美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

常連客二組目との出会いもトラブルでした 7


 四本腕のリーダーと副リーダーは別のチームになる。リーダーのブレイドは超人族のエンビーと黒い羽のキューリアが入り、副リーダーのリメリアには獣妖種のライヤーと鳥の女のヒューラーが入る。

 筋肉が目立つ四本腕と超人族の三人は主に肉弾戦。羽を持つ二人は空中戦、獣妖種の男は素早さに物を言わせての戦術をとる。
 模擬戦と言えど、その動きを参考に武器や防具などを作ってもらう彼らにすれば、実戦とは違う動きをとるわけにはいかない。模擬戦に最適な道具は実戦では役に立つとは思われないからだ。

 店主はと言うと、実戦を見てから道具作りを始める工程は初めての事。工程どころか、冒険者の腕を振るう現場を見るのも初めて。それでも店長には、彼らはどんな気持ちでいるのかはその姿勢で分かった。彼らの事はどうでもいいが、模擬戦に臨む彼らの真剣さと、それだけ自分の作る道具を求める気持ちに応えるべく、彼らからの依頼を真っ向から受け止めた。

 店主には武術の心得はない。目にも止まらぬ速さや予測不能な連携が多い。それでも一瞬たりとも見逃すことがないよう、店主は全員の行動範囲すべてを視野に入れるように距離を離れて観察する。額からにじみ出た汗が滴り落ちる。それでも瞬き一つしないかのように食い入るように見ていた。

 しかし一本目が終わってから二本目が始まるまでの休憩時間中、店主は彼らの休む姿を見詰めながら首を傾げる。

 二本目はリーダーと副リーダー以外の四人はそのまま入れ替わる。
 彼らの真剣さは落ちることはない。しかし店主は一本目とは違い、ほとんど模擬戦を見ていない。
 その模擬戦が始まってからは、まるでその対戦の内容に疑念を持つ監督か何かのように、腕組みをして俯きながら考え込んでいる。
 セレナが心配して店主に声をかける。

「見なくていいの? 私は別に見なくてもいいけど、あの子たちの動きとか見えてないんじゃない?」

 しかしその声に反応するかのように頭を掻いたり模擬戦に背を向けたり、何か悩んでいるような素振りの店主。言葉が通じないので応答はない。

 二本目の終了近い時間には、完全に彼らを見ることなく眉間にしわを寄せ、自分の世界に浸かっているようにも見える。
 そんな店主に、二本目が終わった後キューリアが心配そうに何かを話しかけてくる。

 この模擬戦の第一の目的は鍛錬ではなく店主に見てもらうため。その店主が見ようともしなくなっては本末転倒である。
 彼の身に何か起きたのかと声をかけたようだが、もちろん言葉は通じない。
 その三人の様子を見て、全員が店主に寄って来る。

 自分たちの動きを見てくれないのか、何か気になることでもあるのか、体調崩したのか。
 おそらくそんな中身の言葉をかけているのだろう。模擬戦どころではなくなった雰囲気に気付いた店主は、それでも考え込みながらもう帰ろうという意志を身振りで伝える。
『ホットライン』全員が納得いかない顔をするが、時間経過の事もある。
 互いに何かを話しながら帰り支度を進める彼ら。
 その帰り道の間もその話し合いは止まらない。
 だが『法具店アマミ』に到着して真っ先に口を開いたのは店主。

「多分お前ら、自分の能力を理解しきれてないところもあると思うぞ。そこも含めて、全員の能力を高めるような力をもたらす道具を作る。お前らの目的はもっと難易度が高い依頼も受け付けてもらえるようになりたいって話だったはずだから、それを身につけた上での今後の鍛錬次第ってことでいいよな? って言うか、そうしろ。お前らの好みに合わせたままじゃ思う以上の成長はないからな」

 六人全員、なぜ最後まで模擬戦を見てくれなかったことの質問をする前の事。
 隠された能力なんてあるはずがない。鍛錬し続け、切磋琢磨してここまで来た彼らはそう断言できる。
「今までの努力が間違っていたってことか?」
「#違__ちげ__#―よ。プラスアルファの強さだっつーの。ま、特徴は把握した。それに合わせて俺がこれから作る。出来たもんが気に入ったら報酬をいただく。気に入らなかったらお代はなしで、出来た道具は記念品にでもしとけ。他の奴には合わねぇはずだから売り物にもならねぇしな」

 店主は怪しい人物ではないことを理解できた六人だが、この店の職人としての腕前までは信頼できるという確信はない。
 もちろん店主にもその自覚はある。

「本当はその装備に加工する方が手っ取り早ぇんだが、お前らが俺にそれを預けるほどの信頼はねぇだろ? だから新たに体につける装備品を作ってやる。急に新たな能力が身につけられる物になるっつー解釈でいいと思う。文句があるならつけなきゃいいんだ。けど一人でも気に入らねぇって思う出来だったら、全員つけねぇ方がいいな。六人全員つけるか外すかのどちらかだ。命を預ける仲間がその道具に命を預けることになるからな。ま、すべては出来上がった時次第ということだ。勝手に作らせてもらうぜ」

 こうして店主は彼らのための道具作りに取り掛かる。
 『ホットライン』のメンバーは、店主の事はセレナの話以外には全く知らないし、店主も彼らの事は、模擬戦でのこと以外は分からない。
 碌に模擬戦を見ずに自分達に合う道具を作ってくれるのかどうか心配をする彼ら。
 しかし店主には彼らの力を十分見極めた様子。真剣だが明るい表情をしている。
 店内にいた時から長い時間彼らを見ていた店主には、診る時間が少なかったセレナの時のように力を入れずとも彼らの力を見計らうことは出来た分、それなり集中して模擬戦での行動も見ることが出来た。
 後は素材集めと道具の製作。念のためにセレナに彼らの体の採寸を測らせ、自身は自信ありげに店の隣や地下の倉庫を行ったり来たり。
 装備品の作製のための体の採寸は、身長や手足の長さ、首回りや腕回りなどの洋服を作る時の寸法もそうだが、眉間の間や目から耳までの長さや目耳の大きさまで測る。
 ヒューラーとキューリアは、羽根の付け根の部分まで測ることになる。

「採寸取れたらお前ら帰っていいぞ。後はこっちが腕を振るう番だからな」

 六人はこれまでの店主との接触を振り返る。
 謝罪をすればそれを受け止めようともせず、力を見極めると言いながら鍛錬所ではあまり見ようともしない。
 セレナから聞かされた話は、異世界に飛ばされた自分を助けてくれた功労者。その力で以て物作りを生業としているという話。店主の行動に半信半疑だが、どうとも言えず言われるがままにするしかできず、この夜はそのまま彼らの拠点に戻ることになった。

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