第三十話 王国への一歩

「行くぞみんな」


 テトの合図によって、異空間転移門をみんなで一斉にくぐり抜ける。
 

「ヘル、ごめんね。ついてきてくれて」

「昨日の夜お母さんはずっと泣いてたから、私も頑張るよ！」

「アリたん！私も頑張るデー！」

「みんなアリアちゃんを本当に大事に思っているのよ」

「ありがとうございます……。また泣きそうです」


 みんなの優しさにひたりながら転移門中を進んでいき、人間界と律儀に看板を貼り付けてある門の入り口が現れる。
 私は一度立ち止まり、つばを飲む。大きく息を吸ってはいて、覚悟を決めて足を一歩ふみいれる。


「きたね、久しぶりの人間界だ」

「変わってない……何も変わってない」

「お母さん！色々と終わったら案内してね！」

「そうだね。終わったら色々と遊んで帰ろっか！」

「それにはまずは、最大の敵に勝たなきゃね。アリアちゃん」


 私は王国追放をうけてから1ヶ月と1週間ぶりの人間界だった。
 ラグナロクの生活になれ、ラグナロクが自分の居場所に変わった私としては、人間界にはラグナロクの何倍も長くいた世界なのになぜか今は旅行先のような気分になっている。
 人間という生き物は、自分の居場所が見つかりそこの環境に慣れ親しむと、前いた場所を忘れ、次その場に行くと懐かしくは思わず初めてくる場所に思う。誰かがこんなことを言っていたのを私は覚えている。
 そして今となりその言葉の意味を理解できた瞬間だった。
 私にとって、ラグナロクが居場所で帰る場所、魔王で夫のバカと可愛い可愛い娘のヘルとペットのティーアとケルちゃんが屋敷にはいる。そして、街に出れば住人の皆さんがいる。気づけば遊び来る親族の神様方がいる。
 そんな私はここ人間界に来ても、何も思わない。懐かしい程度、私が今思うことは両親の仇うち、そして国王の陰謀を止めること。


「私は多分、国王との対決の中で自分を見失うかもしれないです。その時は、皆さんの手で止めてもらっていいですか？」

「止めるよ。僕達はみんな、家族なんだから」

「親族一同、あなたのために力を尽くす。それが家族」

「テトのお嫁さんだから……そんなの関係なし！家族はみんな仲良く！そして家族の間違いはみんなで正す！」

「神だから、人だから……そんなので家族にランクはない。家族はみんな一緒」

「アリア様は我らの家族！守るし、怒るし、止める！」

「じゃあ、王国への一歩として扉をこじ開けるぞ！」


 バァンッ！という大きな爆発の後に煙が舞う。
 そして王国の唯一の入り口である、凱旋門を爆発大好きアルキメデス様が爆弾で破壊して街が顔を見せる。
 爆発音に気がついた王国側が緊急サイレンを鳴らして国民避難命令を発令する中、私を含め30人ほどいる神様一行はおかまないし街道を歩いていく。
 すると騎士団たちが姿を見せ攻撃してくる。
 騎士団の攻撃は、こちらからすると蚊に刺されたように少し痒い程度。バステト様の爆風のみで片付けていく。
 すると、見たことある顔が騎士団をずらりと護衛につけ、正面から向かってくる。


「テト！あの人は攻撃しないで。カルマ大総帥よ」

「いかにも、私がカルマ大総帥だ。アリア様、お久しいですな。今回こちらに入国拒否の刑を受けながらも無理やり来ると言うことはご両親の件ですな？」

「お久しいですね。そうです、両親のことです！間違っている、今の国王は間違っています！」

「知ってますよ？だからこの国のために一言だけお伝えにきました。国王無き国に生きる価値なし。です」

「なるほど、だいぶと難しく遠回しにしまくるな。ただ……この意味が分かれば国王を倒すことに情など感じなくなります」

「では私は引かせてもらいます。アリア様、この間違えた国に真実の翼を生やしてくださること……信じております」


 王国内にこちら側の人が1人いた事にみんなが驚いた。
 しかも助言を残していったことにもっと驚かれた。開いた口が閉じない。
 そしてすぐに背を向けて帰っていった。
 この国は、王国が一番高いところに建っている。そして城を中心に街は円を描き、城よりも低くい位置に作られといる。そんな街がいくつもあり、街の下に街、街の下に街となって。
 そしてまだ私達のいる場所は一番低い街の真ん中までしか来ていない。つまり、国王のいる城にはまだまだ遠いということである。
 のんびりしている暇はない私達は少しペースを上げて次の街へと登る。
 そしてそこにいたのは、


「九尾……生きていたのか」


 トールさんが死んだと言っていた九尾さんだった。