ヘタレ勇者と魔王の娘
第11話 各国の動き
  チューハン王国。
何かを祝うかの如く、国は今現在祭りの真っ最中。
国の奥に位置する場所。
そこにあるチューハン王国の城。国王である飛・劉玉は、その城の中央にある大きな椅子に腰を掛け座していた。
黒く長い髭を一本に結纏め。
髪を後ろに束ねている。
  額にある1本の深い傷痕。普段から恐ろしい鬼の顔に、更に威圧感を加えているのがソレである。
「駒は二つ。オイ、これで私の金ヅルが1人減ったではないか」
  チャル・メーは仲介としては少なからず働いて居た。
彼の動きがこの国への利益となっていたのも事実。
各国に居る奴隷買手にはモノ好きが多い。
亜人・魔人・混血や魔物。
様々な種族には、それなりのモノ好きが着いているものだ。
「ちゃんと責任は取れるのだな?」
「──約束しますよ。クックック… 」
  ゆらりと暗闇に紛れて白い仮面を着けた男性が現れる。
「コレをいざとなったら使いなさい。
魔物の力のため、制御は難しいでしょうけど。貴方程度の力なら数分は持つハズです」
  そう言って男性が取り出したのは大きな猪のモンスター首。
「ムメンよ。貴様の事は信用しておらぬ。
その面妖な力も使いはせぬぞ?」 
ムメンと呼ばれた男性はケタケタと笑い、背中まである銀の色の髪の毛を揺らす。
「良いのですか?
私の命令は『あの方』の命令でもありますよ?」
「──傀儡め。この私を脅すのか?」
 「まさか、覇王と謳われた貴方と闘うなんて…そこの君は争いたいみたいだけど?」
  仮面の下できっとニヤニヤと笑っているのであろう彼は、柱の上に潜んでいた者を見上げて手を振る。
「我が王を侮辱するなら排除する」
  シュたりと地面に着地した彼は、暗部の黒い衣装を見に纏い。
マスクで顔を隠していた。
「暗殺部隊かい?」
「魔王軍の動きを暫し見物させて貰ったが、貴様等のアレは異常だ。
即刻此処で排除してくれる」
「──下がれ」
  鎖鎌を携え、戦闘態勢に入った彼に飛は静かに静止させる。
しかし、ムメンはソレが気に入ったらしく。
自ら暗殺部隊の彼の前に歩いて行き、両手を上げて言い放つ。
「掛かって来なよ愚かな人間君?
他の人達も見とくと良い!!これから始まるショーに──いや、見せしめに」
「貴様ッ!!」
「此処までかな?」
────ベリッ!!
「あ…がっ!?」
  何が起こったのか分からない。
彼は何かをされたと思った時、その時には既に遅かったのだ。
顔の全体に激痛が走り、視界は赤く染まり。しかし、決してその視界を閉じる事は不可能。
何故なら閉じる為の瞼を失ったからである。
否、瞼だけでは無い。顔の表面にあるハズの皮膚という皮膚が全て剥がれているのだ。
「あ…アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
「王よ。貴方は私を傀儡と呼ぶのは結構ですが。
部下の躾くらいは、して置いて下さいね?」
「──肝に銘じて置こう」
  そう言うや否や。
彼は一瞬で姿を眩ませる。
辺りに気配は無く、静寂と微かな兵士の呻き声だけが聴こえてくる。
  今の技の速度。
ソレを見切る事の出来た者は何人も居ないだろう。
しかし、飛は見ていた。
暗殺者の彼が構えた刹那、物凄い速さの手刀で繰り出された斬撃。
アレは鎌鼬と同じ原理で作られた風圧の鎌。ソレを顎から上へと打ち出す事により、顔の皮が削ぎ落とされたのである。
(あの兵士のレベルは40を超えていたハズだが、5、いや10くらいのレベルの差があるで有ろうな)
「どうだ?亮半よ。 お前の見立ても聞きたいが」
  飛の問いに、先程から静かに静観していた。否、隣で護衛していた男性 亮半が重い口を開く。
鋭く吊り上がった目。
長身でありながら鍛え抜かれた肉体。
そして王の横に立つ事を許された唯一の存在。それが彼 亮半・蒼天である。
「はい。あの技を見るに推定レベルが50後半は超えているかと」
「アレでも奴の本体よりは弱いのだがな」
「何と───!?」
「私はな、10年前に奴の本体を戦場で見掛けたのだよ」
「何故、彼奴は自ら魔王にならないのですかね?」
「フッ、奴に取ってこれはゲームだからだ。
私もお前も、今では盤上の駒でしかない。
そして私も…この世界をゲーム盤として楽しく侵略して行くつもりだ」
  カタンと自らの傍にあった将棋盤から駒を取り、彼は静かに前に進める。
将棋盤としては機能を果たしていないソレに、駒は何個か疎らに整列している。
駒の表に書かれているのは役職では無く、人の名前。
黒く塗られた駒に『ムメン』『キール』『マリオネ』。
この駒に対し並び立つは
ヒビの割れた駒に『カイト』。
薄紫色の駒『グラビ』。
そして今置かれた駒は後者の2つとは反対に並び、両軍の中央に置かれている。
白と黒の駒『クロウ』。
それを取り囲む駒も特殊で、クリスタルや土器、鉄に砂土で出来たモノまである。
南にある島  マシンドラ
此処は『過去の遺産』が解析され、技術を応用した機械の多い島。
数百年前に滅んだ機械技術を発掘し、解析し、研究してきた者達の楽園でもあるのだ。
島に向かう船や列車などはこの島が発祥となっている。
「しかし、毎年毎年すげぇ技術力が上がってんなぁ…」
  彼、グラビ・ティーションは島の奥にある技術開発局に来ていた。
彼が感動していたのは『その』技術開発局の作りである。
最近だと10年前の飛空艇の開発。
その前が15年前に出来た列車や電話の開発。
そして今は映像の開発をしているらしく、局の呼び鈴を押したら横の箱から人の顔が映し出されたのだ。
「書物にあったなぁ。確かてれび?だっけか」
「ようこそグラビ様。奥で博士がお待ちです」
  グラビを案内するのはメイド服を着飾った女性。
首には黒いチョーカーを付けていて、白い肌を更に強調させている。
  前に来た時に自己紹介されたっけな。
名前は確か──
「カメコ?」
「殺しますよ?」
  ふと口にした言葉に、思いもしなかった反応で返された。
目が据わっていてグラビは一言謝罪すると視線を逸らした。
「はぁ。私の名前はソラ・テンリュウジです」
「あー、そんなんだっけか?
すまなかった。お前の爺ちゃんがカメコって呼ぶからつい」
「それは私が研究していたカメラ技術が原因です。
何だか馬鹿にされてる様で私は嫌いです。
今度言ったら追い出しますDEATH」
  最後の言葉に異様な圧力を感じる。がしかし、これ以上言及しても火に油を注ぐ様な感じもするので辞めておく辺り。
グラビは常識的な部類だと分かる。
「此処には変人しか来ないので、貴方みたいな方は歓迎します」
「さっきから、人に死の宣告してる人に常識ってあんのかよ…」
  ぶつくさと呟いていると、正面の扉が開き1人の老人がゆっくりと2人の前に現れる。
「久しぶりじゃのぉ?グラビ君」
「シガラキ博士、お久しぶりです」
互いに握手を交わし、簡単な挨拶を済ませ部屋の中に入る。
部屋の中には大きな機材が沢山あり、小柄な博士は1度奥に消えると、今度は何かを抱えて戻って来た。
「これを腕に着けてみてくれんかの?」
「時計…ですか?」
──カチャカチャ
  手渡された腕時計の様な物を軽く見渡し、グラビは左手首に言われた通りに身に着ける。
「それはのぉ『重力計』じゃ。君の魔法はちと肉体に負担が大きい。
その中の針が重力に合わせて上下する仕組みでな。赤いメモリに達したら肉体の限界値だと思えばえぇ」
「成程、確かにオレの力は制御し辛い時がありますからね…ありがとうございます」
「カイト君にお礼を言うのじゃな。君のソレを作ってくれと言ったのは彼じゃから」
「───そうですか」
「さてさて、本題に入るか。そこに腰掛けてくれぇ」
  言われた通りに近くの椅子に腰を降ろす。
ソラがそれに合わせてテーブルに茶と茶菓子を出してくれたので、それを堪能しながら博士が取り出した書物を覗き込む。
「これは?」
「『聖痕の十字架』からの依頼でな。各国の人の出入りを調査し、周辺の魔物の動きを計算して欲しいと言われての。
記録装置で演算して見たのじゃが」
「──此処と此処、一定の間隔で魔物が増殖してますね」
  明らかな数字の乱れ。
しかし、それは半年に1度だけ起きていた。
グラビの問いにシガラキ博士は頷き、別な用紙を数枚取り出しテーブルに広げる。
「それだけじゃないぞ?これは『地脈』を映し出したモノじゃが。
此処から此処で途切れておる。これは明らかに地脈の流れを留めておるのじゃろう」
「地脈…チューハンの者が使う武術に、よく組み込まれていたな。
確かこの星に流れる力を利用するってので」
「地脈、力、留める───『地殻変動』!?」
  ソラが気付き声を荒らげる。
それを聞いたグラビは、資料を食い入る様に覗き込むと、額に脂汗を浮べて不敵に微笑む。
「オイオイオイ──ッ!!
この魔物の不規則な増殖、チューハンとバーンダストじゃねぇかッ!?」
「そうじゃ。この2つの国…繋がりが無いとは思えん」
「それで、オレにどうしろってんですか?」 
「そうじゃな。君には──」
  シガラキ博士の声が遠のき、一瞬しかいがブレる。
「なっ───んだコレ?」
  身体に力が入らず、何とか意識を保とうとするが。
抗えぬ程の睡魔が精神を飲み込む。
ガシャンッと倒れた湯呑みから漏れ出たおちゃを見て、グラビはしまったという顔をする。
(お茶の中に…睡眠薬を?!)
「君には此処で退場して貰おうか?」
  黒く光る拳銃を取り出しグラビへと向けるシガラキ博士。
『過去の遺産』の1つである銃は、小型化まで進んでいたらしく。
懐から取り出されたソレは掌に収まるサイズであった。
「───『斥力』!!
「ぬぐぉっ?!」
  手を前に翳し魔法名を唱えると、黒い球体が目の前に現れ、シガラキ博士を壁に打ち着かせる。
 「くっ、成程…魔法を使って残りのくすりを薬を胃の中で留めておるな!?」
「へっ、生憎コチラとら暗殺される経験が豊富でね?
シガラキ博士!!何故貴方がこんな事をしたのか、事情───を?!」
ズブリと嫌な感触が首元から走り抜ける。
注射器を刺されたと気付いたのは数秒遅れてからだ。
薬を『重力魔法』で胃の真ん中で留めていても、先に効いていた薬のせいで少なからず隙が生じていた。
普段なら絶対に気を抜かないのに。
彼は気を抜いてしまっていたのだ。
数年も前から交流のあった博士やその孫に。まさかこんな裏切りに会うだなんて。
予想すらしなかった。
したくはなかった。
自分が信じていた者に裏切られるなんて。
彼はその思いを胸に、叫ぶ事すら許されない。
───意識は儚く手放された。
ソラの手に持つ注射器によって。
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