美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

バイトにて、ウィーナの災難 2


 駆け出しの冒険者チーム『風刃隊』のメンバーで、トカゲの獣人族の双子姉妹ウィーナとミール。
 セレナが爆発事故の調査に協力するため、彼女がオーナーになっている『アマミ法具店』には会計の出来ない店主しか店のスタッフはいない。
 冒険者としての仕事が専業としては少ない『風刃隊』。
 そこでカウンターでの仕事を中心とするバイトとして、この双子が再び『法具店アマミ』で働き始める。しかし初日から、傲慢な客に絡まれるトラブルに巻き込まれた。

 弱気になった二人は店主から発破をかけられ気持ちを切り替える。
 店主は開店時間前に姉のウィーナへ仕事を言いつける。
 それは道具作製の依頼をしてきた冒険者チームの『クロムハード』へ、依頼が完了した旨を伝える役目。
 まだ対面したことのないチームなので、店主から彼らの拠点の場所を記したメモを受け取る。その通りに移動し無事に到着。
 拠点の建物には、チーム名やメンバーの名前の看板や表札などは見当たらない。

「まだ会ったことのない人達だよね。まぁあのテンシュのことだから店の名前も出せば大丈夫だと思うけど……」

 昨日の客のような差別をされたらどう動くべきか。
 まだ見たことの相手だからそんな不安も生まれるが、差別をされたらどうしようという途方に暮れる思いとは違い、対応策について頭を巡らせている。それは決して弱気な思い出はなく、自分で窮地を切り抜ける工夫を考えている。
 しかしいつまでもそこに立ち続けているわけにはいかない。
 ウィーナはドアのチャイムを鳴らす。
 中が見えないドアの向こうから声が聞こえる。

「何の用ですか?」

 普通はどちら様ですか? とか、何のご用ですか? などと言うものだろうが、ぶっきらぼうなものの言い方をされ、ウィーナは店主の口調そっくりだと心の片隅で感じる。

「『法具店アマミ』でバイトをしているウィーナと申します。店主がそちらから受けていた依頼が完了したので連れてくっ!」
 ガンッ!

 突然開いた扉がウィーナの鼻を直撃する。

「装備品出来たっ……あれ?」
 扉をあけて出てきた人物の視界には誰もいない。

 その人物の足元から震えた細い声が聞こえてくる。
 扉の前でウィーナが涙を堪え、鼻を抑えながらうずくまっている。
「……痛い……」

 ───────────────

「何というかもういろいろと……ごめんね。ウィーナ……ちゃんだっけ?」
「い、いえ……早く連れて戻るように言われてるので……昨日双子の妹が似たような体験して帰りが遅くなって店主に怒られちゃったので、まず『クロムハード』の皆さんを連れて来ないと……」

 ドアを焦って開けたスリングがひたすら恐縮している。
「じゃああたしが一足先に行って事情説明してくるよ。みんなはそれなりに急いで来りゃいいさ」
「い、いえ。私が連れて来るようにって言われたのでっ! 私は大丈夫ですからっ!」

 勢いよく立ち上がるウィーナ。若干痛みは残っているようで、まだ涙目が収まらない。
 しかしその気丈さに『クロムハード』は釣られて『法具店アマミ』へ出発する。

「へえぇ。『ホットライン』と模擬戦したことあるんだ」
「当然ですが、足下に及びません」
 『法具店アマミ』に向かう途中で、互いの紹介を済ませる。

「治療もしなかったお詫びも兼ねて、向こうの連中が捕まらなくて俺らとそっちの都合があったらばいつでも手合わせするというのはどうだろう?」
「いいんですか?! もしそうならとても有り難いです!」

 リーダーのスウォードからの提案はウィーナ、いや、『風刃隊』にとって思いがけない収穫となった。

 新人、新米と呼ぶには少々経験は積まれている冒険者のウィーナ。
 『ホットライン』に続いて『クロムハード』からも、新たに模擬戦や特訓の相手をしてもらえることになり、浮かれながら『法具店アマミに到着』。

「テンシュー! ただぶっ!」

 『クロムハード』の拠点のドアをぶつけた鼻に再び強い衝撃を受け、尻餅をついて茫然とするウィーナ。
 ウィーナは目の前にいる人物を見て、自分がどんなことをされたのか理解した。

「なんで私、テンシュに足蹴にされてるの……?」

 その後の店主の言葉はウィーナの耳に入らなかった。

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