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閃雷の元勇者

しにん。

8話 約束と祭り

「それで人造勇者の実力はどうだった」


「特に異常はない。次戦えば全力で挑ませますよ。あの忌々しい勇者を必ずこの手で」


 フードを被った男は掌と拳をぶつけ、怒りを表す。
 それを見ていた研究者は、フッと笑い再び後ろを振り返る。


「人造勇者の今後の発展、期待していますよ。ドクター」


「私に任せておけば必ず量産する技術を生み出す。エースへの復讐はまだスタート地点だ」


「それでは、私はこれで。人造勇者のメンテナンスがあるので」


 フードを被った男は薄暗い部屋から退出していく。
 それを見送り、機械へと没頭する。研究者の前には無数の人造勇者の姿があった。見渡す限りの人造勇者。


「この天才と呼ばれた私ならば……必ずや殺します、エースの勇者よ。さぁ……待っていてください、生き返らせて見せますよ、クイーンとジャックの勇者達……フフッ、フハハハハッ!!」


 奇才の笑いが研究所全体に広がる――




「そこをもっと鋭くだ。手を緩めたら反撃されるぞ」


「はいですわっ」


 特訓を始めた3人は、三つ巴で大人戦闘の訓練をしていた。
 薔薇の鞭を使い、逃げ場を無くす戦い方をするレティは、戦いの最中にアドバイスを貰い即座に学習する。
 霧の中から突如姿を現し、奇抜な作戦を立てるアリスは見違えるほど強くなっていた。転入初日に比べると、強敵とまで呼べるまで成長している。


「ローズロードッ!!」


 茨で辺りを囲い、トンネルを完成させる。逃げ場を1つに限らせると、罠に飛び込むか立ち向かうかのどちらかになる。レティの序列を聞いてはいないが、この強さなら上位だろう。
 そして、よく洗練された十八番おはこの技だろう。中途半端な罠だと突破できると読んだが、寸分の狂いもなく完成されている。
 アリスならば体を霧にし、隙間を通っていけると考えたが、罠にかかったのは生憎とオレの方だった。


「これでチェックメイトですわっ!ローズメイデン!!」


 唯一の逃げ場を塞がれ、太刀打ちするしかない状況を作られる。
 追い打ちをかけるかのように、四方八方から鋭く尖った茨の棘が伸び、体を貫こうとしていた。


左近さこんッ!!」


 右近うこんだけで対処できないと察知し、左近を呼び出す。
 次々と襲いかかる棘を全て斬り刻む。
 数本反応に遅れ、体に数カ所刺さるが致命傷はまぬがれる。


「なかなかいい攻撃をもらったよ」


「嘘でしょ!?あれを全て避けたというのですか!?」


「いや、全てではない。ほらここに傷があるじゃん」


 腕にある傷を見せ、怪我なしではないとアピールするが、レティの開いた口はふさがらない。
 何故ここまで驚いているのか、不思議でならない。


「ローズメイデンは昔の拷問器具である、鉄の処女アイアンメイデンを元にした技ですわ。回避はほぼ不可能で、今までこの技を抜け出したのはそこにいるアリスさんだけですの。それを力ずくで突破されたのは、生徒会長とライガ様だけですわ」


「なるほど、それで驚いていたのか。しかしまぁ、オレに2本目の小太刀を取り出させたのは正直いって凄い事だ。この学園じゃまだ経験不足だが、2本目を抜く相手はそういないはずさ。驚くところは、オレを少しでも本気にさせたってところだよ」


「ライガ様を本気にさせた……それもそうですが、先生が言っていましたわ。ライガ様は魔法を使わずに戦っているのに対して謎があると。魔法を使ってないということは、まだ本気を出していませんわよね?」


 茨の棘ではないが、レティの勘は鋭い。明確にオレの秘密をついている。知らないというのにも関わらず、ここまでオレのことを見ていたとはな。レティ以外にも、先生の鋭さも気になる。要注意人物として、今後気を付けたがいい。


「まぁ、そうだな。オレは魔法が使えないからな。適性がないらしい」


「そうでしたの。気に障ることを言ってしまいましたわ、前言撤回させてくださいまし」


「んー、気にしなくていいぞ。魔法なんてオレには不要と考えて生きているからな。魔法なんかに頼らなくとも、オレは強いさ」


「そうですわよねっ!ライガ様は魔法なしでも充分お強いですわ。えぇ、えぇ!」


「別にそこまで強くないさ……誰も守ることの出来ないこの強さ……」


「それはどういう――」


 会話を遮るように、大きな針が飛んでくる。
 この攻撃は――


「不意打ちとは考えたなアリス。だが、まだまだ足りない」


「ふむぅ……お兄ちゃんアリスの事も見て」


 目の前には複数のアリスが姿を現す。
 霧でできた分身、か。見分けがつかないほど本体と似ていて、全てが本物に見える。


「いつでもかかってこい。オレの全力で応えよう」


 いつもなら死角から攻撃してくるが、今回は真正面から突っ込んできた。3人が同時に来たため、2体は両手に握りしめた小太刀で対処するが、残り1体は身体を無理に捻らせ蹴りを喰らわせる。が、攻撃が当たった瞬間に霧となり消えていく。


「お兄ちゃん、流石」


「今みたいな攻撃だと相手を倒せない。同じ方向から何体来ようとも工夫しない限り、その刃は届かない」


「うん、わかった」


 今の一言で何処まで成長出来るかが課題だ。すぐ出来なくても構わないが、少しは工夫したという経験値が必要だ。柔軟な思考、自分の欠点に気づくこと、この2つを成し得るかで世界が変わるだろう。


「さて、どんな思考をしたかな――」


 先程同様真正面から3体がやって来た。同じように斬りと蹴りで対処する。
 3体処理したと同時に、左右から攻めてくる。
 なるほど、攻撃させずに防御に専念させ、スキを突く作戦か。確かに悪くは無い策だが、奇策は奇策だ。防御に専念した相手を崩すには、圧倒的なまでの力の差か、それこそ本当に特別な何かをしない限り不可能だろう。


「ここからは……私の全力だよ」


「楽しみにしてるぜッ!!」


 死角から飛んできた霧のアリスを斬ると、真反対から飛んでくる。振り返ることなく小太刀を突き刺し、霧のアリスを倒す。倒した後ろからまたアリスが突っ込んでくる。二重攻撃だ。


「いい案だとは思うが、その先はどうする」


「大丈夫、考えてあるよ」


 その言葉通り受け取るのが妥当だろう。考えなしでは、アリスの成長は止まってしまう。オレは別に強くなれなくとも構わないが、アリス自身がそれを許さないだろう。
 次々と襲いかかるアリスを全て斬り伏せ、霧でできた分身は全て使い果たしてしまう。
 目の前には1人だけ残ったアリスが立っている。


「さて、本当にどうするつもりだ?もう分身は消えたぞ」


「見ててね、お兄ちゃん」


 言われた通り目の前のアリスへ意識を向けていると、少しだけ意識が遠のいていくような感覚に陥る。幻術の類だろうか、解除するには何か手段が必要だと聞いたことがあるが、今のオレには出来ない。魔法を使えないという弱点を上手くついた作戦だ。


「幻術とは考えた。だが、それではオレは倒れないぞ」


 その言葉を口にした後、物凄い頭痛に襲われる。これは幻術ではない、と気づくことが遅れたのが敗因になった。
 何も無いところからいきなりアリスが現れ、オレの首を掻っ切っていく。


「戦闘体が活動限界です」


 放送が流れると、オレの身体は元の姿へと戻る。


「まさか倒されるとは予想外だった。一体何をした?」


「幻術は使ってない。毒を使った」


「毒だと?一体いつ毒をオレに仕込んだ。そんな事をすれば普通に気づくが」


「霧に毒を仕込ませた。見えない毒……不可視毒ファントムポイズンかな」


「毒で出来た霧を使ってたのか。気づかないうちに仕込まれた……か。予想を遥かに超えた成長ぶりだ。よく思いついたな」


「えへへ……褒められた」


 アリスは頬に手を当て口角が緩みきっている。何がそんなに嬉しいのだろうか、イマイチ理解に苦しむ。


「さて、今日はこの辺で切り上げよう。祭りは目の前だ。残り1日はゆっくりと身体を休めて、本番に体調を崩さないようにしろよ」


「はい、ですわ」


「うんうん」


 長時間に渡る特訓を終え、仮想戦闘室から退出する。約1週間、3人でやってきたが2人の成長速度は目覚しい。今までの基礎訓練に加え、自分の魔法の使い方、相手を誘い込む罠の使い方、流石は戦闘のエリートを育成する学園の生徒だ。
 しかし、生徒達はまだ人を殺すという一線を超えたことがない。本当に人を殺す場面になった時、殺せるのかが問題だ。人を殺すには慣れが必要であり、初めて間もない殺しは精神的に負担が大きい。果たして心が折れずに出来るのか。


「ライガ様どうかなさいましたか?」


「あ、いや。特に何も無い」


「最近ちょっと考え事が多いですわね。何か悩みがありましたら、このレティに言ってくださいね。出来ることは少ないとは思いますが、全力で応えてみせますわ」


「なら、1つ聞きたいことがある。エースの勇者はお前らにとってなんだ?」


「なに、とはどういう事ですの?」


「素朴な疑問なんだが、お前らにはエースの勇者が……いや、元勇者か。元勇者がどんな風に見えていたのかって思ってな」


「そりゃあ、私達にとっては英雄ですわ。長き戦いに終止符を打ち、更には4つの国を統一させた方ですの。心の底から尊敬している方ですわ」


「英雄、ねぇ……でも、その英雄は消えたんだろ?」


「はい、4つの国が同盟を結ぶ前に失踪した、と聞いていますわ。今度のお祭りの時に、勇者様が来て下さると聞いて、本当に嬉しいですの」


「ふむふむ、その勇者は今――ふぐっ」


 口を滑らせようとしていたアリスの口を抑え黙らせる。アリスは口が緩い方だったのか……寮に戻って説教をしないと。


「ふごごごご!ふごごー!」


「その……アリスさんは大丈夫ですの?」


「気にしないでくれ、これはいつものことだ。なぁ?」


 ブンブンと首を縦に振り、アリスは必死な表情で訴えてきた。口から手を離すと、ぷはーっと大きく呼吸をしていた。
 そんなアリスを横目に、レティへ質問を再開する。


「もし……もし、だが、お祭りに元勇者が来なかったらどうする?失踪しているんだ。姿を現すとは限らない」


「そうですわね……私の予想ですと、来ませんと思いますの。姿を消したのには、なにか理由があるはずです。なので、例え来られなくとも構いませんわ」


 レティは笑っているが、その裏では悲しんでいる。その笑顔がぎこちない……。
 尊敬している人に会えるという絶好の機会に、会えないという現実。表では平然としているが、オレは何もしないという選択肢でレティを傷つけている。


「来てくれるといいな。元勇者が」


「えぇ、そうですわね。楽しみにお待ちしておりますわ」


「…………」


 これは早急にシンと国王の元へ向かわないといけないようだ。身勝手な行動のせいで人を傷つけている現状を打開するにはこれしかない。
 レティと分かれたあと、急いで学園長室へ向かう。
 トントンとドアをノックし、中から返事が来る。
 ゆっくりとドアを開け、歩み寄る。


「オレがここに来ることぐらいシンから聞いているだろ」


「聞いているさ。それに未来が見えない私ですら君がここに来ることぐらい分かる。用件はエースの元勇者が、もうすぐ開催される祭り、『剣魔武闘会フェスタ』に顔を出すという件だね?」


「それを今すぐ取り下げろ。オレは人前に出ることが許されない人種だ」


「何を言っているんだ。君は英雄だ。この国を……民を守った。誰しもがエースの勇者は英雄だと言うさ。軽率な発言は控えてもらおう」


「っ……」


「それで話は以上かな?」


「勇者はどうするんだ。誰が影武者に」


「影武者として誰かを代わりに使うことはしないさ。君が出たいと思えば出ればいい。その時は私も適当に誤魔化すさ」


「出ない、と言えば?」


「それはそれで構わない。恐らく誰もが来ないと思っているだろうし、別に無理をする必要は無いさ」


「分かった。ならオレは出ない。無駄に期待させないように、今すぐ発言を撤回し来ないと全員に言え」


「そう睨まないでくれ。了承しよう」


 鋭い眼光は国王ですら、直視を避けた。
 こんな脅しのようなことはしたくなかったのだが、今の国王にはこれぐらいしないと、撤回してくれないだろう。そう分かっていたからこそ行った迄に過ぎない。


「ライガなら出るさ……必ずね」


 ドアを閉めたあと、そんな言葉を耳にしたが聞いていないふりをしてその場から立ち去る。
 廊下には待っていたのか、アリスが立っていた。


「話……聞いていたのか?」


「ごめんなさい。でも……本当に出ないの……?」


「出る必要が無いからな。アリスもオレが出ることを望むのか?」


「アリスは、お兄ちゃん次第だよ」


「そうか……」


 足並みを揃え、オレらは寮へと戻る。残り1日をどう過ごすか考えていると睡魔に襲われ、瞼を閉じ眠りにつく。
 次の日、起きてみると空が赤く染まっていた。疲れていたのか、残り1日は睡眠で潰してしまったようだ。休息は大事だと思うから、悪くは無い。たまにはこういう贅沢な1日も良いものだ。


「お兄ちゃん、おはよう。よく眠れた?」


「よく眠れたが、どうしてオレの布団の中に入ってるんだ?」


「ずっと気持ちよさそうに寝てた……だから、アリスも」


「オレはオレの1日を潰しただけでなく、アリスの1日も潰したのか。なんか悪いな」


「大丈夫、アリスも眠たかった」


 大きな欠伸あくびをし、目尻に涙が溜まっていた。睡眠は長くとると、また眠くなる。実に不思議だ。


「そういやお兄ちゃん、衣装はどうするの?」


「え?衣装?なんだそれ」


「明日から開催されるお祭りは、外部の観客も沢山来るらしい。校則で禁止されているけど、お祭りの時はおめかししてもいいって、先生が言ってた」


「あー……なんか言っていた気がするな」


 ぼんやりと頭の中で、先生の言葉が再生される。あまり覚えていないが。


「アリスはもうドレス決まってる。アリスの姿を見ても惚れてもダメだよ?」


 華奢な体を抱きながら、アリスは指をくわえている。普通の大人の女性ならば、色が感じられると思うがアリスはまだ幼い体つきのため、どうにも感じられない。そればかりは残念だろう。


「衣装か……外部から客が来るってことは、先日の敵襲来が起こる可能性もある。今度は恐らくだが祭りの日に来る。大勢の目に見られることを考えて、大きく仕掛けてくるだろう。相手はオレの顔を知っているから、せめて顔は隠そうかな。今から買いに行っても間に合うだろうし、買い物にでも行くか?」


「デートのお誘いだね。うんうん、いいよ……アリスをめちゃくちゃにしても」


「着替えて行くか」


 アリスのボケを無視して、外出用の服へと着替える。そのまますぐに外へ出ると、商店街が賑やかになっている。どうやら、明日の祭りでの客が沢山来ていて忙しいのだろう。とても活気づいている。


「人がたくさんだね。迷子になりそうだから手を繋ごうお兄ちゃん」


「変に迷子になって問題を起こされるぐらいなら、最初から手を打っておくか。まぁ、別にいいけど」


 手を繋ぐと、アリスは大きく喜んでいた。
 何がそんなに嬉しいのだろうか、謎だがもう慣れたオレがいる。
 ひとまず大きなコートを2つ買い、何かないか物色することにした。
 敵が襲来して来た用と、祭り用で2つ買わないといけないため、出費がどうにも増えていく。安いものを買わないと。


「お、兄ちゃんそのマスクを気に入ったかい?今なら安くしとくぜ!」


「あ、いや、別になんとなく手に取っていただけだ」


 値段を見ると、目玉が飛び出そうな金額だったため、多少は気に入っていたマスクを手放す。元々勇者として戦っていた時代に稼いだお金は巨万の富だったが、その全てを国へ捧げた。そのため、残りはどうしても少なくなってしまった。それに加え、1年間は働かずに力の封印にいそしんでいた。もちろん、収入はない。


「店主、これください」


 横からアリスが割り込んできて、オレが手に取っていたマスクを店主のおっさんへと渡す。


「お、確か君は序列10位霧の国のアリスだね?特別に割引するぜ」


「ふっふっふっ、ありがとう店主」


「あ、おい!金を……」


「大丈夫、アリスはお金あるから」


「そういう事じゃなくてだな」


 勝手に買うものを選ばれ、料金を支払われた。欲しいとは思ったが、値段の関係上諦めたものをアリスは笑顔で購入していた。序列上位者特権なのだろうか、お金はあると言っている。


「はい、これプレゼント」


「……ありがとう。それでお金を」


「お金はいらない。でも……代わりに、明日のお祭り優勝して?それがアリスにとって嬉しいこと」


 アリスの目はいつになく真剣そのものだった。これはどういう意味が含まれているのか分からないが、アリスの願いとあらば叶えるしかない。


「簡単にはできないと思う。だが、いいだろう。アリスのその願い、叶えてやる」


「頼んだよ、アリスの王子様」


「任せろ」


 短く返し、別のマスクを買い帰宅する。
 そして、ついに始まる剣魔武闘会フェスタ
 これから、どんなことが起きるかオレには予想ができない。唯一知っているとすれば、未来視があるシンだけだろう。
 例えどんな未来が訪れようと、戦い抜いてみせる。アリスとの約束のために、今は全力を尽くすのみだ。


剣魔武闘会フェスタこれより、開幕するッ!!」


 国王による開会宣言が行われ、会場が震えるほどの歓声であふれた。

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