだ。お前に埋め込んだ鬼の力を増加させ、鬼へと変化させる」


「お……に……?」


 その瞬間、額から謎の違和感を感じ取る。
 気になり触ってみると、額から立派に伸びる一対
 《いっつい》の角が生えていた。記憶が無い私でも常識ぐらいはある。人間にはこんなものは無い。
 現に、目の前の白衣の男の額にも、角は生えていない。


「それじゃ戦闘を始めてもらう。やれ、キメラ。お前も実験体として成果を上げてくれよ」


 キメラと呼ばれた動物は、この世のものとは思えない雄叫びを上げる。
 あまりの大きさに耳を塞ぎ、縮こまる。


「何してる。はやく戦え」


「え……?」


 何も持たずに戦え、と命令された。
 戸惑う私を他所に、キメラはこちらへ突っ込んできている。
 大きな鉤爪かぎづめで私を切り裂こうとするのを避け、私は走って逃げる。
 通常の人間であれば追いつかれ殺されるが、不思議と力が湧いて出てくる。
 キメラとほぼ同じ速度で走って逃げることが出来る。


「筋力は申し分ない。体力もある。あとは攻撃力だな」


「いや、いや! こないで!」


 必死に逃げるも、足が言うことを聞かずに転んでしまう。その隙にキメラは詰め寄り、殺さんとしている。口からはみ出した牙は鋭く、威圧感で殺されそうになる。


「能力が高くとも、精神的に弱い……か。これはもっと研究しなくては」


「やめて……やめて!! こないで!!」


 私は命乞いをするが、言葉が通じる相手ではないため、待つ素振りすら見せてこない。
 どうすることも出来ない私は、手をバタバタさせ、生きるために思考していると、いきなりキメラの方から大きな音が立ち、倒れ込んだ。
 何事かと思い見てみると、キメラの首は落とされ死んでいた。


「……え……?」


「まさか、手で風を作り出しカマイタチにするとは……さすがは鬼と言ったところか。戦う気になれば、勇者と互角に渡り合えるか」


 白衣の男は満足したのか、口角が上がり笑い始める。
 やがて笑い止むと、私をあのベッドへと戻るように指示される。
 こうして、私はまた眠りにつく。


 死んだように眠っていると、肩を揺らされ起こされる。


「試作1号……今のうちに逃げるぞ」


「どう……して?」


「ここにいては、キミはいずれ消耗品として消えていく。だったら、キミはちゃんと人間のように生きてほしい……!」


「貴方は……誰? どうして私を助けるの?」


「オレの名前は、オーラス・タイガだ。キミの人生を滅茶苦茶にした償い、オレにさせてくれ」


「どういう意味?」


「キミは本当は普通の人間だ。まだ小さかったキミを誘拐して実験体にしたのは、他の誰でもない……オレだ。だから……だから……!!」


 私は特に拒否する理由もないため、タイガと名乗った男とともにこの施設を出ることになりました。
 と、言っても私には外の世界は分からない。


「しっ、誰か通る。身を隠そう」


「うん……」


 物陰に隠れ、誰かが通り過ぎるのを待つ。すると、通り過ぎる男から偶然話し声が聞こえてくる。


「試作1号が消えただと!? この施設から出られるわけがないだろ。すぐに探せ――何!? タイガ博士も消えた? しかも龍化ワクチンを持っていかれただと……アイツめ、よくもやってくれたな」


 そして、男は走ってどこかへ行ってしまった。


「ちっ……案外バレるのが早かった。先を急ごう」


「急ぐって……道はわかるの?」


「安心しろ。この日のために前から準備段階は完璧に終わらせている。あとは、実行するだけだ」


 私は手を引かれ、走った。何処に行くかも分からずに――ただ、ひたすらに走った。
 やがてタイガの足が止まり、私も止める。
 目の前には大きな扉が立ちふさがる。


「この施設を出るためには、ここを通らなければならない。出口はここしかないからな」


「そう、なんだ」


「もちろん、オレはこの施設から数年は出ていない。最後に出たのは、お前を誘拐した時だ。オレにはここを出る資格がないんだ」


「どう、開けるの?」


「力づくで開けるさ。少し離れていてくれ」


 タイガの言いなりになり、私は近くにあった物陰へと移動する。
 何をするか好奇心のあまり見ていると、ポケットから注射器を取り出した。
 あの注射器には見覚えがある。私へ打ち込まれた鬼化ワクチンと呼ばれているものとそっくりだった。ひとつだけ違うとすれば、注射器本体の色が違うこと。


「鬼が出るか蛇が出るか……知ったことか!」


 ブスリ、と音と共にタイガの首元に注射器が思い切り突き刺さる。
 声にならない叫びをあげ、タイガの腰付近から尻尾が生える。
 私の鬼とは違う、何かの力を手に入れている。


「封印全解除……龍王の降臨テュポーンッ!! 我が身を喰らい尽くせッ!!」


 腕は黒く変色し、鱗のようなものが出てくる。そして、髭が2本とても大きく伸び、背中から羽が生える。
 まさしく、伝説上の生き物の龍だった。


「こじ開けるぞ……」


 息を吸いこみ吐き出すと、台風のように強い風が渦巻き、一直線に扉へと向かう。
 激しい音とともに扉を破壊し、外から光が差し込む。初めて見るような、綺麗で暖かい光だった。


「ここを抜ければ自由だ。さぁ、オレと一緒に逃げよう」


「そうはさせるか!!」


 突然の声に驚くと同時に、パンッ!と乾いた音が響く。タイガから勢いよく血が吹き出て、倒れ込む。


「やっと見つけましたよ、裏切り者のタイガ博士」


「はぁ……はぁ……早く逃げるんだ、試作1号……!オレを置いてキミは……自由になるべきだ!!」


「捕らえろ、絶対に逃がすなよ」


 白衣の男の連れにより、タイガは拘束される。
 拘束される際に、銃で撃たれ先程よりも血をたくさん吐き出していた。


「試作1号には気をつけろ。コイツは完璧ではないが、オレらではまともに相手はできない。麻酔銃で仕留めろ」


 合図とともに私も麻酔銃で眠らされる。
 それから目が覚めると、知らない場所へ来ていた。起きる時もいつもとは違う。痛みによる目覚めでは無かった。


「やあ、お目覚めかな。気分はどうだい?」


「貴方は……?」


「私の名前はシン。キミらの殺す対象の人物と言えば分かるかい?」


「わからない。私は何も聞かされていない……」


「ふむ、そうか。何も聞かされていないってのは、本当かい?」


「ああ。少なくとも、オレらの計画ではまだ伝えていない。試作段階の彼女が戦場に行けるのはまだ先だと予想されていたからな」


 後ろから聞こえてきたのは、タイガの声だった。
 いったい何がどうなっているのか、状況の把握が全くできない。


「おや? 先程からキョロキョロと周りを見て、どうかしたのかい?」


「あの施設は……傷は……!?」


 あれだけ血を吐き、死にかけだったタイガも今はピンピンとしている。それどころか、傷すらない。
 おかしい。全てにおいておかしい。これは夢なのではとさえも考える。


「そのことはもう安心したまえ。私が全力を持って阻止した。傷も治した。もうキミたちは自由の身さ」


「貴方は、いったい何者――」


「おっと、それ以上は禁句さ。知って得することなんてない」


 シンは姿を消し、タイガと私だけが残る。
 すると、タイガは真剣な表情になり、私へと近寄ってくる。


「無事でよかった。それでなんだが……キミを助けた理由があるんだ。その……なんだ……一目見た時から貴方のことが好きになりました。結婚……してください!」


「私でよければ」


 短い返事だったが、私達ははれて夫婦となった。
 身を隠すため、山奥の里のさらに奥に家を建て、ひっそりと平凡に過ごすことになった――


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お帰りなさいませ、ご主人様。結果はどうでしたか?」


「上々だ。私が見た未来をきちんとなぞり始めている。来る時が早く来ることを願い続ける……」


 シンは静かに笑い、未来を視る。
 その未来は、天国か地獄か――

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