美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

引っ越しまでの……


「こんにちはーっ! あ、今日はやってたねっ。来れてよかったー」
「ほんとだー。テンシュさんっ。おはようございますっ」

 翌朝の開店時間のすぐ後に元気よく入って来たのは、表の顔は皇居の案内役、裏の顔は法王の後を継ぐ天流法国もしくはオルデン王国となるであろう次期国王候補の二人、ライリーとホールスである。

「客でもない奴に愛想振りまくほどお人好しじゃねーんだよ。店開いてようが閉まってようが、全部こっちの都合。そっちの都合に合わせた覚えはねーんだよ」

「愛想振りまいたとこ見たことないけど、ねぇ」
「だよねぇ」

 二人に構わず作業に勤しむ店主。投げやりな口調で対応するが、この二人にも完全に懐かれてしまっている。
 タイミングよく二階から降りてくるセレナ。

「あら、二人ともおはよう」

「「おはようございます、セレナさん」」

 二人の素直な反応に微笑むセレナ。
 それでも彼らに秘める力には、少し恐れの色も持っている。

「愛想振りまくんじゃねぇぞセレナ。いいか、この世には信頼しちゃならねぇモンが三つある。一つは愛想を振りまいて自分を取り込もうとする権力者とその候補だ。しっかり気をつけとかねぇと、骨の髄までしゃぶりつくされるぞ。もっともセレナが権力者に取り込まれたら即座にお前を切り捨てる。だから心配するな」

「僕たちはそんなこと考えてません!」
「そうですっ。私たちは本当に仲良くしたいんですからっ」

 まぁまぁと二人をなだめるセレナは店主を向く。

「で、残りの二つは何よ?」

「老人のボケてしまったって落ち込みながら言う言葉と、酔っぱらいの寄ってないって言い張る主張」

「いきなり格調が低くなったわね」

「だからあのクソジジィが酒飲んでグデングデンになりながらボケてしまったって言うようになったらこの国は終いだわ」

「そりゃテンシュの条件に照らし合わせたら、もう救いがない話ね」

 くだらない冗談に呆れるセレナだが、二人には大受けしている。

「大司教だったか何だったか忘れたが国と宗教のトップに立つ奴捕まえて、次の候補者が揃って大笑いたぁこの国の先行きも危ねぇな。力衰えた時に背中に向けてナイフ突き立てるような真似すんじゃねぇぞオイ」

「真実味があったら笑えませんけどね。明らかに冗談だと分かるから笑えるんですよ」

「そうだよ。お酒なんか口にしたことないからね、あの方は。ところでどこに行ってたんですか? せっかく遊びに来たら店閉まってたんだもん。心配したよ? 二回くらいそのまま帰ることになっちゃったけど」

 セレナは口を挟もうとしたが、それより先に店主が答える。

「大人の事情だよ。材料の仕入れ先探してただけ。必ず見つかる保証もなかったから周りにゃ一月くらい留守にするって言っといたけど、思ったより早く見つけられた」

「へぇー。テンシュさんすごいんだねー」

「で、その場所はどこなの?」

「言われねぇな。あちこちの店に出入りしてそんな話聞き出してんのか? 間違いなく冒険者達は失業するぜ?」

 二人はなぜそこまで話が飛ぶのかと首をかしげる。

「それを使って道具作りするんだ。その情報が漏れてその場所を国の財産としたら、それを材料にした道具が冒険者達に行き渡らねぇ。国が店を出しても無駄だ」

「国が商売始めてもあんまり意味ないけど」

「国民達が店を出す方がいいよね」

「その店も他人からの情報を当てにするなら、素材収集先を見つけられる者がいなけりゃ成り立たねぇ。見つけられる者は横取りされて商売が成り立たねぇ。お前らが興味半分で聞こうとしてるのは店の存続にかかわることばかりじゃねぇ。国の存亡にも関わることだ。物事の成り行きを想像してから口にするんだな」

 二人はしょげている。
 まだ国政には直接かかわらないまでも、立場が違うだけではなくそれなりの知識も備えていない。
 年齢だけは店主より上のようだが、この世界の種族や平均寿命から見るとまだまだ子供。

「今日はもう帰れ。店を留守にしたことに興味津々なんだろうが、こっちにとっちゃ企業秘密になる事もある。根掘り葉掘り聞くくらいの熱意がある限り、冷めたとしても首突っ込んで聞くべきじゃねぇ」

 いつもだったら怒鳴り声で叱責する店主だが、作業しながらのせいか静かな口調。
 二人は大人しく店主の言う通りに従い、店外に出て瞬間移動で立ち去った。

「さて、ここでの時間は一か月マイナス一日。依頼をなるべく多くこなさないとな。セレナ、お前ホント依頼軽々しく請け負い過ぎ」

「今そんなこと言われてもどうしようもないでしょ。それより、あの二人何もフォローしなくていいの?」

「だから権力争いにだけは首突っ込むんじゃねぇよ。関わったらデッドオアアライブどころじゃねぇ。デッドしかねぇんだよ」

 セレナはともかく、店主は普段と変わらない態度で、今日一日の仕事に臨む。

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