美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

嵐、再来襲 1


 けたたましく『法具店アマミ』に駆け込んできたのは『ホットライン』の六人。

「えっと、どうしたんですか?」
「何か問題でも起きました?」

 双子に構わずカウンターまで一直線の彼らは、とにかく店主と話がしたかった様子。

「面倒くせぇ話は聞きたくねぇんだがな」
「謝礼の話だ! 昨日と今朝早く模擬戦をやって、常時依頼の魔物退治から戻ってすぐここに来た!」

 常時依頼とは、ある程度実力を持った冒険者やチームがいつでも請け負える、提示や斡旋される依頼よりも低い報酬の依頼のことである。
 人々の暮らしを脅かしたり、あるいはその恐れのある魔物を退治する内容だが、その依頼は斡旋所が申請を受けるには件数が多すぎてしまう。
 そこで自治体や国が住民の安全のためと言う名目で常に依頼を申し込んでいるかたちになる。

 『ホットライン』もその依頼を受けて一定数の魔物退治を終えて来たのだが、今までとはやはり比べ物にならないくらい効率が良く、威力も増強されていたという。

「改めて謝礼を受け取ってもらいたいっ!」

 『ホットライン』のメンバー全員の表情がとにかく明るい。
 ブレイドは店主の返事を待たず、手にしていた布袋から次々と宝石の塊をカウンターの上に出す。

 大きさ、形、色。
 様々な石がカウンターの上に並べられる。

 一人から石三個分の謝礼と言う意味だろうか、十八個の宝石の塊が袋から出された。

「……これ、ガラスの容器の欠片、なんてことは」
 ミールがぼそっと呟く。
「ミールちゃん、失礼なこと言うなよ。ガラスかどうかくらいは分かるさ。なんせガラスは脆いからな。魔物と戦闘中に武器が岩に当たって欠けて落ちた物とか、そんなんばかりだよ」
 エンビーが少し口をとがらせる。

「それ、現場はどこだ? どこから持ってきた?」
「現場って……隣町……村か?」
「巨塊騒ぎの洞窟付近か?」

 店主の答えの予想に全員が目を丸くする。
「よく分かったな。中に二メートルくらい入りこんだけどな」

 ブレイドの返事に、全員が気が付かない程度に店主の眼光が光る。
 しかしすぐに額に手を当てて考え込む。

「洞窟の地図……とかないか? そういえばこの場所の地図も見たことがないな」

 双子も含めた全員が不思議そう互いの顔を見合わせる。

「地図って……この地域のどこに何があるっていう、地形とか書かれた図面のこと……だよね?」

 手を額から離して信じられないような顔をミールに向ける。
「それ以外にどんな地図があるよ? そりゃ天気図とか海洋の地図とかもあるけどさ」

「テンキズ? 何それ? ていうか、地図なんて人に見せないもんだよ?」

 ガタッ!

 大きく椅子から音を出して急に立ち上がる店主。
 全員がその店主を見て驚く。店主の顔は、有り得ない存在を見て恐怖を感じているような顔をしている。

「地図って……人に見せるもんじゃないのか?! 内緒にしてどうする! 忠臣蔵の吉良邸じゃあるまいし!」
「だから急にわけわからないこと言わないで!」

「お、落ち着こう、ね? テンシュ。地図っていうものはね、チームや冒険者それぞれが持ってる物なの。秘密の場所とか記されてて、それを他の人に見られたら横取りされるタカラモノとかあったりするし」

 店主はなだめるウィーナを無視して『ホットライン』にも確認する。

「そりゃ……ないこともないが、流石に見せられねーな」

「いやちょっと待て。今の双子姉の話だと、一人一人地図持ってて、マークする場所がそれぞれ違ってたりする?」

「まぁ、そうだよな」
 全員が顔を見合わせた後、ブレイドが店主の答えを肯定する。

「ウソだろ!? 国や政府が発行してたりするんじゃねぇのか?! こっちじゃあっちこっちで地元や国や世界地図見れるぞ?!」
「「「「「「マジかよっ!」」」」」」

「そんなに驚くことかよ! あるのが普通だろ?!」

「テンシュ! そんなのどこかの敵から見られたらまずいでしょ! どこに何があるか丸わかりじゃん!」

『ホットライン』とウィーナ、ミールの八人で、店長にこの世界での地図の価値を説明した。

「なるほどねぇ。こっちの世界のマツタケみたいなもんか。珍しくて価値のある物がある場所が他のチームにばれたら、根こそぎ持っていかれるたぁなぁ」
 店長は腕組みをして納得顔。

「マツタケってなんだかわからんが、チーム同士で同盟組んでも仲良し子よしってわけじゃねえ」

「仲良し子よしになりたい相手というと、チームよりも武器屋防具屋道具屋ですね」

「一見の客だとぼったくられるわ安く見られるわでね。テンシュの気まぐれっぷりは怖いけど、その点の心配はなさそうだから……いや、だからといってまともに会話してもらえればそれに越したことないからね?」

 リメリアの最後の一言を言い始めた時に店主は両手で耳を塞ぐ。
 それを見て双子がため息をつく。

「「まじめにやってよ、もう……」」

「だが、何で地図を見たがるんだ? その宝石に何か問題でもあったか?」
 エンビーからの質問は、店主には的外れのようだった。

「いや……どこで手に入れたかってのが問題なんだよ。洞窟の入り口なのか中に入ってからなのか。問題っつっても、ちょっと気にかかる程度だからお前らが気にするこっちゃねぇよ」

「次に来るとき俺らが持つ地図を複写して持ってくるよ。他の地図なら見せられない物もあるが、巨塊の方面なら問題ない。すべて解明されていないがな」

 大雑把で十分だ。
 そんな一言をブレイドにかけて視線は再び宝石に移す。
 カウンターの引き出しから、『クロムハード』から受け取った宝石を取り出し、それと見比べて観察する。

「じゃ、俺達はこの辺で失礼するか。明日地図持ってくるよ。夕方になるかもしれんけどな」

 そう言って出口に向かう六人。店主は見送りはせず、宝石を見続けている。

「……テンシュぉ、見たり触ったりするだけで宝石の力とか、見分けがつくんですか? どうやったらそういうこと分かるようになるんです?」

「さぁ知らん。宝石の名前なんて全然知らない頃からそういうのは分かってたかな。だから宝石としての価値なんざ知ったこっちゃない。ただ宝石と呼ばれる石は、そこらへんに転がってる石よりも力はある確率が高いってことは言える」
 ふーん。
 ミールはそう唸ってまた店長の観察する姿に見入る。

「じゃあテンシュは、どのようにして宝石が出来るかってのは知らないの?」

「あんまり知らねぇな。真珠は貝から出来上がるのは知ってるが、その程度だ。出来上がった宝石がどんなんなのかが分かるだけだからな」

「あたしもそっち方面も少しは勉強しないとだめかなぁ。鑑定でぼったくられるのはやだしなぁ」

「常識程度は弁えとけよ。何にせよな」

 テンシュに言われたくないよ、とケラケラ笑うミール。

 そのやり取りを背にして店を出ようとする『ホットライン』は、丁度その時店に入って来る団体客と出入り口で鉢合わせになった。

「おっとすまん」

 ぶつかりそうになり軽く謝るブレイドを力づくで押しのけて店内に入って来る男達五人。いかめしい顔つきととげとげしい雰囲気を纏っている。

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