未知日々 (ミチヒビ)
怒り
◇怒り◇
夕焼けが村を照らし出す中。
光夜と桜は校門から今、人通りの少ない川沿いの通りを歩いていた。
「もう、ごめんってば光夜」
「……………」
むすっと、未だに機嫌が治らない光夜。
それはそのはず桜を待つのに一時間も待たされたのだ。
しかも、その待たされた理由も理由だ。
(どうしよう……)
やや自身に負い目を感じる桜。
「ちょ、ちょっと待ってて、光夜」
なんとかこの空気を変えるべく桜は、
「ジュース買ってくるから!」
逃げるように猛ダッシュで近場にあった自販機に向かっていった。
自販機は光夜の視界から見えない場所に立っていた。
ふぅー、と息を吐く桜。
いくら自分のせいとはいえ、あの空気は正直きつかった。
「さってと、どれにしようかな?」
いまいちパッとこないジュースの列に悩む桜。
すると、背後から、
「あのー、すいません」
野太い声が桜にかけられ、直後。ビクッ、と体が震えた。
誰もいないと思っていた分、いきなりのその声に驚いてしまった。
慌てて後ろに振り返り、その声の主を見る桜。
その声の主は声とうって変わって一言で言うと巨体な大男だった。
桜は冷や汗をかきつつ尋ねる。
「な、なんですか…?」
「いやぁ、この村に来たのが初めてなんで、ちょっと君に教えてもらいたいことがあるんだが?」
何だ、道聞きにきただけか…、と少し安堵する桜。
「私に分かることならいいですよ」
桜は大男にそう言い、携帯のマップを開く。
ありがたい、と口元を緩める大男。
大男はポケットに片手をいれ、
「それじゃあ……」
そして、その口元を今度はゆっくりと開き。
直後。
「お前は如月光夜の女か?」
「え……」
バキッ!!と強烈な音が響き渡った。
今、桜は何が起こったのかわからなかった。
ただわかったのは目の前で真ん中から叩き潰された自販機と。
左右に裂けた口でニヤリと笑みを作る大男。
そして、私を両手で抱えてくれる一人の少年。
「光夜……」
桜の意識はそこでなくなった。
光夜は今、桜を両手で抱え立っていた。
どうやら気を失ったらしく桜は目を閉じ眠っている。だが、そんな桜の頬には小さな傷がついていた。
「………」
光夜は彼女をそっと道路の橋に寝かせ、そして、視線を目の前にいる大男に向ける。
大男は笑っていた。
もし、あの時。桜のいた場所に訪れなければ、この大男は桜をどうしていただろうか?
もし、桜に一生残るような傷をつけて、この大男は何も思わないのか?
こうして、
笑っていたのか…………。
「ッ!!」
直後。自身の体から怒りとともに力が溢れ出してきた。
大男は感激に浸っていた。
確かに今、あの少女は殺った筈だった。
残酷に醜い肉の塊にした筈だった。
だが、あの一瞬。
普通なら無理な局面を砕き、少女を助け出した。
大男は目の前に立つ少年に口を開く。
「会いたかったぜ……」
目の前で立つ、六つの輪を回転させる。
「衝斡の輪!!」
如月光夜に。
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