拝啓、世界の神々。俺達は変わらず異世界で最強無敵に暮らしてます。

雹白

拝啓、情報屋。いつか、また。

「……とは決めたものの……これからどうするかな……?」
 早速、俺達は行き詰まりつつあった。
「なあ、秤。❬法王❭がこの国に居る事は確定なのか?」
「ああ。常人族で最も力を持っている国はこの国だ。他の国は完全に支配下に置いているみたいなんだ。その常人族最強の国に常人達の王……❬法王❭がいない訳がないだろう?」
 そう、❬法王❭はこの国に居る筈なのだ。ただ……その痕跡が全く無いだけで。常人族最強の人物はそれこそ常人族という最弱のカードに隠された本物の切り札ジョーカー。だからこそ隠れるのだ。その切り札は場の流れを真っ向から覆す逆転の一手、最強の奇襲となるのだから。
「なあ、神崎。このまま二人で活動してても埒があかない。……だから一度二手に分かれないか?」
 正直、神崎がいると何かと戦力的に助かるのだが、なにせ時間がない。今は少しでも多くの情報が欲しい。
「この一週間で❬法王❭について何も情報が掴めなかったら、その時は❬法王❭に近づく方法を変えようと思う」
「分かった。じゃあ……また一週間にな」
「ああ!」
こうして俺達はそれぞれ自分の活動を始めた。



「しっかし……本当に都会だよなぁ……」
周りを見渡す限りそびえ立つビル群。本当にここが剣と魔法の世界なのか疑いたくなる。
「情報ね……この世界観ならインターネットくらいありそうだけどな……まあ、検索したところで❬法王❭についての詳しい情報が出てくるハズないんだけど」
そこで俺は神様に助けを求める事にした。
(神様。……神様?聞こえてます?)
……神様からの返事はない。
(……神様忙しいのかな。またこの世界に降りてきてたりして)
「……お兄さん。何か欲しい情報があるの?」
「え?」
薄暗い路地裏に入る道から声がかかる。そこにいたのはフードをかぶった少女。背丈は俺より一回り小さいくらい。顔はフードを目深にかぶっているため見えない。
「欲しいなら売るよ?情報」
「……君は、誰だ……?」
俺は素直にその言葉を口にしていた。



「なあ!君は何者なんだ!?」
 少女に連れられるまま路地裏に入っていった俺はさっきからずっと黙ったままの少女に同じ問いを繰り返していた。変質者だと誤解されるかもしれないが断じて違う。さっき彼女は“情報を売る„と言った。何か他の一般人が知らないような情報を知っている……はずだ。
 謎の少女についていくと着いたのは路地裏のある一角。
「……うん!ここら辺で良いかな!さてと……お兄さん。情報が欲しいんでしょ?売ってあげるよ?」
そこでさっきから口にしていた疑問をもう一度問う。
「……さっきから聞いているだろう?君は何者だ?」
「うーん。それが欲しい情報かな?それなら……お、か、ね、必要だよ?」
「ぐ……」
今の俺の所持金は決して多いとは言えない。情報料を無駄に使いたくはない。
「にゃははは!もー!冗談だよ、お兄さん!流石に自己紹介くらいするって!……じゃあ、自己紹介をしばしお聞きください」
少女がコホンと、一つ咳払い。
「私は❬ストレイ❭。名前通りのはぐれもの・・・・・。社会の影に隠れる事はあっても、融け合う事は決して無い、野良猫。さあ!今日も今日とて、情報屋として愉快なお客様が欲しい情報を愉快に、安く、そして正確にお教えしましょう!」
と、芝居じみた自己紹介を少女が行う。やはりフードで顔はあまりよく見えないが、それでも笑みを浮かべているのは分かった。頬を少し紅潮させているのも。
「……にゃはは。やっぱり何度やっても少し恥ずかしいね、この自己紹介。ま、まあ良いや!それより!お兄さんが欲しい情報は何!?」
少女改め❬ストレイ❭が慌てたように聞いてくる。やはり、あの自己紹介は恥ずかしかったようだ。
「俺の欲しい情報は……」
 素直に❬法王❭についての情報を求めようとした。しかし、思いとどまる。本当にこの目の前の少女から情報を買っても良いのだろうか?この少女が❬法王❭の関係者、あるいはこの世界の裏で暗躍する勢力の一人かもしれない。……疑う事はいくらでもできる。しかし、逆に俺は目の前の少女が敵だと証明することもできない。……俺の考えすぎなのだろうか。
「君は……」
「もー!お兄さん!もしかして私の事疑ってる!?大丈夫!安心して!言ったでしょ。私ははぐれもの。社会を隠れ蓑にする事はあっても社会に混ざる事はないよ。情報を売るかどうかはカネ次第、正真正銘の情報屋だから」
彼女が紡ぐ言葉に重さが加わる。どうやら本当に信用して良いようだ。
「……じゃあ聞こう。俺が欲しいのは……❬法王❭についての情報だ」
「ほうおう……❬法王❭ねぇ……えっ!❬法王❭!?マ、マジ……?」
驚いた様子で❬ストレイ❭が聞き返してくる。
「ああ、マジだ。詳しい理由は言えないが俺は少しでも多く❬法王❭について知らなければならないんだ」
「理由、ねぇ……?国家転覆とか?」
❬ストレイ❭がニマニマと笑みを浮かべる。
「……理由は言えないと言った筈だ」
「あー、ハイハイ。分かりましたよっと。まあ……❬法王❭の情報といってもほとんど都市伝説レベルでしかないんだよねぇ……」
「なんでもいい。持ってる限りの情報全て売ってくれ!」
「分かりましたよ、お客サマ。そうだなぁ……じゃあ一番信憑性の高い噂を教えるよ」
「ああ!」
「えーとね……この街……王都アリアスの郊外にね、ラグリスっていう村があってね。そこの教会に❬大神父❭って呼ばれる神父様がいるの。あ、ここまでは事実ね。で、ここからが噂なんだけど……その❬大神父❭様が元々とんでもない強さの兵士で、なんでも❬法王❭と並ぶ程だったとか……それで❬法王❭と面識もある……っていう噂。」
正直、本当に都市伝説レベルの話で驚いた。
「……分かったけど、❬法王❭までは遠いな……。……❬ストレイ❭。情報ありがとう。今の情報はいくらだ?」
俺が代金を払おうとしたら、❬ストレイ❭は不満そうな声をあげた。
「はぁ?お兄さん。私がこんな情報に値段なんてつけるわけないでしょ?こんなただの噂。この超敏腕美少女クールビューティー情報屋の❬ストレイ❭ちゃんがそんな情報とも言えない噂に値段つけて売り付けたなんて言ったら、それこそ自分の顔に泥を塗りつけてるようなもんだよ。そんな事するぐらいなら私は地獄の業火に身を投げるね!」
すごい剣幕だ。
「そ、そうか。とりあえず情報ありがとう」
「うん!じゃあそこまで送るよ。ここまで来た道覚えてないでしょ?」
「ああ。頼む」
 数分後。俺は暗い路地裏から出て元の場所に戻ってきていた。
「ありがとう。❬ストレイ❭、ここまで案内してもらって……」
「はぁ?何言ってるの?お兄さん!情報料払ってよ?今回はちゃんと!」
「え……?金とられるの?」
「あったりまえじゃん!」
「はぁ……抜け目ねぇなあ」
そして、代金を支払う。
「毎度!じゃあ……また会う日までね!お兄さん……いや、ハカリカナタ・・・・・・さん!」
何故か俺の名前で呼ばれる。俺は一度も名乗っていないのに。
「なんで俺の名前を知って……!?」
 しかし、俺が振り向いた所には、さっきまで路地裏に通じている入り口があったはずの場所には何も存在していなかった。
「今、確かにここから出てきたよな……?」
幻覚でも見ていたのだろうか。いや、そんな筈はない。たしかに、情報屋……❬ストレイ❭は存在していた。
「まあ……またいつか会えるよな」
 愉快な情報屋と出会った俺はまた彼女と出会うであろうことを直感でだが、確かに感じていた。
「じゃあ……向かいますかねラグリス村へ……❬大神父❭に会いに!」












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