美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

非力な力を結集させて 2


 隣村の外れの洞窟で意識不明になったセレナ達調査団三名。
 容態のことも考えると、救出作業に急いで取り掛からないと取り返しのつかないことになる。
 しかし洞窟に向かうには、店主ばかり素早く移動しても意味がないし、飛行できる者も誰かを抱えての移動に時間がかかりすぎることがあってもならない。速さと力強さを兼ね備える者でなければ作戦参加の意味がない。

「ライヤー。四足走法なら二人くらい背中に括り付けてもスピードは落ちないんじゃないか?」
「ブレイク、それは俺も考えた。だがあと一人どうするよ? 四人揃って現場に到着しないと救出成功が難しくなるんだろ? 三人分の重量は気にしない。だが相当早く移動しないとニードルに追いつかない。間違いなく誰かを振り落としちまう」

 普段は二本足で移動するエンビーの種族の特有能力は、獣の方の種族の本来の体型に変えることが出来るというもの。
 エンビーの場合は骨格の関節に空きがあり関節の位置をそれに合わせて変えることが出来る。その際に他の体の組織が自然とそれについていく。この国では街中での飛行は違法行為とされているが、通常ではない形態での走行はグレーゾーンのようで、ギスモですら違法行為の指摘は出ない。
 しかし彼の体格を見ても、三人も背中に乗せるのは無理がある。ただの散歩ならば問題はないが、疾走する際にはエンビーの背中にしがみつくくらいでないと彼の言う通り振り落とされるのは目に見えている。その場合、どう工夫しても二人が限度。

「私を咥えて走るってわけには……いきませんよね……?」

 エンビーにおずおずと小声でしゃべる小男。エンビーは自分の耳を疑い、ドワーフ族の小さい男を凝視する。

「い、いいのかよ、ミュール……」

 口に咥えて走るという発想は誰も思いつかなかった。ギスモよりは大柄だが、小男の部類のドワーフ種であるミュール。その身長にしては異様に筋肉がある種族である。

「噛み砕こうとするなら怪我はするだろうが、心配ないよ、ギース。筋肉どころか骨も丈夫ですし落とさない程度の力で咥えてくれるなら、到着してから行方不明者を運び出す作業にも障りはありませんよ」

 身長があれば引きずることは間違いない。背の低いミュールだからこそ出来る行動。

「ギスモ、テンシュさんはお前の名前も挙げたがここまで話進んだら数のうちに入らねぇ。こいつのことだ。今度はこの救出作戦の足を引っ張りかねねぇよな、セレナの力を信じろとか言ってよ。この店の中も外も斡旋所じゃ実力自慢が勢揃いしてんだぜ? 今回の件は、その実力を持ってる奴全員が危険な目に遭うヤバイ現場だ。適材適所、今回はこいつらに任せて、その実力ぞろいの俺達でお前をこっから出さねえことにする。お前の動きにゃ誰もついていけねぇ。捕まえようにも捕まえられねぇだろうよ。だがテンシュさんの作戦を邪魔するってんなら、俺らのできることはこの建物の出入り口を物理的に塞ぐ。それしかねぇ」

『クロムハード』のリーダー、スウォードが出口の前で腕組みをして気を吐く。
 いくらなんでもそこまではしないだろうと大勢から思われた。しかし店主が作った道具を、置き場所を理由に頑なに使わせないと言い張り続けてきたギスモ。常に自分が中心に居続けようとする気持ちだけの彼は誰も信頼を置けなくなったということでもある。

「それについては我々も該当しますね。と言いますか、こちらの方が重大ですよ。国家公務員を見殺しどころか殺人ほう助になりかねない。犯罪を未然に防ぎ、止める権限も持っていますから。ですがギスモさん、あなたの名前は度々報告を受けております。セレナさんから、日常の業務に問題を引き起こす者がいて調査の協力に集中できない、とね。この方があなたを外に出さないとおっしゃいましたが、何事もなく救助出来たとしてもあなたからはそこら辺の事情をちょっと伺わないとならないんですよ。強制ではありませんが、あなたも世界中からのお尋ね者にはなりたくないでしょう? まぁ時々そうなりたいという者は現れたりはしますがね」

 役人はそう言うと、スウォード一人では塞ぎ切れない出口の隙間を埋めるように、他の二人と共に立ちはだかる。

「日常の業務の邪魔をするってのは、そっちの人間の方だろうがよ! 俺はセレナに頼られてんだぜ?! 俺にそんなこと言うはずがねぇんだよ! 本人がいねぇ場所でなら素直に言えばいいものを、何をそこまで照れ隠しで言うんだかさっぱりわからねぇ!」

 ギスモがどんなに喚いても、どこからも援軍もなく逆に店主への非難の声もない。逃げ場を失った彼の顔が、赤くなったり青くなったりとせわしない色の変化を見せるが、誰の気にも留めることがない。

「私達も相当な実力の持ち主と自負しているんですが、まさか通せんぼをする以外に役に立たないとは夢にも思いませんでしたよ」

 苦笑いを浮かべながらこぼす役人の愚痴は、分かりづらい店主達へのエールとなった。
 ライヤーに運ばれる『風刃隊』の三人とニードルが背負う店主は、これまでに感じたことのない風圧を体験することになる。
 それに耐えることが出来るように心の準備は整える。装備を多くすることで彼らを運ぶ二人の負担を増やすわけにはいかない。そして注意事項がもう一つ。

「店の外に出たら、俺とお前らの意思疎通は出来ない。洞窟のかなり手前で俺達を降ろして待機。救出できたら豹男は被害者二人を、お前は残り一人を頼むぞ」

 全員は耳を疑う。店主自身はどうするつもりなのか。被害者拡大を避けようとする本人が自分の身を顧みない。

「動物車っつったか? そいつを洞窟の手前で待機させてもらえりゃいいが、手配できるか?」
「そのテンシュさんの提案には、あたしは同意できないね。意識不明者があたしの全速力食らったら、それこそどうなるかわからない。振動もあるかもしれない。被害者三人は車に乗せる方がより安全さね」

 ニードルの意見にライヤーも同意する。どれほどの速度が出せるのかは未知数だが、救助に向かう行く道の時間短縮には相当期待が出来る自信ありげな表情の二人。
 洞窟に着いた後の細かい打ち合わせを手早く済ませ、全員が振り落とされないようにニードルとライヤーの体に括り付けられる四人。
 全員に見送られながらその四人は、店の前からその二人の全力で飛ぶように走り去った。

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