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閃雷の元勇者

しにん。

5話 剣姫の剣鬼

 やれるべきことはやったはずだ。難しい問題は捨て、解ける問題を重点的に見直し、自己採点では解けた所は全問正解。
 あとは凡ミスや、計算ミスがない限り赤点にはならないと信じている……。
 まぁ、自分よりもアリスを信じろ。オレの全てはアリスによって助けられてるんだ。これはアリスの実力とも言える。
 そう考えると、若干心のしこりがほぐれたように感じる。
 そして、オレは遂に運命のテスト返却の時間を迎える。


「ライガこの1週間頑張っていたようだな。1週間でここまで変われるとは正直驚いているが、ひとつ言わせてもらおう。最初からその本気を出せていれば、こんな事にはならなかったぞ。この序列上位者のみで編成されるクラスで、この学園創立以来初めての追試者だ。次補習や追試を受けると、問答無用で下位クラス行きだ」


「2度目はない、と言う事か。次からは努力するさ」


 先生からプリントを渡される。
 赤点の倍、つまりは60点が最低ライン。それ以下を取ってしまうと、公式序列戦への切符は剥奪される。1点でも構わない、どうか超えててくれ……!


「ほらよ、よく頑張ったな。ライガ」


 目を閉じて両手でテストを貰う。決着だ。
 ゆっくりと目を開け、下の方から見ていく。
 最後の方の問題はレベルが高く、今のオレには解けないものしかない。さて、中間付近は……所々バツを貰っているが、半分はマルを貰っている。よし、順調だ。
 1番点を稼がないといけない部分、つまり、1番簡単なところは……


「全問正解……!?」


 隣に立っていたアリスは誇らしげにこちらを見ている。
 アリスと目が合い、希望に満ちた表情で名前の横にある赤い数字を見る。
 これは、勝ったな!


「……59」


 あと1点が足りていない。これは変えようのない現実。
 アリスには申し訳ないが、どうやら公式序列戦には参加出来ないようだ。残念である。
 しかし、どうする事も出来ないということ程、歯がゆいことは無い。
 唇を噛み締め、行き場のない後悔と怒りから、この場から逃げ出そうとする。
 すると、先生が口を開き、どうしようもない現実を変える最後の道を用意される。


「実は先生のミスにより、最後の方の問題に間違えがあった。お前は解いていない所だが、通常ではあれば全員が正解となる。そこで、ひとつ提案がある。60点を超える可能性があるのはこれだけだがな」


「……!それは本当か?」


「先生ってのはな、意味もなく嘘はつかない。お前とは違ってな」


 先生は二ヒッと笑い、表情を一変させる。
 険しい表情になった時嫌な予感がする。
 この顔はまた面倒なことを考えている、という顔だ。


「ここはどんな学園かもう理解しているよな?」


「学生のうちに戦い方を教え、国を守るという職に就く夢を持つ少年少女が通う学園」


「それが全てではないが大体はあっている。なら、先生から出される課題はなんだと思う?」


「そうだな……たくさん考えれるが、戦いを教えているんだ。戦いに関係する何かだな?」


「正解だ。今ここに生徒会を除き、最も序列が高いものと模擬試合をしてもらおう。なに、戦って勝てとは言わない。ある程度根性見せたら、1点やろう。どうだ?」


「わかりやすい。オレにうってつけだな」


 先生が連れてきた女生徒は目を閉じており、何を考えているのかわからない、これが第一印象。
 次に目に入るのは、綺麗に編まれた三つ編み。黒い髪は腰まで伸びおり、長い年月が生み出した芸術だった。


「初めまして、エルドラ・フォードエンと申します。目が見えないというハンデがありますが、どうか普通の人と接するようにしてください。私、そこそこ強いので」


「目が見えないのか。本当に戦えるの?」


「甘く見てもらっては困ります」


 溢れ出る殺気に押し殺される。どうやら、彼女の実力は見た目以上、いや、予想とはかけ離れた力があるようだ。
 この学園の序列上位者ということは、どんな魔法を使うのだろうか。はっきり言うと、魔法次第では呆気なく負ける可能性だってある。


「それは済まなかった。お前の強さはよく分かった。それで、聞きたいんだが、魔法はどんな魔法を?」


「私には……これがあるので」


 腰に差していた刀を取り出し、見せつける。
 まさかとは思っていたが、魔法を使わず戦うという事なのだろうか。魔法というほぼチートのような能力に頼らず、自らの体のみで戦うと言うのならば、オレは全力でいかざるを得ない。
 全力でいかないと、相手に失礼だ。


「それじゃ、二人の合意は得た。これより、模擬試合を始める。それぞれ、仮想戦闘室へ」


 先生の指示の元、全員が模擬試合を観戦する形になった。別に誰が見ていようと関係ないのだが、あまり目立つことは好きではない。早めに終わらせるべきだ。


「固有結界を張ります。少しだけ離れていてください」


 転入初日の時と同じように、メガネの生徒――カルディナと呼ばれる生徒が固有結界で、仮想戦闘室を覆う。この結界の中であれば、どんな傷や病気、端的にいえば命ですら復元できる。と言っても、仮想戦闘は、自分の体とは違う体。いわゆる、戦闘体と呼ばれる体で戦うため、戦闘体で傷を負ったとしても本体とは関係がない。だから、どんな無茶でも出来るというわけだ。


「制限時間は5分。先にどちらかが死ぬもしくは、戦闘不能になった時勝敗を決める。戦う内容は純粋な力と力のぶつかり合い。それじゃ、準備はいいな?」


「さて、やりますか――あれ?」


 いつも小太刀を収めていたバッグに、あるはずの小太刀がない。盗難も考えられたが、すぐに原因は特定できた。
 アリスと初日戦った時、霧の毒により小太刀が溶けてしまった。その時は懐刀ふところがたなとして、もう1本予備で持っていたから勝てたが、今回は無い。
 つまり、今現在オレには武器がない。どうしたものか。


「そういや、お前宛にこの小太刀が届いていたぞ。ほらよっ」


 先生から投げられた2本の小太刀を受け取る。これはオレがいつも使っている小太刀とは別だが、思い出深いものだった。


「この小太刀は昔に使っていた……右近と左近か!?」


 シンに拾われたあとに貰った初めての小太刀。
 剣を教わるきっかけになった、思い出の小太刀が今ここにある。
 一体どういう風の吹き回しかは知らないが、シンから右近と左近が返されたということになる。
 どうやら、やっとオレの強さを認めてくれたようだ。


「その小太刀になにか思い入れでもあるのか?」


「昔、師匠がお前にはまだ早かったと言って、取り上げられた小太刀だ。これを返す日は、師匠がオレの強さを認めた時だけ、と言われた。それが今……返ってきたんだ。この試合勝たないといけないな」


「お前の師匠に少しだけ興味がわくな。どんな奴なんだ?」


「詳しくは言えないが、オレの中ではこの世でいちばん強い。それだけだ」


 シンのことを隠し、さり気なく小太刀を見ると二つの目がこちらを見ていた。
 右近と左近は妖狐が化けた姿のため、この小太刀は生きている。
 意思のある小太刀は扱いを間違えると、主人として認めてもらえず握ることすら許されなくなる。
 そして、オレは昔右近と左近に認められ、主人となった。


「久方ぶりだな……ようやく我らも主の力となれる」


「待たせたようだな。すまない、強くなるのが遅くなった」


 右近と左近の会話は他の人には聞こえないため、周りから見ると小太刀と話す頭のおかしな奴だと思われているだろう。
 周りの目を気にせず、オレは小太刀を握りしめる。


「右近だけで大丈夫か?我らは2人でひとつだ。真の力は発揮できないだろ?」


「相手は刀1本だ。それならオレも1本で戦う。ピンチになったら使わせてもらうぞ左近」


「承知」


 右近を右手に握りしめ、フォードエンの方を見る。
 どうやら精神統一をしているようだ。その動作だけでわかる。コイツは強い。そんじゃそこらの生徒とはレベルよりも、世界が違う。


「カウントダウン、スタート」


 1つランプが光り、剣を構える。
 2つランプが光り、全神経を集中させる。
 そして、3つランプが光ると同時に戦いが始まる。


「参りますッ!!」


 フォードエンが僅かに一歩早く動き、先手は奪われてしまう。
 気づけばもう目の前まで迫られ、攻撃態勢をやめ防御へと専念する。
 ――早い。思っていたよりも早く攻撃が届かれ、防御をする間もなかった。自分の出せる力の限り体をひねり、フォードエンの刀は紙一重で避けることに成功する。


「貴方、思っていたよりも身体が柔軟に動き、状況の判断能力にも長けていますね。これは強敵と呼ばざるを得ませんね」


「それはどうもありがとうよ。それよりもその技はどうやったら身につくんだ?」


「小さな頃からこの刀と生きてきました。私は、この刀と共にあります」


「武器と共に生きてきたのはオレも同じだ。それじゃ再開しましょうか」


 互いの全力でぶつかり合い、体力を削っていく。
 男と女の差は力と体力にあると考えていたが、フォードエンは違う。これは男勝りだ。
 盲目だからと言って油断できるほど弱くない敵に加え、技と経験全てがオレと同レベル――いや、それ以上だ。鬼の力がない、ただの一般人ではこの境地に辿り着くには、一体どれほどの鍛錬が必要なのだろうか。


「我が必殺の剣技……いざ参らんッ!!」


 その言葉と共にフォードエンへの恐怖が増す。まさに鬼の如し。


「全力で行かなきゃ無礼だな。こちらもありったけの力をぶつけよう。一刀流剣術――紅月の孤月」


 互いに剣を構え、向き合う。
 この一瞬で終わると言っても過言ではない。そう思わせるほどの緊迫感と胸の高鳴り。断言しよう。今まで戦ってきた剣士の中で、フォードエンは一番強い。技術、精神力、全てにおいてこの者に勝てるものはいないだろう。
 だからこそ、今オレが超える。超えなくてはいけない大きすぎる壁。


「ワクワクします。これほどまで楽しませて貰い、私は幸せ者です」


「それはこっちのセリフだ」


 会話は短く途切れ、オレは静かに目を閉じる。
 心の目を開け、相手を見る。研ぎ澄まされた集中力により、相手の脈すらも見えてくるようだ。今ここは2人だけの空間。誰も邪魔すらも出来ないほどの圧倒される気迫。


「「いざ、尋常に勝負ッ!!」」


 再び動き出す2人は、戦場を駆ける獣の如き迫力。
 クラス全員が固唾を飲んでこの試合を見守る。
 誰もが呼吸を忘れほど試合に見入っている。


「先生、この2人ではどちらが勝つと思いますか?」


「個人的にはフォードエンだな。ライガの強さはまだ未知数だが、フォードエンに至っては未だに無敗を誇る強さだ。そう易々と負ける事は有り得ないだろうな。まぁ、剣鬼が出たらライガには勝ち目が無いと思っている」


「やはりそうですよね。彼も相当な強さですが、流石に序列3位の《剣姫の剣鬼》には及びません。ですが、彼はまだ全力を出していないと感じます」


「ほう、先生と同じ意見を持つか」


「先生が先ほど渡した小太刀は2本。しかし、戦いで使っているのは片方の小太刀だけです。一体彼がどんな考えを持っているのかわかりませんが、秘策はまだあると予想できますね」


「それもそうだが、ライガは魔法を使っていない。魔法が使えないわけが無いのにも関わらず、1度たりとも魔法を使う素振りを見せていない。まさか本当に使えないってことは無いだろう」


「彼は言っていましたよ。オレには魔法の適性が無いみたいだ、と。本当に使えないんじゃないですか?」


「元から使えないじゃなく、使えなくなった可能性がある。アイツの過去に何があったかはオレも聞いていないが、恐らく波乱万丈な人生だと思うぞ」


「私はその考えに辿り着くことは出来ませんでした。本当に先生はお強いのですね」


「まぁ、戦場で生き残った者だ。ある程度は骨があるヤツと思っていてくれ」


 そして2人の会話は、大きな音と共に終わる。クラス全員の歓声により、自然と目がいってしまう。
 大きく小太刀を振り下ろすライガと、下から刀を振り下ろすフォードエン。
 一閃。気がつけば2人はすれ違い、動きが止まった。


「お見事です」


「ウソ……だろ?」


 致命傷は避けれたが、足を切られたオレとは違い、フォードエンは無傷で立っている。
 幸いにも、傷は浅い。まだ……まだ戦える。


「まさか……オレ様を出させるとはな……剣姫が大人しくオレ様に権限を渡すとは思わなかったぜ」


 フォードエンの口調が変わり、人格すら変わったように思える。
 目の前にいるフォードエンは本当にフォードエン本人なのか。そう疑問が湧いてくる。
 荒くなる呼吸を何とか押さえ込み、整える。
 今の一瞬で相当な体力を使い切ってしまった。


「初めてだなぁ少年。オレ様は剣鬼のフォードエンだ。オレ様が出た以上勝ち目はないぜ?」


「剣鬼のフォードエン……なるほど、剣鬼が二つ名か」


「くっははは!行くぞ好適者こうてきしゃよ。我が欲を満たしてくれよ」


 先程までの剣技とは違い、驚異的な切れ味がない。その代わりにあるものは、力。
 女でこれほどまで力を出せるのか、と思うほどの馬鹿力だ。男のオレですらも、ほぼ互角だった。


「負けるかッ!!」


 フォードエンが振り下ろした剣を華麗に避け、一気にカタをつけに行く。


「一刀流剣術――虎振りッ」


 無防備な横脇腹を狙い、切りかかる。
 これで勝負ありと思っていたが、力だけではないようだ。手応えが全くない。これは、防御されたと予想される。
 フォードエンの方を見ると、余裕の笑顔でこちらを見ていた。どうやら本当に防がれたようだ。


「どんな反射神経してんだ……」


「パーティーはこっからだぜ!!」


 まずい、この速度は明らかに人間業じゃない――
 瞬きをする間もなく、フォードエンは目の前にいた。同じ人間なのかどうかすらも分からなくなる。


「まずい……」


 ここで勝つためには、力の解放をする必要がある。
 しかし、力の解放をした場合、誰しもが勇者だと気づくだろう。それだけは避けたい。
 どうすれば――


「そこまでッ!!」


 カルディナの透き通った声が仮想戦闘室に響き渡る。
 その声と同時に剣を収める。


「勝者、エルドラ・フォードエン」


 その結果は揺るぎようがない。
 素直に認めよう、オレの負けだ。


「実にいい試合を見せてもらった。結果は残念だが、剣鬼を出させたことは評価に値する。よって、テストに1点加え公式序列戦への参加を認めよう。おめでとうライガ」


「あれ、勝たなくても良かったのか?」


「はぁ?最初に言っただろうが、根性見せれば点数やるって。もう十分お前の根性は見れた」


「なんだ……そっか……ならいいや」


 疲労により、オレは倒れ込んでしまう。
 そして気が付くと寝てしまっていたようだ。
 オレの心配をしたみんなが保健室へと連れて行ってくれ、目が覚めると布団の中だった。


「いてて……」


「お兄ちゃんお疲れ様」


「ありがとうな……」


 横を見ると心配そうに覗き込むアリスの姿が見て取れた。
 目元が少し赤い。頬はりんごのように赤く、心の底から心配し、涙を流してくれたんだな。アリスは本当にいい子だ。


「何とか……力を使わずに終われてよかった」


「でも……勇者としての力は……」


「…………」


 目だけで合図し、アリスを黙らせる。
 どこで誰が何を聞いているのか分からないため、なるべくその話題は触れさせない。


「やぁ、いい暴れっぷりだったようだね」


 カーテンを開け、こちらを眺めるは師匠であるシン。
 どうやら騒ぎを嗅ぎつけやって来たようだ。


「アリスくん、君はライガの秘密を知っている。だからこれだけは話そうと思ってね」


「おい、何を言うつもりだ。内容によってはシンであろうと全力で戦うぞ」


「いやいや、そう大したことじゃない。小さな頃の話をね」


 シンは人当たりが良さそうな笑顔をこちらに向けている。
 何を話すのかはだいたい予想ができるが、ここは静かにした方が身のためだろう。この笑顔は、本気だ。


「さて、本人の許可も貰えたことだし話すよ。ライガの秘密をね」

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