美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

作る者が伝える者へ


「……ということで同じ金属で作られている武器ではあるが、こんな風に種類によっては使用される素材の分量は違うし作り方も違ってくる。だが在庫にある素材を使って何作ろうかって考えることはほとんどない。まず何を作るかを先に決めるからな。予想外に多く素材を使うことになって材料不足になることもある。そんな作り方はせいぜい、お前らがここに連れて来た人の料理くらいなもんだろ?」

 集まった者達から、笑い声が上がる。
 ベルナット村から首都のミラージャーナに引っ越しした『法具店アマミ』。
 店主の身近な者達や客達に内緒で、良質の素材が多く取れそうな都会の外れに移って来たのだが、そこでもトラブルに見舞われてしまい、この世界の言語による意思疎通が今までのようにスムーズに出来なくなってしまった。
 店主の日頃の努力によりセレナ達との話が不可能になる最悪の事態は避けられたが、それがきっかけとなって結局居所を知られることになった。

 店主は、本来はこの世界の言語を理解できない。
 この世界に連れて来たセレナの術により、場所は限定されるものの互いの言葉が互いの五感に触れる時に変化され、会話ができるようになった。
 そして店主が図らずもこの国への貢献を為し、その結果この国の王である法王ウルヴェスからの褒美で、この国の公用語である大陸語を理解できる能力を授けられた。

 そのトラブルに巻き込まれた影響でその能力が消えてしまったことを知ったウルヴェスは、お詫びと褒美の授与のし直しということで、ウルヴェス自らから毎日一定の長さ以上の時間を店主の警護に充てている。

 今の店は前の店舗より二倍は広い建物で、敷地そして素材乱獲を防ぐため周囲の土地も広い範囲で購入。
 収容人数も多くなり、陳列する品物の種類も数も増える。
 店主の趣味と新たに弟子入りを認められたシエラのことも広く知れ渡り、店への来訪者も客ばかりではなく趣味のゲームの相手を請われたり、弟子入りとまではいかないが店主の得意とする石や素材の力の見分け方や物の作り方を教えてくれと願う者達も多くやって来ることになる。

「いい加減にしてくれ。本業の仕事が出来なくなる」

「いいじゃない。テンシュは純粋な人族で、普通は寿命は二百年も届かないらしいけど、猊下から寿命を千年くらい賜ったんでしょ?」

 非公式に依頼してきた法王から、現在は法王が主催することになっている、知的競技大会賞品作製の依頼を果たした。
 この世界での人族の寿命は五百年ほどだが、この世界の住民として認める証しとして法王の術により、店主はそれだけの寿命が保障された。

「それに言葉の勉強にもなるじゃない。読み書き聞き取りばかりじゃなく、実践でもいろんな場面で会話することでリハビリになるかもよ? 身につけるための努力の時間もたっぷりできたことだし。発音とかイントネーションもなるべく自然に聞こえるように指導するからねっ」

 セレナの言うことももっともである。
 だがそれ以上に、このように大勢の前で話しをするようになったのは、いや、店主から言わせれば、話しをするようになってしまったのは集まるようになってしまった者達のせいである。

 初めはシエラのように、専業または冒険者と兼業で道具屋を始めたいという者達がやってくる。

「こいつは帰るところがない、冒険者としてまともにパーティが組めない事情がある、いつかは店を出してみたい、自分に必要な知識や技術は自分から求めてくる熱意がある。ということで無理やり押し掛けてきたのを許可した。こっちは指導することで仕事の時間を減らしたくない。だから基本的にほったらかし。それに物作りの技術だけあれば店は続けていけるわけじゃない。経営や営業も必要になるだろう。俺は営業は特に必要と思ってないからしないだけ。だがほとんどの店はそういう訳にはいかないだろう。シエラもそうだ。それでも自分でいろいろ勉強してるみたいだな。お前らはどうなんだよ」

 手取り足取り教えてもらえると思っていた弟子入り志願者達のほとんどは、店主のこの言葉でふるい落とされた。
 それでも教えを乞う者達は残る。
 数えるほどしか残らなかった人数が次第に増えていく。
 平然として断るだろうと思われた店主は、そんな周囲の思いとは正反対の行動をとる。

「まだ子供だろ。俺の話ついてこれるのか?」

「……断らないの? って言うか、テンシュの言葉の勉強には丁度いい相手かもしれないけど……」

 教えを乞う者についてきた者達は、自分の子供や冒険者養成所に通う前の兄弟姉妹。
 入所資格の年齢は十歳以降。卒業までは五年以上かかる。しかし二十歳過ぎたら強制退去。
 卒業資格のないまま退去する者の進路は、冒険者業を諦め別の仕事をするか斡旋所からの斡旋なく冒険者業を始めるかのどちらかになる。

「仕事に就いた者がその仕事を続けるなら、厳しい環境を乗り越える必要もある。けどこいつらはまだそうじゃない。まだ誰かに守られなきゃならん年だろ? 自分ちの仕事どうしたんだよってことだ。守ってくれるべき者がいないってことじゃないのか? 孤児院とかやる気は全くないが、守ってくれる者がいなくても生きていく知恵くらいは与えてもいいかなってな」

 こうして始まった教室ごっこは、ウルヴェスが毎日欠かさず店主の警護が始まって一月ほど経ってから始まった。
 『法具店アマミ』が開店する一時間前から開店時間までの間、ウルヴェスからも見守られながら十年くらい経った今も続けられている。

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