#Web小説サイトの歩き方

水乃流

LINEノベル考察、みたいな

 前回、LINEノベルの終了について書きましたが、ビジネスという面からもう少し深く(グダグダ)考察してみたいと思います。

 そもそも、小説投稿サイトでビジネスを成立させるには、どのようなモデルが考えられるのでしょう?

 ひとつには、PVを稼ぐことで広告収入を得ることです。「なろう」や「カクヨム」はこの方法ですね。すでに多くのユーザー、多くのコンテンツを抱えている「なろう」や、広告収入を作者に還元することでコンテンツを増やしている「カクヨム」であれば成立するビジネスモデルですが、1から始めることは難しいでしょう。個人的には、「なろう」が成功したのは奇跡のようなもので、今から同じ事をしても失敗するだけだと思います。

 ふたつめは、作者をリクルートして自社から出版する方法。「カクヨム」「マグネット!」などはこの方法をとっていますね。ただ、出版不況の現在ではなかなか成立しにくいビジネスモデルです。「マグネット!」では、すでに破綻したと言ってもいいでしょう。

 みっつめは、サイト内課金です。サイト内のサービスに使用できるアイテムやチケットを販売する方法です。「ノベルアップ」や「マグネット!」、「LINEノベル」はこの方法ですね。「ノベルアップ」と「マグネット!」では、ユーザー同士の交流に対して課金できるしくみです。お気に入りの作者を見つけたら応援する、という形。noteの投げ銭システムもそうですね。

 さて、「LINEノベル」のビジネスモデルはふたつめとみっつめ、書籍化とサイト内課金で収益を上げようとするものです。
 書籍化に関しては、LINE文庫、LINE文庫エッジというふたつのレーベルを立ち上げています。前述の通り、今は出版不況で書籍が売れないことは事実ですが、だからといって一年で終了してしまうのはレーベルとしてどうなのでしょう? レーベルとしては継続するのでしょうか? せめて、「令和小説大賞」というコンテストの受賞作品の書籍化はするはずですが。
 刷れば刷るほど赤字だったのか、あるいは別の思惑が働いたのか。帳簿上で見れば、黒字ではなかったでしょうからね。背景としては、LINEとYahoo!の統合があるのは間違いないでしょう。Yahoo!の親会社であるSoftbankには出版部門もありますしね。LINEはコミュニケーションサービスに注力せよという判断があったとしても不思議ではありません。

 余談ですが、小説投稿サイトで公開された作品が書籍化される場合、そのまま書籍に落とし込むなんてことはありえないことでしょう。すでに、無料で公開されているのですから、わざわざ紙の本を買った読者を馬鹿にすることになります。書籍化にあたっては、編集者や校正者の手腕が求められます。ストーリーに深みを持たせる。誤字脱字はもちろんおかしな表現をなくす。こうした作業は必須です。言い換えれば、書籍化するには編集者と校正者が、それもできれば腕の良い人が必要になるわけで、そうした人材を集められないとレーベルは失敗と言っていいでしょう。

 そして、LINEノベルのもうひとつの収益の柱たる課金ですが、これはチケットを購入すれば市販されている小説が読めるというものです。アプリへのログインや読書時間によってチケットが配布されますが、まとめて読むなら課金が必要になります。同様のシステムは「ノベルバ」にもあります。
 「LINEノベル」の商業作品(“ラノベ”と呼称←これもどうかと思いますが)は、「ノベルバ」よりも有名どころが多かったように思います。ただし、「ノベルバ」でも同じなのですが、チケット1枚で読める小説の分量が少ない。一冊の本を細切れにしているわけです。続きが気になるなら課金する――これは、マンガの配信サイトではよく見かける手法ですよね。でも、マンガの場合、8ページ16ページあるいは32ページという単位で一話が構成され、ちゃんと一話ごとに次回へのヒキが用意されます。しかし、分割された小説にはそれがありません。マンガと小説では、根本的に違うのです。
 でも、ログインごとにもらえるチケットで、一冊丸ごと読めてしまったら、これは商売になりません。細切れで表示させることも仕方のないこと――と思うのは、提供側だけです。サービスを受け取るユーザーには、そんなこと関係ありません。ちまちまチケットを集めて少しずつ読み進める。そんな作業をするより、無料で全部公開されている方を読んだ方がいいと考える方が普通です。
 要するに、お金を払ってまでネット上で読むよりも、ファンであれば書籍を購入してまとめて読みますし、ファンでなければ無料分だけ読んで終わりになることが多いのです。ビジネスモデルとしては、無理があると言わざるを得ません。
 「ノベルバ」の方はどうかといえば、ユーザーとして観る限りあまり成功しているようには思えません。新しく追加される商業作品は、恋愛ものばかり(ファンタジーが少し)です。むしろ、女性にターゲットを絞っているのかも知れません。ただ、始まった当初は純粋は小説投稿サイトだったので、ある程度投稿作品が集まっていることが「LINEノベル」との違いですね。

 では、課金サービスとしてサブスクリプション方式はどうか? といえば、すでにアマゾンが提供しているわけで。ちょっと相手が巨大過ぎますね。

 「LINEノベル」が失敗(と言っていいでしょう)したのは、ここまで書いたようにビジネスモデルとして見通しが甘かったことと、前回も書いたようにユーザーにとって使いにくいサービスだったことが要因でしょう。アプリの提供が遅れたこともそうですが、他の小説投稿サイトと比べて特徴がなさ過ぎた。他のサービスが真似できないような特徴、たとえばLINEがやるのであれば、LINEアプリに融合させた形――LINEで小説を書きためることができたり、読むことができたりといったが不可欠でした。

 おそらく、今後も新しい小説投稿サイトが登場するでしょう。ただし、無料サービスに慣れてしまった現代において、ビジネスとして成立させることはなかなか難しいことだと思います。既存の殻を破るような、びっくりするようなサービスが出てくることを期待しています。



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