ヘタレ勇者と魔王の娘

しろぱんだ

第2話 ヘタレからロリコンへ



  オークとの騒動から40分後、俺は魔王の娘シファーを連れて村に帰って来た。
帰って早々、村の皆からの第一声は「何処から攫って来た」なのだから恐ろしい。

「あぁ、くっそ。縄の跡が残ってる。
ホント、アイツ等は容赦無いなぁ…」

  俺を昔から虐めていたタカシを筆頭に、その取り巻きが数人で俺を羽交い締めにした挙句。
シファーが誤解を解くまで逆さ吊りにされたのだ。

「おっと、そうだそうだ」

  そんな事を思い出している場合じゃない。
シファーがお風呂から上がって来る前に服を洗濯して置こう。
代わりの服は俺のを我慢して着てもらうとして、これは手洗いかな?

  替えの服をタオルと一緒に籠に入れ、それを伝えてから風呂場の外へ出る。

お風呂に入って上機嫌なのか、鼻歌を歌っていたシファーは「はぁーい!!」と可愛らしい返事を返してくれた。

さて、その間にやらなきゃいけない事があるぞ…。

  桶に水を張り、服を優しく揉み洗いする。
この手の服は洗濯板を使うと生地が悪くなりそうだから丁寧に、ゆっくりと優しく手洗いしてゆく。

次に下着だ。
女性の下着を洗うのなんて初めてだけど、どう洗えば良いんだろう?

普通の服ならある程度の知識でどうにかなるが。こればっかりは、どうしようも無いなぁ…。

  そうこうしている内に、シファーがお風呂から上がったらしく。トタトタと可愛らしい足音を奏でて、シャッと風呂場のカーテンを捲る。

「…………」

「えっ…?」

  俺の服を着てはいるが、大きさが合わないからか。服の裾を端で縛り、腰にタオルを巻いていた。

それは良かったのだが、出て来た瞬間からとてつもなく怪訝な表情を何故か浮かべているのは何故なのだろう?

「ど、どうしたんッスか?」

「ど、どうしたもこうしたも無いわよ!?
何でアンタ、あ、あああアタシのパンツを鷲掴みにしてるわけ!?」

「あぁ、今洗ってる最中なんッスよ」

「あっ、あらっぅ?!」

  まるで茹でダコの様に真っ赤になった顔で、ドタドタと足音を立てながらシファーはハジメに近付くと…

「あ、私が自分で洗うから!!!」

  パンツをハジメから引っペ返し、シファーは桶の中に手を突っ込むと、パンツをゴシゴシと洗い始める。

  折角お風呂に入ったというのに、顔や腕が泡まみれになってゆく。
ハジメは頭を掻きながら仕方なくそこから離れ、台所へと向かう。


──改めて見ても、彼女が魔王の子供なのか分からないなぁ。

幼くても凛々しさはある。
それでも見た目は何処にでも居る女の子なのだ。

先程のオークが嘘を吐いていた様にも見えないし。
何かしら確証が無いのでは、にわかには信じ難いな。

「ほら、牛乳温めたから飲むッス?」

  考え事をしながら牛乳を温めていると、パンツを洗い終えたらしく。
彼女はこそこそと自分の服の横に、少しでも隠れる様に工夫してパンツを干していた。

机に置かれた小さなマグカップを見て、彼女は一瞥をし、牛乳をフーフーしながらそっと口を付ける。

「あの…その…ありがとうございます。私…」

「あー…良いッスよ気にしなくて?
魔物に襲われるのなんて、この世界じゃ良くある話ッスから」

  俺も自分の分の牛乳をマグカップに注ぎ。
ゆっくりと口を付けながら彼女の言葉に答える。

しかし、彼女は首を横に振り俺の目をしっかりと見て先を言う。

「私。魔王の血を引いているんです」

「あっっだっち?!」

  先程まで疑問に思っていた事を唐突に言われ、つい口に含んだ牛乳を噴き出してしまう。

「あのオークが言っていたのは本当なんです。
レベルは低いですが、前代魔王…『サタン』の血を引いています」

「サタン…」

  魔王サタン。
魔界から現れ、人間界の1部を支配し。人間を全て自分の奴隷にしようと企んでいた人物。

しかし、その魔王も10年前に勇者に討伐され、魔王軍は壊滅。
世界中に平和が戻ったと聞いていたけど…。

まさか、娘が居ただなんてなぁ。

「えぇっと、君が魔王の娘という証拠とかはあるんッスか?」

「あるわ。何かハサミとかあるかしら?」

「えっ? あぁ、はいッス」

  俺はハサミを棚から取り出し彼女へと手渡す。

「ありがと」

彼女は手渡したハサミを握り締め、軽く持ち上げると──ブスッ!!

歯を食いしばり、思いっ切り自らの手首へとハサミを突き刺した。

「なっ、何やってるんだ?!」

「ッ──!! 良いから見ててっ!!」

  血を止めようと腕を掴もうとするが、それを彼女は払い除け。
血の滴る手首を俺へと突き出した。

血が痛々しく流れ──出ていない?

「なっ?!」

「これが『魔王の血』のスキルが出来る能力の1つ、『魔素防御形態』よ」

「魔素って、あの空気とかに漂っている魔力の残粒子か?」

  人が魔法の為に使うのが魔力。
そして、その魔力が放出される時に微かに漏れる魔力が空気中に漂い残留する。それこそが魔素と呼ばれるモノになる。

魔素は人や石、植物や生物に長い年月を掛けてまた集う。

希に魔素を操り、自らの魔力とは別に扱える人も居るらしいのだが。
魔王はその1人だったらしい。

戦いの際には魔素を硬化し盾として、剣として使っていたとも噂されているレベルだ。

「私の父は、馬をも魔素で作り出していたと聞いているわ」

「すげぇ…って、それはそれとして!!」

  俺は彼女の手首を掴み、大きな紅い瞳を真正面から睨む。

「女の子が自分の身体を傷付けるんじゃない!!」

「でも、私の証明を──」

「もう解った。だから二度とこんな証明の仕方をするな!!
俺は別に、お前が言うなら信用しないわけじゃねぇんだから!!!」

「わっ…解ったわ…」

  俺は言い終えてから彼女に接近し過ぎていた事に気付く。
お風呂上がりのせいか、火照った頬は赤く微かに良い匂いが…

「すっ、すんませんッス」

  手を離し、近付いていた顔を体事後退させ彼女から距離を置く。

部屋の隅まで逃げた俺を、彼女は首を傾げながら観察してきた。

「アンタ、オークの時もそうだけど。急に人柄が変わるわよね?」

「ひぃっ、ごめんなさい!!  俺、昔から虐められてたせいで対人恐怖症なんッスよ!!
特に女子とか!
何なんッスかあの笑顔の裏にある顔?!
美人な顔は鉄仮面で、取ったらまるで般若面見たいな顔じゃないッスか!!
「あぁ、ハジメ君。私新しい魔法覚えたの!!見てくれる?」って言って来て、いざやったのは『変化魔法』だったんッスよ?!しかもカエルになるやつ!!
しかも、それが切っ掛けでカエル潰しゲームが始まるし!!軽いトラウマッスよ?!」

  ガタガタと震えながら何かのスイッチが入ってしまったのか、暴走するハジメを見てシファーは深い溜息を吐いた。

「まさか…こんなのを一瞬でもカッコイイと思った1時間前の私を、即座に全否定したくなるとは思わなかったわ…」

  頭が痛いと眉間を抑えながら首を振る。
その時、ドアが何度か小さくノックされる音が部屋に響いた。

「ちょっと、お客みたい…」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…お願いです。火炎系や雷系は止めて下さい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

「はぁ。はいはーい!!今出ます」

  凹んで約立たずのハジメを放置する事を選び、シファーはドア越しに返事を返して、ドアノブに手を伸ばそうとした瞬間──


バンッ!!とドアが勢い良く開かれ、シファーの姿が消える。


「ちょっとハジメ!! どいう事よ?!」

「ひぃ!? ジェリー??!!」

  ジェリーと呼ばれた彼女はジェリー・ライドン。
短髪の黒い髪にが良く似合うボーイッシュな女性だ。勿論、男っぽいのは外見だけじゃない。

「アンタ、今無性に腹が立つ事思わなかった?」

  挙句、無駄に勘が良い事で…。

「お、思って無いッ──いだだだだだ?!」

  語尾のッスを言い切る前に首を締め上げなれる。
所謂ヘッドロックというヤツだ。

流石に対人恐怖症ではあるが、女性からこんな密着されると…その…男として喜ばしい状況でもあるわけで…。

「むぐ…ぐぐ…!?  ぷはっ!!
てか、何の用なんッスか?!」

  俺は恥ずかしさで、とても居たたまれない気持ちを隠し問い出す。

「あっ、そうよ!! アンタ、可愛い女の子を誘拐して来たんですって?!」

「誘拐なんてしてないッス!!」

「嘘を仰い!!  証言は取れてるのよ!!」

「誰ッスか?!そんな根も葉もない事に証言する馬鹿は?!」

「村の大半よ!!」


  この村、いずれ火を放ってやる!!

「吐きなさいっ!! 女の子を何処へやったの?!」

「まで、ぐるじぃ……」

   決して慎ましくはない胸と、柔らかく力強い腕に挟まれ、意識は徐々に朦朧としていく。

「あぁ、ごめん」

「げほっ、げほっ…その子なら、ジェリーが開けたドアに頭ぶつけて延びてッスよ?」


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