ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第20話 東西南北の王



  中央国 『プロミネンス王国』

城内の会議室にて大きな円卓を囲み、各国の王達が対面して座していた。

中央からブラフマ・プロミデンス『プロミネンス王国:国王』。

そこから時計回りにハンゾウ・オオツカ『ジパン王国:国王』

グラディウス・サウドグラデッド『バロビン王国:国王』

ドリム・ヘヴンズ『ドリムメル王国:国王』

イアス・バーン『バーンダスト王国:国王』

  東西南北と中央の国王達は、それぞれに強力な圧力を放っては牽制し合っていた。

否──その矛先はバーンダストの国王である、イアスに集中していたのは明白。

  年齢的に2番目に若い彼は、30歳とは思えない風格を醸し出し。その威圧感の中を平然とした表情で沈黙を決め込んでいた。

「よくもまぁ、ヌケヌケと顔を出したモノ夜のォ?  バーンダストの坊主」

  沈黙を断ち切る野太く渋い声。
西の王グラディウスが睨みを効かせながら、イアスへと発言した事により、他の王は微かに襟元に手を当て緩める。

間違えても刺激しようモノなら、どんな事態になるか分からないので、王達は口にする事すらはばかっていた一言。

ソレを開口一番に伝えたグラディウスには、皆心の中で拍手喝采をしていたであろう。

しかし、その威圧も何のその。
イアスはコホンと咳き込み、オールバックにしている髪の後ろを何度か掻きながら深く呼吸を吸い──

「ワタシが来ては不服かな?西の王よ」

「当然じゃッ!!」

  大きな椅子に座しているにも関わらず、はみ出た体を震わせ、額に青筋を立てて怒りを顕にしているその姿から。
誰も皆、野獣を思い浮かべるであろう。

  そんな彼が怒っている理由も分かる。

10年前にバーンダストは魔王軍により占拠されてしまい、崩壊を辿り掛けた。信用を失い、国としての機能が著しく低下し、現在でも復興している最中である。

そして今回の事でバーンダストはある失態を犯している。

魔王軍復活。
それは過去に魔王軍に土地や城を占拠され、唯一信用を回復する手っ取り早い手段が魔王軍復活を阻止する為に、魔王城の封鎖と近辺の魔物の管理であったのだ。

  勿論、バーンダストだけでは無く。
全国の国からの支援も含めて、そこの警備を強化。
する筈だったのだが…。

現状は調査に向かった者の安否不明。
ましてやプロミネンスが送り出した『COLORS』ですら、壊滅させられ死体の1部だけを返されたのだ。

この状況下で連絡は途絶え、あまつさえこの会議に参加したイアスに…皆それぞれ心に秘めた思いがある。

「ワタシ共は魔王城の警備を怠っては来ませんでしたよ。
そもそも。魔王城事態が半壊し、機能の殆どを失っています。それは貴方方も拝見してますよね?」

「アホか、それなら各国の調査員の行方はどう説明すンだ? あァ?」

「それに関しましても、各国の調査員を本当に派遣しているのですか?」

「────ッ?!」

  ガタンッ!!と椅子を後ろに払い、グラディウスは立ち上がりイアスに遅い掛かろうとする。

「考えても見て下さい。貴方方は本当に調査員を送っているのであれば、ワタシの国で幾ら振り払った所で…いずれは貴方方の元へ誰かは辿り着けるでしょう?」

「まだ言うか小僧ッ!!」

「落ち着けつち国の坊主」

「うぶっ?!  ごの”杖退げろ”ォ」

  グラディウスが更に問い詰めようと円卓を迂回しようとした直後、喉元に木製の杖を突き付けられ阻止されてしまう。

杖を退いたハンゾウは、卓上の上から湯呑みを取り1口茶を口に含む。

「その童の言う通り。各国の鋭兵達が送られて、誰一人帰らないというのが問題じゃろ」

「COLORSが全滅したってのが僕は気になりますね。イアスさん、調査員は本当に誰一人辿り着いていないんですか?」

  ドリムの問いにイアスは疼くと、幾つかの封筒を取り出し卓へ並べる。

その封筒を各々は不思議そうに見て、首を傾げたり。手に取って透かして見たり等して中身を確認しようとする。

「これは?」

「やはり、誰一人分からないんですね…」

    ブラフマは何かに気付き目を見開く。

「──皆さんを試す様な事をしてしまい、申し訳ございません。
これは、ワタシが毎月出している調査状を入れた封です。これを皆さんが知らないという事で確信しました」

「何処かの国で止められていると…?」

「そうです。此処数ヶ月の他国の調査員の派遣が無いのは有り得ない事。
そして、私がこの調査状を書いた内容にはある国の極秘情報を暗号化して記載していました」

「…チューハン王国の事かの?」

「ブラフマさんは気付いていましたか。その通りです」

「あん?チューハン王国といやァ、最近随分と他国にパイプを作ってやがる国だよなァ?」

「えぇ、東西南北。様々な大陸に手を出しては和平条約を結んでいるんですよ」

  言いながらイアスは何枚かの写真を取り出し、封筒の前に置いて皆に見えるようにする。

そこには大きな大砲や、様々な武器を運ぶ荷台が写されていた。
そして、そのどれにも『様々な』国のシンボルが描かれた布が被されている。
その中でも一際大きく写されていたのが、キングコブラに盾の描かれたシンボルマーク。

「これは───?!」

「えぇ、西のバロビン王国のシンボルマーク…ですよね?」

  皆の視線が一点に注がれる。
視線の先では額に汗を浮かべ、開いた口が塞がらない大男、グラディウスの姿。

「ち、ちが…こんなの、デタラメだッ!!」

「デタラメじゃないですよ」

「このクソガキゃァ?!」

   イアスの冷徹な一言に、等々痺れを切らしたのか。
グラディウスはその巨体に似合わず、素早い動きでイアスの首元目掛けて腕を伸ばす。


「焦らないで下さいよ。ワタシの話は終わってませんから」

「うっ…て、てめェ?」

  パキリと氷が軋む音。

先程まで普通だった部屋の温度が急激に下がり、微かに氷の粒が空中を舞う。
  それは、襲おうと踏み出した足が爪先から凍り付き、腰まで一瞬にして凍らせたのが原因。グラディウスの動きを氷が止めたのだ。
これは、イアスの得意な氷の魔法である。

「典型的な偽装工作ですよこれ。今どき、こんな罠にワタシが掛かるとでも?」 

そう言うと、イアスは封筒の中身を1枚取り出しグラディウスへ手渡す。

訝しげな表情で受け取り、それに視線を落とすと、とても丁寧な文章でこの事件に付いて書かれていた。

「もうここまで来たので口頭で説明しますね?
ワタシ、イアス・ダストはこの件に付いては黙秘させて頂きます。と、グラディウスさんの手紙には記載してありますけど、この当時はまだ確信が得られなかった為にそう記載しました。
2通目の手紙には各国当てに同じ内容で説明をしています」

  各国の名前が記載された封筒を手渡し、手紙を出したのを確認するとイアスは続ける。

「ワタシの国はかつて魔王軍に国の一部を提供する事になりました。これは今は亡き先代国王クリタス・ダストのご決断でした。
ワタシはこの選択を間違いだとは思いません。この国が今あるのは民のおかげ。
その国民を危険に晒すまいという、父の決断は現在、ワタシにとって誇りに思えます。
そして、父がワタシに最後に残した言葉は『真実を恐れるな。信用を手放すな』でした。
ワタシは当初、父の言葉の意味が分からず。和が師であり、西の国の王グラディウス殿と決別してしまった事が悔しく。父を恨んですらいました。
しかし、それを誇りに思えたのは父の残した資料によるもの」

「それが、この写真かの?」

「そうです。ワタシは最初絶望に呑み込まれた感覚でした。
信頼のある国が、こんな事をしていただなんて。 
当時、武器の密輸をし、チューハン王国はワタシの国に戦争を持ち掛けようとしていました。
それがまさか、和が師であるグラディウス殿が裏で手を引いていただなんて」

「違うッ!!  オレはそんな事──!!」

「しないとは限らないでしょ?  でも、ワタシはそこから冷静になって全てが見えました。
当時、バーンダスト王国は魔王城の出没により混乱し、国に責めいられました。
ですが、その時に真っ先に先陣を切って攻め入って来たのは何処でしたか?」 

「あの時は──チューハン王国じゃないか!?」

  先に思い出し、声を上げたのはドリムであった。
  そう。当時はどの国も手を出そうとはせず、一旦状況を整理する為に静観したのだ。
しかし、それを無視して先陣を切り突撃した国がチューハン王国。

「そうなんですよ。先代が国の土地を明け渡した事で、バロビン王国とは亀裂が入り当然頼めなく。
他の国は静観する事を選びました。その中でわざと先陣を切ったのがチューハン王国だったんですよ」

「わざとじゃと?」

「成程、そこで問題を起こしたのか」

「えぇ、自らの国の武器密輸を隠す為にわざと先陣を切らせて先遣隊に注目を集めたんです。
そして、そのまま魔王軍との戦時となり、国同士が互いの警戒を一瞬緩めた時に自国のスパイを送り込んだんです。
そして、わざとこの写真を撮らせた。理由は分かりますよね?」

「亀裂の入った国同士に、戦争が終わった後にコレを流す事により。また別の戦争を起こさせようとした訳じゃろ?」

  ハンゾウの発言にイアスは首を縦に振る。

「そして南国での貴族殺害でチューハン王国は被害者となり、東と南で険悪な状態となるの。
北は只でさえ捜査隊の事もあるから余計他国からの反感も買う」

  成程とハンゾウとブラフマは顔を見合わせる。
年寄りは長年の蓄えた知識と戦争経験を活かして、直ぐにその答えに納得出来たのだ。

これは誰も得をしないのだ。
国同士で対立し、戦争だのとなり国が滅んだ場合。別な国が四大国として新たに誕生日するであろう。

  つまりは、チューハン王国はその後釜を狙っているのだ。

「自らも目立つ行為をしたのは、ソレを悟られない為にじゃの」

「しかしまぁ、先代と良い、お主と良い。
よくぞグラディウス殿達を信用出来たのぉ」

「えぇ、父も気付いていたと思います。だからこそ、ワタシにあの言葉と写真を残してくれたのかと。
文章にしていたら、全て消されていた可能性もありましたし」

「そんな…ダスト王…ッ!!」

  グラディウスの顔がしわくちゃに歪み、大きな涙の粒が頬を伝い落ちる。

そんな彼を見て、イアスは頭を深々と下げ、魔法を解いた。

「無礼をお許しくださいグラディウス殿。ですが、手を挙げられてしまうとコチラも示しが付かなくなってしまうので…少々手荒となってしまい申し訳ございません。そこはご理解下さい」

「ぬゥ、良い。オレこそ、長年怒りに任せてお前の国を拒絶していたのだ。
オレの方こそ済まなかった!!」

「グラディウス殿…」

「恨んでなぞいなかった。
オレは怒っていたのだ。何故土地を明け渡した?
何故、助けを求めなかった?
先代に対する不満が…頼られなかった、力になれなかった絶望感がオレをこんなにしていた」

「知っています。ですが、先代が頼られなかった理由は1つ。
ワタシのせいなんです。」

  言うや否や、服のボタンを外し。
上着を脱ぎ、中のシャツも脱ぐとイアスは上半身だけ裸になった。

「これは──!?」

  黒い魔術の刻印が胸元に刻まれ、それは紫色の光を微かに放っていた。

「先代から受け継がれた呪いです。
これは他人に魔族の事や、真実を話すとこの様に光──ッ?!」

  紫色の光がより一層強くなるにつれ、イアスの表情が苦痛に染まる。

「イアス殿?!」

「童!!」

「ぐっ…この様に…寿命をッ!!  奪い…ま…す」

  物凄い勢いで生気を失ってゆく姿に、皆は絶句。
歩み寄り、体を支えたドリムは驚いた。彼の身体が氷の様に冷たく。背中も汗でびっしょりに濡れていたのだ。
 

ガタンッ!!と扉が開かれ、鎧を着た兵士が息を荒くし現れる。

「何じゃ騒がしい」

「た、大変です!!  第二区の祭り会場で暴動ですっ!!」
  
「それくらい対処せんか」

「そ、それが、暴動を起こしているのが冒険者や一般客でありまして。
こちら側が一方的に止めに入るにも聞かず、他国の兵士の言う事も聞かないのです」

「何じゃと?!」


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