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閃雷の元勇者

しにん。

11話 魔力暴走

「ライガ様、頑張ってください。このレティが心より勝利をお祈りしますわ」


「お兄ちゃん、ふぁいとー」


「……ありがとうよ」


 こうして応援されるのも悪くない、と考えながらオレの戦場へ登っていく。
 目の前には、腕を組み仁王立ちをして待つハンズネット。風格が彼の強さや全てを物語っている。


「初めましてかな、転入生。クラスで見ることはあっても話す機会が無くてね」


「そうだな、初めまして。せめてオレの名前だけでも心に刻ませてもらうぜ?」


「随分と自分勝手なのだな。ふっ、ならば、その名を刻んでみせよ!」


「序列13位、カイン・ハンズネット対、噂の転入生、オーラス・ライガ。試合、始めッ!!」


「――面白い」


 ハンズネットは魔力を体外へ放出し、黒い魔力で全身を隠し始めた。目くらましと予想していたが、すぐに正体があらわわになる。


「これが究極の強さ……暗黒騎士の鎧ディザスターの錆となるがよい」


 ハンズネットは1度も見たことがない力を見せつけてくる。鎧で全身を守り、威風堂々を表した姿。さらに、胸を張り自信満々のため、強さがにじみ出ていた。


「では参るッ! 」


 鎧の擦れる音を立てながら、黒い剣をオレへと振り回す。
 ひとつひとつの動きに無駄があるものの、それらを掻き消す程の剛腕。1度でも攻撃が当たるならば、負けが確定だろう。しかし、鎧で動きにくい分、機動性はこちらに有利と言える。


「魔法がいいだけに、その強さ身に余るんじゃないか? もっと上の段階に――行きたくないか?」


「ほう……我に魔法の使い方を教えようというのだな?」


「と言っても、少しだけだ。わずかなアドバイスだけで成長するかは、お前次第だ」


 ハンズネットが振り下ろした剣を小太刀で受け止め、がら空きの腹部へ蹴りを入れる。普段、小太刀以外では攻撃しないが、小太刀だけでは攻撃ができないと判断した。両手は防御へ専念し、使える部分が限られている。
 カイン・ハンズネット……彼は本当に戦闘狂だ。


「ひとつ教えよう。お前の剣にはなにも乗っていない。軽すぎる。誰かの希望を乗せれないなら、せめて殺意ぐらいは乗せてみろ」


「殺意、か。いいだろう。殺させてもらうぞ、転入生――」


 顔つきが変わった。学生のうちに殺意を扱える者はそういない。それこそ、本当に人を殺した者でなければ不可能と言えるだろう。殺意を扱えるハンズネットは、人をあやめたことがある。それも、慣れるほど。
 オレと同じ土俵に立てる者がいることに驚いた。


 戦う相手によって戦法を変える戦い方は、全ての武器を使えてからこそ対等に戦える。ひとつの道を歩んできた相手を負かすことは、容易ではない。
 完璧な万能能力者パーフェクトオールラウンダーは、全ての分野を習得する。もちろん、たゆまぬ努力もあるが、才能が必要とされる。


「攻撃が鋭くなったな。いい感じだ、ハンズネット」


「感謝する。これほどまで力を出せる相手が居ることに。しかし、悔しいな自分より強い相手がいるというのは……」


 足元から無数の黒い針のようなものが出てくる。ひとつひとつがオレを串刺しにしようと、数え切れない針が向かってくる。
 全てを斬り、難を逃れる。あと数秒気づくのが遅かったら軽く負けている。


 オレは剣に気を取られ、他の攻撃方法の可能性を除外していた。甘さがまだ残っているのだろうか。
 それとも、身体は相手を下に見すぎているのか。それは定かではないが、もしそうなら、気を引き締めなければ、この試合には勝てない。
 早めの決着が好ましい。


「生憎と、オレの特別授業は終わりだ。楽しかったよ」


「ぐああああ!!」


 攻撃の主導権を獲得したオレは、一気に終わらせるため、ハンズネットの片腕を切り落とす。
 これにより、戦況はオレが優勢となる。本当はもっと戦いたいが、これ以上やると、彼の成長速度が早すぎるため勝つのが困難になりかねない。


「ハンズネット選手、片腕を失ったァ!!これは試合終了か!?」


 観客からの応援や歓声、様々な声に場は盛り上がる。
 中には、ついつい立ち上がる人も居た。それほどまで、この試合を見て楽しんでいるのだろう。
 ほぼ戦意を失ったハンズネットは、片膝をつき息を荒らげる。身体はボロボロだが、目だけは死んでいない。


「我より強者だと認めよう――」


「……どうしたハンズネット……?」


 普通なら気づかないが、鎧からカタカタと音がする。震えているのだ。
 怯えている……? いや、彼が何に怯える必要がある。ない。
 なら、何故? なにが――


「おっとぉ、ハンズネット選手一体全体どうしたのでしょうか。小刻みに震え始めました。だ、大丈夫でしょうか!?」


 その時、心臓に強い衝撃。何かが、来る。
 本能がそう叫んだ。今まで経験したことがない恐怖。初めての感情。全てが溢れ出る。


「主様、しっかりしてください。落ち着いて……落ち着いて!」


「左近、お前はこの力何か知っているか? オレは知らないんだ」


「これは恐らくですが、情緒不安定の時に起こりうる魔力暴走と思われます。早急に対処しないと、回りどころか彼自身に何らかの後遺症がのこる可能性があります」


 魔力暴走――普段、魔力は意図的に操作しており、形質変化や能力上昇、生成など様々な事に活用でき、種類こそ豊富だが万能と言える。
 しかし、代償も無くはない。意図しない事での魔法の使用。――つまり、暴走。
 情緒不安定な時に起こりやすく、自我を失う。


 魔力暴走と呼ばれているが、一部では見喰いとも言われている。その名の通り、時間の経過につれ魔力が身体をむしばむ。蝕まれた身体は、死への道をただただ辿るだけしか道はない。
 今、ハンズネットの不可思議な現状が、魔力暴走なら早めに手を打たないと、いくら戦闘体といえど取り返しのつかないことになる。


「シン――見ているなら出てこいッ!!」


「状況は把握している。これは魔力暴走で間違いないね」


 突然現れた賢者に、観客たちは黄色い歓声をあげる。
 事の重大さに気づいている者は誰ひとりいない。徐々に魔力が膨張していても、固有結界の外では、何も感じられない。


「魔力暴走の対処法はどうするんだ。オレは何をすればいい」


「普通魔力暴走をした者は、死か監獄行きだ。監獄は1人で永遠を過ごさなければならない。ライガ、お前ならどうする? 友達を殺すか永遠を閉じ込めるか」


「な、なんだよその選択肢……! 他に、他に手は!?」


「無い、と言うとそれは嘘になる。だが、不可能だと思ってくれ。精神が不安定な彼の精神を安定させる、それが唯一の救う方法と言える。過去に1度も成功した例が無いけどね」


 最後の言葉を聞き、唯一の助かる道も消される。
 過去何度か魔力暴走をした者が居たらしいが、全員が殺されたと聞いた。放っておくと、危険な存在になるため、仕方がないこと。


 分かっているが……分かっているが、それで殺されるのは、あまりにも残酷すぎる。
 特別仲がいいという訳では無いが、どうにかしてハンズネットを助けたい。と、オレは無意識に思ってしまう。助けられないのは重々承知で。


「シン、あれを気絶させれば精神を安定させれるか?」


「まぁ、そういうことになるね。気絶もしくは眠らせる、このどちらかでもしかすると助かるかもしれない。だが、魔力暴走した者は恐ろしく強いぞ? ライガで倒せるかどうか」


「攻撃パターンは読んだ。不安定だとしても、身体に刻まれた戦い方をするだろう。あと問題は、あの鎧をどうするかだが――」


「それはお任せ下さい!」


 ここぞとばかりに、右近うこん左近さこんが狐の姿になり目の前に並ぶ。


「我々は小太刀以外の物にも変化ができます。小太刀であの鎧を壊せないのなら、打撃に特化した武器なら破壊できるはずです。あとは、主の腕次第です」


「打撃に特化した……分かった。篭手こてになってくれるか? ハンマーや鉄球でも良かったんだが、オレが扱えるのは体術と小太刀だけだ」


「それでは、左近、貴方は脚の武装を任せましたよ」
「それでは、右近、貴方は腕の武装を任せましたよ」


 互いに声をかけ合い、変化し、オレへと装着される。
 篭手と脛当すねあての様な装備になった2匹に感謝し、遂に暴走を始めるハンズネットの方を向く。
 すると、空からピキピキと何かが壊れる音がする。気になり、空を見てみると、固有結界にヒビが入り始めていた。


「固有結界が……壊れる!?」


「固有結界一筋の生徒のを破るとなると、相当な力だね。私の方も固有結界を張れないか、色々とやってみる。時間はかかると思うが」


 固有結界が壊れるとなると、本当にハンズネットへの危険が迫ってきている。下手に力を加減すると皆が危険になり、逆に力を入れすぎるとハンズネットが死ぬ。力加減が要求される。


「シン、援護は出来るか?」


「固有結界を張りながらもギリギリだがいけると思う。だが本当に微力だぞ、それでもいいなら」


「――助かる。ありがとう」


 拳を握りしめ、気絶するレベルの力で顎へアッパーを喰らわせる。
 ハンズネットはふらつき、片膝をついた。


 ――いける、このまま押せば――


 背後から黒い針が突然現れ、再度オレを貫こうと向かってきた。絶妙な位置と時間、設置型の魔法と思われるが、正直オレでは真似ができないほど精密だ。これ程までの技術を持っているなら、頂点へ登れそうだが……。
 そんなことを考えているうちに、ハンズネットは暴走する。


 大剣を作り出し、大きく振り下ろす。篭手で防ぎ、鳩尾みぞおちへ強力な打撃。大抵の人間ならば、これだけで意識を失うか倒れる。
 それでもハンズネットは倒れない。余程身体を鍛えている証拠だ。


「鳩尾でもダメとなるとどうするか。人間の急所に衝撃を与える、これしかないか」


 大剣を持ち上げ、ハンズネットはこちらへ投げ飛ばしてきた。速さこそあるが、避けれない速さではない。
 無理やり身体を回転させ避けると、大剣は観客の方へと飛んでいく。


「しまっ――」


 観客の方へ真っ直ぐ飛んでいく大剣。今の固有結界の状況から判断するに、あの大剣が当たると壊れる。原型こそ留めているが、所々にひびが入り、少しの衝撃でも壊れるだろう。


「こっちは任せたまえ!」


 大剣を防御魔法でしのぎ、観客を守るシン。普段頼りないところがあるが、いざという時は頼もしすぎる。賢者の名は伊達じゃない。
 シンのお陰でハンズネット以外のことは考えなくて済む。どうやらどうにか出来そうだ。


深海の眠れる龍アビス・ドラグーン……深海の覇者ネプチューン


「なんだこの力は――」


 ハンズネットから溢れ出る闇の魔力は、2つの剣へと収束されていく。何処までも黒く暗く。見た者を引き込む深い闇。


「主、本当に剣相手に拳でいいんですか!?」


「安心しろ、どうにかなる。それに、お前らの強さを信じてるからな」


「――主」


 さらに溢れ出る魔力によって、固有結界が崩壊する。
 異常を感じ取った実況者は慌てて観客の避難を指示する。その言葉も虚しく、観客のボルテージは最高潮。実況者の声は観客の耳には届かない。


「ぐああああああ!!」


 喉が潰れるほどの苦しい声をあげ、自我を失い始める。このままだと間に合わなくなる。


「ライガ、タイムリミットはすぐそこだ! 一刻も早く彼を助けるんだ!」


 シンの言葉でオレの足は動き始める。
 助かる可能性はほぼ無い。そう言われても構わない、オレはオレの成すべき事、出来ることを命を懸けてやり遂げる。
 例え、可能性がなくとも、助けてみせるッ!


深海龍の憤怒アビスシュトロームッ!!」


 黒い魔力が龍へと成り、激流の如く会場を飲み込んでいく。凄まじい威力に腰が抜けそうになるが、逃げるわけにはいかない。


「――左近、魔力でオレの身体能力を上げることは可能か?」


「も、もちろん可能です。しかし、どうなさるおつもりですか?」


「まぁ、見てな。一瞬で終わらせる」


 身体能力上昇ブースト、その名の通り身体能力を一時的に上昇させる魔法。自分自身へ効果をつけることも可能だが、他人への付与も可能。
 その魔法を使い、一気に近づきぶん殴る。大雑把にも見えるが、人を気絶させるならこれが最善と言えるだろう。


「――右近は右手に魔力を集中させてくれ。お前とシンの魔法を重ねて鎧を壊す」


 これが成功するかは、オレ自身も分からない。きっと神すら知らないだろう。
 今ここで歴史を変える、大きな一手。
 過去は上書きされ消えていくもの。なら、オレが上書きしてやろう。


「束ねる神々の力。全ての力を使い果たす時、我が命を削れ。覇王の拳オーバーロードッ!!」


 吹き荒れる風、そして、滲み出る血。
 あらゆる痛みが全身走るが、感情を押し殺し拳を握る。
 脚に力を入れ跳躍すると、真っ直ぐにハンズネットへと飛んでいく。バネのように勢いよく飛んでいき、瞬く間にたどり着く。


「一閃ッ! 撃滅ッ!」


 振り下ろされる剣をかわし、ハンズネットの横を取る。
 そこから再度飛び上がり、耳の裏の突起した骨めがけて拳を突き上げる。
 流石に右近だけの魔力では鎧を破る事は出来なかった。


「――シンッ!!」


身体能力上昇ブーストかける身体能力上昇ブーストッ!!」


 シンの援助により、鎧を破壊する。そして、オレの拳がハンズネットへ届いた。


「いっけえええええ!!」


 ゴンと鈍い音が響くと、ハンズネットはフラフラと千鳥足になり、倒れ込む。魔力が収まっていくのを見て、成功したと実感する。


「ライガ油断はするなよ。まだ暴走する可能性がある。麻酔をかけるからそこをどいて」


 急いで駆け寄ってきたシンは、魔法でハンズネットを眠らせる。この処理を行ってこそ、本当の終わりだろう。


「まさか打撃で気絶させるとは、手荒な真似をするねえ」


「まぁ、な。あぁでもしないと、ハンズネットは死ぬか苦しみ続けるだけだ。死ぬよりマシだろ?」


「ぼ、暴論だね〜。こんな子に育てた覚えはないよ……」


「……言ってろ。それより、試合結果はどうなるんだ? 緊急事態だとは思うが、それが気になる」


「安心したまえ、彼が暴走した瞬間棄権扱いになった。決勝杯進出おめでとう、ライガ」


「シンに素直に褒められると、なんか痒くなるな。うん。サンキュな」


 ハンズネットの予想外の強さに惑わされたが、あれは彼本人の力ではない。あの力を使いこなしてこそ、力と言える。ハンズネットが強くなるのは時間の問題だ。


 ともあれ、決勝杯へ進めたことは大変誇らしいと、国王陛下と賢者から、お祝いのパーティーのお誘いがあった。断ることも考えたが、その話を聞いたレティが口を酸っぱくして行くように怒っていた。
 意味がわからなかったが、ここで断ると、後々面倒なことになりかねないため、渋々パーティーへ行くことにした。


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「準備は出来ているか?」


「はい、貴方の命令通り。あとは出るだけになっています」


「そうか、助かる。それでは出発まで休んでおくように伝えておいてくれ。人造勇者には死ぬ気で働いてもらうからな……」


 薄暗い部屋の中、男の低い声だけが響く。

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