ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第14話 再確認




──暗くて冷たい。

何処だ此処?

  目を開いている筈なのに全てが黒。
身体を動かそうにも、ピクリとも動かない。

いや、そもそも身体自体存在しているのか。
それすらも確認出来ない程に真っ黒である。

「何だ? 意外と再会するのが早かったな」

  唐突に聴こえて来た声に、ハジメは驚いた。つい先日、この声を直接聴いた覚えがあったのだ。

「──サタンッ!!  なっ?!」

  自分が発した声にハジメは息を呑む。

声が出せる?
何だ此処。俺は今どうなってるんだ?

「驚いているな?
まぁ、仕方のない事だ。私もこの世界に来てからは想像を凌駕されっぱなしでね」

「此処は何処だ!! シファーさんやジャックさんを何処へやった?!」

「一遍に聴くな。 そうだな──此処は貴様の精神世界だ」

  呆れた声で返すサタン。
だがその声にすら今は安堵する。

会話が成立し、意思がハッキリしているのなら、自分は何かしらの魔法か魔術でこうなっていると考えて良い。

「精神魔術か?」

「いや、貴様は知らないで来たのか?」

  知っていて、来ていたとしたら聞かないだろ。

「カイトが教えていた訳では無いのか。
なら少しだけ教えてやろう」

 此処は大人しくしていた方が、情報や現状を知る事が出来そうだな。
下手に刺激して、この精神世界?ってのに閉じ込められたままになる寄りかは、今は従っていた方が良いと判断し受け入れる。

──バチン!!!

何かが弾ける音と共に、暗闇が弾け飛ぶ。
目の前には青空が広がり、周りは一帯野原が広がっている。

「貴様、そのままだと存在が不安定過ぎるな」

  何の事だ?

「コレは?!」

  突拍子の無い言葉にハテナを浮かべ、自分の身体を確認して驚いた。

体が黒いモヤに覆われ、自分の姿が見えないのだ。

「今の貴様の存在がソレだ。 精神世界で存在を保つには強い意志で自らを『固定』して置かねばならない。
誰かに何かを言われても、自らを見失わない為に自分の姿を見定める。
それがこの世界での存在の現し方だ」

「なるほど、『固定観念』見たいなのか」

  この精神世界では自分の精神状況が影響され、意識して保つ事で姿を維持出来る。

昔の本にそんなのがあったけど、アレは確か夢の話だったな。うん。

夢の中で少年が思い描いた装備で勇者になる。昔からある物語りの1つだ。

という事は、自らを決め付けて存在を意識すれば此処では姿を意地出来。

  逆に出来なければ、あやふや存在のまま消えてしまう可能性もあると。

 
  俺は自らの姿を思い描く。
出来るだけ鮮明に色濃く想像し、ゆっくりと目を見開くと、先程までモヤが漂っていた場所に手が見えた。

試しに開いたり閉じたりすると、意思と同じでしっかりと動いてくれた。ソレが尚良かった。実際に得た肉体への実感が余計に強くなったのか、質感や細かい傷まで見えて来たのだ。

「初めてで、そこまで出来たのなら上出来だ。さて、本題に入るとしよう」




  目の前に現れた姿を見て確認した。
此奴こやつは先日運動がてらに戦闘をした時に居た奴だ。

  となると、此処は此奴の精神世界か。
また妙な事になっているが、今の私の力では現界そとの情報すら得られない。

まぁ良い。現状、話の手綱を握っているのは私なのだ。
そこを上手く利用しつつ、情報と力を得ようではないか。

「さて、貴様が此処に居るという事は──外での貴様は無防備となっているのだが。
そこの所は大丈夫か?」

 新しい宿り木だ。
肉体を早々と失うのは私も避けたい。

「大丈夫なハズだ。今回気絶したのも、もしかしたらジャックさんの作戦だったのかも知れないな」

「ジャック? ジャック・リッパーか?」

「なっ、何だ? 知ってるのか?」

  成程、『疾風乱舞シルフィード』と呼ばれた剣聖が外に居るのか。
奴の剣捌きは人間の中でもトップクラス。
確か奴は勇者軍の事にも通じていて、カイトとも顔見知りだったハズだな。

  だとしたら、今回の事をある程度は把握していると見て損は無い。
外には私の娘も居るだろうから、そっちは保険か。

「気に食わん所もあるが、まぁ良しとするか。
前回の現界もたまたま起きた事とは言え、奴等にはまだ知られてはいない様だし。
大方、外でもシルフィードの小僧がシファーに現状の説明をしている頃であろう」

「何を言ってるんだ?」

「丁度良いから貴様にも聞かせてやる。先ずはこの世界の改変からだな」

  掌を上に向け、腕を前に差し出す。

──ブゥン…

「これは昔の地球だ」

  掌に現れた青い球体。
そこには幾つかの緑と白と入り交じり、美しい色の星の模型が合った。

だが、何か違和感を覚えたのか。
ハジメはその地球儀を見て首を傾げる。

「今の地球と違うのか?
やたら青色が目立つな。コレは海だろ?
だとしたら、大陸はコレか?」

「今の技術では写真を送る事が精一杯らしいが、昔は映像すらも自由に宇宙から送受信していたらしいな。
その時の記録から作られたデータがコレだ」

  『過去の遺産』。
数百年前に起きた地球崩壊の前に存在した技術。
現在は何とか復旧させているのだが、ソレでも宇宙の衛星探知機を利用した映像を写真としてしか残せていない。

「てか、そもそも悪魔のお前が何でそんな人類の科学に詳しいんだ?」

「──まぁ、それもオイオイ話の中で説明をしていく」




  数百年前。
世界では大地震や天候の不安定差が目立っていた。

夏に寒くなったり、冬に夏くらいに気温が上昇したり。
地盤の歪みでプレートが傾き、火山が活性化し海を燃やしたり。

  有り得ない程の天変地異が起きていたのだ。

  そんな中、徐々に地球軸もズレ始め。地球の磁場に異常な働きが起き、人間達は異形な進化を遂げる。

  これが後に『ポールシフト』と呼ばれる現象である。
  様々な軸がズレる事で、地球そのモノの理に不可思議な変化が生じ。
環境が変化し、人間もソレに合わされる様に肉体が変化していった。

しかし、変化していたのは見えない所にもあった。

地球軸が狂った事により、地球の中枢核ふきんに付近に新たなプレートが生成されていたのだ。

  正しく地球の裏側とも言えるそこでは、微生物が進化し。
新たな生命体が誕生していた。
人間は進化し生きる事を選んだが、そこには大きな落とし穴があった。

  進化を選んだ結果、身体に更なる変化を促し。海で生活出来る肉体を得た者。
魔力を宿し、変化した動物と戦う物。
その者達を良く見ない者。

人類の負の感情が高まり、地球の裏へとエネルギーとして流れて行ってしまい。
中枢核で生まれた新たな生命に知恵と感情を与えてしまったのだ。

そして更に数百年後、知識や感情を得た生命体には最悪の環境でも生きられる強靭な肉体も備わってしまい。
止めど無く送られてくる負の力を蓄え、ある日その生命体は大人数で地球の裏から表へと進軍した。

  人々は絶望の日々に身を委ねた。
自分達の負の感情で作り上げた生命体に、今度は命を奪われるハメになるだなんて。

しかし、そんな日々も長くは続かない。
地球の表と裏の力のバランスが崩れた事により、また地球は崩壊の危機へと迫っていた。

  簡単な話しである。
地球は自らの処置として、新たな生命体を作り。
地球の裏表でエネルギーのバランスを取り、中和していたのだ。

  表の魔力がプラスとし、裏の魔力がマイナスである。
それが核に不可を与えるエネルギーを中和し、地球の生命維持を成していた。
  だが、裏のマイナスエネルギーが強過ぎた為。人類はまたもや全滅の危機に追いやられる。

そこで考えたのが『A.P.S.S』通称アンチポールシフトシステム。

  表と裏。
互いがこれ以上ダメージを負わない為には、地球のエネルギーバランスを調節しなければならない。

だからこそ、地球の中心に柱を創り。
ソレを支えようというシステムである。

コレには表裏からエネルギーを共有し、プラスとマイナスのバランスを常に一定に抑える必要があった。

だがしかし、その柱にはもう1つ必要なモノがあったのだ。
それは生命エネルギー。

生命力を柱とし、そこへプラスとマイナスを集中させる事で、地球崩壊を免れ延命を保てると考えたのだ。

これには裏の生命体も同意し、50年に一度、表と裏から1人ずつ柱にする事で互いに争いの無い結果を導こうとしたのである。

  それと同時に、裏の生命体には名前を付けられ。
『悪意から生まれた魔力生命体』という意味で『悪魔』と名付けられた。

  そしてもう1つのグループが『魔力による性質変化を得た一族』から『魔族』と呼ばれるようにもなったのだ。





  そこから更に数百年、今から数十年程前に事件が起こった。
表側からの生命エネルギーが途絶えたのだ。

  最初は何かの手違いだと思い、裏の世界を統括する組織『魔王軍』は静寂を貫いた。

しかし、一向に送られて来ないエネルギーに等々痺れを切らした者も多かった。

そこで私達が直接話を伺いに表世界に足を踏み入れた時、人間達は武器を持ち襲って来た。

酷いものだったよ。

  抵抗しようにも、多勢に無勢で私の部隊の大半は殺された。
力の有る私や幹部は生き残ったのだが、魔力が弱い者は裂かれ、焼かれ、潰され、砕かれた。

  目の前で次々と失ってゆく同胞の姿に、私は腸が煮え滾る思いだった。

──裏切られた。
私達は地球の為に条約を結び、互いに平和な日々を過ごそうとしていたのでは無かったのか?

全てが分からなくなり、全てを信用出来なくなった私は──人間を殺した。

憎しみに呑まれ、大地を焼き払い凍り付かせた。

沢山の人を殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し─────

それでも満たされなかった。
いっその事、世界を全て壊してやろうと考え、魔王城を造り上げ。

表の世界も支配しようとした。

  しかし、私には1つの疑問があった。
何故、表側の人間はこの美しい世界を自ら投げ捨てる様な事をしたのか。

私は不思議で仕方なかった。

そして魔王軍と敵対していた勇者軍が、私の魔王城に攻め込んで来た時、彼カイト・シラザキと出逢った。

  彼の目は真っ直ぐで穢れを知らない瞳であった。
それこそ、正義の為に戦い。人を守り抜いた勇者としての姿に、私は胸を打たれていた。

  悪魔の中でも人間に恋をし堕ちた者も居たが、私はその時までただの愚かな行為としか思っていなかった。
しかし、私の持つ疑問を彼なら晴らしてくれる。
何故か直感でソレを感じたのだ。

  そして私と彼は戦い、話し合いの末。
1つの答えへと導かれたのだ。


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