ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第21話 祭

 中央国─第四区

  中央国は6つの街に区分されている。
大きな国である為、城を取り囲む様にある街には所々にギルドも設置されているのだ。

東西南北に正門があり、そこの入口付近にギルドが設置され。城から出て直ぐにある噴水広場の前にはそれを管理している大元、中央ギルドが存在する。

今日は各国のお偉い方が集まる為、それぞれの国から来た客も多く。第二区では大きなお祭りが模様されていた。

「シファーさん、あんまり走ると危ないッス
よぉ」

「大丈夫大丈夫!!  折角の休日だもの、楽しまなきゃ!!」

  上機嫌に綺麗なピンク髪を靡かせながら走り回るシファーに、ハジメはやれやれと溜息を吐く。

  現在のシファーは白地にピンクのヒラヒラの付いたのを着て、それに似合う白と赤の帽子を被っている。
店員がオススメしたカシュクールというワンピースは胸元が着物の様に重なっているのだが、活発な彼女が着ていると色々と危ない。

「ほら、肩が下がりそうッス。後、帽子もちゃんと被って!!」

  言いながら無理矢理帽子を押さえると、シファーはムッとした顔で見てくる。

この帽子は彼女の角を隠す為に買ったものだったのだが、亜人等も住んでいるこの国ではあまり効果は無い。
しかし、角の形等で変に勘繰られてしまう可能性もあるので一応その対策として被せているといった感じである。

「ねぇハジメ、これって車よね?」

  首を傾げながら見ている紙を、ハジメも横から覗き込む。

そこには『過去の遺産』から復元されて、現代でも開発の進んでいた乗り物の新種が大きく掲載されていた。

「そうッスね? 何々…νニューハイブリッドモデル誕生。
値段は150万ゴールド?!」

ハジメの言葉にシファーも驚いた。
いくら車が復旧したとはいえ、最低でも200万ゴールドは劣らないハズ。

それが新種のしかも新車で150万というのは破格過ぎる。

「なるほど、燃料問題を魔石でカバーしてるんッスね」

「人類の進歩って凄いわね!!」

「いやいや、車が出来たのだってつい最近と言えるくらいッスよ?!
それがこの値段と技術…はぇー」

  開発担当者の名前が気になり見渡して見ると、小さくクリカラ・ハツメと書かれていた。

「へぇ、この人が開発者なんッスね。今日のお祭りでお披露目会があるらしいッスよ!」

「見に行きましょ!」

  2人はすっかりと広告に夢中になり、祭りの行われる第二区を目指して向かう。





 第二区  噴水広場

「さぁさぁ、南国名物トロピカルドラゴンフルーツだよ! 白い果実にプチプチの種の食感が癖になるよー!!」

「西国限定のアクセサリー!! 今回は魔力を秘めた魔鉱石を使った『思い出奏曲オルゴール』や、魔法の使えない人向けの魔術刻印が入った魔鉱石もあるよー!!」

「賑わってるわね!」

「そうッスねぇ。各国の模擬店が並んで楽しそうッス」

  様々な食べ物の匂いや、土産品まで鎮座し。お祭りならではの状態。

  既にイカ焼きや焼きそばを買った俺等は、1度座れる場所を探して右往左往していた。
何処を見ても席はいっぱいで、観光客やカップルが多い。

「カップルが多い理由はこれかぁ」

  『南国産ラヴフルーツに今なら西国のラブカストーンをセットで販売!  東国の職人が手掛けた一品 ※カップル限定販売です』

  なんというか、凄いちゃんぽん具合だ。
それぞれの国の良い所を取り出したイメージだけどそれだけじゃあ無い。

観光客は今流行りの『北国のクリスタアイス』という、オーロラの様に光り輝くかき氷を食べに来ているらしく。
その店が近い噴水広場は何処も満席となってしまっているのだ。

「ラブカストーンだって!  ねぇ、アレ買いに行きましょ!!」

「ブッ───?!」

  口に含んだジュースを危なく吹き出しかけて留まる。

「げほげほっ、な、何を言い出すんスか?」

「だって、綺麗だなーって…」

「うっ…」

  宝石に劣らない綺麗な紅い瞳をこちらに向けて言われると、そりゃあ男として断れるわけが…無い。

 仕方なく財布を取り出して、屋台のおじさんにお金を手渡して1つ頼む。

「可愛い彼女だな!! ホラよ、ラヴフルーツとラブカストーンな」

「あ、ありがとうございますッス」

  彼女と言うのを否定仕掛けたが、それで購入出来なくなってしまうのが嫌だったので一先ずお礼を言って商品を受け取った。

「へぇ、ライチ見たいな皮ね…」

  シファーが手に取ったラヴフルーツは、ハートの形をし、ライチの様な皮に包まれて実を守っている植物。
元々はライチの同種であり、味も似ているのだが南国では恋愛成就の果物として流行っているらしい。

皮をペロリと向くと、半透明の実がぷるぷると震えて姿を現す。

「あむ──甘ぁい♡」

  1口食べて幸せそうに笑みを零す彼女はとても綺麗で、先程まで修行していた疲れがぶっ飛ぶ程癒されていた。

「ほら、ハジメも」

  そう言いつつ差し出したラヴフルーツと彼女の顔を交互に見て指を指す。

うんうんと頷かれたので、抵抗するのを諦めて果実に口を付けると──ジュワッと噛んだ先から溢れんばかりの果汁が雪崩込んで来た。

「んん──んー!!」

  噛むとジュワジュワと溢れ出る果汁。
食感はライチに似ていたが、少しシャクシャクとしたアセロラに近い食感だ。
風味は桃の様な甘さに、苺の様な酸味。酸っぱ過ぎず、甘さを丁度酸味が抑えてバランスが良く引き立てあっている。

  ツルりと喉を流れて行く感覚がとても心地好く、楽しくも思えた。

そして残った香りが鼻から抜け、その美味しさが空気としても楽しめた。

「美味いッスねこれ!」

「ねー!!  あむ…んん〜!!」

  再びラヴフルーツを楽しみ始めたシファーを横目に、ハジメは先程入口で貰ったマップを広げて確認する。

「おっ、車の発表会まで少し時間があるなぁ」

  お祭りの案内とイベントが細かく書かれた地図に目を通してハジメは活き活きとしていた。

「そういえば、此処に来てから何件かお店を回ってたけど…アレは何をしてたの?」 

「あぁ、ウチは昔から薬剤師として各国に薬を提供してるんスよ」

「あー、だからあの家、広くて色んな植物が置かれていたのね」

「そうッスね。シファーさんと出会った日も材料の調達をしてたッスし」

  ガサゴソと下げていたバッグの中を漁り、幾つか小包を取り出し手渡す。

渡されたシファーは小首を傾げてそれを受け取り、中を見ようとする。

「今開けようとしてるのが傷薬で、もう1つは催涙の粉ッスから開けないで持ってて下さいッス 」

「催涙って、何でこんなの?」

「何かあると危ないッスからね、女の子に護身用として売れるんスよこれ?」

  さてと…と言いながら立ち上がり軽く伸びをしてハジメはシファーの手を取り…。

「さぁ、車の発表会に行きましょう!!」

「はーい」

  シファーも立ち上がり、2人はおかしく笑いながら展示会へと向かう。





  展示会の方へとやって来たが、新車の発表会とあって人混みが凄く。
とても前には進めない状態で2人は立ち往生していた。

「やっぱり多いッスねぇ…」

「そうね。これじゃあ車は見えないわね…」

  溜息を吐きながら一度場所を離れて見る。
展示されている所も見えない混みようで人がごった返している。

  これは…諦めるしかないなぁ。
折角のチャンスだけど、無理してシファーさんが疲れると酷いし。

そんな事を考えていると、クイクイと袖を引っ張られた気がしたので下を見る。

そこには、小さな可愛い手で何かを訴えるシファーが目に入り。彼女が別の手で指を指している先を見ると…ヘンテコな仮面を付けた人達が沢山列に紛れているのが見えた。

「お面屋さんのッスかね?  奇妙な面ッスけど…」

「…アレ、ちょっと気持ち悪くない?」 

  そう言われれば、微かに気持ち悪い感じはしている。見た目は普通の仮面なのだが、妙なおどろおどろしさを感じるのは確かだ。

「流行りなんスかね?」

「分からないけど、いっぱい着けてる人は居るのね…」

  辺りを見渡していたら、研究員のネームプレートを白衣に付けた男性がフラフラとこちらに歩いて来ていた。

ボサボサの黒い髪に無精髭の男は、にこやかに手を振りコチラへ立ち止まり…
「やぁ、ハジメくん」と語り掛けて来た。

その姿には見覚えがあった。前に父親とこの国に来た時に…確か…。

ムムと首を捻っていると、苦笑いしながら彼はネームプレートを見て来る。

「レイス・クロスターさん?  あぁ、確か科学班の?」

「そうそう。今は受け付けとか別の人がやってるから、中々会わなくなっちゃってたからねぇ。
今日はどうしたんだい?見た所、彼女と観光してる様に…」
 
「ち、違うッスよ?!」

「──むっ」

  視線が痛い。

何故か鋭い視線を送るシファーを横目に、ハジメは冷や汗を浮かべて乾いた笑みを浮かべる。

「ははは、ごめんごめん。そだ、コレ…お詫びと言っちゃあ何だけど」

 懐から紙切れを取り出して差し出され。
ハジメはそれを受け取り、書かれた内容を確認して驚く。

「これ、車の展示会の特別参加券ッ!?」

「知り合いがドタキャンしてね、僕は必要無いから上げるよ」

「あ、ありがとうございますッス」






  二人が人混みに消えるのを眺めて、彼はニタリと無精髭を撫で腕を組む。

「この魔力の波動。気付いているのは何人か──」

  露店に売ってる仮面を1つ手に取り購入。
 
  良く見ると人間界には無い材質。所々に綻びが生じているな。

  モノクルを取り出し装着、仮面の事をソレを通して見ると自身の魔力で機械音と共に起動する。

簡単な魔力の数値と、材質が普通ならば表示表示されるのだが。
この仮面に関しては違う。

  手触りや叩いた音。臭いも確認するが全部が臭い。
元々人間界に在りましたと言わんばかりに塗り固めた香りや塗装。ソレ等が邪魔をしているが、断面や綻びから指に当たる感触は魔界の土器に類似していた。

「簡単な検査をして置きますか」

  裏路地にバッグの中身を幾つか広げ、薬品の入った小瓶に仮面の欠片を入れてゆく。

二、三度振っては置き。同じ様に別の容器に同じく破片を入れ、それぞれに違う薬品を投与する。

その内の1つの液体が紫色に変わり、破片がカタカタと中で動き出し…消えた。

  「へぇ──この魔術系統の類か」

  破片の消えた容器を揺らし、中の液体を遊ばせて喜ぶ。

まるで確信を得られたかの様に微笑む彼の表情は、誰も知る由もなかったのであった…。


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