インセクト ケージ

内藤 涼

エピローグ

折れた刀、皮一枚で繋がっている腕、潰された右目、広がり続ける血溜まり私はいつのまにか倒れていた。
私にしては奮闘したと思うでも無意味だった……私はバケモノに喰われて形の無くなって行く姉を左目に焼き付けていた。
姉を見つめるもう一つの赤い瞳が涙に溺れている
[この娘だけはお前なんかにくれてやるもんか……こっちにおいで夕陽ゆうひ]
満身創痍の女が泣きじゃくる少女の名を呼び抱き寄せる。
[私らは家族だ、だから家族を脅かす奴らはバケモノでも人でも関係ないお姉ちゃんの言ってた事今なら分かる気がするよ]
掠れた声で囁く
[夕陽はバケモノだけど私らの大切な家族だよ、だから夕陽が人だろうとバケモノだろうと関係無い、お姉ちゃんがこのまま喰われるのも、私があのバケモノのに喰われるのも我慢出来ない夕陽……私達を吸収して…]
[嫌だ!!]
少女は拒む、吸収とはすなわち食べるという事であり2人しかいない家族を食べてしまうという事だ幼い少女にはあまりに酷な提案だ
[お姉ちゃんは多分もう生きていないでもまだ頭が残ってる、私もこの傷じゃ長くない夕陽の超適応能力なら私達を吸収して記憶の共有と進化まで出来るかもしれないそうなれば逃げる事くらいは簡単に出来るはずよ]
[出来ないよ!]
[最期のお願い……生きて……夕陽]
光の消えた瞳を見た少女は捕食でわなくもう一つの可能性、共生を本能的に実行する
朝陽も月夜も死なせない、自分も死なない、我儘を形にしてしまうのは子供の特権なのであろう少女は月夜を抱き抱えると2人を覆う薄紅色の繭を形成した。
そして繭を突き破り出てきたのは月夜であった
傷は消え、痛みもないそして失ったはずの右目には赤い光を放つ目が宿っていた。
[私……生きてるの?]
[生きてるよお姉ちゃんも夕陽もね、ただ身体は一つになっちゃったけどね]
[そっか食べなかったんだね、酷いお願いしてごめんね夕陽、でもこうなったなら話は別だね、お姉ちゃんを取り戻そっか夕陽]
自分に起きている事象を直ぐに察した月夜は姉の奪還を決断した。



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