君の世界

椎名

◆6


「━━シノ!?」


 自然と足が駆け出していた。神様と出逢った森へ。
 腕を引かれる。体が反転して、背を近くの木へと叩き付けられた。


「シノ! 落ち着くんだ、一体どうしたというの」

「はな、せ」

「ッシノ!」

「うるせぇッ!! 放せよ!」


 腕を振り払って、苛立ちのままにアーサーへと当たる。
 最低だ。アーサーは突然奇行に走った俺を心配してくれているだけなのに。頭では、わかっているのに。


「駄目だ。離さない」


 顔の両サイドに手を付かれて、腕の中へと閉じ込められた。アーサーのどこまでも追う紫の瞳がおそろしかった。


「ひどくつらそうな顔をしている。そんな君を、放り出せやしない」

「なんだよそれ……どこまでイイヤツなわけ、お前。誰でもこうやって助けてやってんの?」


 嫌味だった。アーサーは悪くないのに。アーサーの正しさが癪に障る。
 嫌な奴だ。そりゃ、神様だって見捨てる。


「ははっ、今のは誉めてくれた訳じゃないって、さすがの僕でもわかるよ」


 困ったように笑ったアーサーは、ゆるりと首を振って、「そうだね」と答えた。


「どんな人でも助けられたら、それが理想だけれど。でも、強いて言うなら……」


 アーサーの綺麗な顔が近付く。


「そんな顔をする君すら━━僕は愛しく思ってしまうからだ」


 どういう意味だ。そう問おうとする唇が、彼のもので塞がれた。


 え。


 ちゅっと幼いリップ音を残して、睫毛すら数えられそうな距離から鼻と鼻の先が当たるくらいにまで離れる。間に戻ってきた空気が冷たい。離れた感じが全くしない。


「…………」

「シノ?」


 再び近付いてきた紫に、俺の混乱と不安と我慢は限界に達した。


「お、俺のファーストキスが……! 助けて神様ァァァァ!!」


 心からの絶叫だった。
 誰でもいい。俺が落ち着ける場所へ連れていってほしい。何もない所へ行きたい。


『━━しっしっ忍くん! 何がどうなってるのこれ!? ごめん、僕ちょっと席を外してて全く状況がわからないんだけど!』

「か、神様……!」


 気が緩んで、子供のように泣き出してしまいそうだった。
 神様だ。神様が戻ってきてくれた。
 嬉しいのと、どうして放置したんだという怒りと、大切なものが見付かった安心感でまぜこぜになって止まらない。


「俺もわかんねぇよぉ! なんか一目惚れとか愛しいとか言われて……き、き、キスされたあ! うわぁぁん、初めてだったのにぃぃ! コイツ絶対頭おかしい! イケメンこわい!」


 安堵のまま捲し立てる。
 親切かと思えば押しが強いし、急に弱いところ見せてくるし、押さえられた時とかちょっと背中痛かったし、もう訳がわからない。


「シノ? 一体誰と話しているの? 君は精霊仕いだったの?」


 せいれいつかいってなんですか。


「けれど……おかしいな、君から魔力は感じないのに」

「い、いから……退けよ! 男に襲われる趣味はねぇんだよ!」


 生粋の日本人に魔力なんてあるか、と心の中で答えつつ、アーサーの足の脛を思いっきり蹴り上げた。どうせ腿だとかは届かないので苦肉の策だ。
 うぐっと呻いたアーサーが踞る。弁慶の泣き所が急所なのはどこの世界の人間も同じか。


『し、忍くん、落ち着いて。いったんソレから離れよう』

「ううっ……口洗いたい……」

『ごめんね! ほんとごめんね!』


 あわあわと慌てふためく神様に、神様は何も悪くないのに。と恨み言を言ってしまった自分を恥じる。
 そうだ。神様は何一つ悪くない。俺が勝手に不安定になって、縋ってしまっていただけなんだ。
 だから、普通にしていないと。俺みたいな人間にすら、謝っちゃう神様なんだから。


「シノ……? 君は、先程から誰と……」


 踞った姿でさえ様になるアーサーが、涙目で俺を見上げる。
 どうしよう、今のうちに神様と色々話しておきたいのに、人目があると話し掛けることすらできない。


『忍くん忍くん、声には出さず心の中で僕に語り掛けるようにしてみて』

「え?」


 心を読んだかのようなタイミングで、神様が告げた。


 ━━こう……? 神様、聞こえてる?

『聞こえてるよ。これからは人がいるところではこのやり方で疎通しようか。あ、忍くんの考えてることが何でもかんでも伝わる訳じゃないから。忍くんが伝えようと思ったことだけ読み取れるみたいだから安心してね』

 ━━そ、そっか……よかった。


 やっぱり、心の中を無断で覗かれるのは、気持ちが良いものとは思えない。心だけは、自分の領域であってほしい。


「シノ……急に悪かったよ。その……君があんまりにも魅力的で」


 早々に回復したアーサーがまた訳のわからないことを言い出した。
 かんべんしてくれ!


「あのさ、アーサー……」

『━━ちょっ、ちょっといいかな、忍くん!』


 神様の只事でない様子の割り込みに、咄嗟に口を閉じる。二の句を継げないでいる俺に、目の前のアーサーがきょとりとしている。


『そこの彼、君にアーサーって名乗ったの!?』

 ━━えっ……えっと、名乗ったっていうか、俺が名付けたんだけど……。

『名付けた!?』


 引っくり返った神様の声に、何かとんでもない事を仕出かしてしまったんじゃないかと不安に駆られる。


 ━━う、うん。なんか、記憶が無いらしくて。名前も思い出せないから、俺につけてほしいって……。見た目が英雄とか勇者っぽいから、アーサー王伝説からアーサーって勝手につけちゃったんだけど……まずかった、か?


 眉が八の字に下がってしまって、そんな俺の情けない顔にアーサーが戸惑っている。


『……や、ううん。大丈夫。ちょっと席外してた所為で流れが掴めなかっただけだから。気にしないで。遠慮なくアーサーって呼んであげて』


 納得したらしい神様は、元の落ち着いた声に戻って会話を続けろと促した。

 ああ、神様はもう黙ってしまうのか。……さびしいなあ。


「……シノ? 気分が悪い? そういえば、君は迷いの森から出てきたね。……もしや、中でなにか?」


 目線がすっかり下がっていた俺の頬を持ち上げて、アーサーの紫眼が俺を覗き込んだ。


「━━魔物が、君に悪さをしたのかい」


「…………っ」


 ゾッとした。温度の欠片もない瞳だった。
 先程までは、キラキラして、楽しそうに丸められたり、心配そうに潤んだり、顔よりもずっと表情のある眼をしていたのに。
 まるで、光が一つもない暗闇の空を切り取ったかのようだった。


「ち、ちがう。俺、スライムにしか遇ってないし……」

「スライム……どんな色の?」

「み、水色……」

「…………」


 スゥ、と冷たい紫が細まる。そして次の瞬間には━━ニッコリと、嘘のように彼は笑っていた。


「なんだ、水色スライムか。それなら危険はないね。良かった。君が酷い目にあっていたわけじゃなくて」

「お、おう……」


 ニコニコと人懐っこいそれに戻って、アーサーが俺の腕を取る。
 でも、やっぱり森の近くは危ないよ。町へ行こう。そう歩き出すアーサーに、間抜け面のまま俺は連れられていた。

 こうして、『迷いの森』を抜け『はじまりの町』へと一歩を踏み出したのだ。



 ◆ ◆ ◆



「どうして森にいたのか、て、聞いてもいい? その……君の格好は、旅をするにはあまりに軽装だから」


 市場のような場所を二人で歩きながら、アーサーが遠慮がちに訊ねてくる。
 疑われている━━と、いうよりは不思議がられている。
 無理もない。旅人に見えないのに、俺は何も知らないのだから。
 一文無しで、この世界の通貨も、食べ物も、魔法の基礎知識すら持たない。子供でも知っているような当たり前の常識がわからない。
 明らかに物知らずで怪しい輩だというのに、お人好しのアーサーは俺が見つめている物を察すると直ぐ様横から説明を入れてくれる。これがアーサーでなければ、きっと俺は不審人物として問答無用で衛兵━━俺の世界でいう警察の役割を持つ組織のようだ。ファンタジー世界のテンプレである━━へと突き出されていただろう。


「…………」


 アーサーに買ってもらった林檎を手遊びながら、どう返したものかと口籠る。
 ちなみに、食材に関しては異世界産の物以外は俺が元の世界で知っていた━━例えば果物だとか━━そのままの名前だった。不思議だ。そういえば言語も(俺の認識では)日本語で通じているし、これは俺自身に翻訳機能が備わっていると考えていいのだろうか。トリップ補助特典……とか?


「……答えたくないなら、構わないんだ。僕は君を悪人だとは思わない。けれど、事情があるのだろうことは察せるよ」

「あっ、ち、ちがう。そんなんじゃなくて」


 沈黙する俺を見て何やら深刻に捉えてしまったらしいアーサーに、慌てて首を振る。


「俺も、その……なんで森にいたのか、よくわかんないんだ。自分の現状が理解できてない。だから、上手く説明できる自信がない。……ごめん」


 手元の林檎に視線を落とす。
 アーサーは良い奴だ。見ず知らずの俺を気遣ってくれて、突然キスしてくる困った情熱家ではあるけれど、おばあさんが大荷物を持っていれば当たり前のようにそれを家まで運んでやれるし、迷子がいれば肩車をして親を共に探す。そんな理想の善行を当たり前のように出来る人。
 きっと、俺のいた世界━━平和だけれど、比例するように人の心は荒んで怠惰に満ちていた日本では、逸そ生きづらいくらいに善良の塊だ。
 そんなアーサーのことを信用していない訳じゃない。けれど、俺がこの世界の人間ではないと━━お前達の仲間ではないんだと、どうしても言えなかった。


「……そうか。いや、構わない。僕も自分探しをしている途中だからね。わからないことだらけだ」


 記憶を持たないアーサーは、それでも朗らかに笑う。


「よかったら一緒にどうだい? 一人で真実を探すよりも、二人の方が発見は大きいし、分かち合えるものも多い」


 パチリと、紫と目が合わさる。もしやこれは、共に旅をしないかと誘われているのだろうか。
 ……ああ、それもいいな。神様にばかり割り振ってた依存を出会う人に適度に分けて、━━この世界で、生きられるようにしないと。


「ん、いいかもな。あ、でも、セクハラは無しな」


 この散策の間も散々注意したが、念の為にと繰り返しておく。
 コイツ、悪気が一切無いからまたタチが悪いんだよな。


「せくはら……相手に嫌悪を与える性的な接触の事だったね。うん。気を付けるよ」


 イケメンがキリッと真面目な顔をして誓う。━━が、前言撤回。これに関してだけはコイツを信じない。今だって、気を付けるとか言いながらなんで手を握ってるんだ、ナチュラルスキンシップ魔め。


「これだよこれ! こういうののことを言ってんの!」

「えっ……握手もいけないのかい……?」

「握手じゃねーから! 握手は一瞬握って一瞬で放すから! なんで大の男がおてて繋いで歩かなきゃなんねーんだよ!」


 しょんぼりと悲しい顔をする大型犬のような男から慌てて距離を取る。油断しているとこのままハグまでされかねない。


「シノ……」

「ぐっ……」


 こちらに100%の罪悪感を懐かせるイケメンの卑怯なしょんぼり顔に、逃げる俺と追うアーサーの仁義無き闘いが開幕されようとした、そこに。


「そこの。そこの若いの」


 今にも死にかけなご老人の声が掛かった。


「どうしました? おじいさん」


 アーサーがさっと振り返る。一瞬でヒーローの顔に戻っている。さっきまで餌を貰えない犬のような顔をしていた人物と同一とはとても思えない。


「この老いぼれを、救ってやってはくれんかのう」

「はい。僕でよければ」


 即答したアーサーにオイオイと内心ツッコんだ。やっぱりコイツ、悪党にあっさり騙されるタイプだ。……ちゃんと見ておかねぇと。


「おお、ありがたい……ありがたい……。実はのう、我が家には病気で寝たきりの娘がいて。その子に与えたい薬草があるんじゃが、この通り儂は腰を痛めていてのう。どうじゃ、若いの。代わりに取ってきてはくれんか」

「はい。喜んで」


 いやだから即決すんな!

 如何にもな胡散臭い話にも、持ち前の正義感で応えてしまうアーサーに大変物申したい気持ちでいっぱいになるが、しかしそれがアーサーの持ち味なのだと思うと余計な口も挟めず見守るしかない。
 ……本格的に怪しい話になってきたら止めよう。


「おお! やってくれるか! では早速」


 懐に手を差し入れた老人が近くの机へ乾燥した葉やら小瓶やらを並べ始めた。


「これはプロルコーク。疲労回復に効く薬草じゃ。こっちはシシカゲラといって毒消し草。これはルトラの実で……」


 生き生きと説明し出した老人に、いや絶対アンタ元気だろ。なんて思いつつも真剣に頷くアーサーを想って呑み込む。
 毒消し草だとか体力回復だとか、本当にゲームみたいだ。……神様、ゲーム好きなのかな。

 話はトントン拍子でまとまり、何故か俺も『迷いの森』へ薬草探しを手伝いに行く流れとなっていた。
 ええ……。そりゃ、アーサーとペア組もうねみたいな話はしたけど。……またあの森に入るのかあ。

 革靴で荒い土を踏み締める不快感を思い出しつつも、獣道慣れてないので行きません、なんて甘ったれは言えない。キラキラと笑顔を振り撒きながら「安心して、シノ。どんな魔物が出ようとも僕が守るから」なんて言っている天然の男前を森に放置する方が怖い気がする。そのまま悪い人に騙されて帰らなさそうだ。

 同じ場所で待ってるというお爺さんと別れて、早速森に入る。アーサーは、薬草を見分ける眼でもあるのか、それとも直感か、迷いなく採取していた。この調子ならばすぐにでも袋をいっぱいにして終われそうだ。
 幸いなことに、今のところ魔物に遭遇するような様子もない。……これ、俺別にいらなかったんじゃないだろうか。

 なんて、すっかり気を抜いてしまっていたからだろう。


「━━きゃあ!!」


 森の静寂を引き裂く少女の悲鳴と波乱の予感に、俺は一切反応できなかった。

 葉が擦り合わされる音と地響きのようなものが幾重にも重なり、音の暴力と共に華奢な影がアーサーの元へと降り落ちる。
 黒いベストに黒いミニスカート。太股までの黒いブーツとふわりと舞った黒い帽子。黒尽くめの中、ピンクに紫のグラデーションが掛かった髪と1メートル近くある木の杖が鮮やかに目立つ。
 少女は、自身を受け止めた美青年を見上げ惚けると、次の瞬間には声を張り上げて喚起した。


「━━来るわ!!」


 少女の向こうからのそりと影が起きる。━━醜悪な見た目をした獣だった。大きさはサイと象の間ほど。
 獣の爪が二人を襲う。アーサーは、王子宛らに少女を抱えると俊敏に飛び退いた。二人がいた場所には、災害の跡地のような爪痕が残っていた。


「━━━━」


 声を出すことすらできなかった。

 あれが。

 あれが━━魔物。


「アレの弱点は水よ。とどめはわたしが水魔法で刺すから、弱らせるのを手伝って」


 アーサーの腕から離れた少女が、冷静な判断を持ってアーサーへと指示を出す。それに頷いたアーサーは、現在も布と紐で封じられているそれを構えて特攻した。


「右が空いているわ! 打ち込んで!」


 獣の咆哮が鼓膜を襲う。鈍い打撃音が連続して響く。獣が呻き、アーサーへと殺意のこもった牙を開く。
 ヒュッと喉が鳴った。俺の頭の中では、アーサーが脳天から牙を突き刺される残酷な光景が画かれていた。


やいばよッ!!」


 少女の鋭い声と共に鋭利な何かが獣へと飛ぶ。それによって気が逸れ、牙はアーサーではなく拳程もない隣の地面を抉っていた。━━少女の援護がなければ、ああなっていたのはアーサーだった。
 体勢を一瞬の間に整えたアーサーが獣の懐へと入り肉薄する。休む間もなく少女の指令が飛ぶ。それの全てにアーサーは応えて、着実に魔物を弱らせていった。

 とうとう動きを止めた獣に、少女が水でできたらしい矛のようなものを打つ。獣は━━完全に生命を停めて倒れた。


「…………」


 少女が、落ちていた帽子を拾ってアーサーへと名乗る。
 離れた場所にいた俺は、抜けた腰のままただそれを見ているしかなかった。

 非現実。

 完全なるバーチャルの世界だった。
 あれが魔物で━━あれが魔法なのか。

 思考が定まらない俺に、神様の声が脳を揺さぶる。


『━━くん、忍くん!』

「神様……」

『忍くん、落ち着いて。今のは予定調和なんだよ。アーサーに任せていれば大丈夫だから』

「よ、てい……?」


 アーサーが老人に頼まれ森へ入ることも。少女と魔物の争闘に巻き込まれることも。━━アーサーが、魔物を倒してしまうことも。

 すべて。


「決まってた……ことなのか……?」


 声が震える。

 そうだ。━━と、神様は答えた。


『だから安心して。この辺りのエリアで、もうあのレベルのものは出ないから』


 淡々と続けた神様は、少しだけ躊躇うように間を開けると。


『━━そんな顔、しないで』


 乞うような声だった。囁きにも近くて、そんな顔ってなんだろう。なんてぼんやりと思った。

 どうして、神様はこんなにも俺を気にしてくれるのだろう。
 異物だから? 唯一、神様の知らない動きをするから?


「シノ! 大丈夫かい?」


 少女と話し込んでいたアーサーが俺の元へと駆け寄る。


「ごめん、シノ……君を守りたくて、必死になってしまった。怪我はないかい?」


 膝を着いて目線を合わせるアーサーに、かろうじて首を振ってから立ち上がる。
 少女もこちらへと向かっていた。大きくて猫のような金の目と搗ち合う。


「あなた、アーサーのお友達? わたしはニーナ。これからよろしくね」


 これから。
 放心していた為に彼等の間でどのような会話がされたのかはわからないけれど、どうやら彼女もこれからの旅に同行する形になったらしい。


「ごめんなさい。驚いたよね。わたしがクオークウルフを一撃で仕留められなかったばっかりに……」


 しょんぼり落ち込んで、大きな帽子がそれに拍車を掛けて彼女の顔を暗くするのに、慌てて首と手を振った。アーサーが隣でそんなことないとフォローを入れている。まったくその通りだ。
 近付けば近付く程ハッとする美少女だった。髪と同じ色の睫毛は長くて、唇はピンク色で。健康的なプロポーションはバランスよく整っていて、すらりと伸びる脚と短いスカートに思わずどぎまぎしてしまった。男として当然の反応だと思う。


「あなた、不思議な格好をしているのね。黒尽くめで……なんだかわたしみたいだわ。ふふっ、お揃いね。魔法使い……ではないのよね? あなたから魔力を感じないもの。わたしは魔法使いだから、同属はわかるの」


 クスクス笑いながら、ニーナが俺へと手を差し出す。


「シノ、と……わたしもそう呼んでいい?」


 柔らかな彼女の笑顔に、そっと手を重ねた。


「……うん。よろしく、ニーナ」


 ニーナも共に町へ戻り、そわそわと待っていたお爺さんに薬草を渡して謝礼を受け取ってから、ニーナが泊まっているという宿を紹介された。
 そこにアーサーと一人ずつ部屋を取って、やっと、俺は安堵の息を吐いた。

 ここは、剣と魔法と神話の世界、トゥルザール。

 ああ━━俺はどうやって、生きればいいのだろう。


 神様。

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