未知日々 (ミチヒビ)

goro

黒白の爪





如月が病院を退院してから数日が経った。


「……………ふぁ」


日光が差し込む屋上。風霧 新は口に手を当て欠伸をする。
風霧がいるのは先日、病院から退院した如月光夜が通う高校の校舎屋上。
如月に気づかれないよう距離を保つ。


見張っていることを本人に伝えてないからだ。


とはいえ、あまりにも暇。
風霧はポケットから昨日如月家からこっそり拝借したガムを取り出し口にくわえる。


「…………ふぅ」


上空に広がる青空。
雲一つない、清々しい光景。


だが、そんな青空に一つ。


「?」


小さな何かが通りすぎるのを藪笠の目に止まった。














人目の少ない、高層ビル屋上。
青色の竜から屋上に降り立つ眼鏡をかけた男は周囲を見回し、口を開く。


「岩島、いい加減姿を見せろ」


フッ、と笑い声が聞こえた。
空調をコントロールする機械の影から現れる大男。以前、如月光夜に負け姿を隠していた男だ。


「相変わらず紳士だなぁ、鎌時」


岩島は眼鏡をかける男の名を口にする。
鎌時は風で靡くボサボサ髪をかき分け、溜め息を吐いた。


「黙れ、こっちも暇じゃないんだ」
「おお、恐い恐い」
「緊急で集まれ、とボスからの命令だ」
「あ? ボス直々とは珍しいじゃねぇか」


岩島は首を傾げながら尋ねる。


「ああ、如月光夜を狙う計画に問題が出た」
「問題?」


鎌時は懐から煙草を取り出し、口にくわえる。


「例の刀使いの男だ」
「!?」


岩島の目が見開く。
仕方がない、と鎌時は思う。
謎に包まれた底が未だ見えない、如月光夜の力を手にする男。


鎌時は煙草の火をつけようとした。
だが、そこで疑問が出た。


今も目を見開く岩島。
いくら驚いたにしても長すぎる。
いや、それよりも目線がこちらを向いていない。


そう、岩島が見ているのは鎌時ではなく、その後ろの、


「ッ!?」


後ろに振り返ると同時にその場から後退する鎌時。
屋上の橋にいた、自身の後ろには足場がない。
なのに、そこには一人の男、いや青年がいる。




立っているのではない。


空をかけ上る龍のように、ゆらゆらと揺れる三本の尾がついた黒い羽織を風に靡かせながら、浮いているのだ。


「まさか、こうも早く宛が見つかるとはな」


空に浮く青年はそう言いながら屋上に足をつける。同時に生えていた三本の尾が羽織に吸い込まれるように引っ込んだ。




青年、腰についたアクセサリーを頭上に放り投げ口を開く。




「さっきの話の続き。聞かせてもらおうか」




風霧 新。
空中で黒の刀となったアクセサリーを手に、口元を緩ませる。












鎌時は焦っていた。
警戒をしてなかったわけではない。
姿を見られないよう高度を保ちつつここまで来たのだ。


周囲を見渡していたはずだった。


だが、


(……まさか、空まで飛べるとは)


黒の羽織を靡かせる風霧。
あれが、レギアではないとすれば何だというのだ。




現状の危険さに、鎌時は傍らにいる岩島に目で合図を送る。




二人で殺るぞ。




ニヤリ、と笑みを浮かべる岩島。
片手を真横に突きだし、口を開く。


「来い、コング」


鎌時も同じように片手を上空に向け、叫ぶ。


「サイクロプス」




二つの呼びに応え、空間に歪みが生まれる。
そして、その空間の壁を突き抜け現れたのは、一つ目の大男なみの鬼と黒の毛皮に身を覆うゴリラ。


鎌時と岩島。
二人の意思に従うように、俊敏な速さで藪笠の死角に移動する。
怪物たちは左右挟み撃ちのように立ち続ける風霧に拳を降り下ろした。




ドン!!
直撃と同時に屋上下のコンクリートを抉る。
コンクリートは粉々になり、その場に砂煙が立ち隠る中で、










「軽いぜ」














バンッ!!
サイクロプスとゴリラ。二つの巨体が左右分かれて吹き飛ばされた。


鎌時と岩島が目をむく。
その視線の中で、風霧は唇を動かす。


「手加減してやってるのに、弱すぎるな」


黒の刀。
それが風霧の持つ武器だと思っていた。
だが、それは大きな間違いだった。


右手に握られていた、鍔の役割を果たしていたアクセサリー。だが、それは形状を変化させ、手に持つではなく手元側に浮く。
その形は箸をイメージした二つの物に変化し、その二つの中央には黒の玉のような物が見られる。
左手には、同様に白の玉が見られるアクセサリーがある。


そして、もっとも変わったのはそのアクセサリーから出現した黒と白の三本の爪。
さらには、着ていた羽織が微かに毛皮のような形状に変化している。




「………これが何か知りたいって思ってるだろ」
「……………」


風霧は眼鏡をかける鎌時を睨み、不敵な笑みと共に言った。






「来な、俺に勝ったら教えてやるよ」






曇り始める空の下。
殺気交わる戦いが始まる。



















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