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閃雷の元勇者

しにん。

2話 未来

 燃え盛る村、どこからともなく聞こえてくる悲痛な叫び声。そして逃げ惑う老若男女。
 人々は恐れ逃げている。目の前の鬼に。


「忌み子だ!」


 鬼の姿はしておらず、普通の人間に角が生えていただけだ。ただ、それだけで人々は恐れていた。
 まだ子供だが誰よりも強く、脆く儚い。
 人々から嫌われ続けた子供は、親にも捨てられた。
 たった一人で孤独。親に捨てられた時、力の暴走が起きた。
 力を制御できない子供は、次々と人を殺し村を焼き払う。警備員達が、村の人を守るために戦ったが手も足も出ない。
 やがて、その村は壊滅し記録からも消去された。
 その村の唯一の生き残りは、忌み子として嫌われ続けた子供ひとり。
 彼を引き取ったのはエースの勇者、シン。


「やぁ、君が例の子供だね?」


「……」


「無視、ですか。まぁいいでしょう。今から私を殺してみてください。貴方の全力をもって」


「……!」


 子供には勇者の強さが理解出来ていなかった。
 懸命に挑むが、軽くあしらわれる。


「なるほど……。うん、君もういいよ。私は全力で来いと言ったんだ、自分の力量すらも把握出来ない雑魚には用がない。今すぐ消えたまえ」


 シンは煽るような言葉で子供を挑発する。
 その時、辺り一帯の空気全てが変わる。


「それが君の全力ですね」


 角が生え、理性を失った子供はシンを本気で殺しにかかる。
 次々と攻撃の手をやめることなく、体の限界が来るまで戦った。だが、先に倒れたのは子供の方だった。


「私に血を流させるとはな」


 しかし、シンの頬には赤い線が引かれていた。
 わずかに避けることが出来なかった攻撃が一つだけあった。
 不意打ちでも無ければ、油断したわけでもない。純粋に避けることが出来なかった。


「攻撃は拙いが、威力やスピードはいい感じだ。国王の言っていたとおりだ。君を勇者として育成する」


 シンは不気味な笑みで子供を見つめていた――




 オレはベッドの中で意識を目覚めさせると、先程見ていた夢を思い出す。


「悪夢だ……クソッ……」


 悪夢を見たため、機嫌は斜め。
 誰だって同じだろう、自分の一番嫌いな過去が夢に出てきたら。


「顔でも洗うか――」


 起き上がろうとすると、体が重い。
 昨日の戦闘でそこまで疲れるほどだったのだろうか。
 いや、これは戦闘による疲れではない。何かが毛布の中にいる。
 オレは恐る恐る毛布をめくって見ると、予想もしなかった人物が入り込んでいた。
 徐々にあらわになる銀髪。そして、小さな体。


「……何やってるんだアリス?」


「お兄ちゃんおはよう」


「そうだな、挨拶は大事だ。だが、それ以上に大事な常識がお前にはないみたいだな」


 体が重い原因は、毛布の中に入っていたアリスによるものだった。
 何故、アリスはこの部屋にいるのだろうか。ここにいてもいい者は、オレの同居人だけだ。
 と、すると一つの答えに辿り着かされる。


「もしかして、この部屋の同居人ってお前のことか?」


「……うん」


 これはひとつ誤算だった。同居人とだけしか聞いておらず、てっきり同性とばかり思い込んでいた。
 どうやら、年頃の男女が同じ部屋で生活することに、この学園はさほど気にしていないようだ。
 もしくは、他に理由が……ありそうにない。


「ちょっとどいてくれないかな?顔を洗いたいんだ」


「むー」


 アリスは拗ねたようで、ガッシリとオレの体にしがみついてきた。
 何がいけなかったのだろうか。皆目検討もつかない。
 起き上がることが出来ず、仕方なく寝転ぶ。
 ふかふかのベッドに寝転んでいるだけで、どうにも眠気が襲ってくる。あと、アリスによる締め付けが地味に痛い。


「そろそろやめて頂けないでしょうか?」


「ふっ……それは、無理な要望」


 何が無理なのか疑問に思う。どうやらオレの話は聞いてくれないらしい。とても悲しい。
 早くこの状況をどうにかしないと、第三者が現れた場合どう説明すればいいんだろうか。


「ライガ様っ!おはようございます、ですわ」


「あちゃー」


 人生とはよく出来たものだ。
 望んだ事や欲しい物などは叶わないのに比べ、嫌なことだけ必ず起こる。
 大変よく出来たものだ。
 それで、ドアを思い切り開けた後ずっと口をパクパクしている金髪の少女になんて説明しよう。どう転んでも最悪な未来しか見えてこないぞ……。




「なるほど、そういうことでしたか。危うく命がひとつ消えていたところでした」


「おっかないこと言うなよ、本当に消えてそうで怖いんだが」


 なんとか説明し、納得してくれたようだ。未だに目は怖い。心の奥底では疑っているな、この目は。
 ひとまずオレの疑いは晴れた。


「それでオレに何か用事かな?」


「あ……それは……その。えっと……」


「……?」


 毛布からひょこっと顔を出したアリスが不思議そうに首をかしげていた。
 少しの間気まづい、静かな時間が流れる。
 この空気はあまり好みではない。
 話題を変えてみよう。


「それで聞きたいことがあるんだが、お前って名前はなんて言うんだ?昨日聞こうと思ったんだが、朝の戦い以降教室に戻ってこなくて聞きそびれていたんだ」


「私の名前はカウレス・レティシア。気軽にレティとでもお呼びくださいな」


「カウレス……あの貴族か?」


「えぇ、この国では上層部にあたる貴族ですのよ。我がカウレス家は、貴族の中の貴族ですわ」


「ふーん。そっか、なら国王とか賢者とかに会ったことあるのか?」


「それがお会いしたいのですが、一度も会ったことがありませんわ」


 残念そうにレティはうつむく。
 キングの勇者は仕方ないとして、賢者であるシンにも会ったことがないとは。アイツはあまり貴族と触れ合っているイメージは無いから仕方ないのだろう。


「さて、そろそろ授業が始まる。お前がくっついていると、この場から動けない。どうしたらどいてくれるか?」


「王子様のキス」


「却下」


「むむむっ」


 アリスは更に力を強めてきた。これは本当に痛い。
 仕方ない、武力行使だ。


「覚悟はいいなアリス」


「ついに……私も大人の階段を……」


「登りません」


 どうしても離れないアリスを抱え、背中へと移動させる。おんぶされたアリスはすぐにしがみつき、静かに眠り始める。一体この子は何なんだ。
 ふとレティへ視線を送ると、また口をパクパクしていた。この子も何なんだ。




 なんとか寮から校舎に行くと、なんだか騒がしい。
 何が起こっているのか多少気にはなったが、無視しよう。面倒事に巻き込まれる未来が見えた。


「お、ライガだな。いいところにいた」


「それは偶然ですか必然ですか」


「グウゼンダナー」


 突然走ってきた者は、騒ぎの中心にいた人物だ。
 やはり、面倒事に巻き込まれた。
 多少の変装をしていたが、変装と呼べるのか疑問なレベルだった。
 やや斜めにずれたちょび髭と、あからさまな伊達メガネ、極めつけは白いコートに麦わら帽子。
 ファッションセンスを疑うレベルだ。それに、その白いコートは賢者が着ているものだ。他に存在してはならない物。それだけで目立つ。


「それで、貴方は誰ですか?」


「おっと、ひどい事言うね。私だよ私」


「ちょっと警備員さん、怪しい人物が……」


「場所を変えるよ」


 シンは転移魔法を使い、ある部屋に瞬間移動する。
 見たことがない所だが、見ただけで高そうな椅子やソファーがあるのを見て、お偉いさんの部屋だと推測する。
 今オレに一番接触するお偉いさんは――


「連れてきたよ、コイツは昔と変わってるが根は同じだ。特に敵になった、という感じはないから安心しろ」


「済まないね、私の要望の為に動かせてしまって。なにかお詫びは後日させてくれ」


「それはそれは楽しみにしておきます、国王陛下」


 奥から出てきた人物に、最初から予想できていた。
 オレに会う必要があるのは他の誰でもない、現国王の元キングの勇者だ。
 名前は聞いたことはないが、何度も戦い仲間になった。本気でぶつかった相手だからこそ、信頼はしている。


「久しぶりだね、ライガ。実に一年ぶり……か。君が姿を消して以降私がこの国を守ってきた。君はもっと私に感謝すべきでは?」


「感謝か。確かに、オレがいない間本当に良くやってくれたみたいだな。クイーンやジャックはなかなか従わなかっただろう。お前の苦労、聞かなくてもわかる」


 国を任せると言ってオレは何もしなかった。
 同盟国であるキングとエースはこころよくキングの勇者に従っただろうが、敵国のクイーンとジャックはしなかっただろう。
 戦いがいつから始まったのかは知らないが、明らかにキングとエースの同盟が勝利、他の二つは敗北。誰がなんと言おうが、結果は変わらない。


「確かに最初は言うことを聞いてくれなくて……苦労したんだけど、キングやエースよりも豊かな暮らしを約束したら話を聞いてくれたんだ。知られてはいなかったが、クイーンとジャックのたみたちは相当ギリギリな生活を送っていたみたいだ。私たちのように民草たみくさの事を考えておらず、自分の事だけでいい気になっていたようだ。全く他の勇者たちは戦う前から負けていた様なものだ」


「やはり独裁国家を立ち上げていたか……通りでキング以外の敵には、殺気や覇気が足りなかったのか」


 勇者としての数年間の戦いを思い出し、結論にうなずく。あの時の素朴な疑問に答えを貰い納得する。


「それで……っと、どうやら二人だけの話にしたかったんだけど、ネズミが入っていたようだな」


「……?ネズミだ?一体何を――」


「お兄ちゃん、おはよう」


 寮からずっと背中に乗せていたアリスの存在を忘れていた。
 重みはあるものの、ずっと話さず音を立てずにいたため、意識から消えている。今、言われて気づいた。
 それよりも、キングの勇者やシンですら気づかないとは一体アリスは何者だろうか。謎が多い。


「お兄ちゃんの秘密聞いちゃった」


 アリスは自分で目を隠し、何も見てないアピールをしている。言動がミスマッチだ。
 それよりも、オレの勇者という秘密は学園生活二日目にして他者へ知られた。


「アリス、君は最初から話を聞いていたんだね?」


「……その、ごめんなさい」


 頭を下げ、申し訳なさそうに謝罪する。
 特に知られて問題がある訳では無いが、あまり知られたくない事実だ。
 今回は流石にオレの注意不足だ。アリスは何一つ悪くない。


「お兄ちゃん……アリスの事、嫌いに……なる?」


「……ならないよ、この程度じゃ。流石にアリスは何も悪くない。悪いのはオレらの方だ」


 そう告げると、ホッとしたように胸を撫でていた。
 そこまで心配していたのだろうか。兎に角、知られてしまった以上は話すしかないのかもしれない。だが、今はどこまで理解しているのか分からない以上、他のことを言うのはあまりにも無意味だと言える。今後機会があったら、話すとしよう。


「今のこの話は他言無用で頼む。問題事は避けたいからな」


「……わかった」


 何とも気が抜ける返事を貰い、国王へと向き直る。


「ハハッ、まさか酒呑童子しゅてんどうじとまで恐れられた君がここまで丸くなるとは思いもしなかったよ」


「噂は真実とは異なる。こう見えてもエースの国民からは慕われていた。オレは最初から丸いと思うが」


「そうかもね、私は君のことをまだ知らない」


「もっと言うとオレはお前の名前すらもまだ知らないぞ」


「おっと、そう言えば自己紹介をしていなかったようだね。これは失敬。私は元キングの勇者、アイレス・ディルクだ。ディルクで構わない」


「ディルクか、わかった。それでこっちの女の子がアリスだ。一応オレの寮の同居人だからよく一緒にいると思う」


「アリスちゃんよろしくね」


 爽やかな笑顔で挨拶をすると、アリスはオレの背後へと逃げていった。
 少しだけ顔を覗かせると、凄い剣幕でディルクのことを見ている。警戒している。


「機嫌を損なわせてしまったのなら、謝罪しよう。すまない」


「お兄ちゃんは……渡さないっ!」


「悪いが、この学園に来て二日目のオレにもアリスの事は全くわからない」


「なかなか面白い子だね。確かこの学園の序列十位、霧の国のアリスと言ったかな」


 序列上位者には二つ名が付けられる、と聞いていたが戦闘スタイルなどを参考にしているみたいだ。
 霧の国とはそのままだが、アリスの戦い方をよく表した言葉だ。


「話は変わるがここからが本題だ。君の質問に答えよう」


「やっぱりオレが納得のいく転入じゃ無かったんだな。裏でお前らは何をしている。そしてオレをここへ来させた用件はなんだ」


「私たちは表に立つ人物として、皆の平和と安全を守っている。裏、と言うよりもやっている事はそれだけ」


「他には何もしてないみたいだな、まだ新しいエースは始まったばかりだからやることが多いのか」


「そんなところだよ。あと二つ目の質問の答えを聞くときっと君は怒るだろう」


「当たり前だ、いきなりこの学園に行けや報酬を用意しているんだ。必ずなにか理由があったんだろ、それを説明されずにここに来ているんだ。そりゃあ怒るだろ」


「この話は誰にも話すな。これは注意ではなく、命令だ」


 空気が変わる。どうやら、大きな事が起こる前触れだろう。


「シンによると、この先この国は危機に襲われる。恐らくクイーンとジャックの反乱者たちだろうと予想はついているが、確定ではない。また、相手は人造人間と呼ばれる、造られた人間という未来が見えたらしい」


「なるほど……」


 賢者であるシンが賢者になれた理由は大きくわけて二つある。
 一つ目は、絶対的な魔法の力。
 後にも先にも、シンを超える魔法使いはいないと言われる。
 かつて最強と謳われた魔法使いがいたが、その者すら使えないと言われた魔法を難なく使える、と噂がある。
 二つ目の理由は、未来が見える先天性な能力。
 数億人に一人に与えられるという神の力、未来視。
 的確には見えないが、ある程度の未来は見える。
 それ故、シンに攻撃を成功した者はたった一人と言われている。


「それで、オレにどうしろと?」


「きっと彼らは君を目のかたきにしているでしょう。それがこの学園に危機が訪れる理由です」


「それならオレをここに転入させたこと自体が間違いじゃないのか?」


「それも一つとしてあったが、拒否された。シンによるとこの学園に攻撃対象がいない場合、ライガがいた田舎を標的にされてしまう。そうした時、被害者の数が尋常ではない。幸いにもこの学園が攻撃された時の被害者は少ない。何しろ私が選んだ先生に指導をしてもらってるため、ここの生徒は自分を守る手段くらいは持っている」


「なるほど、自分の生徒を信じている証拠だな」


「それにこの学園で生活したライガなら昔よりも更に強くなれる。その二つの理由をもって正解だとした。他に質問は?」


「質問って訳じゃないが、お願いがある。いいか?」


「応えられる範囲内なら」


「オレが元勇者であることはアリス以外には秘密にしておいてくれ。オレはもう誰かを犠牲にしたくない」


「……いいだろう。だがもしもの時はどうするつもりだ?顔は知られていないとはいえ、ライガの力……鬼の力を使えばエースの勇者であることは必然とバレる」


「敵が来た時は仮面とフードで顔を隠して戦う。この際エースの勇者が生きていたことは知られてもいいが、オレがエースの勇者ということは秘密にしてもらいたい。もうオレの近くに誰も置きたくない」


 秘密が守られるかはどうかとして、ここで約束しておくことが大事だ。
 あの時、あぁすればよかった、こうすればよかったと後悔するより、何かをする事で未来を変えられる。たったそれだけで救われる。


「出来る限りその願いを受理しよう。何かあれば私に言ってくれ、あと他には何かあるか?」


「……沢山あるが今はやめておく。それじゃオレらは教室へ行くよ」


「了解だ、これからこの学園のことをどんどん好きになってくれ」


 扉を開けると、廊下へと出る。
 どうやらここは学園の中の理事長室。普通の人ならここに行くが滅多にないだろうが、オレは今後増える。そういう未来が見えたかもしれない。


「アリス、教室に行くぞ――」


「ぐぅ……」


「寝てる……だと」


 一度降りたと思ったがいつの間にか背中にアリスがいた。この子の存在は空気なのだろうか、オレやシン、ディルクにすらも感知が難しい。
 それに、性格がいまいち掴めない。
 今も背中で寝ていることに気づくのに遅れたし、何故寝るのかなど全く分からない。
 本当に不思議な子だ。

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