ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第27話 明かされてゆく真実


  中央国プロミネンス

  悪夢の仮面事件から3日が経ち、王都では負傷者の手当や、街の修復で人々は慌ただしく働いていた。

そんな中、王宮へと招かれたハジメとシファー。
二人は強制的に王宮の広間へと連行され、兵士に取り囲まれる形で、各国の王達と対面する事に。

「彼女が魔王の…」

「僕より若いですね」

「ハンっ。魔力は上手く隠してやがるが、臭いは魔族と変わらねぇ」

「あの小僧…まだまだ青いが太刀筋は良いのぉ」

「諸君、静粛に」

  四大国の王を沈め、中央国の王プロミデンスが姿を現す。


  この肌にピリピリと伝わる魔力、やはり王とあってか、その力は底知れないな…。

「我こそがプロミネンス王国国王ブラフマ・プロミデンスである。
先刻は大義であった…ハジメ・ナイトソ  ー ド殿、それからシファー殿よ」

「は、はいッス!」

「は、はいっ!」 

「そう固くならんでも良い、お主等の事はよう知っとる」

  え?国王が俺の事を…?
てか、シファーさんの事も知っている?!

ハジメが視線だけを向けると、シファーは青冷めた顔付きで表情が固まってしまっていた。

  それはそうだ。
魔王の娘というのを知られていたら、即刻死刑で打首だろう。

想像するだけで身震いしそうなのに、それが今や現実になりそうなのだからたまったもんじゃない…。

「カイト殿から話しは聞いておらぬようじゃな…。
さて、どう話したら良いモノかのぉ」




「それなら、私から話をするか」





  ぞわりと背筋から悪寒が走り抜ける感覚。
幾度か経験したハジメは、その声の主が誰かを瞬時に判断し見ていた──

「シファー殿…では無いな?」

「久ぶりだな人間の王よ。そっちのガキも久しく見ない内に大人になったな?」

「この感覚…話し方…魔王ッ!!」

  イアスの異常な殺気に、城内の皆が息を呑む。
この険悪な空気からして、これが冗談では無いのは確かだと思ったのか、他の国の王もただ静かに静観する事に徹する。

「丁度良い頃合いだ。私の知っている事を順に追って話そう」

「ふむ、では頼むぞ」

「プロミデンス王?!」

  反発しそうなイアスを手で静止させ、プロミデンス王は静かに首を横に振るう。

「先ず、私達魔族が魔界から人間界に来た理由…それは『ポールシフト計画』という事はご存知だな?」

  知っている。
元々は人間と魔族の作った古いシステムで、人柱を世界の中心となる場所に配置し、プラスとマイナスのエネルギーを相殺し合い世界のバランスを保つシステムである。

人間は生気に溢れプラスとなり、魔族は人間の負の感情等から生まれる為マイナス。

  世界が過去にバランスを崩したのは、それのどちらかが傾き、世界のエネルギーバランスが崩れたのが原因とされている。

この理論は10年前の戦争で突き止められたモノだが、ソレが戦争の原因と知って居たのは世界でも数少ない。

  その為、他の人達は魔族の反乱と考えている人も多いのが事実。

「しかし、その計画には裏があったのだ。
この世界を我がモノにするという野望を持つ、人間と魔族によってな」

 「ワシらも戦時に調べて気付いたのじゃが、どうも魔物の動きに偏りが見えてのぉ。
調べて見たら穴が幾つも見付かった訳じゃ」

「チューハン王国とアーシロコルト、他にも幾つか不穏な動きをしてやがる国もあったが、目立たずに行動をしていたのがその2国だな」

  ハンゾウとグラディウスが続けると、サタンは首を縦に振り肯定の意を示す。

「そこで、私はコンタクトを取る事にした。そこのプロミデンス王とな」

「そんな…魔王自らッスか?」

「最初はワシも驚いたわい」

悪魔こっち人間そっちの中で、最も手っ取り早く話が進むのが長同士の話し合いだ。
つまらん後手に回るのなら、初めから余計な行動を省くのが一番だからな」

  それにしたって行動力有り過ぎだろ。
要は話し合いする為に敵陣の王の座へ単騎で乗り込んだわけだし…。

  1歩間違えてたら、終戦に持ち越せた話しじゃないか…


「まぁ、悪魔側もバーンダストを攻め落とすのに必死になっていた分、そっちに意識が行っていたのは好都合だったという訳だ」

「貴様のせいで我が国は───」

「落ち着け北国の小僧」

  ハンゾウの言葉にイアスは躊躇いを見せながらも大人しく引き下がる。

しかし、その表情には煮え切らない思いが見え隠れしていた。

「幾つかの情報収集をこの国に任せ、私は魔王としての責務を果たした。
そして、少しばかり月日が経ち戦況は大きく変わっていった」

「バーンダスト王国を落とした次に、魔王軍は一時的休戦期間に入り兵の回復を待った…で、合ってるよなァ?」

「あぁ、その通りだ。私は時折、隙を見付けては この国へと潜り込み、そこの火の王と対談していたのだ。
そして、私達は真なる闇に1つ気付いた」

  火の王と呼ばれたプロミデンスは、当時の文書であろう書物を懐から取り出し広げて見せる。

そこには幾つかの言葉が殴り書きされた様に書かれていた。

『ヨハネの黙示録』
『チューハン王国の奴隷売買』
『アンチポールシフト計画』
『エデン化計画』
『人柱』
『地獄門』

「ざっくり簡単に説明するとだな。
チューハン王国が『アンチポールシフト計画』として、人柱を辞めて悪魔の犠牲だけでこの世界を支えようと企んでいた。
しかし、それも正解とは程遠く。結局の所で人間側のエネルギーがなければバランスが崩れる事を知ったのだ。
ならば悪魔を人間界に呼び出し、新たな世界創世をしようと企んだというのが、そもそもの始まりとなったわけだ」

「この地獄門やヨハネの黙示録っていうのは何ッスか?」

「元々、魔界の更に奥には地獄という世界が存在している。
あそこは特別な状況の為、我々魔族とておいそれと入る事の出来ない領域だ。その領域に干渉する為には『地獄門』という特別な門を開かなければ入れないのが前提だが。
そしてこの『ヨハネの黙示録』。これは、かつて預言者が書いたとされる、有りとあらゆる情報が書かれた本であり。その本には特別な力も眠っている」

  な、何だか御伽噺おとぎばなしになって来たなぁ…。

「纏めてると、チューハン王国が、この世界を壊して創世する計画を『エデン化計画』と名付けている。
そして、ソレに加担している魔族が存在し、その魔族は地獄から更に大いなる力を持った存在を召喚しようとしている…という事だ」

「と、途方も無く大きな話しッスよね…。
世界を…創り直すなんて…」

「頭ァ、イカれてんな。結局、屑と屑が世界を破滅させる計画ってだけじゃねェかそれ」

「ふむ。『ヨハネの黙示録』…僕の記憶だと太古に封印されたと聞いていたけど」

「確かにのぉ…アレは過去の忌まわしき『呪い』や『魔術』も載っておる恐ろしい本じゃったハズじゃが」

「──魔界にも存在していたんだ。1冊だけな」

  人間界と魔界に存在するヨハネの黙示録。
まさか、ただの伝説や言い伝えだけだと思っていたら、実在していたんだな。

「エデン化って名前も気に食わねェ」

「自分達の楽園って事ですか、何とも気色の悪い」 

「ハッ、南の楽園が言うかねェ?」

 茶化す様な言い草に、ドリムは苦笑し返す。

「さて、此処からが厄介になるな。
プロミデンス王よ、この先どうする積もりだ?」

「そうじゃな…取り敢えずは、ハジメ殿 お主は国から追放。そしてシファー殿は幽閉じゃろうな」

   プロミデンス王の答えにサタンは頷く。

  ちょっと待て、俺が国を追放されてシファーさんは幽閉?!

「何でそんな──!!」

「ガキが落ち着け。今回の騒動でシファーコイツ魔王の娘と知られ、更にお前が一緒に行動していたのもバレたんだぞ。
打首にならないだけでも最大の譲歩だと思え」

  た、確かに…
フェイスのせいでシファーさんの素性がバレたんだっけか…。

色々な事が積み重なっていたせいで、頭からその事がすっぽりと抜けていた。

「そう言えば、プロミデンス王。貴様とそこの西国の王で頼まれ事をしてくれないか?」

  ニヤリと不敵に笑みを浮かべたサタンを見て、プロミデンス王は「う、うぅむ…」と引き気味に返事をする。

如何にも嫌な事がある前兆を、この時確かに会場に居た全員が感じていた。


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